吸血鬼32
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 5257 | B++ | 5.6 | 93.9% | 979.5 | 5507 | 357 | 73 | 2024/11/17 |
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問題文
(はなれわざ)
離れ業
(くらやみをすすんでいくと、かがみのすこしてまえで、まっくろな、おおきなはこのようなものに)
暗闇を進んで行くと、鏡の少し手前で、真黒な、大きな箱の様なものに
(いきあたった。ぞくはそのはこのなかにたっていて、でんとうのじどうめいめつによって、かがみのおもてに、)
行当った。賊はその箱の中に立っていて、電燈の自動明滅によって、鏡の表に、
(あらわれたりきえたりしている。てきは、はこのいたばりいちまいをへだてて、すぐめのまえに、)
現われたり消えたりしている。敵は、箱の板張り一枚を隔てて、すぐ目の前に、
(たっている。ふくろのねずみだ。ところが、そのたいせつなばあいに、ひじょうにまずいことが)
立っている。袋の鼠だ。ところが、その大切な場合に、非常に拙いことが
(おこった。ことになれぬこばやししょうねんが、なにかにつまずいて、そのくろいはこへ、ちょっと)
起った。事に慣れぬ小林少年が、何かにつまずいて、その黒い箱へ、ちょっと
(よりかかったのだ。べつにおとをたてたわけではないけれど、ほんのすこしばかり、はこが)
寄りかかったのだ。別に音を立てた訳ではないけれど、ほんの少しばかり、箱が
(ゆれた。しんけいのするどくなっているぞくが、それをかんじぬはずはない。かがみにうつっている)
揺れた。神経の鋭くなっている賊が、それを感じぬ筈はない。鏡に写っている
(かいぶつのかげが、いようにうごいたかとおもうと、かがみとはことのすきまから、ほんもののおそろしい)
怪物の影が、異様に動いたかと思うと、鏡と箱との隙間から、本物の恐ろしい
(かおが、ひょいとのぞいた。あっとおもうまに、くろいはこが、ゆらゆらとゆれて、)
顔が、ヒョイと覗いた。アッと思う間に、黒い箱が、ユラユラと揺れて、
(あけちのまえにたおれてきた。たけやぶがぱっとあかるくなる。はこがうわむきにたおれて、うちがわに)
明智の前に倒れて来た。竹藪がパッと明るくなる。箱が上向きに倒れて、内側に
(しかけてあったでんとうが、むきだしになったからだ。あけちははこのかどで、かたを)
仕掛けてあった電燈が、むき出しになったからだ。明智は箱の角で、肩を
(うたれて、おもわずよろける。そのすきに、かいぶつはひとっとびで、こばやししょうねんに)
打たれて、思わずよろける。その隙に、怪物は一飛びで、小林少年に
(とびかかった。とどうじに、てんとうしたこばやしが、ひきがねをひいたのであろう、ぱん・・・・・・)
飛びかかった。と同時に、顛倒した小林が、引金を引いたのであろう、パン……
(というぴすとるのおと。かいぶつはすこしもひるまぬ。ひるまぬどころか、こばやしのみぎてに)
というピストルの音。怪物は少しもひるまぬ。ひるまぬどころか、小林の右手に
(かじりついて、ぴすとるをうばいとり、それをぎしつつ、じりじりつうろのほうへ)
かじりついて、ピストルを奪いとり、それを擬しつつ、じりじり通路の方へ
(あとしざりをはじめた。あけちは、すぐたちなおって、ぞくをおおうとしたが、まだけむりを)
あとしざりを始めた。明智は、直ぐ立ち直って、賊を追おうとしたが、まだ煙を
(はいているぴすとるのつつぐち、それをかまえたぞくのしにものぐるいなひょうじょうをみると、)
吐いているピストルの筒口、それを構えた賊の死にもの狂いな表情を見ると、
(うかつにちかづくことも、じぶんのぽけっとのぴすとるをとりだすこともできぬ。)
迂濶に近づくことも、自分のポケットのピストルを取出すことも出来ぬ。
(ためらっているあいだに、かいぶつはれいのさくらひめのにんぎょうを、きくのころもからすっぽりと、)
ためらっている間に、怪物は例の桜姫の人形を、菊の衣からスッポリと、
(ひきぬいて、こわきにかかえた。そのひょうしにかつらがおちて、あらわれたのは、あんのじょう、)
引抜いて、小脇に抱た。その拍子に鬘が落ちて、現われたのは、案の定、
(げんだいむすめのようはつ。ふくそうはふみよのがいしゅつぎとそっくりのえんじいろ。あっ、ふみよさんが)
現代娘の洋髪。服装は文代の外出着とそっくりの嚥脂色。「アッ、文代さんが」
(こばやししょうねんのさけびごえ。と、またしてもおそろしい、ぴすとるのおと。ぞくはいかくのいちだんを)
小林少年の叫声。と、またしても恐ろしい、ピストルの音。賊は威嚇の一弾を
