吸血鬼21

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プレイ回数2013難易度(4.5) 5022打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6045 A++ 6.3 96.0% 796.0 5020 208 70 2024/03/23

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問題文

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(あのいえをおかしになるのでしたら、いちどはいけんしたいのですが あけちは)

「あの家をお貸しになるのでしたら、一度拝見したいのですが」明智は

(きっかけをつけるために、そんなことをいってみた。あなたがたも、えやちょうこくを)

きっかけをつける為に、そんなことをいって見た。「あなた方も、絵や彫刻を

(なさるかたですかね やぬしというのは、しじゅうあまりの、よくばりらしいいなかおやじだ。)

なさる方ですかね」家主というのは、四十余りの、慾ばりらしい田舎親爺だ。

(すると、おかだはちょうこくもやったものとみえる。ぼくたちは、しんだおかだくんとは、)

すると、岡田は彫刻もやったものと見える。「僕達は、死んだ岡田君とは、

(かんせつにしりあいのものです。やっぱりおなじようなしごとをしているのですよ)

間接に知り合いのものです。やっぱり同じような仕事をしているのですよ」

(あけちはでたらめをいった。やぬしはしばらくふたりのふうていをじろじろながめていたが、やがて)

明智は出鱈目をいった。家主は暫く二人の風体をジロジロ眺めていたが、やがて

(みょうなことをいいだした。あのいえはわけがあって、ちっとたかくつくのですがね)

妙なことをいい出した。「あの家は訳があって、ちっと高くつくのですがね」

(たかいといいますと?えんぎのわるいすいしにんのすんでいたあとりえ、しかもながく)

「高いといいますと?」縁起の悪い水死人の住んでいたアトリエ、しかも長く

(あきやのままになっているのに、たかいというのはへんだ。いえね、やちんのほうは、)

空家のままになっているのに、高いというのは変だ。「イエね、家賃の方は、

(たかいわけでもありませんが、つきものがあるのです。おかださんがのこしていった、)

高いわけでもありませんが、つきものがあるのです。岡田さんが残して行った、

(おおきなちょうこくがあるのです。そいつをいっしょにひきとっていただきたいので やぬしのはなしを)

大きな彫刻があるのです。そいつを一緒に引戸って頂き度いので」家主の話を

(きくと、このあとりえはもとは、あるちょうこくかのもちいえであったのを、かれがかいうけて)

聞くと、このアトリエは元は、ある彫刻家の持家であったのを、彼が買受けて

(かしやにしたので、おかだはそのさいしょからにねんばかりのかりぬしではあったが、ひじょうに)

貸家にしたので、岡田はその最初から二年ばかりの借り主ではあったが、非常に

(こどくなおとこで、きみょうなことに、みよりのものも、しんみのともだちもないらしく、)

孤独な男で、奇妙なことに、身寄りのものも、親身の友達もないらしく、

(けいさつからすいしのつうちをうけても、しがいのひきとりてもなかったので、さしずめやぬしが)

警察から水死の通知を受けても、死骸の引取手もなかったので、さしずめ家主が

(いっさいをひきうけて、そうしきからぼちのことまでしんぱいした。そんなわけで、おかだが)

一切を引受けて、葬式から墓地のことまで心配した。そんな訳で、岡田が

(あとりえにのこしていったしなものは、すべてやぬしのしょゆうにきしたのだが、そのなかに、)

アトリエに残して行った品物は、凡て家主の所有に帰したのだが、その中に、

(なかなかこうかなちょうこくがあるというのである。いったいどのくらいのねうちのものなのです)

仲々高価な彫刻があるというのである。「一体どの位の値打のものなのです」

(あけちがなにげなくたずねると、おどろいたことには、おやすくして、にせんえんです)

明智が何気なく尋ねると、驚いたことには、「おやすくして、二千円です」

(とのへんじだ。だれのさくかときくと、むろんおかだがつくったのだという。むめいのおかだの)

との返事だ。誰の作かと聞くと、無論岡田が作ったのだという。無名の岡田の

など

(さくひんが、にせんえんとはほうがいなねだんである。それがね、おはなししなければ)

作品が、二千円とは法外な値段である。「それがね、お話ししなければ

(わかりませんがね やぬしは、なかなかおしゃべりである。じつはおかださんのそうしきを)

分りませんがね」家主は、仲々お喋りである。「実は岡田さんの葬式を

(すませるとまもなく、しょうばいにんがたずねてきましてね、どうしてもゆずってほしいと)

