透明猫 3 海野十三

背景
投稿者投稿者chiroいいね1お気に入り登録
プレイ回数973難易度(4.5) 3180打 長文
声はすれども姿は見えず。青二はそんな猫らしき生物を拾ってきたが…
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 saty 4212 C 4.5 93.2% 696.9 3167 231 50 2024/09/27

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(おそろしきじけん あくるひ、せいじはいつものようにごじにおきた。)

【 おそろしき事件 】  あくる日、青二はいつものように五時に起きた。

(ちちおやは、まだねていた。ほうそうきょくからよるおそくかえってくるので、ちちはあさおそく)

父親は、まだねていた。放送局から夜おそく帰ってくるので、父は朝おそく

(おきるならわしだった。 だからそのあさも、せいじはははおやといっしょにあさの)

起きるならわしだった。  だからその朝も、青二は母親といっしょに朝の

(おぜんについた。ちゃのまは、だいどころのとなりで、こうせんがあまりはいらないへや)

おぜんについた。茶の間は、台所のとなりで、光線があまりはいらない部屋

(だった。 「どうしたの、せいじ。おまえのかおはへんだね。きぶんでもわるいのかい」)

だった。 「どうしたの、青二。お前の顔はへんだね。気分でもわるいのかい」

(ははおやがしんぱいそうにきいた。 せいじは、べつにきぶんもわるくなかった。)

母親が心配そうにきいた。  青二は、べつに気分もわるくなかった。

(だからそのとおりこたえた。 「でもね、せいじ。どうもへんだよ。なんだかおまえの)

だからそのとおり答えた。 「でもね、青二。どうもへんだよ。なんだかお前の

(かおは、かげがうすいよ。ぼんやりしているよ」 そういわれても、せいじはほんき)

顔は、かげがうすいよ。ぼんやりしているよ」  そういわれても、青二は本気

(にしなかった。 「おかあさんは、あんなことをいっているよ。おかあさんの)

にしなかった。 「お母さんは、あんなことをいっているよ。お母さんの

(めのほうが、きょうはどうかしているんでしょう。めがかすんでいるんじゃない」)

目の方が、今日はどうかしているんでしょう。目がかすんでいるんじゃない」

(「あら、そうかしら。もっとも、もうはるになりかけているんだから、のぼせる)

「あら、そうかしら。もっとも、もう春になりかけているんだから、のぼせる

(かもしれないからね」 そのはなしは、そのままになった。せいじのははおやは、あさの)

かもしれないからね」  その話は、そのままになった。青二の母親は、朝の

(ようじをまだたくさんもっていたから。せいじはにかいへあがった。 つくえのうえに、)

用事をまだたくさんもっていたから。青二は二階へあがった。  机の上に、

(ちいさいざぶとんがのせてある。そのざぶとんのうえをみるとまんなかがひっこんで)

小さい座ぶとんがのせてある。その座ぶとんの上を見るとまん中がひっこんで

(いた。そして、ごむのてーぷと、あかあおのまだらのひもがむすばれたままあった。)

いた。そして、ゴムのテープと、赤青のまだらの紐が結ばれたままあった。

(そのざぶとんのうえに、れいのあやしいどうぶつがねていることはたしかだった。)

その座ぶとんの上に、例のあやしい動物がねていることはたしかだった。

(だが、ふしぎなことに、ふたつのめだまは、どこにもみえなかった。 「あのめだま)

だが、ふしぎなことに、二つの目玉は、どこにも見えなかった。 「あの目玉

(はどこへいったんだろう」 せいじは、そばへいって、てさぐりで)

はどこへ行ったんだろう」  青二は、そばへいって、手さぐりで

(どうぶつをなでてみた。ねこのあたまにちがいないものが、たしかにてにさわった。)

動物をなでてみた。猫の頭にちがいないものが、たしかに手にさわった。

(しかしめだまはみえなかった。もしやめだまがなくなったのかとおもって、せいじは)

しかし目玉は見えなかった。もしや目玉がなくなったのかと思って、青二は

など

(かたてでどうぶつのあたまをおさえ、もういっぽうのてでめだまをさぐってみた。すると、)

片手で動物の頭をおさえ、もう一方の手で目玉をさぐってみた。すると、

(「ふうっ」と、どうぶつはあらあらしいこえをたてて、ざぶとんからはねあがった。)

「ふうっ」と、動物はあらあらしい声をたてて、座ぶとんからはねあがった。

(そうでもあろう。いきなりめだまへゆびをつっこまれたのでは、びっくりする。)

そうでもあろう。いきなり目玉へ指をつっこまれたのでは、びっくりする。

(せいじのてがひりひりいたんだ。みると、ちがでている。いまどうぶつのために、)

