怪人二十面相39 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(ろうじんはすこしきまりがわるくなって、むごんのままもとのしせいにもどり、またみみを)

老人は少しきまりが悪くなって、無言のまま元の姿勢に戻り、また耳を

(すましましたが、するとさっきとおなじように、あたまのなかがすーっとからっぽになって、)

澄ましましたが、すると先刻と同じように、頭の中がスーッと空っぽになって、

(めのまえにもやがむらがりはじめるのです。 そのもやがすこしずつこくなって、やがて)

目の前に靄が群がり始めるのです。  その靄が少しずつ濃くなって、やがて

(くろくものようにまっくらになってしまうと、からだがふかいふかいちのそこへでもおちこんで)

黒雲のように真暗になってしまうと、身体が深い深い地の底へでも落ち込んで

(いくようなきもちがして、ろうじんは、いつしかうとうととねむってしまいました。)

いくような気持がして、老人は、何時しかウトウトと眠ってしまいました。

(どのくらいねむったのか、そのあいだじゅうまるでじごくへでもおちたようなおそろしいゆめばかり)

どの位眠ったのか、その間中まるで地獄へでも落ちたような恐ろしい夢ばかり

(みつづけながら、ふとめをさましますと、びっくりしたことには、あたりがすっかり)

見続けながら、ふと目を覚ましますと、吃驚したことには、辺りがすっかり

(あかるくなっているのです。 「ああ、わしはねむったんだな。しかし、あんなにきを)

明るくなっているのです。 「ああ、儂は眠ったんだな。しかし、あんなに気を

(はりつめていたのに、どうしてねたりなんぞしたんだろう」 さもんろうじんは)

張りつめていたのに、どうして寝たりなんぞしたんだろう」  左門老人は

(われながら、ふしぎでしかたがありませんでした。 みると、あけちたんていは)

我ながら、不思議で仕方がありませんでした。  見ると、明智探偵は

(ゆうべのままのすがたで、まだすやすやとねむっています。 「ああ、たすかった。)

昨夜のままの姿で、まだスヤスヤと眠っています。 「ああ、助かった。

(それじゃにじゅうめんそうは、あけちたんていにおそれをなして、とうとうやってこなかったと)

それじゃ二十面相は、明智探偵に恐れをなして、とうとうやって来なかったと

(みえる。ありがたい、ありがたい」 ろうじんはほっとむねをなでおろして、)

みえる。ありがたい、ありがたい」  老人はホッと胸を撫で下ろして、

(しずかにたんていをゆりおこしました。 「せんせい、おきてください。もうよが)

静かに探偵を揺り起こしました。 「先生、起きて下さい。もう夜が

(あけましたよ」 あけちはすぐめをさまして、)

明けましたよ」  明智はすぐ目を覚まして、

(「ああ、よくねむってしまった・・・・・・。ははは・・・・・・、ごらんなさい。なにごとも)

「ああ、よく眠ってしまった……。ハハハ……、ご覧なさい。何事も

(なかったじゃありませんか」 といいながら、おおきなのびをするのでした。)

なかったじゃありませんか」 と言いながら、大きな伸びをするのでした。

(「みはりばんのけいじさんも、さぞねむいでしょう。もうだいじょうぶですから、)

「見張り番の刑事さんも、さぞ眠いでしょう。もう大丈夫ですから、

(ごはんでもさしあげて、ゆっくりやすんでいただこうじゃありませんか」)

ご飯でも差し上げて、ゆっくり休んで頂こうじゃありませんか」

(「そうですね。では、このとをあけてください」 ろうじんは、いわれるままに)

「そうですね。では、この戸を開けて下さい」  老人は、言われるままに

など

(かいちゅうからかぎをとりだして、しまりをはずし、がらがらといたどをひらきました。)

懐中から鍵を取り出して、締まりを外し、ガラガラと板戸を開きました。

(ところが、とをひらいて、へやのなかをひとめみたかとおもうと、ろうじんのくちから)

ところが、戸を開いて、部屋の中を一目見たかと思うと、老人の口から

(「ぎゃーっ」という、まるでしめころされるようなさけびがほとばしったのです。)

「ギャーッ」という、まるで絞殺されるような叫びが迸ったのです。

(「どうしたんです。どうしたんです」 あけちもおどろいてたちあがり、へやのなかを)

「どうしたんです。どうしたんです」  明智も驚いて立ち上がり、部屋の中を

(のぞきました。 「あ、あれ、あれ・・・・・・」)

覗きました。 「あ、あれ、あれ……」

(ろうじんはくちをきくちからもなく、みょうなかたことをいいながら、ふるえるてでしつないを)

老人は口をきく力もなく、妙な片言を言いながら、震える手で室内を

(ゆびさしています。 みると、ああ、ろうじんのおどろきもけっしてむりでは)

指さしています。  見ると、ああ、老人の驚きも決して無理では

(なかったのです。へやのなかのこめいがは、かべにかけてあったのも、はこにおさめてたなに)

なかったのです。部屋の中の古名画は、壁に掛けてあったのも、箱に収めて棚に

(つんであったのも、ひとつのこらず、まるでかきけすようになくなっているでは)

積んであったのも、一つ残らず、まるで掻き消すように無くなっているでは

(ありませんか。 ばんにんのけいじは、たたみのうえにうちのめされたようにたおれて、)

ありませんか。  番人の刑事は、畳の上に打ちのめされたように倒れて、

(なんというざまでしょう。ぐうぐうたかいびきをかいているのです。 「せ、せんせい、)

なんという様でしょう。グウグウ高鼾をかいているのです。 「せ、先生、

(ぬ、ぬ、ぬすまれました。ああ、わしは、わしは・・・・・・」 さもんろうじんは、いっしゅんかんに)

ぬ、ぬ、盗まれました。ああ、儂は、儂は……」  左門老人は、一瞬間に

(10ねんもとしをとったようなすさまじいかおになって、あけちのむなぐらをとらんばかりです。)

十年も年を取ったような凄まじい顔になって、明智の胸倉を取らんばかりです。

(あくまのちえ ああ、またしてもありえないことがおこったのです。)

【悪魔の知恵】  ああ、またしても有り得ない事が起こったのです。

(にじゅうめんそうというやつは、にんげんではなくて、えたいのしれないおばけです。)

二十面相というやつは、人間ではなくて、得体の知れないお化けです。

(まったくふかのうなことを、こんなにやすやすとやってのけるのですからね。)

全く不可能な事を、こんなに易々とやってのけるのですからね。

(あけちはつかつかとへやのなかへはいっていって、いびきをかいているけいじのこしのあたりを)

明智はツカツカと部屋の中へ入って行って、鼾をかいている刑事の腰の辺りを

(いきなりけとばしました。ぞくのためにだしぬかれて、もうすっかりはらをたてて)

いきなり蹴飛ばしました。賊の為に出し抜かれて、もうすっかり腹を立てて

(いるようすでした。 「おい、おい、おきたまえ。ぼくはきみにここで)

いる様子でした。 「おい、おい、起きたまえ。僕は君にここで

(おやすみくださいってたのんだんじゃないんだぜ。みたまえ、すっかりぬすまれて)

お休み下さいって頼んだんじゃないんだぜ。見たまえ、すっかり盗まれて

(しまったじゃないか」)

しまったじゃないか」

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