人間失格【太宰治】9

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投稿者投稿者ひきにーと。いいね1お気に入り登録
プレイ回数1108難易度(4.0) 3133打 長文 かな
第二の手記2です
自分は震撼しました~言ったくらいでした。までです。
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1 おかめ 5405 B++ 5.5 97.8% 567.4 3137 70 53 2024/06/27

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問題文

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(じぶんはしんかんしましたわざとしっぱいしたということをひともあろうに)

自分は震撼しました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、

(たけいちにみやぶられるとはまったくおもいもかけないことでしたじぶんはせかいがいっしゅんにして)

竹一に見破られるとは全く思いもかけない事でした。自分は、世界が一瞬にして

(じごくのごうかにつつまれてもえあがるのをがんぜんにみえるようなここちがしてわあっ)

地獄の業火に包まれて燃え上がるのを眼前に見えるような心地がして、わあっ!

(とさけんではっきょうしそうなけはいをひっしのちからでおさえましたそれからのひびの)

と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました。それからの日々の、

(じぶんのふあんときょうふ)

自分の不安と恐怖。

(ひょうめんはあいかわらずかなしいおどけをえんじてみなをわらわせていましたが)

表面は相変わらず悲しいお道化を演じて皆を笑わせていましたが、

(ふっとおもわずおもくるしいためいきがでて)

ふっと思わず重苦しい溜息が出て、

(なにをしたってすべてたけいちにこっぱみじんにみやぶられていてそうしてあれは)

何をしたってすべて竹一に木っ葉みじんに見破られていて、そうしてあれは、

(そのうちにきっとだれかれとなくそれをいいふらしてあるくにちがいないのだ)

そのうちにきっと誰かれとなく、それを言いふらして歩くに違いないのだ、

(とかんがえるとひたいにじっとりあぶらあせがわいてきてきょうじんみたいにみょうなめつきで)

と考えると、額にじっとり脂汗がわいて来て、狂人みたいに妙な眼つきで、

(あたりをきょろきょろむなしくみまわしたりしましたできることならあさひるばん)

あたりをキョロキョロむなしく見廻したりしました。できる事なら、朝、昼、晩

(しろくじちゅう)

四六時中、

(たけいちのそばからはなれずかれがひみつをくちばしらないようにかんししていたいきもちでした)

竹一の傍から離れず彼が秘密を口走らないように監視していたい気持でした。

(そうしてじぶんがかれにまとわりついているあいだにじぶんのおどけは)

そうして、自分が、彼にまとわりついている間に、自分のお道化は、

(いわゆるわざではなくて)

所謂「ワザ」では無くて、

(ほんものであったというようおもいこませるようにあらゆるどりょくをはらい)

ほんものであったというよう思い込ませるようにあらゆる努力を払い、

(あわよくばかれとむにのしんゆうになってしまいたいものだもしそのことがみな)

あわよくば、彼と無二の親友になってしまいたいものだ、もし、その事が皆、

(ふかのうならもはやかれのしをいのるよりほかはないとさえおもいつめました)

不可能なら、もはや、彼の死を祈るより他は無い、とさえ思いつめました。

(しかしさすがにかれをころそうというきだけはおこりませんでしたじぶんは)

しかし、さすがに、彼を殺そうという気だけは起こりませんでした。自分は、

(これまでのしょうがいにおいて)

これまでの生涯に於いて、

など

(ひとにころされたいとがんぼうしたことはいくどとなくありましたが)

人に殺されたいと願望したことは幾度となくありましたが、

(ひとをころしたいとおもったことはいちどもありませんでしたそれは)

人を殺したいと思った事は、いちどもありませんでした。それは、

(おそるべきあいてにかえってこうふくをあたえるだけのことだとかんがえていたからです)

おそるべき相手に、かえって幸福を与えるだけの事だと考えていたからです。

(じぶんはかれをてなずけるためまずかおににせくりすちゃんのような)

自分は、彼を手なずけるため、まず、顔に偽クリスチャンのような

(やさしいほおえみをたたえくびをさんじゅうどくらいひだりにまげてかれのちいさいかたをかるくだき)

「優しい」微笑を湛え、首を三十度くらい左に曲げて、彼の小さい肩を軽く抱き

(そうしてねこなでごえににたあまったるいこえで)

そうして猫撫で声に似た甘ったるい声で、

(かれをじぶんのきしゅくしているいえにあそびにくるようしばしばさそいましたがかれは)

彼を自分の寄宿している家に遊びに来るようしばしば誘いましたが、彼は、

(いつもぼんやりしためつきをしてだまっていましたしかしじぶんは)

いつも、ぼんやりした眼つきをして、黙っていました。しかし、自分は、

(あるひのほうかごたしかしょかのころのことでしたゆうだちがしろくふって)

或る日の放課後、たしか初夏の頃の事でした、夕立ちが白く降って、

(せいとたちはきたくにこまっていたようでしたが)

生徒たちは帰宅に困っていたようでしたが、

(じぶんはいえがすぐちかくなのでへいきでそとへとびだそうとしてふとげたばこのかげに)

自分は家がすぐ近くなので平気で外へ飛び出そうとして、ふと下駄箱のかげに、

(たけいちがしょんぼりたっているのをみつけいこうかさをかしてあげるといい)

竹一がしょんぼり立っているのを見つけ、行こう、傘を貸してあげる、と言い、

(おくするたけいちのてをひっぱっていっしょにゆうだちのなかをはしりいえについて)

臆する竹一の手を引っ張って、一緒に夕立の中を走り、家に着いて、

(ふたりのうわぎをおばさんにかわかしてもらうようにたのみ)

二人の上衣を小母さんに乾かしてもらうようにたのみ、

(たけいちをにかいのじぶんのへやにさそいこむのにせいこうしましたそのいえには)

竹一を二階の自分の部屋に誘い込むのに成功しました。その家には、

(ごじゅうすぎのおばさんとさんじゅうくらいのめがねをかけてびょうしんらしいせのたかいあねむすめ)

五十すぎの小母さんと、三十くらいの、眼鏡をかけて、病身らしい背の高い姉娘

(このむすめはいちどよそへおよめにいってそれからまた)

(この娘は、いちどよそへお嫁に行って、それからまた、

(いえにかえっているひとでしたじぶんはこのひとを)

家に帰っているひとでした。自分は、このひとを、

(ここのいえのひとたちにならってあねさとよんでいましたそれと)

ここの家のひとたちにならって、アネサと呼んでいました)それと、

(さいきんじょがっこうをそつぎょうしたばかりらしい)

最近女学校を卒業したばかりらしい、

(せっちゃんというあねににずせがひくくまるがおのいもうとむすめとさんにんだけのかぞくで)

セッちゃんという姉に似ず背が低く丸顔の妹娘と、三人だけの家族で、

(したのみせにはぶんぼうぐやらうんどうようぐをしょうしょうならべていましたがおもなしゅうにゅうは)

下の店には、文房具やら運動用具を少々並べていましたが、主な収入は、

(なくなったしゅじんがたててのこしていったごろくむねのながやのやちんのようでした)

なくなった主人が建てて残して行った五六棟の長屋の家賃のようでした。

(みみがいたいたけいちはたったままでそういいましたあめにぬれたら)

「耳が痛い」竹一は、立ったままでそう言いました。「雨に濡れたら、

(いたくなったよじぶんがみてみるとりょうほうのみみがひどいみみだれでした)

痛くなったよ」自分が、見てみると、両方の耳が、ひどい耳だれでした。

(うみがいまにもじかくのそとにながれでようとしていましたこれはいけない)

膿が、いまにも耳殻の外に流れ出ようとしていました。「これは、いけない。

(いたいだろうとじぶんはおおげさにおどろいてみせてあめのなかを)

痛いだろう」と自分は大袈裟におどろいて見せて、「雨の中を、

(ひっぱりだしたりしてごめんねとおんなのことばみたいなことばをつかってやさしく)

引っぱり出したりして、ごめんね」と女の言葉みたいな言葉を遣って「優しく」

(あやまりそれからしたへいってわたとあるこーるをもらってきて)

謝り、それから、下へ行って綿とアルコールをもらって来て、

(たけいちをじぶんのひざをまくらにしてねかせねんいりにみみのそうじをしてやりましたたけいちも)

竹一を自分の膝を枕にして寝かせ、念入りに耳の掃除をしてやりました。竹一も

(さすがにこれがぎぜんのあっけいであることにはきづかなかったようで)

さすがに、これが偽善の悪計であることには気附かなかったようで、

(おまえはきっとおんなにほれられるよとじぶんのひざまくらでねながら)

「お前は、きっと、女に惚れられるよ」と自分の膝枕で寝ながら、

(むちなおせじをいったくらいでした)

無智なお世辞を言ったくらいでした。

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