すませると間もなく、商売人が訪ねて来ましてね、どうしても譲ってほしいと

(いうので、いくらくらいにひきとるときくと、にひゃくえんときりだしたのです わたしは、)

いうので、いくら位に引取ると聞くと、二百円と切出したのです」「わたしは、

(あんなもののねうちはちっともわかりませんが、そのひとがしゅうしんらしいので、かけひきを)

あんなものの値打はちっとも分りませんが、その人が執心らしいので、掛引きを

(しましてね、それではうれぬといいますと、さんびゃくえん、さんびゃくごじゅうえんと)

しましてね、それでは売れぬといいますと、三百円、三百五十円と

(せりあげていって、とうとう、よんひゃくえんとつけたのです。こいつはたいへんなかねもうけに)

せり上げて行って、とうとう、四百円とつけたのです。こいつは大変な金儲けに

(なりそううだとおもいましたのでね。えへへ・・・・・・わたしもよくがでましてね、)

なり相だと思いましたのでね。エヘヘ・・・・・・わたしも慾が出ましてね、

(それでもうらねえとがんばってみました。さすがに、そのしょうばいにんも、よわったとみえて)

それでも売らねえと頑ばって見ました。流石に、その商売人も、弱ったと見えて

(いちどはかえっていきましたが、なあにそのうちやってくるにちがいないとおもっていると)

一度は帰って行きましたが、ナアニその内やって来るに違いないと思っていると

(あんのじょう、よくじつたずねてきて、そこでまた、ごじゅうえんひゃくえんとねをせりあげましてね、)

案の定、翌日訪ねて来て、そこでまた、五十円百円と値をせり上げましてね、

(せんえんでさあ。このちょうしだと、どこまであがるかわからないと、わたしもみょうないじが)

千円でさあ。この調子だと、どこまで上るか分らないと、わたしも妙な意地が

(でて、まだがんばっていると、それからというものはみっかにあげずやってきて、)

出て、まだ頑ばっていると、それからというものは三日にあげずやって来て、

(そのたんびに、だんだんとせりあげて、にせんえんまできてしまったのです。わたしも)

そのたんびに、段々とせり上げて、二千円まで来てしまったのです。私も

(とうとうてをうちましたよ。ところが、それではあしたにはひきとるからとやくそくして)

とうとう手を打ちましたよ。ところが、それでは明日には引取るからと約束して

(かえったまんまもうはんつきにもなりますが、そのごなんのおとさたもないのです。)

帰ったまんまもう半月にもなりますが、その後何の音沙汰もないのです。

(せっかくかりてやろうとおっしゃるのですから、おかしもうしたいのはやまやまですが、)

折角借りてやろうとおっしゃるのですから、お貸申したいのは山々ですが、

(おかしするには、あのちょうこくをどっかへはこびださなけりゃなりません、ひどく)

お貸するには、あの彫刻をどっかへ運び出さなけりゃなりません、ひどく

(でっかいちょうこくで、あれをおいたままでは、とてもおしごとはできやしませんからね。)

でっかい彫刻で、あれを置いたままでは、迚もお仕事は出来やしませんからね。

(といって、にせんえんのしろものをあまざらしにもならず、まことにこまったものです。)

といって、二千円の代物を雨ざらしにもならず、誠に困ったものです。

(どうでしょう。あなたがたのおめで、ひとつそのちょうこくをごらんくだすって、ねうちのある)

どうでしょう。あなた方のお目で、一つその彫刻をごらん下すって、値打のある

(ものでしたら、おかいあげくださいませんでしょうか。わたしとしては、どなたに)

ものでしたら、お買上げ下さいませんでしょうか。わたしとしては、どなたに

(おゆずりするのもおなじことですからね やぬしはにやにやわらいながら、あけちとみたにの)

お譲りするのも同じことですからね」家主はニヤニヤ笑いながら、明智と三谷の

(かおを、みくらべるようにした。ふたりとも、なかなかりっぱなみなりをしていたので、)

顔を、見比べるようにした。二人とも、仲々立派な身なりをしていたので、

(このよくばりおやじは、うまくはなしこんで、ひとしょうばいしようというはらであろう。)

この慾ばり親爺は、うまく話し込んで、一商売しようという腹であろう。

(にせんえんというねだんも、よほどかけちがあるにちがいない。だが、どうかんがえても、おかだの)

二千円という値段も、余程掛値があるに違いない。だが、どう考えても、岡田の

(さくひんにそんなこうかなかいてがつくとはへんである。それにはなにかしさいがなくては)

