私はかうして死んだ!二 1   平林初之輔

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勝手に死亡届を出され、生きているのに戸籍上死んだ事になった男の話。

一から五までで一つの話しです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りく 6086 A++ 6.2 97.4% 473.7 2960 77 38 2024/10/20
2 tosi73 3032 E++ 3.4 88.7% 836.7 2905 368 38 2024/10/12

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問題文

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(きょねんのはる、ぎかいがかいさんになって、ふつうせんきょによるだい1かいのそうせんきょがおこなわれた)

去年の春、議会が解散になって、普通選挙による第一回の総選挙が行われた

(とうじ、よほどちゅういしてしんぶんをよんでいたひとはふないさぶろうすなわちかくいうわたしが、)

当時、よほど注意して新聞を読んでいた人は船井三郎すなわちかくいう私が、

(ぼうむさんとうのこうにんで、とうきょうのだい・くからりっこうほしそうなとりざたがあったのが、)

某無産党の公認で、東京の第×区から立候補しそうな取り沙汰があったのが、

(いつのまにかうやむやのうちにさたやみとなったことをおぼえているだろう。)

いつのまにかうやむやのうちに沙汰やみとなったことをおぼえているだろう。

(わたしはそのとき、ただ、いっしんじょうのつごうでりっこうほをだんねんするとかんたんにせいめいしただけ)

私はその時、ただ、一身上の都合で立候補を断念すると簡単に声明しただけ

(だったが、それにはわたしだけしかしらないきみょうなじじょうがふくざいしていたのだ。)

だったが、それには私だけしか知らない奇妙な事情が伏在していたのだ。

(がんらいわたしはすすんでじぶんからりっこうほするいしをもっていたのではない。とうの)

がんらい私は進んで自分から立候補する意志をもっていたのではない。党の

(しぶとくみあいのかんぶとのせつなるすすめによって、はんつきかんもじゅっこうしたあげく、しぶしぶ)

支部と組合の幹部との切なる勧めによって、半月間も熟考したあげく、しぶしぶ

(りっこうほをけついしたのであった。 だがいったんけついしたいじょうは、わたしいちこじん)

立候補を決意したのであった。  だがいったん決意した以上は、私一個人

(としてのひっこみじあんはきれいさっぱりとすてて、とうのため、とうのしじする)

としての引っ込み思案はきれいさっぱりとすてて、党のため、党の支持する

(むさんたいしゅうのためにあくまでもとうせんをきするかくごでいたことはむろんだ。そしてわたしの)

無産大衆のために飽くまでも当選を期する覚悟でいたことは無論だ。そして私の

(まえけいきは、じっさいすばらしかった。じぶんでいうのもへんだが、わたしはむさんとうのあいだ)

前景気は、じっさい素晴らしかった。自分で言うのも変だが、私は無産党の間

(ではしつじつな、しんようのおけるとうしとしてかぶんなしんらいをうけていたので、むさんさんぱの)

では質実な、信用のおける闘士として過分な信頼を受けていたので、無産三派の

(せんきょきょうていで、ほかにきょうそうこうほをたてないことにきめてさんぱがいっちしてわたしをしじして)

選挙協定で、他に競争候補を立てないことにきめて三派が一致して私を支持して

(くれることになった。でもしわたしがりっこうほをとりけさなかったら、たしかにわたしは)

くれることになった。でもし私が立候補を取り消さなかったら、たしかに私は

(さいこうてんでとうせんしていただろうとおもう。というのは、わたしがりっこうほをとりけした)

最高点で当選していただろうと思う。というのは、私が立候補を取り消した

(あとで、ざんねんながらさんぱのきょうていがやぶれてむさんとうのこうほがらんりつしたが、それでも)

あとで、残念ながら三派の協定が破れて無産党の候補が乱立したが、それでも

(それぞれ3にんともとうせんけんちかくまで、どうにかこぎつけていたからだ。)