(はなったまま、さくをとびこえ、つうろを、すぎこだちのくらやみへと、きえてしまった。)
放ったまま、柵を飛び越え、通路を、杉木立の暗闇へと、消えてしまった。
(ほとんどいちしゅんかんのできごとであった。あけちがじかにぞくのあとをおったのはいうまでも)
殆ど一瞬間の出来事であった。明智が直に賊のあとを追ったのはいうまでも
(ない。だが、ばしょはうすぐらいすぎこだち、そのむこうには、ふくざつをきわめたきくにんぎょうのぶたいが)
ない。だが、場所は薄暗い杉木立、その向うには、複雑を極めた菊人形の舞台が
(つづいている。かくればしょも、にげみちも、むすうにあるのだ。かいぶつはどこへ)
続いている。隠れ場所も、逃げ路も、無数にあるのだ。怪物はどこへ
(きえたのか、かげもかたちもない。さっきのふしぎなしかんにんぎょうも、もうそのへんには)
消えたのか、影も形もない。さっきの不思議な士官人形も、もうその辺には
(みえなかった。まもなく、じゅうせいにおどろいたけいかんたちが、かけつけて、あけちといっしょに、)
見えなかった。間もなく、銃声に驚いた警官達が、駆けつけて、明智と一緒に、
(ぞくのゆくえをさがしまわったけれど、なにをいうにも、ふくざつなかざりつけをしたばしょのこと)
賊の行方を探し廻ったけれど、何をいうにも、複雑な飾りつけをした場所のこと
(きゅうにみつかるものではない。しかし、いくらにげかくれたところで、ぞくはかんないから)
急に見つかるものではない。併し、いくら逃げ隠れたところで、賊は館内から
(いっぽもでられぬことはたしかだ。でぐちというでぐちには、げんじゅうなみはりばんがのこして)
一歩も出られぬことは確だ。出口という出口には、厳重な見張り番が残して
(あったのだから。そうさくはしつようにつづけられた。はりぼてのいわをめくり、いたばりの)
あったのだから。捜索は執拗に続けられた。張りぼての岩をめくり、板張りの
(ゆかをはぎ、ひとのかくれそうなすきまをさがしまわった。そして、むだなそうさくが、ほとんど)
床をはぎ、人の隠れ相な隙間を探し廻った。そして、無駄な捜索が、殆ど
(いちじかんもつづいたころ、どこからか、けたたましいさけびごえがひびいてきた。おーい、)
一時間も続いた頃、どこからか、けたたましい叫び声が響いて来た。「オーイ、
(おーい とこえをかぎりによんでいるのは、こばやししょうねんだ。なにごとがおこったのかと、)
オーイ」と声を限りに呼んでいるのは、小林少年だ。何事が起ったのかと、
(いちどうがこえをたよりにかけつけてみると、こばやしは、きくにんぎょうのぶたいのそとの、うすぐらい)
一同が声をたよりに駆けつけて見ると、小林は、菊人形の舞台の外の、薄暗い
(ろうかにたってしきりと、てんじょうをゆびさして、うわごとのように、ふみよさんが、)
廊下に立ってしきりと、天井を指さして、譫言の様に、「文代さんが、
(ふみよさんが とくちばしる。そこからは、きょだいなまるてんじょうのうちがわがひとめにみえるのだが)
文代さんが」と口走る。そこからは、巨大な丸天井の内側が一目に見えるのだが
(そのてんじょうをささえた、ふくしゃじょうのてっこつに、なにかしらぶらさがっているのがうすぼんやりと)
その天井を支えた、輻射状の鉄骨に、何かしらブラ下っているのが薄ボンヤリと
(ちいさくみえる。たしかににんげんだ。しかもようそうのふじんである。きくにんぎょうのぶたいぜんたいを)
小さく見える。確に人間だ。しかも洋装の婦人である。菊人形の舞台全体を
(おおうて、あおぞらのかんじをだすために、いちめんのそらいろのぬのがはりつめてあったから、)
覆うて、青空の感じを出す為めに、一面の空色の布が張りつめてあったから、
(ちょくせつのこうせんはなかったけれど、すこしあおみがかった、もやのようなひかりが、きょだいな)
直接の光線はなかったけれど、少し青味がかった、もやの様な光りが、巨大な
(まるてんじょうを、きかいなゆめのけしきのように、ぼかしていた。べらぼうにおおきな、)
丸天井を、奇怪な夢の景色の様に、ぼかしていた。べら棒に大きな、
(かさのほねみたいに、ふくしゃじょうにひろがったてっこつを、じっとみつめていると、ふらふらと)
傘の骨みたいに、輻射状に拡がった鉄骨を、じっと見つめていると、フラフラと
(めまいがするようだ。ひじょうなたかさと、ひじょうなひろさが、いいしれぬきょうふをさそう。)
めまいがする様だ。非常な高さと、非常な広さが、いい知れぬ恐怖を誘う。
(そのてっこつのちょうじょうにちかいぶぶんに、ひとりのようそうふじんが、まめつぶのように、ぶらさがって)
その鉄骨の頂上に近い部分に、一人の洋装婦人が、豆粒の様に、ぶら下がって
(いるのだ。ようふくのいろあいから、さっきぞくがこわきにかかえてにげたさくらひめのにんぎょうで)