作品にそんな高価な買手がつくとは変である。それには何か仔細がなくては

(ならぬ。ともかく、そのちょうこくというのを、いちどみせてくれませんか あけちは)

ならぬ。「兎も角、その彫刻というのを、一度見せてくれませんか」明智は

(すくなからずきょうみをおぼえて、にせんえんのさくひんのいっけんをもうしでた。やぬしはふたりをあんないして、)

少からず興味を覚えて、二千円の作品の一件を申出た。家主は二人を案内して、

(あとりえにはいり、ふたつみっつまどをひらいて、へやのなかをあかるくした。みたところ、)

アトリエに這入り、二つ三つ窓を開いて、部屋の中を明るくした。見た所、

(じゅっつぼほどある、てんじょうのたかいじいんのおどうみたいなへやであったが、がかだとか、)

十坪程ある、天井の高い寺院のお堂みたいな部屋であったが、画架だとか、

(えがきかけのかんヴぁすとか、そぞうのざいりょうだとか、せっこうのかたまりだとか、がくぶちの)

描きかけのカンヴァスとか、塑像の材料だとか、石膏の塊だとか、額縁の

(こわれたの、あしのとれたいす、てーぶるなどが、すみずみにころがっているなかに、)

こわれたの、脚のとれた椅子、テーブルなどが、隅々に転がっている中に、

(ひじょうにおおきな、まるでおまつりのだしみたいなかんじのものが、ほとんどへやの)

非常に大きな、まるでお祭りの山車みたいな感じのものが、殆ど部屋の

(さんぶんいちほどをせんりょうしていた。これが、そのちょうこくなんですが やぬしは、いいながら)

三分一程を占領していた。「これが、その彫刻なんですが」家主は、いいながら

(そのきょだいなものにかぶせてあった、しろいぬのをとりのけた。しろぬのしたから)

その巨大なものにかぶせてあった、白い布をとりのけた。白布の下から

(あらわれたのは、あっというほどおおがかりな、せっこうせいのらふのぐんぞうであった。)

現れたのは、アッという程大がかりな、石膏製の裸婦の群像であった。

(わあ、こいつはすてきだ。だが、なんてまずいにんぎょうだろう みたにはびっくりして)

「ワア、こいつは素敵だ。だが、何て拙い人形だろう」三谷はびっくりして

(さけんだ。どうにもおどろくべきぐんぞうであった。これなれば、てまちんをかんがえたら、)

叫んだ。如何にも驚くべき群像であった。これなれば、手間賃を考えたら、

(にせんえんのねうちはあるかもしれぬ。せっこうをふんだんにつかった、やまのようなだいざのうえに)

二千円の値打はあるかも知れぬ。石膏をふんだんに使った、山の様な台座の上に

(ねそべっているのや、またがっているのや、たっているのや、はちにんのとうしんだいの)

寝そべっているのや、跨がっているのや、立っているのや、八人の等身大の

(らふのぞうが、てをまじえ、あしをくみちがえて、めまぐるしくむらがっているのだ。)

裸婦の像が、手を交え、足を組違えて、目まぐるしく群がっているのだ。

(わずかのまどからはいる、とぼしいこうせんが、ふくざつないんえいをつくり、へたはへたながら、)

僅の窓から這入る、乏しい光線が、複雑な陰影を作り、下手は下手ながら、

(いっしゅばけものやしきめいたみょうにぶきみなかんじをあたえた。それにしても、こんなべらぼうな)

一種化物屋敷めいた妙に不気味な感じを与えた。それにしても、こんなべら棒な

(しろものを、まじめにかいにくるというのは、どうかんがえてもへんであった。だいいち、)

代物を、真面目に買いに来るというのは、どう考えても変であった。第一、

(こんなこどものいたずらみたいな、ぶさいくなせっこうのかたまりに、にひゃくえんだって)

こんな子供のいたずらみたいな、不細工な石膏の塊に、二百円だって

(もったいないことだ。そのかいにきたしょうにんというのは、いったいどんなおとこですか)

勿体ないことだ。「その買いに来た商人というのは、一体どんな男ですか」

(あけちがたずねると、やぬしのおやじはかおをしかめてみせて、それがね、どうも)

明智が尋ねると、家主の親爺は顔をしかめて見せて、「それがね、どうも

(へんなやつでね。わたしも、なるべくなれば、あなたがたにかっていただきたいと)

変な奴でね。わたしも、なるべくなれば、あなた方に買って頂き度いと

(おもうのですよ へんなやつというと?)

思うのですよ」「変な奴というと?」

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