黒蜥蜴12

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プレイ回数1705難易度(4.5) 3716打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(くらやみのきし)

暗闇の騎士

(さなえさんはよくおやすみですの?みどりかわふじんはどあをしめて、あけちのまえに)

「早苗さんはよくおやすみですの?」緑川夫人はドアをしめて、明智の前に

(こしかけ、そっとしんしつのほうをみやりながら、ていせいでたずねた。ええ あけちはなにか)

腰かけ、ソッと寝室の方を見やりながら、低声でたずねた。「ええ」明智は何か

(かんがえごとをしながら、ぶっきらぼうにこたえる。おとうさんもあちらに、)

考えごとをしながら、ぶっきらぼうに答える。「お父さんもあちらに、

(ごいっしょにおやすみですの?ええ ぜんしょうにもしるしたとおり、)

ごいっしょにおやすみですの?」「ええ」前章にもしるした通り、

(ちちいわせしょうべえしは、ますいやくのすいまにおそわれ、あけちにみはりをたのんだまま、)

父岩瀬庄兵衛氏は、麻酔薬の睡魔におそわれ、明智に見張りを頼んだまま、

(さなえさんのとなりにならんだべっどにはいって、ねいってしまっていたのだ。まあ、)

早苗さんの隣に並んだベッドにはいって、寝入ってしまっていたのだ。「まあ、

(からへんじばっかりなすって みどりかわふじんはにっこりとびしょうして、なにをかんがえこんで)

空返事ばっかりなすって」緑川夫人はにっこりと微笑して、「何を考えこんで

(いらっしゃいますの。こうしてみはっていらしっても、まだごしんぱいですの?)

いらっしゃいますの。こうして見張っていらしっても、まだご心配ですの?」

(ああ、あなたはまだ あけちはやっとかおをあげてふじんをみた。さっきのかけの)

「ああ、あなたはまだ」明智はやっと顔をあげて夫人を見た。「さっきの賭けの

(ことをいっていらっしゃるのですね。ぼくがまけになって、おじょうさんが)

ことをいっていらっしゃるのですね。僕が負けになって、お嬢さんが

(ゆうかいされればいいと、けしからんことをねがっていらっしゃるのですね と、かれも)

誘拐されればいいと、けしからんことを願っていらっしゃるのですね」と、彼も

(うつくしいひとのからかいにおうしゅうした。あら、いやですわ。いわせさんのごふこうを)

美しい人のからかいに応酬した。「あら、いやですわ。岩瀬さんの御不幸を

(ねがっているなんて。ただ、あたしごしんぱいもうしあげていますのよ。で、その)

願っているなんて。ただ、あたし御心配申しあげていますのよ。で、その

(でんぽうにはなんとかいてございまして?こんやじゅうにじをようじんしろというのです)

電報にはなんと書いてございまして?」「今夜十二時を用心しろというのです」

(あけちはおかしそうにこたえて、まんとるぴーすのおきどけいをながめた。そのはりは)

明智はおかしそうに答えて、マントルピースの置時計を眺めた。その針は

(じゅうじごじゅっぷんをしめしている。まだあといちじかんあまりございますわね。あなたは)

十時五十分を示している。「まだあと一時間あまりございますわね。あなたは

(ずっとここにおきていらっしゃるんでしょう。たいくつじゃございません いいえ)

ずっとここに起きていらっしゃるんでしょう。退屈じゃございません」「いいえ

(ちっとも。ぼくはたのしいのですよ。たんていかぎょうでもしていなければ、こういうげきてきな)

ちっとも。僕は楽しいのですよ。探偵稼業でもしていなければ、こういう劇的な

(しゅんかんが、じんせいにいくどあじわえるでしょう。おくさんこそおねむいでしょう。どうか)

瞬間が、人生に幾度味わえるでしょう。奥さんこそお眠いでしょう。どうか

など

(おやすみください まあ、ずいぶんごかってですこと。あたしだって、)

おやすみください」「まあ、ずいぶん御勝手ですこと。あたしだって、

(あなたいじょうにたのしゅうございますのよ。おんなはかけにはめのないものですわ。)

あなた以上に楽しゅうございますのよ。女は賭けには眼のないものですわ。

(おじゃまでしょうけど、おつきあいさせてくださいません?またかけのこと)

おじゃまでしょうけど、おつき合いさせてくださいません?」「また賭けのこと

(ですか。では、どうかごずいいに そうして、このいようなだんじょのひとくみは、)

ですか。では、どうか御随意に」そうして、この異様な男女の一と組は、

(しばらくだまったままたいざしていたが、ふじんはふとそこのですくのうえにおいて)

しばらくだまったまま対座していたが、夫人はふとそこのデスクの上において

(あったとらんぷのふだにきづいて、ねむけざましにひとしょうぶとていぎし、あけちも)

あったトランプの札に気づいて、睡気ざましに一と勝負と提議し、明智も

(どういして、ぞくをまつまの、きみょうなとらんぷゆうぎがはじまった。おそろしいからこそ)

同意して、賊を待つまの、奇妙なトランプ遊戯がはじまった。恐ろしいからこそ

(まちどおしいいちじかんが、とらんぷのおかげで、ついしらぬまにたっていった。)

