吸血鬼72

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プレイ回数1672難易度(4.5) 5724打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅん 4303 C+ 4.4 95.9% 1264.2 5681 241 80 2024/04/15

関連タイピング

問題文

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(しずことしげるしょうねんとは、いきながら、こおりにせられてしまったのだ。かれらはすいちゅうに)

倭文子と茂少年とは、生きながら、氷にせられてしまったのだ。彼等は水中に

(とじこめられ、そのみずがこくいっこくれいきをまして、ついにこおりつくまで、どのような)

とじこめられ、その水が刻一刻冷気をまして、ついにこおりつくまで、どの様な

(おもいをしたことであろう。いや、まさかこおるまでいきてはいなかったで)

思いをしたことであろう。イヤ、まさかこおるまで生きてはいなかったで

(あろうけれど、つめたくつめたくなりまさるみずのなかで、こきゅうこんなんにもがきながら)

あろうけれど、つめたくつめたくなりまさる水の中で、呼吸困難にもがきながら

(かれらははんにんのもくてきがなんであるかをさとっていたにちがいない。したいのありさまが、)

彼等は犯人の目的が何であるかを悟っていたに違いない。死体の有様が、

(うつくしければうつくしいだけ、このさつじんほうほうはむごたらしいのだ。けいぶは、いつか)

美しければ美しいだけ、この殺人方法はむごたらしいのだ。警部は、いつか

(つららにとざされているうつくしいきんぎょをみて、それをきゃくまにかざっているしゅじんの)

氷柱にとざされている美しい金魚を見て、それを客間に飾っている主人の

(ざんこくさにおどろいたけいけんをおもいうかべた。しかも、いまめのまえにあるものは、)

残酷さに驚いた経験を思い浮かべた。しかも、今目の前にあるものは、

(きんぎょどころではない。かれのよくしっているにんげんなのだ。わはははは、)

金魚どころではない。彼のよく知っている人間なのだ。「ワハハハハ、

(いかがですね。ぼくのおもいつきがおきにいりましたか。ひとごろしも、こんなふうにきれいに)

如何ですね。僕の思いつきがお気に入りましたか。人殺しも、こんな風に綺麗に

(いきたいものですね さつじんびじゅつか、ざいあくのまじゅつしは、たからかにわらいながら、)

行き度いものですね」殺人美術家、罪悪の魔術師は、高らかに笑いながら、

(わがさくひんのじまんをした。きみたちはぼくがにげたとおもったのですか。なに、)

我が作品の自慢をした。「君達は僕が逃げたと思ったのですか。ナニ、

(にげるものですか。このりっぱなびじゅつひんがみてほしかったのですよ。たんていさんの)

逃げるものですか。この立派な美術品が見てほしかったのですよ。探偵さんの

(じょしゅたちが、ぼくをびこうしてきたこともちゃんとしってます。つまりぼくは、きみたちを)

助手達が、僕を尾行して来たこともちゃんと知ってます。つまり僕は、君達を

(ここへおびきよせたわけですぜ。・・・・・・ぼくがさっき、しずこをつれてかえるには、すこし)

ここへおびき寄せた訳ですぜ。……僕がさっき、倭文子を連れて帰るには、少し

(おもすぎるでしょうと、いったことをおぼえていますか。・・・・・・たんていさん、)

重過ぎるでしょうと、いったことを覚えていますか。……探偵さん、

(いやさあけちくん、さすがのきみも、ちっとばかりこまったようなかおをしているね。おれは)

イヤサ明智君、流石の君も、ちっとばかり困ったような顔をしているね。おれは

(きみのはなをあかしてやっただけでも、ひじょうなまんぞくだよ。きみは、にほんいちの)

君の鼻をあかしてやっただけでも、非常な満足だよ。君は、日本一の

(めいたんていなのだからね たにやまは、またもやかおをまっかにして、くちからあわを)

名探偵なのだからね」谷山は、またもや顔を真赤にして、口からあわを

(ふきながら、はんきょうらんのていで、わめきつづけた。おれが、どうしてしずこを)

