「悪魔の紋章」4 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ねね 4530 C++ 4.6 97.3% 930.4 4333 118 64 2024/03/20

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問題文

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(「いかにも、さんじゅうかじょうもんにちがいない。これはもうりゅうせんをかぞえるまでも)

「如何にも、三重渦状紋に違いない。これはもう隆線を数えるまでも

(ありませんよ。ひとめでわかる。ひろいせけんに、こんなみょうなしもんをもったにんげんは、)

ありませんよ。一目で分る。広い世間に、こんな妙な指紋を持った人間は、

(ふたりとあるまいからね」 「こしらえたものじゃないでしょうね」)

二人とあるまいからね」 「拵えたものじゃないでしょうね」

(「いや、こしらえたものでは、こんなにうまくいきませんよ。このくらいに)

「イヤ、拵えたものでは、こんなにうまく行きませんよ。この位に

(かくだいしてみれば、こしらえものなれば、どこかふしぜんなところがあって、)

拡大して見れば、拵えものなれば、どこか不自然なところがあって、

(じきみやぶることができるのですが、これにはすこしもふしぜんなてんがない」)

じき見破ることが出来るのですが、これには少しも不自然な点がない」

(そして、やみのなかのふたりは、めとくちのあるきょだいなしもんにあっぱくされたかのごとく、)

そして、闇の中の二人は、目と口のある巨大な指紋に圧迫されたかの如く、

(まただまりこんでしまった。 しばらくして、なかむらかかりちょうのこえ。)

又黙り込んでしまった。 暫らくして、中村係長の声。

(「それにしても、きじまくんは、このみょうなしもんをどうしててにいれたのでしょう。)

「それにしても、木島君は、この妙な指紋をどうして手に入れたのでしょう。

(このくつべらがはんにんのもちものとすれば、きじまくんははんにんにあっているわけですね。)

この靴箆が犯人の持物とすれば、木島君は犯人に会っている訳ですね。

(ちょくせつはんにんからかすめてきたものじゃないでしょうか」)

直接犯人から掠めて来たものじゃないでしょうか」

(「そうとしかかんがえられません」 「ざんねんなことをしたなあ。)

「そうとしか考えられません」 「残念なことをしたなア。

(きじまくんさえいきていてくれたら、やすやすとはんにんをとらえることができたかも)

木島君さえ生きていてくれたら、易々と犯人を捉えることが出来たかも

(しれないのに」 「はんにんはそれをおそれたから、せんてをうってどくをのませ、)

知れないのに」 「犯人はそれを恐れたから、先手を打って毒を呑ませ、

(そのうえ、ほうこくしょまでぬきとってしまったのです。じつにぬけめのないやつだ。)

その上、報告書まで抜き取ってしまったのです。実に抜け目のない奴だ。

(なかむらくん、これはよほどおおものですよ」 「あのごうじょうなきじまくんが、)

中村君、これは余程大物ですよ」 「あの強情な木島君が、

(おそろしいおそろしいといいつづけていたそうですからね」 「そうです。)

恐ろしい恐ろしいと云いつづけていたそうですからね」 「そうです。

(きじまくんは、そんなよわねをはくようなおとこじゃなかった。それだけに、ぼくらはよほど)

木島君は、そんな弱音を吐くような男じゃなかった。それだけに、僕らは余程

(ようじんしなけりゃいけない。・・・・・・かわでのいえは、あなたのほうから)

用心しなけりゃいけない。・・・・・・川手の家は、あなたの方から

(てはいがしてありますか」 はかせはしんぱいらしく、せかせかとたずねた。)

手配がしてありますか」 博士は心配らしく、せかせかと訊ねた。

など

(「いや、なにもしておりません。きょうまではかわでのうったえを)

「イヤ、何もして居りません。今日までは川手の訴えを

(ほんきにうけとっていなかったのです。しかし、こうなれば、すててはおけません」)

本気に受取っていなかったのです。しかし、こうなれば、捨てては置けません」

(「すぐてはいをしてください。きじまくんをこんなめにあわせたからは、はんにんのほうでも)

「すぐ手配をして下さい。木島君をこんな目に合わせたからは、犯人の方でも

(ことをいそぐにちがいない。いっこくをあらそうもんだいです」 「おっしゃるまでもありません。)

事を急ぐに違いない。一刻を争う問題です」 「おっしゃるまでもありません。

(いまからすぐかえっててはいをします。こんやはかわでのいえへさんにんばかりしふくをやって、)

今からすぐ帰って手配をします。今夜は川手の家へ三人ばかり私服をやって、

(げんじゅうにけいかいさせましょう」 「ぜひそうしてください。ぼくもいくと)

厳重に警戒させましょう」 「是非そうして下さい。僕も行くと

(いいんだけれど、しがいをほっておくわけにいきません。ぼくはあしたのあさ、)

いいんだけれど、死骸を抛って置く訳に行きません。僕は明日の朝、

(かわでしをほうもんしてみることにしましょう」 「じゃ、いそぎますから、これで」)

川手氏を訪問して見ることにしましょう」 「じゃ、急ぎますから、これで」

(なかむらかかりちょうはいいすてて、あたふたとゆうやみのがいろへかけだしていった。)

中村係長は云い捨てて、あたふたと夕闇の街路へ駈け出して行った。

(あとにのこったむなかたはかせは、げんとうのしまつをすると、しもんのくつべらを)

あとに残った宗像博士は、幻燈の始末をすると、指紋の靴箆を

(がらすのようきにいれて、こうてつせいのしょるいいれのひきだしにおさめ、げんじゅうにかぎをかけた。)

ガラスの容器に入れて、鋼鉄製の書類入れの抽斗に納め、厳重に鍵をかけた。

(つぎのまには、ぶかのむざんなしたいが、もとのままのすがたでよこたわっている。)

次の間には、部下の無残な死体が、元のままの姿で横たわっている。

(いまにかぞくのものがかけつけてくるであろう。またけんじきょくからけんしのいっこうも)

今に家族のものが駈けつけて来るであろう。又検事局から検視の一行も

(くるであろう。しかし、それをまつあいだ、このままのすがたではかわいそうだ。)

来るであろう。しかし、それを待つ間、このままの姿では可哀想だ。

(はかせはおくのへやからいちまいのはくふをさがしだしてきて、もくとうしながら、)

博士は奥の部屋から一枚の白布を探し出して来て、黙祷しながら、

(それをふわりとしたいのうえにきせてやった。)

それをフワリと死体の上に着せてやった。

(いけるろうにんぎょう hせいとうかぶしきがいしゃとりしまりやくかわてしょうたろうしは、)

生ける蝋人形 H製糖株式会社取締役川手庄太郎氏は、

(ここいっかげつほどまえから、さしだしにんふめいのきょうはくじょうになやまされていた。)

ここ一カ月ほど前から、差出人不明の脅迫状に悩まされていた。

(「せっしゃはきでんにふかきうらみをいだくものである。ちょうのねんげつを、せっしゃは、)

「拙者は貴殿に深き恨みを抱くものである。長の年月を、拙者は、

(ただきでんへのふくしゅうじゅんびのためについやしてきた。いまやじゅんびはまったくととのった。)

ただ貴殿への復讐準備の為に費して来た。今や準備は全く整った。

(いよいようらみをはらすときがきたのだ。きでんいっかはまもなくみなごろしにあうであろう。)

愈々恨みをはらす時が来たのだ。貴殿一家は間もなく鏖に会うであろう。

(ひとりずつ、ひとりずつ、つぎつぎとよにもいまわしきさいごをとげるであろう」)

一人ずつ、一人ずつ、次々と世にもいまわしき最期をとげるであろう」

(といういみのてがみが、まいにちのようにはいたつされた。いっつうごとにひっせきがちがっていた。)

という意味の手紙が、毎日のように配達された。一通毎に筆蹟が違っていた。

(ひどくへたならんぼうなしょたいであった。さしだしきょくのけしいんもそのたびごとにちがっていたし、)

ひどく下手な乱暴な書体であった。差出局の消印もその度毎に違っていたし、

(ふうとうもようしももっともありふれたやすもので、まったくさしだしにんのしょざいをつきとめる)

封筒も用紙も最もありふれた安物で、全く差出人の所在をつきとめる

(てがかりがなかった。 きょうはくはかならずしもてがみばかりではなかった。)

手掛かりがなかった。 脅迫は必ずしも手紙ばかりではなかった。

(あるときはでんわぐちにえたいのしれぬこえがひびいた。 「かわでくん、ひさしぶりだなあ。)

ある時は電話口にえたいの知れぬ声が響いた。 「川手君、久しぶりだなア。

(ぼくのこえがわかるかね、ほほほほほほ。きみにはうつくしいむすめさんがふたりあるねえ。)

僕の声が分るかね、ホホホホホホ。君には美しい娘さんが二人あるねえ。

(ぼくはね、まずてはじめに、そのむすめさんのほうからかたづけることにきめているんだよ。)

僕はね、先ず手初めに、その娘さんの方から片づけることに極めているんだよ。

(ほほほほほほ」 ひじょうにやさしいはなごえであった。おそらくでんわぐちで)

ホホホホホホ」 非常に優しい鼻声であった。恐らく電話口で

(はなをおさえてものをいっていたのであろう。かれはひとことしゃべるたびに、ほほほほほほと)

鼻を抑えて物を云っていたのであろう。彼は一言喋る度に、ホホホホホホと

(おんなのようにわらったが、そのきみょうなわらいごえがかわでしをこころのそこから)

女のように笑ったが、その奇妙な笑い声が川手氏を心の底から

(ふるいあがらせてしまった。 むろんこえにはききおぼえがなかった。)

震い上がらせてしまった。 無論声には聞き覚えがなかった。

(きょくにといあわせてみると、じどうでんわからというこたえで、やっぱりあいてのしょうたいを)

局に問合わせて見ると、自動電話からという答えで、やっぱり相手の正体を

(つかむてがかりがなかった。 かわでしはことしよんじゅうななさい、むいちもんからげんざいのしさんを)

掴む手掛りがなかった。 川手氏は今年四十七歳、無一文から現在の資産を

(きずきあげたじんぶつだけに、じぎょうじょうのてきなどはかずしれずあったし、)

築き上げた人物だけに、事業上の敵などは数知れずあったし、

(じぎょういがいのかんけいでも、ずいぶんむごたらしいめにあわせたあいてがないではなかった。)

事業以外の関係でも、随分むごたらしい目に会わせた相手がないではなかった。

(だが、それらのきおくをひとつひとつたどってみても、こんどのきょうはくしゃを)

だが、それらの記憶を一つ一つ辿って見ても、今度の脅迫者を

(さがしあてることはできなかった。 「もしやあれでは?」)

探し当てることは出来なかった。 「若しやあれでは?」

(とおもわれるものがいちにないではなかったけれど、それらのあいてはみな)

と思われるものが一二ないではなかったけれど、それらの相手は皆

(しんでしまっているし、しそんとてものこっていないことがわかっていた。)

死んでしまっているし、子孫とても残っていないことが分っていた。

(いくらかんがえてもきょうはくじょうのすじょうがわからぬだけに、いっそうぶきみであった。)

いくら考えても脅迫状の素性が分らぬだけに、一層不気味であった。

(ぜんはんせいにいじめぬいたあいてが、おんりょうとなってかれのしんぺんにさまよっているような、)

前半生にいじめ抜いた相手が、怨霊となって彼の身辺にさまよっているような、

(なんともいえぬきょうふをかんじないではいられなかった。)

何とも云えぬ恐怖を感じないではいられなかった。

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