「悪魔の紋章」24 江戸川乱歩

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投稿者投稿者もんたろういいね0お気に入り登録
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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピングです。
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1 pechi 6402 S 7.0 92.0% 515.6 3615 314 54 2024/09/26

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問題文

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(しかし、やがて、むなかたはかせはわらいだした。 「これはきみ、いきたにんげんだよ。)

しかし、やがて、宗像博士は笑い出した。 「これは君、生きた人間だよ。

(わかいおんながつちのなかへぜんしんをうめて、くびだけだしているんだよ」)

若い女が土の中へ全身を埋めて、首だけ出しているんだよ」

(むろんそのほかにかんがえかたはなかった。おそらくそこにきのはこでもうめて、)

無論その外に考え方はなかった。恐らくそこに木の箱でも埋めて、

(からだがひえぬようなせつびをして、そんなまねをしているのであろうが、)

身体が冷えぬような設備をして、そんな真似をしているのであろうが、

(それにしても、なんというとっぴな、ひとさわがせなおもいつきをしたものだ。)

それにしても、何という突飛な、人騒がせな思いつきをしたものだ。

(うすぐらいくさはらのなかで、にんぎょうとばかりおもいこんでいたれきしおんなのくびだけが、)

薄暗い草原の中で、人形とばかり思い込んでいた轢死女の首だけが、

(にやにやわらうのをみたら、たいていのけんぶつはこしをぬかしてしまうであろう。)

ニヤニヤ笑うのを見たら、大抵の見物は腰を抜かしてしまうであろう。

(「なるほどかんがえたものだねえ。これひとつでもにゅうじょうりょうだけのねうちはありそうだぜ」)

「なる程考えたものだねえ。これ一つでも入場料だけの値打はありそうだぜ」

(「ぼくはこんなきみのわるいみせものははじめてですよ。このこうぎょうぬしはよっぽど)

「僕はこんな気味の悪い見世物は始めてですよ。この興行主はよっぽど

(かわりものにちがいありませんね」 まだあおざめたかおで、かわいたくちびるで、)

変り者に違いありませんね」 まだ青ざめた顔で、乾いた唇で、

(そんなことをはなしながら、れきしのばめんをたちさろうと、にさんぽあるいたときである。)

そんなことを話しながら、轢死の場面を立去ろうと、二三歩あるいた時である。

(こいけじょしゅはなにかしら、うしろにいようなもののけはいをかんじて、はっとふりむいた。)

小池助手は何かしら、うしろに異様な物の気配を感じて、ハッと振向いた。

(すると、せんろのうえにころがっていた、ちみどろのうでが、まるではちゅうるいででも)

すると、線路の上に転がっていた、血みどろの腕が、まるで爬虫類ででも

(あるように、すーっとくさはらのうえをはって、こちらへちかづいてくるのがみえた。)

あるように、スーッと草原の上を這って、こちらへ近づいて来るのが見えた。

(しかも、おそろしいことには、それがみるみるさくをこして、つうろのほうまで)

しかも、恐ろしいことには、それが見る見る柵を越して、通路の方まで

(はいだしてきたのである。 「わあっ!」)

這い出して来たのである。 「ワアッ!」

(こいけじょしゅはおもわずこえをあげて、はかせのかたにしがみついた。からくりじかけと)

小池助手は思わず声を上げて、博士の肩にしがみついた。からくり仕掛けと

(わかっていても、あおじろいうでばかりが、くらいじめんをはいだしてくるなんて、)

分っていても、青白い腕ばかりが、暗い地面を這い出して来るなんて、

(どんなおとなにもきみのよいものではない。 すると、またしてもいつもの)

どんな大人にも気味のよいものではない。 すると、又してもいつもの

(しわがれごえが、どこからともなくひびいてきた。 「おきゃくさん、これがにまいめの)

嗄れ声が、どこからともなく響いて来た。 「お客さん、これが二枚目の

など

(かみふだですよ。これをもってでないとしょうきんはとれませんよ。)

紙札ですよ。これを持って出ないと賞金はとれませんよ。

(だが、ようじんしてください。しびとのうではおきゃくさんにかみつくかもしれませんぞ」)

だが、用心して下さい。死びとの腕はお客さんに咬みつくかも知れませんぞ」

(またしても、いんきなおどしもんくだ。みれば、しにんのゆびには、ひとたばのちいさなかみふだが)

又しても、陰気な脅し文句だ。見れば、死人の指には、一束の小さな紙札が

(にぎられている。 「なるほど、なるほど。よくかんがえたものだねえ。)

握られている。 「なるほど、なるほど。よく考えたものだねえ。

(しかし、これをうけとれば、われわれはかんぜんにせきしょをつうかしたことになるわけだね」)

しかし、これを受け取れば、我々は完全に関所を通過したことになる訳だね」

(はかせはそんなことをつぶやきながら、こしをかがめて、にんぎょうのうでをつかむと、)

博士はそんなことを呟きながら、腰をかがめて、人形の腕を掴むと、

(そのゆびからにまいのかみふだをぬきとった。 「なるほど、おおきなはんがおしてあるね」)

その指から二枚の紙札を抜き取った。 「なる程、大きな判が捺してあるね」

(はかせはたちあがって、かんしんしたようにかみふだをながめていたが、さいぜんのとおなじように、)

博士は立上って、感心したように紙札を眺めていたが、さい前のと同じように、

(にまいともじぶんのぽけっとにおさめた。 それからまた、いくつものおもいきって)

二枚とも自分のポケットに納めた。 それからまた、幾つもの思い切って

(むざんなばめんをとおりすぎて、さしもにながいたけやぶもおわりにちかいところまで)

無残な場面を通りすぎて、さしもに長い竹藪も終りに近いところまで

(たどりついた。 「せんせい、とうとうおしまいのようですね。しかし、どこにも)

辿りついた。 「先生、とうとうおしまいのようですね。しかし、どこにも

(ほんもののしたいなんて、なかったじゃありませんか」 こいけじょしゅは)

本物の死体なんて、なかったじゃありませんか」 小池助手は

(しつぼうのおももちである。あれだけおびただしいしびとにんぎょうのなかに、ひとつもほんものが)

失望の面持である。あれだけ夥しい死びと人形の中に、一つも本物が

(まじっていないなんて、かえってふしぜんなようなきさえした。)

混っていないなんて、却って不自然なような気さえした。

(「だが、まだここに、なんだかものものしいばめんがあるぜ。ここだけひどく)

「だが、まだここに、何だか物々しい場面があるぜ。ここだけひどく

(うすぐらいじゃないか」 はかせはそこのさくのまえにたって、じっとおくのほうを)

薄暗いじゃないか」 博士はそこの柵の前に立って、じっと奥の方を

(みつめていた。 そこには、たけやぶにかこまれざっそうのおいしげったあきちに、)

見つめていた。 そこには、竹藪に囲まれ雑草の生い茂った空地に、

(いっけんのあばらやがたっていた。ろくじょうひとまきりのおくないは、ともしょうじもなくて)

一軒の荒屋が建っていた。六畳一間きりの屋内は、戸も障子もなくて

(みとおしである。そのへやいっぱいに、いろあせたもえぎのふるかやがつってある。)

見通しである。その部屋一杯に、色褪せた萠黄の古蚊帳が吊ってある。

(ひかりといっては、そのかやのうえにさがっているあおいかヴぁーをかけた)

光と云っては、その蚊帳の上に下っている青いカヴァーをかけた

(ごしょくのでんとうばかり。かやのなかはほとんどみすかせぬほどのくらさである。)

五燭の電燈ばかり。蚊帳の中は殆んど見すかせぬ程の暗さである。

(「なんだろう。かやのなかになにかいるようじゃないか」 「いますよ。)

「なんだろう。蚊帳の中に何かいるようじゃないか」 「いますよ。

(よくみえないけれど、なんだかはだかのおんなのようですぜ。ああ、まっぱだかです。)

よく見えないけれど、何だか裸体の女のようですぜ。アア、真裸体です。

(それでこんなにくらくしてあるんですよ」 「なにをしているんだろう」)

それでこんなに暗くしてあるんですよ」 「なにをしているんだろう」

(「ころされているんですよ。あごからむねにかけて、くろいものがいっぱいながれています。)

「殺されているんですよ。顎から胸にかけて、黒いものが一杯流れています。

(ちです。はだかにはがれて、ざんさつされたおんなですよ」)

血です。裸体に剥がれて、惨殺された女ですよ」

(「ごたいはそろっているようだね」 「ええ、そうのようです」)

「五体は揃っているようだね」 「エエ、そうのようです」

(「かみはだんぱつじゃないかい」 「だんぱつですよ」)

「髪は断髪じゃないかい」 「断髪ですよ」

(「にくづきのいい、わかいおんなだね」 はなしているうちに、すこしずつめがなれて、)

「肉づきのいい、若い女だね」 話している内に、少しずつ目が慣れて、

(かやのなかのおんなのすがたがうきあがってきた。 「しらべてみましょうか」)

蚊帳の中の女の姿が浮上って来た。 「調べて見ましょうか」

(「うん、しらべてみよう」 ふたりはいみありげなめをみかわした。なにかつーんと)

「ウン、調べて見よう」 二人は意味ありげな目を見交した。何かツーンと

(しびれるようなかんじが、こいけじょしゅのせすじをはいあがった。 ふたりはさくをこえて、)

痺れるような感じが、小池助手の背筋を這い上がった。 二人は柵を超えて、

(むごんのままなかにはいり、ひざをぼっするざっそうをふみわけて、あばらやのうえにあがっていった。)

無言のまま中に入り、膝を没する雑草を踏み分けて、荒屋の上に上って行った。

(そして、まずはかせがふるかやのすそにてをかけると、それをそっとまくりあげた。)

そして、先ず博士が古蚊帳の裾に手をかけると、それをソッとまくり上げた。

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