ふきながら、半狂乱の体で、わめき続けた。「おれが、どうして倭文子を

など

(ころしたか。このうつくしいはなごおりが、どんなじゅんじょでできあがったか。それをまだ)

殺したか。この美しい花氷が、どんな順序で出来上ったか。それをまだ

(はなさなかったね。きみたちはそれがききたいだろう。おれもきかせたいのだ。)

話さなかったね。君達はそれが聞きたいだろう。おれも聞かせたいのだ。

(しずこおやこがどんなむごたらしいめにあったかということをね。・・・・・・きみたちはたぶん)

倭文子親子がどんなむごたらしい目にあったかということをね。……君達は多分

(このふたりが、さいとうのひつぎにかくれて、あのいえをにげだしたことをかんづいている)

この二人が、斎藤の棺に隠れて、あの家を逃げ出したことを感づいている

(だろう。そのとおりだ。おれがしんせつずくで、そうさせたのだ。ところで、ひつぎの)

だろう。その通りだ。おれが親切ずくで、そうさせたのだ。ところで、棺の

(いきさきはどこだとおもうね。いわずとしれたかそうばだ。・・・・・・はははははは、)

行先はどこだと思うね。いわずと知れた火葬場だ。……ハハハハハハ、

(かそうばなんだぜ。しずこたちのかくれているひつぎは、かそうばのろのなかへ)

火葬場なんだぜ。倭文子達の隠れている棺は、火葬場の炉の中へ

(いれられたのだぜ。おれはそばにいて、だまってそれをながめていた。・・・・・・ひつぎのなかで)

入れられたのだぜ。おれは側にいて、だまってそれを眺めていた。……棺の中で

(こえをたてたら、しずこはおそろしいさつじんはんにんとして、さっそくけいさつにひきわたされなければ)

声を立てたら、倭文子は恐ろしい殺人犯人として、早速警察に引渡されなければ

(ならぬ。といって、だまっていれば、いきながらやきころされるのだ。それが、)

ならぬ。といって、だまっていれば、生きながら焼き殺されるのだ。それが、

(かよわいおんなにとって、どんなくるしみであったかそうぞうができるかね。・・・・・・しずこは、)

か弱い女にとって、どんな苦しみであったか想像が出来るかね。……倭文子は、

(とうとうわめきだした。こうしゅだいよりも、いまさしせまった、ひつぎのしたのかえんのほうが)

とうとうわめき出した。絞首台よりも、今さし迫った、棺の下の火焔の方が

(おそろしかったのだ。しずこがどんなむごたらしいこえでなきさけんだか。きっと)

恐ろしかったのだ。倭文子がどんなむごたらしい声で泣き叫んだか。きっと

(あのよにいるあにのみみにもきこえたとおもうと、おれはせいせいした)

あの世にいる兄の耳にも聞えたと思うと、おれはせいせいした」

(ああ、たにやまというやつは、なんというおそろしいふくしゅうしゃであったろう。きちがいだ。)

アア、谷山という奴は、何という恐ろしい復讐者であったろう。気違いだ。

(いや、おにだ。じんがいのきゅうけつきだ。いかにうらみがあるといって、にんげんがこのような)

イヤ、鬼だ。人外の吸血鬼だ。如何に恨みがあるといって、人間がこの様な

(おにおにしいこころになれるものではない。つねかわけいぶも、あけちこごろうさえも、この、)

鬼々しい心になれるものではない。恒川警部も、明智小五郎さえも、この、

(じごくのそこからひびいてくるような、のろいのことばに、いようなおかんをかんじないでは)

地獄の底からひびいて来る様な、のろいの言葉に、異様な悪寒を感じないでは

(いられなかった。たにやまはとめどもなくさけびつづける。おれは、ひつぎのなかのしずこに)

いられなかった。谷山は止めどもなく叫び続ける。「おれは、棺の中の倭文子に

(おもうぞんぶんのくるしみをなめさせたうえ、しょうしのいっぽてまえで、あのおんなをすくいだして)