それぞれ三人とも当選圏近くまで、どうにか漕ぎつけていたからだ。

(それはとにかくわたしはいよいよりっこうほとはらをきめると、いろいろなてつづきをするうえに)

それはとにかく私はいよいよ立候補と肚をきめると、色々な手続きをする上に

(ひつようがあったので、きょうりのやくばへあててこせきしょうほんをとりよせることにした。)

必要があったので、郷里の役場へあてて戸籍抄本を取り寄せることにした。

など

(すると1しゅうかんばかりたってからやくばからじつにいがいなへんじがきた。ふないさぶろうという)

すると一週間ばかりたってから役場から実に意外な返事が来た。船井三郎という

(にんげんはついみっかまえにしぼうとどけがでており、ふないけにはいまいきているものはひとりもない)

人間はつい三日前に死亡届が出ており、船井家には今生きている者は一人もない

(のでこせきはなくなってしまっているからしょうほんはつくれぬというつうちであった。)

ので戸籍は無くなってしまっているから抄本はつくれぬという通知であった。

(ばかばかしいまちがいがあるものだとわたしはいなかやくばのでたらめさかげんをふんがいしたが)

馬鹿々々しい間違いがあるものだと私は田舎役場の出鱈目さ加減を憤慨したが

(なにしろとうきょうととっとりけんのいなかではてがみなどでしょうかいしていたのではよういにらちがあき)

何しろ東京と鳥取県の田舎では手紙などで照会していたのでは容易に埒があき

(そうにないので、まだだれにもそのことをはなさぬうちに、とうのしぶへは、ちょっと)

そうにないので、まだ誰にもそのことを話さぬうちに、党の支部へは、ちょっと

(きゅうようできょうりへかえってくるといいのこしておいて、わたしはそのばんのやこうでとうきょうえきを)

急用で郷里へ帰ってくると言いのこしておいて、私はその晩の夜行で東京駅を

(たった。 つごうのよいことには、20ねんぶりでかえるのだから、むらにはひとめわたしの)

たった。  都合のよいことには、二十年振りで帰るのだから、村には一眼私の

(かおをみてわたしのことをおもいだすひとなどはいない。それにそのひはあのちほうにとくゆうの)

顔を見て私のことを思い出す人などはいない。それにその日はあの地方に特有の

(ゆきぞらだったので、むらへついたときにはだれにもあわずにすんだ。わたしはまっすぐに)

雪空だったので、村へ着いた時には誰にも会わずにすんだ。私はまっすぐに

(やくばへいった。 「ぼくはこのむらのふないさぶろうくんのゆうじんですが、ふないくんのこせきしょうほんを)

役場へ行った。 「僕はこの村の船井三郎君の友人ですが、船井君の戸籍抄本を

(4つうばかりこさえていただくようにたのまれてきたんです」とわたしはうそをいった。)

四通ばかりこさえていただくように頼まれてきたんです」と私はうそを言った。

(わたしじしんがとうのふないだといったのでは、いろいろうるさいことがあって、まさか)

私自身が当の船井だと言ったのでは、色々うるさいことがあって、まさか

(そのあしでひきかえしてくるわけにはいかないようにおもったからだ。いなか、わけても)

その足で引き返してくるわけにはいかないように思ったからだ。田舎、わけても

(じぶんのうまれたとちというものは、とかいにばかりそだったにんげんにはそうぞうのつかない)

自分の生まれた土地というものは、都会にばかり育った人間には想像のつかない

(ほどめんどうなことがあるものだ。そしてわたしはまたそうしためんどうなことがひといちばいきらい)

ほど面倒なことがあるものだ。そして私はまたそうした面倒なことが人一倍嫌い

(なのだ。 こづかいはみょうなかおをして、じろじろわたしのかおをみながらたちあがっておくへ)

なのだ。  小使は妙な顔をして、じろじろ私の顔を見ながら起ち上がって奥へ

(いった。やがて456の、どこかたしょうみおぼえのあるめのほそいおとこがでてきた。)

行った。やがて四十五六の、どこか多少見覚えのある眼の細い男が出てきた。

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