怪人二十面相53 江戸川乱歩
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問題文
(しかし、どうすることもできないのです。はくちゅうのとないでは、くるまをとびおりて)
しかし、どうする事も出来ないのです。白昼の都内では、車を飛び降りて
(みをかくすなんてげいとうは、できっこありません。 いけぶくろをすぎたころ、まえのくるまから)
身を隠すなんて芸当は、出来っこありません。 池袋を過ぎた頃、前の車から
(ぱーんというはげしいおんきょうがきこえました。ああ、ぞくはとうとうがまん)
パーンという激しい音響が聞こえました。アア、賊はとうとう我慢
(しきれなくなって、れいのぽけっとのぴすとるをとりだしたのでしょうか。)
しきれなくなって、例のポケットのピストルを取り出したのでしょうか。
(いや、いや、そうではなかったのです。せいようのぎゃんぐえいがではありません。)
いや、いや、そうではなかったのです。西洋のギャング映画ではありません。
(にぎやかなまちのなかで、ぴすとるなどうってみたところで、いまさらのがれられるものでは)
賑やかな町の中で、ピストルなど撃ってみたところで、今更逃れられるものでは
(ないのです。 ぴすとるではなくて、しゃりんのぱんくしたおとでした。)
ないのです。 ピストルではなくて、車輪のパンクした音でした。
(ぞくのうんがつきたのです。 それでも、しばらくのあいだはむりにくるまをはしらせて)
賊の運が尽きたのです。 それでも、暫くの間は無理に車を走らせて
(いましたが、いつしかそくどがにぶり、ついにおまわりさんのじどうしゃにおいぬかれて)
いましたが、いつしか速度が鈍り、ついにお巡りさんの自動車に追い抜かれて
(しまいました。にげるゆくてにあたってじどうしゃをよこにされては、もうどうする)
しまいました。逃げる行く手にあたって自動車を横にされては、もうどうする
(こともできません。 くるまは2だいともとまりました。たちまちそのまわりに)
事もできません。 車は二台とも停まりました。たちまちその周りに
(くろやまのひとだかり。やがてふきんのおまわりさんもかけつけてきます。)
黒山の人だかり。やがて付近のお巡りさんも駆け付けて来ます。
(ああ、どくしゃしょくん、つじのしは、とうとうつかまってしまいました。)
ああ、読者諸君、辻野氏は、とうとう捕まってしまいました。
(「にじゅうめんそうだ、にじゅうめんそうだ!」 だれにいうとなく、ぐんしゅうのあいだにそんなこえが)
「二十面相だ、二十面相だ!」 誰に言うとなく、群衆の間にそんな声が
(おこりました。 ぞくは、ふきんからかけつけたふたりのおまわりさんと、)
起こりました。 賊は、付近から駆け付けた二人のお巡りさんと、
(とつかのこうばんのわかいおまわりさんと、3にんにまわりをとりまかれ、しかりつけられて、)
戸塚の交番の若いお巡りさんと、三人に周りを取り巻かれ、叱り付けられて、
(もうていこうするちからもなくうなだれています。 「にじゅうめんそうがつかまった!」)
もう抵抗する力もなく項垂れています。 「二十面相が捕まった!」
(「なんて、ふてぶてしいつらをしているんだろう」 「でも、あのおまわりさん、)
「なんて、ふてぶてしい面をしているんだろう」 「でも、あのお巡りさん、
(えらいわねえ」 「おまわりさん、ばんざーい」)
偉いわねえ」 「お巡りさん、ばんざーい」
(ぐんしゅうのなかにまきおこるかんせいのなかを、けいかんとぞくとは、ついせきしてきたくるまにどうじょうして)
群衆の中に巻き起こる歓声の中を、警官と賊とは、追跡してきた車に同乗して
(けいしちょうへといそぎます。かんかつのけいさつしょにりゅうちするには、あまりにおおものだからです。)
警視庁へと急ぎます。管轄の警察署に留置するには、あまりに大物だからです。
(けいしちょうにとうちゃくして、ことのしだいがはんめいしますと、ちょうないにはどっとかんせいが)
警視庁に到着して、事の次第が判明しますと、庁内にはドッと歓声が
(わきあがりました。てをやいていたきだいのきょうぞくが、なんとおもいがけなく)
沸き上がりました。手を焼いていた希代の凶賊が、なんと思いがけなく
(つかまったことでしょう。これというのも、いまにしけいじのきびんなしょちと、とつかしょの)
捕まった事でしょう。これというのも、今西刑事の機敏な処置と、戸塚署の
(わかいけいかんのふんせんのおかげだというので、ふたりはどうあげされんばかりのにんきです。)
若い警官の奮戦のおかげだというので、二人は胴上げされんばかりの人気です。
(このほうこくをきいて、だれよりもよろこんだのはなかむらそうさかかりちょうでした。かかりちょうははしばけの)
この報告を聞いて、誰よりも喜んだのは中村捜査係長でした。係長は羽柴家の
(じけんのさい、ぞくのためにまんまとだしぬかれたうらみを、わすれることが)
事件の際、賊の為にまんまと出し抜かれた恨みを、忘れる事が
(できなかったからです。 さっそくしらべしつで、げんじゅうなとりしらべがはじめられました。)
出来なかったからです。 早速調べ室で、厳重な取り調べが始められました。
(あいては、へんそうのめいじんのことですから、だれもかおをみしったものがありません。)
相手は、変装の名人の事ですから、誰も顔を見知ったものがありません。
(なによりもさきに、ひとちがいでないかどうかをたしかめるために、しょうにんをよびださなければ)
何よりも先に、人違いでないかどうかを確かめる為に、証人を呼び出さなければ
(なりませんでした。 あけちこごろうのじたくにでんわがかけられました。)
なりませんでした。 明智小五郎の自宅に電話が掛けられました。
(しかし、ちょうどそのとき、めいたんていはがいむしょうにでむいて、るすちゅうでしたので、)
しかし、丁度その時、名探偵は外務省に出向いて、留守中でしたので、
(かわりにこばやししょうねんがしゅっとうすることになりました。 やがてほどもなく、いかめしい)
代わりに小林少年が出頭する事になりました。 やがて程もなく、厳めしい
(しらべしつに、りんごのようなほおの、かわいらしいこばやししょうねんがあらわれました。)
調べ室に、林檎のような頬の、可愛らしい小林少年が現れました。
(そして、ぞくのすがたをひとめみるやいなや、これこそ、がいむしょうのつじのしとぎめいした、)
そして、賊の姿を一目見るやいなや、これこそ、外務省の辻野氏と偽名した、
(あのじんぶつにちがいないとしょうげんしました。)
あの人物に違いないと証言しました。
(「わしがほんものじゃ」 「このひとでした。このひとにちがいありません」)
【「儂が本物じゃ」】 「この人でした。この人に違いありません」
(こばやしくんは、きっぱりとこたえました。 「ははは・・・・・・、どうだね、きみ、)
小林君は、キッパリと答えました。 「ハハハ……、どうだね、君、
(こどものがんりきにかかっちゃかなわんだろう。きみがなんといいのがれようとしたって、)
子どもの眼力にかかっちゃ敵わんだろう。君が何と言い逃れようとしたって、
(もうだめだ。きみはにじゅうめんそうにちがいないのだ」 なかむらかかりちょうは、うらみかさなる)
もう駄目だ。君は二十面相に違いないのだ」 中村係長は、恨み重なる
(かいとうを、とうとうとらえたかとおもうと、うれしくてしかたがありませんでした。)
怪盗を、とうとう捕えたかと思うと、嬉しくて仕方がありませんでした。