思う存分の苦しみをなめさせた上、焼死の一歩手前で、あの女を救い出して

(やった。しんせつからだとおもってはいけない。ただやきころしたのでは、あんまり)

やった。親切からだと思ってはいけない。ただ焼き殺したのでは、あんまり

(もったいないからだ。・・・・・・すくいだされたしずこは、おれのかおをみるとさも)

もったいないからだ。……救い出された倭文子は、おれの顔を見るとさも

(うれしそうにしがみついてきた。おれはあのひとのこいびとであるうえに、いのちのおんじんと)

うれしそうにしがみついて来た。おれはあの人の恋人である上に、命の恩人と

(なった。はははははは、このおれがだぜ。それから、ふたりをこのこうじょうへつれて)

なった。ハハハハハハ、このおれがだぜ。それから、二人をこの工場へ連れて

(きたのだ。しずこもしげも、なにもしらず、いそいそとおれのあとからついてきた。)

来たのだ。倭文子も茂も、何も知らず、いそいそとおれのあとからついて来た。

(・・・・・・おれはふたりをこのへやへつれこみ、そこで、しごにちもかかって、いっすんだめし)

……おれは二人をこの部屋へ連れ込み、そこで、四五日もかかって、一寸だめし

(ごぶだめしに、おれのほんとうのこころをじわじわとつげしらせてやった。そのときの、)

五分だめしに、おれの本当の心をジワジワと告げ知らせてやった。その時の、

(あいつらのおどろき、きょうふ。おれははじめててきをうったようなきもちがした。それから、)

あいつらの驚き、恐怖。おれは初めて敵を討った様な気持がした。それから、

(なきさけぶふたりを、あのあえんばこのなかへとじこめ、みずをつぎこんだ。しずこは、)

泣き叫ぶ二人を、あの亜鉛箱の中へとじこめ、水をつぎ込んだ。倭文子は、

(せめてしげのいのちだけたすけてくれと、てをあわせてたのんだが、おれはきこえぬふりを)

せめて茂の命だけ助けてくれと、手を合わせて頼んだが、おれは聞えぬふりを

(していた。・・・・・・それから、きみょうなせいひょうさぎょうがはじまったのだ。おれは、このいけの)

していた。……それから、奇妙な製氷作業が始まったのだ。おれは、この池の

(ふちにしゃがんで、すいちゅうのあえんばこのなかから、かすかにもれてくる、にくいおんなの、)

縁にしゃがんで、水中の亜鉛箱の中から、かすかに漏れて来る、憎い女の、

(だんまつまのくもんのこえにききいった。あえんばこがびりびりとふるえた。すいちゅうからのかげに)

断末魔の苦悶の声に聞入った。亜鉛箱がビリビリとふるえた。水中からの陰に

(こもったぜっきょうが、むしのなくようにきこえてきた。ああ、それが、おれにとっては、)

こもった絶叫が、虫の鳴く様に聞えて来た。アア、それが、おれにとっては、

(なんというびみょうなおんがくであっただろう。・・・・・・そして、きょうやっと、このうつくしい)

何という微妙な音楽であっただろう。……そして、今日やっと、この美しい

(はなごおりができあがった。きみたちにかんしょうしてもらうために。・・・・・・おれひとりでたのしむには、)

花氷が出来上った。君達に観賞してもらう為に。……おれ一人で楽しむには、

(もったいないびじゅつひんだからね たにやまはいいおわって、にやにやと、かおいっぱいにあくまの)

もったいない美術品だからね」谷山はいい終って、ニヤニヤと、顔一杯に悪魔の

(わらいをただよわせ、さもとくいらしく、ききてのほうをながめた。わはははははは)

笑いをただよわせ、さも得意らしく、聞き手の方を眺めた。「ワハハハハハハ」

(きわめてとうとつに、たにやまはもちろん、つねかわしでさえも、びっくりしたような、ほがらかな)

極めて唐突に、谷山は勿論、恒川氏でさえも、びっくりした様な、ほがらかな

(わらいごえが、あけちのくちからほとばしった。なるほどなるほど、きみはそれで、われわれをあっと)

笑い声が、明智の口からほとばしった。「成程成程、君はそれで、我々をアッと

(いわせたつもりなのだね。ぼくをぺしゃんこにやっつけたつもりでいるんだね。)

いわせたつもりなのだね。僕をペシャンコにやっつけた積りでいるんだね。

(ところが、あんがい、そうでもなさそうだぜ。きみにきくがね。きみはこのつららが)

ところが、案外、そうでもなさそうだぜ。君に聞くがね。君はこの氷柱が

(できあがるあいだ、たえずここにみはりばんをしていたかね あけちが、はんにんにとっては、)

出来上る間、絶えずここに見張り番をしていたかね」明智が、犯人にとっては、

(なんとやらぶきみな、えたいのしれぬといをはっした。たにやまのかおから、わらいのひょうじょうが)

何とやら不気味な、えたいの知れぬ問いを発した。谷山の顔から、笑いの表情が

(きえうせた。きみは、あえんばこをこのたんくにつけると、まもなくこのへやを)

消え失せた。「君は、亜鉛箱をこのタンクに漬ると、間もなくこの部屋を

(でていった。こうじょうのそとで、いようなよびこのおとがきこえたからだ。きみはもしやとおもって)

出て行った。工場の外で、異様な呼笛の音が聞えたからだ。君は若しやと思って

(へいのそとをのぞきにいったのだ。あのときのことをおぼえているかね たにやまは、ずぼしを)

塀の外をのぞきに行ったのだ。あの時のことを覚えているかね」谷山は、図星を

(さされて、なにかしらぎょっとした。どうこたえてよいのかわからなかった。)

さされて、何かしらギョッとした。どう答えてよいのか分らなかった。

(そのきみのるすのあいだに、このへやで、どんなことがおこっていたか、きみはすこしも)

「その君の留守の間に、この部屋で、どんなことが起っていたか、君は少しも

(しらないようだね あけちはますますみょうなことをいう。たにやまは、きょろきょろと、)

知らない様だね」明智はますます妙な事をいう。谷山は、キョロキョロと、

(ふあんらしくあたりをみまわしていたが、なにもふあんがるりゆうのないことをさとると、)

不安らしくあたりを見廻していたが、何も不安がる理由のないことをさとると、

(にくにくしげにいいかえした。で、それがいったいどうしたというのですね。ぼくが)

憎々しげにいい返した。「で、それが一体どうしたというのですね。僕が

(ちっとばかりこのへやをるすにしたからといって、まさかしずこたちが、)

ちっとばかりこの部屋を留守にしたからといって、まさか倭文子達が、

(にげだしたわけじゃあるまいし。ぼくのもくてきにはなんのさしさわりもないことだ)

逃げ出した訳じゃあるまいし。僕の目的には何のさしさわりもないことだ」

(はたしてそうかね。きみは、ぼくがここへくるのに、なんのおみやげももって)

「果してそうかね。君は、僕がここへ来るのに、何のお土産も持って

(こなかったとおもっているのかね あけちはにこにこわらって、それはともかく、)

来なかったと思っているのかね」明智はニコニコ笑って、「それは兎も角、

(このへやのでんとうはすこしくらすぎるようだね。すべてのまちがいのもとは、このくらい)

この部屋の電燈は少し暗過ぎるようだね。すべての間違いの元は、この暗い

(でんとうにあるのじゃないかとおもうのだがね と、じっとたにやまのかおをみた。たにやまは)

電燈にあるのじゃないかと思うのだがね」と、じっと谷山の顔を見た。谷山は

(あいてのいみをさとりかねてきょとんとしていたが、やがて、なにごとかにきづいたようすで)

相手の意味を悟り兼てキョトンとしていたが、やがて、何事かに気付いた様子で

(とつぜん、ひじょうなろうばいのいろをうかべた。)

突然、非常な狼狽の色を浮べた。

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