青二の手がひりひり痛んだ。見ると、血が出ている。今動物のために、

(ひっかかれたんだ。 が、このときせいじは、おどろきのあまり、しんぞうが)

ひっかかれたんだ。  が、このとき青二は、おどろきのあまり、心臓が

(どきんとおおきくうってとまった。それは、なんだかじぶんのてが、はっきり)

どきんと大きくうってとまった。それは、なんだか自分の手が、はっきり

(みえないのだった。ぼんやりとしかみえないのだった。 「どうしたんだろう」)

見えないのだった。ぼんやりとしか見えないのだった。 「どうしたんだろう」

(さっきせいじのははおやがいったことばがおもいだされた。「せいじ、どうしたの。おまえの)

さっき青二の母親がいったことばが思い出された。「青二、どうしたの。お前の

(かおは、かげがうすいよ」と、いわれたのを。 せいじははしらにかかっているかがみの)

顔は、かげがうすいよ」と、いわれたのを。  青二は柱にかかっている鏡の

(まえへいってかおをうつしてみた。 「おゃっ」)

前へいって顔をうつしてみた。 「おゃっ」

(おおきなおどろきにぶっつかった。かがみにうつったせいじのかおは、うすぼんやりして)

大きなおどろきにぶっつかった。鏡にうつった青二の顔は、うすぼんやりして

(いた。こうふくはちゃんとはっきりしているのに、くびからうえが、ぼんやりしている)

いた。校服はちゃんとはっきりしているのに、くびから上が、ぼんやりしている

(のだった。 やっぱりじぶんも、のぼせめとなったのかとおもい、せいじはいくども)

のだった。  やっぱり自分も、のぼせ目となったのかと思い、青二はいくども

(めをこすって、かがみのなかにうつるじぶんのかおをみなおした。 だが、そのかいは、)

目をこすって、鏡の中にうつる自分の顔を見なおした。  だが、そのかいは、

(なかった。いくどみなおしても、かれのかおはぼんやりしていたし、りょうてをうつして)

なかった。いくど見なおしても、彼の顔はぼんやりしていたし、両手をうつして

(みても、やはりそれもはっきりうつらなかった。 「えらいことになった」と、)

みても、やはりそれもはっきりうつらなかった。 「えらいことになった」と、

(せいじはそのばにうずくまってなげきかなしんだ。 なぜそんなことになったのか)

青二はその場にうずくまってなげき悲しんだ。  なぜそんなことになったのか

(せいじには、わからなかった。あのみえないねことおなじようなふしぎなげんしょうが、)

青二には、わからなかった。あの見えない猫と同じようなふしぎな現象が、

(いまじぶんのからだのうえにあらわれてきたのだ。 「これからどうなるだろうか。)

今自分のからだの上にあらわれて来たのだ。 「これからどうなるだろうか。

(じぶんもあのねこのように、からだがすっかりみえなくなってしまうのでは)

自分もあの猫のように、からだがすっかり見えなくなってしまうのでは

(あるまいか。ああ、そうなったら、もういきてはいられない。じぶんはばけもの)

あるまいか。ああ、そうなったら、もう生きてはいられない。自分は化け物

(あつかいされるだろうから・・・・・・」 せいじは、ここで、じゅうだいなけっしんをしなければ)

あつかいされるだろうから……」  青二は、ここで、重大な決心をしなければ

(ならなくなった。このままうちにいて、ばけものあつかいされるか、それとも)

ならなくなった。このままうちにいて、化け物あつかいされるか、それとも

(だれにもみつからないせかいへにげていってしまうか。 いろいろとかんがえなやんだ)

誰にも見つからない世界へにげていってしまうか。  いろいろと考えなやんだ

(すえ・・・・・・せいじは、そっといえをでてゆくことにした。 せいじは、わずかのきがえを)

末……青二は、そっと家を出てゆくことにした。  青二は、わずかの着がえを

(ばすけっとにいれ、またかたてには、とうめいねこをいれたふろしきづつみをもち、ははおやに)

バスケットに入れ、また片手には、透明猫を入れたふろしき包みをもち、母親に

(きづかれないうちに、いえをでてしまった。 ただははおやがなげくとかわいそうだ)

気づかれないうちに、家を出てしまった。  ただ母親がなげくとかわいそうだ

(とおもったから、 「ぼくはきゅうにりょこうをします。しんぱいしないでください。そのうちに)

と思ったから、 「ぼくは急に旅行をします。心配しないで下さい。そのうちに

(かならずかえってきます。そして、うんとおもしろいおみやげばなしをしましょう」)

かならず帰って来ます。そして、うんとおもしろいおみやげ話をしましょう」

(と、いういしょを、つくえのうえにおいてさった。)

と、いう遺書を、机の上において去った。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

chiroのタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード