人間失格【太宰治】14

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投稿者投稿者ひきにーと。いいね1お気に入り登録
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第二の手記7です
堀木は、~いいのでした。までです。

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問題文

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(ほりきはいろがあさぐろくたんせいなかおをしていてががくせいにはめずらしく)

堀木は、色が浅黒く端正な顔をしていて、画学生には珍らしく、

(ちゃんとしたせびろをきてねくたいのこのみもじみで)

ちゃんとした脊広を着て、ネクタイの好みも地味で、

(そうしてとうはつもぽまーどをつけてまんなかからぺったりとわけていました)

そうして頭髪もポマードをつけて真ん中からぺったりとわけていました。

(じぶんはなれぬばしょでもありただもうおそろしくうでをくんだりほどいたりして)

自分は馴れぬ場所でもあり、ただもうおそろしく、腕を組んだりほどいたりして

(それこそはにかむようなびしょうばかりしていましたがびいるをに)

それこそ、はにかむような微笑ばかりしていましたが、ビイルを二、

(さんはいのんでるうちにみょうにかいほうせられたようかるさをかんじてきたのですぼくは)

三杯飲んでるうちに、妙に解放せられたよう軽さを感じて来たのです。「僕は、

(びじゅつがっこうにはいろうとおもっていたんですけどいやつまらん)

美術学校にはいろうと思っていたんですけど、......」「いや、つまらん

(あんなところはつまらんがっこうはつまらんわれらのきょうしは)

あんなところは、つまらん。学校は、つまらん。われらの教師は、

(しぜんのなかにありしぜんにたいするぱあとすしかしじぶんは)

自然の中にあり! 自然に対するパアトス!」しかし、自分は、

(かれのいうことにいっこうにけいいをかんじませんでしたばかなひとだ)

彼の言う事に一向に敬意を感じませんでした。馬鹿なひとだ、

(えもへたにちがいないしかしあそぶのには)

絵も下手にちがいない、しかし、遊ぶのには、

(いいあいてかもしれないとかんがえましたつまりじぶんはそのときうまれてはじめて)

いい相手かも知れないと考えました。つまり、自分はその時、生れてはじめて、

(ほんもののとかいのよたものをみたのでしたそれはじぶんとかたちはちがっていても)

ほんものの都会の与太者を見たのでした。それは、自分と形は違っていても、

(やはりこのよのにんげんのいとなみからかんぜんにゆうりしてしまって)

やはり、この世の人間の営みから完全に遊離してしまって、

(とまよいしているてんにおいてだけはたしかにどうるいなのでしたそうして)

戸迷いしている点に於いてだけは、たしかに同類なのでした。そうして、

(かれはそのおどけをいしきせずにおこないしかも)

彼はそのお道化を意識せずに行い、しかも、

(そのおどけのひさんにまったくきがついていないのが)

そのお道化の悲惨に全く気がついていないのが、

(じぶんとほんしつてきにいしょくのところでしたただあそぶだけだ)

自分と本質的に異色のところでした。ただ遊ぶだけだ、

(あそびのあいてとしてつきあっているだけだとつねにかれをけいべつし)

遊びの相手として附合っているだけだ、とつねに彼を軽蔑し、

(ときにはかれとのこうゆうをはずかしくさえおもいながら)

時には彼との交友を恥ずかしくさえ思いながら、

など

(かれとつれだってあるいているうちにけっきょくじぶんは)

彼と連れ立って歩いているうちに、結局、自分は、

(このおとこにさえうちやぶられましたしかしはじめはこのおとこをこうじんぶつ)

この男にさえ打ち破られました。しかし、はじめは、この男を好人物、

(まれにみるこうじんぶつとばかりおもいこみさすがにんげんきょうふのじぶんもまったくゆだんをして)

まれに見る好人物とばかり思いこみ、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、

(とうきょうのよいあんないしゃができたくらいにおもっていましたじぶんはじつは)

東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。自分は、実は、

(ひとりではでんしゃにのるとしゃしょうがおそろしくかぶきざへはいりたくても)

ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、

(あのしょうめんげんかんのひのじゅうたんがしかれてあるかいだんのりょうがわにならんでたっている)

あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている

(あんないじょうたちがおそろしくれすとらんへはいるとじぶんのはいごにひっそりたって)

案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って

(さらのあくのをまっているきゅうじのぼーいがおそろしくことにもかんじょうをはらうとき)

皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時、

(ああぎこちないじぶんのてつきじぶんはかいものをしておかねをてわたすときには)

ああ、ぎこちない自分の手つき、自分は買い物をしてお金を手渡す時には、

(りんしょくゆえでなくあまりのきんちょうあまりのはずかしさあまりのふあんきょうふに)

吝嗇ゆえでなく、あまりの緊張、あまりの恥ずかしさ、あまりの不安、恐怖に、

(くらくらめまいしてせかいがまっくらになり)

くらくら目まいして、世界が真暗になり、

(ほとんどはんきょうらんのきもちになってしまってねぎるどころか)

ほとんど半狂乱の気持になってしまって、値切るどころか、

(おつりをうけとるのをわすれるばかりでなく)

お釣りを受け取るのを忘れるばかりでなく、

(かったしなものをもちかえるのをわすれたことさえしばしばあったほどなのでとても)

買った品物を持ち帰るのを忘れた事さえ、しばしばあったほどなので、とても、

(ひとりでとうきょうのまちをあるけずそれでしかたなくいちにちいっぱいいえのなかで)

ひとりで東京のまちを歩けず、それで仕方なく、一日一ぱい家の中で、

(ごろごろしていたというないじょうもあったのでしたそれが)

ゴロゴロしていたという内情もあったのでした。それが、

(ほりきにさいふをわたしていっしょにあるくとほりきはおおいにねぎって)

堀木に財布を渡して一緒に歩くと、堀木は大いに値切って、

(しかもあそびじょうずというのか)

しかも遊び上手というのか、

(わずかなおかねでさいだいのこうかのあるようなしはらいぶりをはっきしまた)

わずかなお金で最大の効果のあるような支払い振りを発揮し、また、

(たかいえんたくはけいえんしてでんしゃばすぽんぽんじょうきなど)

高い円タクは敬遠して、電車、バス、ポンポン蒸気など、

(それぞれりようしわけてさいたんじかんでもくてきちへつくというしゅわんをもしめし)

それぞれ利用し分けて、最短時間で目的地へ着くという手腕をも示し、

(いんばいふのところからあさかえるとちゅうには)

淫売婦のところから朝帰る途中には、

(なになにというりょうていにたちよってあさぶろへはいりゆどうふでかるくおさけをのむのが)

何々という料亭に立ち寄って朝風呂へはいり、湯豆腐で軽くお酒を飲むのが、

(やすいわりにぜいたくなきぶんになれるものだとじっちきょういくをしてくれたりそのほか)

安い割に、ぜいたくな気分になれるものだと実地教育をしてくれたり、その他、

(やたいのぎゅうめしやきとりのあんかにしてじようにとむものたることをとき)

屋台の牛めし焼とりの安価にして滋養に富むものたることを説き、

(よいのはやくはっするのはでんきぶらんのみぎにでるものはないとほしょうし)

酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと保証し、

(とにかくそのかんじょうについてはじぶんにひとつもふあん)

とにかくその勘定については自分に、一つも不安、

(きょうふをおぼえさせたことがありませんでしたさらにまた)

恐怖を覚えさせた事がありませんでした。さらにまた、

(ほりきとつきあってすくわれるのはほりきがききてのおもわくなどをてんでむしして)

堀木と附合って救われるのは、堀木が聞き手の思惑などをてんで無視して、

(そのいわゆるぱとすのふんしゅつするがままにあるいはぱとすとは)

その所謂情熱の噴出するがままに、(或いは、情熱とは、

(あいてのたちばをむしすることかもしれませんがしろくじちゅう)

相手の立場を無視する事かも知れませんが)四六時中、

(くだらないおしゃべりをつづけあのふたりであるいてつかれ)

くだらないおしゃべりを続け、あの、二人で歩いて疲れ、

(きまずいちんもくにおちいるきくがまったくないということでしたひとにせっし)

気まずい沈黙におちいる危懼が、全く無いという事でした。人に接し、

(あのおそろしいちんもくがそのばにあらわれることをけいかいして)

あのおそろしい沈黙がその場にあらわれる事を警戒して、

(もともとくちのおもいじぶんがここをせんどとひっしのおどけをいってきたものですが)

もともと口の重い自分が、ここを先途と必死のお道化を言って来たものですが、

(いしきせずにそのおどけやくをみずからすすんでやってくれているのでじぶんは)

意識せずに、そのお道化役をみずからすすんでやってくれているので、自分は、

(へんじもろくにせずにただききながしときおりまさかなどとわらっていっておれば)

返事もろくにせずに、ただ聞き流し、時折、まさか、などと笑って言っておれば

(いいのでした)

いいのでした。

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