待ち遠しい一時間が、トランプのおかげで、つい知らぬまにたって行った。

(そのあいだも、あけちはしんしつとのさかいのあけはなったどあのむこうに、ぬけめなくめを)

そのあいだも、明智は寝室との境の開け放ったドアの向こうに、抜け目なく眼を

(くばりつづけていたことはいうまでもないが、しんしつのまど もしぞくががいぶから)

くばりつづけていたことはいうまでもないが、寝室の窓(もし賊が外部から

(しんにゅうするとすれば、このまどがのこされたただひとつのつうろであった にはなんらの)

侵入するとすれば、この窓が残されたただ一つの通路であった)にはなんらの

(いじょうもおこらなかった。もうよしましょう。あとごふんでじゅうにじですわ)

異状も起こらなかった。「もうよしましょう。あと五分で十二時ですわ」

(みどりかわふじんが、もうとらんぷなどもてあそんでいられないという、いらいらした)

緑川夫人が、もうトランプなどもてあそんでいられないという、イライラした

(ひょうじょうになっていった。ええ、あとごふんです。まだひとしょうぶはだいじょうぶですよ。)

表情になって言った。「ええ、あと五分です。まだ一と勝負は大丈夫ですよ。

(そうしているうちに、なにごともなくじゅうにじがすぎてしまいますよ あけちはかーどを)

そうしているうちに、何事もなく十二時がすぎてしまいますよ」明智はカードを

(まぜあわせながら、のんきらしくさそいかけた。いいえ、いけません。)

まぜ合わせながら、のん気らしくさそいかけた。「いいえ、いけません。

(あなたはぞくをけいべつなすってはいけません。さっきだんわしつでもおはなししましたとおり)

あなたは賊を軽蔑なすってはいけません。さっき談話室でもお話ししました通り

(あたし、このぞくにかぎって、やくそくをほごにするようなことはあるまいと)

あたし、この賊にかぎって、約束をほごにするようなことはあるまいと

(おもいますの。きっと、きっといまに・・・・・・ふじんのかおはいようにきんちょうしていた。)

思いますの。きっと、きっと今に……」夫人の顔は異様に緊張していた。

(ははははは、おくさん、そうしんけいてきになってはいけませんね。そのぞくは、いったい)

「ハハハハハ、奥さん、そう神経的になってはいけませんね。その賊は、一体

(どこからはいってくるとおっしゃるのです あけちのことばにふじんはおもわずてを)

どこからはいってくるとおっしゃるのです」明智の言葉に夫人は思わず手を

(あげて、いりぐちのどあをゆびさした。ああ、あのどあから。では、おくさんの)

あげて、入口のドアを指さした。「ああ、あのドアから。では、奥さんの

(ごあんしんのために、かぎをかけておきましょう あけちはたっていって、いわせしから)

御安心のために、鍵をかけておきましょう」明智は立って行って、岩瀬氏から

(あずかったかぎでどあにしまりをした。さあ、これでどあをこわさなければ、)

預かった鍵でドアにしまりをした。「さあ、これでドアをこわさなければ、

(だれもさなえさんのべっどへちかよることはできません。ごしょうちのとおりしんしつへは)

だれも早苗さんのベッドへ近よることはできません。御承知の通り寝室へは

(このへやをとおるほかにつうろはないのですから すると、ふじんは、かいだんにおびえた)

この部屋を通るほかに通路はないのですから」すると、夫人は、怪談におびえた

(こどものように、またてをあげて、こんどはうすぼんやりとみえているしんしつのまどを)

子供のように、また手をあげて、こんどは薄ぼんやりと見えている寝室の窓を

(ゆびさすのだ。ああ、あのまど。ぞくがなかにわからはしごをかけて、あのまどへ)

指さすのだ。「ああ、あの窓。賊が中庭から梯子をかけて、あの窓へ

(よじのぼってくるとでもおっしゃるのですか。しかしあのまどのとにはちゃんと)

よじのぼってくるとでもおっしゃるのですか。しかしあの窓の戸にはちゃんと

(かけがねがかけてあるのです。よしまたまどがらすをきりやぶってはいってくるような)

掛け金がかけてあるのです。よしまた窓ガラスを切り破ってはいってくるような

(ことがあったとしても、ここからはひとめにわかるのだから、いざというときには)

ことがあったとしても、ここからは一と眼にわかるのだから、いざという時には

(ぼくのしゃげきのうでまえをおめにかけるばかりですよ あけちはいいながら、こつこつと)

僕の射撃の腕前をお眼にかけるばかりですよ」明智は言いながら、コツコツと

(みぎのぽけっとをたたいてみせた。そこにはこがたのぴすとるがひそませて)

右のポケットをたたいて見せた。そこには小型のピストルがひそませて

(あったのだ。さなえさんはなにもしらずに、よくおよってですわね。でも)

あったのだ。「早苗さんはなにも知らずに、よくお寝ってですわね。でも

(いわせさんは、どうしておきていらっしゃらないのでしょう。こんなばあいに、ちと)

岩瀬さんは、どうして起きていらっしゃらないのでしょう。こんな場合に、ちと

(のんきすぎるようですわ ふじんはそっとしんしつのなかをのぞきにいって、)

のん気すぎるようですわ」夫人はソッと寝室の中をのぞきに行って、

(ふしんらしくつぶやくのだった。)

不審らしくつぶやくのだった。

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