「悪魔の紋章」17 江戸川乱歩

背景
投稿者投稿者もんたろういいね1お気に入り登録
プレイ回数1497難易度(4.5) 3315打 長文
江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(「ぐうぜんのいっちかもしれない。そうでないかもしれない。われわれはいそいで)

「偶然の一致かも知れない。そうでないかも知れない。我々は急いで

(それをたしかめてみなければならないのです。はんにんはたえこさんのじゆうをうばって、)

それを確かめて見なければならないのです。犯人は妙子さんの自由を奪って、

(どこかへかくしておいて、ひとりでここをにげだし、あらためてたえこさんを)

どこかへ隠して置いて、独りでここを逃げ出し、改めて妙子さんを

(はこびだすためにもどってきた、とかんがえられないこともない。けさあなたがたが)

運び出す為に戻って来た、と考えられないこともない。今朝あなた方が

(ていないをそうさくしているあいだに、はんにんがひとりでにげだすようなすきは、)

邸内を捜索している間に、犯人がひとりで逃げ出すような隙は、

(いくらもあったのですからね」 「かくしておいたといって、おじょうさんを)

いくらもあったのですからね」 「隠して置いたといって、お嬢さんを

(ごみばこのなかへですか」 「とっぴなそうぞうです。しかし、あいつはいつも、)

塵芥箱の中へですか」 「突飛な想像です。しかし、あいつはいつも、

(おもいきってとっぴなことをかんがえるやつです。それに、われわれはけさのそうさくのとき、)

思い切って突飛なことを考える奴です。それに、我々は今朝の捜索の時、

(ごみばこのごみのなかまではさがさなかったのですからね。さあ、いっしょにいって、)

塵芥箱の塵芥の中までは探さなかったのですからね。サア、一緒に行って、

(しらべてみましょう」 ひとびとははかせのあとにしたがって、もんないにはいり、かってぐちのほうへ)

調べて見ましょう」 人々は博士のあとに従って、門内に入り、勝手口の方へ

(いそいだ。はかせとけいじのあとから、あおざめたかわでしとこいけじょしゅとがつづく。)

急いだ。博士と刑事のあとから、青ざめた川手氏と小池助手とがつづく。

(もんだいのごみばこは、すいじばのそとの、こんくりーとべいのしたにおいてある。)

問題の塵芥箱は、炊事場の外の、コンクリート塀の下に置いてある。

(くろくぬったもくせいのおおきなはこだ。これなれば、にんげんひとりじゅうぶんかくれることができる。)

黒く塗った木製の大きな箱だ。これなれば、人間一人十分隠れることが出来る。

(はかせはつかつかとそのごみばこのそばにちかづいて、ふたをひらいた。)

博士はツカツカとその塵芥箱の側に近づいて、蓋を開いた。

(「すっかりきれいになっている。だが、あれはなんだろう、こいけくん、)

「すっかり綺麗になっている。だが、あれはなんだろう、小池君、

(ちょっとみてごらん」 いわれて、こいけじょしゅもはこのなかをのぞきこんだが、)

一寸見てごらん」 云われて、小池助手も箱の中を覗き込んだが、

(じめじめしたそのそこに、すこしばかりのこったごみにまじって、)

ジメジメしたその底に、少しばかり残った塵芥に混って、

(しかくなしろいものがおちている。 「ふうとうのようですね」)

四角な白いものが落ちている。 「封筒のようですね」

(かれはそういいながら、てをいれて、ひろいあげた。どこやら)

彼はそういいながら、手を入れて、拾い上げた。どこやら

(みおぼえのあるやすふうとうだ。あてなもさしだしにんもないけれど、)

見覚えのある廉封筒だ。宛名も差出人もないけれど、

など

(なかにはてがみがはいっているらしい。 「なかをみてごらん」)

中には手紙が入っているらしい。 「中を見てごらん」

(はかせのさしずにしたがって、こいけじょしゅはふうとうをひらきようせんをとりだした。)

博士の指図に従って、小池助手は封筒を開き用箋を取出した。

(「おや、ここにいんきでしもんがおしてあります」 かんたんなぶんしょうのおわりに、)

「オヤ、ここにインキで指紋が捺してあります」 簡単な文章の終りに、

(しょめいのかわりのように、はっきりとひとつのしもんがあらわれているのだ。)

署名のかわりのように、ハッキリと一つの指紋が現われているのだ。

(はかせはいそがしくれいのかくだいきょうをとりだして、そのうえにあてた。)

博士は急がしく例の拡大鏡を取り出して、その上に当てた。

(「やっぱりそうだ。かわでさん、ぼくのそうぞうしたとおりでした。)

「やっぱりそうだ。川手さん、僕の想像した通りでした。

(おじょうさんはここにかくしてあったのです」 そこには、あのおばけのような)