いるのだ。洋服の色合から、さっき賊が小脇に抱えて逃げた桜姫の人形で
(あることはひとめでわかった。さくらひめはすなわちふみよさんだ。ぞくはいしきをうしなったふみよさんを)
あることは一目で分った。桜姫は即ち文代さんだ。賊は意識を失った文代さんを
(とほうもないこうしょへはこんで、せんりつすべきかるわざをえんじさせたのだ。しかし、なぜそんな)
途方もない高所へ運んで、戦慄すべき軽業を演じさせたのだ。併し、なぜそんな
(ばかばかしいことをおもいついたのか。あのこうしょへにんげんひとりはこびあげるのは)
馬鹿馬鹿しいことを思いついたのか。あの高所へ人間一人運び上げるのは
(なみたいていのくろうではない。なぜそんなむだぼねをおらねばならなかったか。まるてんじょうの)
並大抵の苦労ではない。なぜそんな無駄骨を折らねばならなかったか。丸天井の
(ちょうじょうには、ぽっかりとまるいあながあいていて、そのそとに、べつのちいさなやねがとうの)
頂上には、ポッカリと丸い孔があいていて、その外に、別の小さな屋根が塔の
(かっこうでとりつけてある。つまりいっしゅのつうふうこうなのだ。ぞくはそのつうふうこうから、)
格好でとりつけてある。つまり一種の通風孔なのだ。賊はその通風孔から、
(やねのうえへ、ふみよさんをつれだそうとしたのかもしれない。つれだして、)
屋根の上へ、文代さんを連れ出そうとしたのかも知れない。連れ出して、
(どうしようというのか、それからさきのけんとうはつかぬけれど、ふみよさんが)
どうしようというのか、それから先の見当はつかぬけれど、文代さんが
(あんなところにぶらさがっているところをみると、そうとしかかんがえられぬ。ぞくがわざわざ)
あんな所にブラ下っている所を見ると、そうとしか考えられぬ。賊が態々
(はこびだそうとしたからには、ふみよさんは、ころされたのではない。いちじきをうしなって)
運び出そうとしたからには、文代さんは、殺されたのではない。一時気を失って
(いるのだ。そうでなくて、どんなうつくしいむすめにもせよ、しがいなどにようのあるはずは)
いるのだ。そうでなくて、どんな美しい娘にもせよ、死骸などに用のある筈は
(ないのだから。おってのいちどうは、だいたいそんなふうにみてとった。だが、わざわざ)
ないのだから。追手の一同は、大体そんな風に見て取った。だが、態々
(あすこまではこんでおいて、ちゅうとでそのもくてきをほうきしたぞくのきがしれぬ。)
あすこまで運んで置いて、中途でその目的を放棄した賊の気が知れぬ。
(ぞくはいま、ふみよさんをあすこへひっかけておいて、つかれをやすめていたのです。)
「賊は今、文代さんをあすこへ引かけて置いて、疲れを休めていたのです。
(そこへぼくがどなったものだから、おどろいて、ふみよさんはそのままにして、じぶんだけ)
そこへ僕が呶鳴ったものだから、驚いて、文代さんはそのままにして、自分丈け
(にげだしてしまったのです こばやししょうねんがいきをはずませてせつめいした。どこへ?)
逃げ出してしまったのです」小林少年が息をはずませて説明した。「どこへ?
(やねのそとへか?けいかんのひとりがさけんだ。そうです。あのまるいあなから、そとへ)
屋根の外へか?」警官の一人が叫んだ。「そうです。あの丸い孔から、外へ
(はいだしたのです だれか、あすこへのぼって、ふじんをたすけるものはないか)
這い出したのです」「誰か、あすこへ昇って、婦人を助けるものはないか」
(しゅだったけいかんが、おってのひとびとをかえりみてどなった。おってのなかには、にさんにん、)
主だった警官が、追手の人々を顧みて呶鳴った。追手の中には、二三人、
(こくぎかんにでいりのしごとしがまじっていた。あっしが、やってみましょう)
国技館に出入りの仕事師が混っていた。「あっしが、やって見ましょう」
(いせいのよいはっぴすがたが、ひとびとをかきわけて、すすみでたかとおもうと、もうそこのはしらに)
威勢のよい法被姿が、人々をかき分けて、進み出たかと思うと、もうそこの柱に
(よじのぼり、はしらのちょうじょうからてっこつへととびうつり、みごとなかるわざをはじめていた。)
よじ昇り、柱の頂上から鉄骨へと飛び移り、見事な軽業を始めていた。
(もしそのばに、あけちがいあわせたならば、きっとこのしごとしをひきとめたので)
若しその場に、明智が居合わせたならば、きっとこの仕事師を引き止めたので
(あろうが、すこしまえから、どこへいったのか、そのへんにかれのすがたはみえなかった。)
あろうが、少し前から、どこへ行ったのか、その辺に彼の姿は見えなかった。
(けいかんたちもこばやししょうねんさえも、げきじょうのあまり、それをすこしもきづかぬのだ。)
警官達も小林少年さえも、激情の余り、それを少しも気づかぬのだ。