古事記上巻・速須佐之男命5

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古事記上巻・速須佐之男命の読み下し文

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(ここにやほよろづのかみともにはかりて、はやすさのをのみことにちくらのおきどをおほせ、)

ここに八百万の神共に議りて、速須佐之男命に千位の置戸を負せ、

(またひげをきり、てあしのつめもぬかしめて、かむやらひやらひき。)

また鬚を切り、手足の爪も抜かしめて、神逐らひ逐らひき。

(またをしものをおほげつひめのかみにこひき。)

また食物を大気津比売神に乞ひき。

(ここにおほげつひめのかみ、はなくちまたしりより、くさぐさのためつものをとりいだして、)

ここに大気津比売神、鼻口また尻より、種種の味物を取り出して、

(くさぐさつくりそなへてたてまつるときに、はやすさのをのみこと、そのしわざをたちうかがひて、)

種種作り具へて進る時に、速須佐之男命、その態を立ち伺ひて、

(けがしてたてまつるとおもひて、すなはちそのおほげつひめのかみをころしき。)

穢汚して奉進るとおもひて、すなはちその大宜津比売神を殺しき。

(かれ、ころさえしかみのみになれるものは、かしらにかいこなり、ふたつのめにいなだねなり、)

故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、

(ふたつのみみにあはなり、はなにあづきなり、ほとにむぎなり、しりにまめなりき。)

二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰に麦生り、尻に大豆生りき。

(かれここにかむむすひのみおやのみこと、これをとらしめて、たねとなしき。)

故ここに神産巣日の御祖命、これを取らしめて、種と成しき。

(かれ、やらはえて、いづものくにのひのかはかみ、なはとりかみといふところにくだりたまひき。)

故、避追はえて、出雲国の肥の河上、名は鳥髪といふ地に降りたまひき。

(このときはしそのかはよりながれくだりき。)

この時箸その河より流れ下りき。

(ここにすさのをのみこと、ひとそのかはかみにありとおもほして、)

ここに須佐之男命、人その河上にありと以為ほして、

(たづねもとめてのぼりゆきたまへば、おきなとおみなとふたりありて、)

尋ね覓めて上り往きたまへば、老夫と老女と二人ありて、

(をとめをなかにおきてなけり。)

童女を中に置きて泣けり。

(ここになれどもはたぞととひたまひき。)

ここに汝等は誰ぞと問ひたまひき。

(かれ、そのおきなこたへまをししく、)

故、その老夫答へ言ししく、

(あれはくにつかみ、おほやまつみのかみのこぞ。あがなはあしなづちをいひ、)

僕は国つ神、大山津見神の子ぞ。僕が名は足名椎を謂ひ、

(めのなはてなづちといひ、むすめのなはくしなだひめといふとまをしき。)

妻の名は手名椎と謂ひ、女の名は櫛名田比売と謂ふとまをしき。

(またながなくゆえはなにぞととひたまへば、こたへまをししく、)

また汝が哭く由は何ぞと問ひたまへば、答へ白ししく、

(あがむすめは、もとよりやをとめありしを、このこしのやまたのをろち、)

我が女は、本より八稚女ありしを、この高志の八俣の大蛇、

など

(としごとにきてくらへり。いまそがくべきときなり。かれ、なくとまをしき。)

年毎に来て喫へり。今そが来べき時なり。故、泣くとまをしき。

(ここにそのかたちはいかにととひたへば、こたへまをししく、)

ここにその形は如何と問ひたまへば、答へ白ししく、

(そのめはあかかがちのごとくして、みひとつにやかしらやをあり。)

その目は赤かがちの如くして、身一つに八頭八尾あり。

(またそのみにこけとひすぎとおひ、そのたけはたにやたにをやをにわたりて、)

またその身に蘿と檜杉と生ひ、その長は渓八谷峡八尾に渡りて、

(そのはらをみれば、ことごとにつねにちただれつとまをしき。)

その腹を見れば、悉に常に血爛れつとまをしき。

(ここにあかかがちといへるは、いまのほほづきなり)

ここに赤かがちと謂へるは、今の酸醤なり

(ここにはやすさのをのみこと、そのおきなにのたりたまひしく、)

ここに速須佐之男命、その老夫に詔りたまひしく、

(このながむすめをばあれにたてまつらむやとのりたまひしに、)

この汝が女をば吾に奉らむやとのりたまひしに、

(かしこけれどもみなをしらずとこたへまをしき。)

恐けれども御名を覚らずと答へ白しき。

(ここにこたへのたりたまひしく、あはあまてらすおほみかみのいろせなり。)

ここに答へ詔りたまひしく、吾は天照大御神の同母弟なり。

(かれいま、あめよりおりましつとのりたまひき。)

故今、天より降りましつとのりたまひき。

(ここにあしなづちてなづちのかみ、しかまさばかしこし。たてまつらむとまをしき。)

ここに足名椎手名椎神、然まさば恐し。立奉らむと白しき。

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