お嬢さんはここに隠してあったのです」 そこには、あのお化けのような

(さんじゅうかじょうもんが、ようせんのすみからにやにやとわらいかけていたのである。)

三重渦状紋が、用箋の隅からニヤニヤと笑いかけていたのである。

(こいけじょしゅが、きをきかしてぶんめんをよみあげた。 「かわでくん、おれのじびきに)

小池助手が、気を利かして文面を読み上げた。 「川手君、俺の字引に

(ふかのうというもじはないのだ。ずいぶんげんじゅうなけいかいだったね。)

不可能という文字はないのだ。ずいぶん厳重な警戒だったね。

(しかし、きみのほうでにじゅうのけいかいをすれば、おれもにじゅうのみょうあんをひねりだすばかりさ。)

しかし、君の方で二重の警戒をすれば、俺も二重の妙案をひねり出すばかりさ。

(むなかただいせんせいによろしくつたえてくれたまえ。あれほどそうさくをしながら、)

宗像大先生によろしく伝えてくれ給え。あれほど捜索をしながら、

(べっどとごみばこにきづかなかったとは、めいたんていのなおれですぜと)

ベッドと塵芥箱に気附かなかったとは、名探偵の名折れですぜと

(つたえてくれたまえ。もっともおれはだれしもみのがしそうなもうてんというやつを)

伝えてくれ給え。尤も俺は誰しも見逃しそうな盲点と云う奴を

(りようしたんだがね。 きみはとうとうひとりぼっちになってしまったねえ。)

利用したんだがね。 君はとうとう一人ぼっちになってしまったねえ。

(だが、たえこにはいつかあえるよ。ひとつさがしてみたまえ。そして、)

だが、妙子にはいつか逢えるよ。一つ探して見たまえ。そして、

(あるおそろしいばしょで、きみがむすめのむざんなむくろとたいめんしたとき、どんなかおをするか。)

ある恐ろしい場所で、君が娘の無惨なむくろと対面した時、どんな顔をするか。

(それをおもうと、おれはこころのそこからおかしさがこみあげてくる。かわでくん、)

それを思うと、俺は心の底からおかしさがこみ上げて来る。川手君、

(これがしんのふくしゅうというものだぜ。いまこそおもいしるがよい」)

これが真の復讐というものだぜ。今こそ思い知るがよい」

(こいけじょしゅはとちゅうで、いくどもろうどくをやめようかとおもったが、かわでしのめが、)

小池助手は途中で、幾度も朗読をやめようかと思ったが、川手氏の目が、

(さきをさきをとうながすものだから、やっとのことでよみおわった。 「かわでさん、)

先を先をと促すものだから、やっとのことで読み終った。 「川手さん、

(なんといっておわびしていいかわかりません。ぼくはかんぜんにはいぼくしました。)

何と云ってお詫びしていいか分りません。僕は完全に敗北しました。

(だが、なんというおそろしいやつだ。あいつはしんりがくしゃですよ。あいつのいうとおり、)

だが、何という恐ろしい奴だ。あいつは心理学者ですよ。あいつのいう通り、

(ぼくたちはもうてんにひっかかったのです。それをちゃんとよちして、すこしもさわがず、)

僕達は盲点に引っかかったのです。それをちゃんと予知して、少しも騒がず、

(ゆうゆうとにげさったうでまえは、ぞっとこわくなるほどです。 しかし、ぼくはこのちじょくを)

悠々と逃げ去った腕前は、ゾッと怖くなる程です。 しかし、僕はこの恥辱を

(すすがねばなりません。おじょうさんはおそらく、もういきてはいらっしゃらないかも)

雪がねばなりません。お嬢さんは恐らく、もう生きてはいらっしゃらないかも

(しれませんが、いずれにせよきっとそのかくしばしょをはっけんしておめにかけます。)

知れませんが、いずれにせよきっとその隠し場所を発見してお目にかけます。

(そして、ぼくはあいつをとらえるまでは、このたたかいをやめません。いのちをかけても、)

そして、僕はあいつを捉える迄は、この戦いをやめません。命をかけても、

(かならずあいつをやっつけます。やっつけないでおくものですか」)

必ずあいつをやッつけます。やッつけないでおくものですか」

(むなかたはかせは、まんめんにしゅをそそいで、かわでしにというよりは、むしろわれと)

宗像博士は、満面に朱を注いで、川手氏にというよりは、寧ろ我れと

(わがこころにちかうもののように、はげしいけついをしめすのであった。)

我が心に誓うもののように、烈しい決意を示すのであった。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

◆コメントを投稿

※誹謗中傷、公序良俗に反するコメント、個人情報の投稿、歌詞の投稿、出会い目的の投稿、無関係な宣伝行為は禁止です。削除対象となります。

※このゲームにコメントするにはログインが必要です。

※コメントは日本語で投稿してください。

もんたろうのタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード