山本周五郎 赤ひげ診療譚 狂女の話 8
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | zero | 6594 | S+ | 6.7 | 97.7% | 421.7 | 2845 | 64 | 59 | 2024/11/09 |
2 | pechi | 6508 | S+ | 7.1 | 91.4% | 403.5 | 2895 | 269 | 59 | 2024/10/16 |
3 | baru | 4205 | C | 4.5 | 92.3% | 622.7 | 2855 | 236 | 59 | 2024/11/21 |
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問題文
(つがわげんぞうがさってからまもないころ、のぼるはもりはんだゆうによばれて、)
津川玄三が去ってからまもないころ、登は森半太夫に呼ばれて、
(にゅうしょかんじゃのてあてをしたことがさんどばかりあった。)
入所患者の手当をしたことが三度ばかりあった。
(よばれたのでびょうしつまではもりといっしょにいったが、)
呼ばれたので病室までは森といっしょにいったが、
(のぼるはみているだけでなにもしなかった。)
登は見ているだけでなにもしなかった。
(はんだゆうもしいててつだえとはいわなかったが、さんどめのときだったろう、)
半太夫もしいて手伝えとは云わなかったが、三度めのときだったろう、
(てあてをすませてびょうしつをでると、のぼるをろうかでひきとめて、)
手当をすませて病室を出ると、登を廊下でひきとめて、
(どういうつもりかと、こきゅうをあらくしてといかけた。)
どういうつもりかと、呼吸を荒くして問いかけた。
(「どういうつもりなんです」とはんだゆうはのぼるをにらみつけた、)
「どういうつもりなんです」と半太夫は登を睨みつけた、
(「いつまでそんなことをつづけているつもりなんですか」)
「いつまでそんなことを続けているつもりなんですか」
(「そんなこととはなんです」)
「そんなこととはなんです」
(「そのつまらないはんこうですよ」とはんだゆうがいった、)
「そのつまらない反抗ですよ」と半太夫が云った、
(「ひとのきをひくような、そんなおろかしいはんこうをいつまでつづけるんです、)
「人の気をひくような、そんな愚かしい反抗をいつまで続けるんです、
(そのためにだれかがどうじょうしたり、)
そのために誰かが同情したり、
(にいでせんせいがあやまったりするとでもおもうんですか」)
新出先生があやまったりするとでも思うんですか」
(のぼるはいかりのためにこえがでなかった。)
登は怒りのために声が出なかった。
(「よくかんがえてごらんなさい」とはんだゆうはひそめたこえでいった、)
「よく考えてごらんなさい」と半太夫はひそめた声で云った、
(「そんをするのはだれでもない、やすもとさんじしんですよ」)
「損をするのは誰でもない、保本さん自身ですよ」
(のぼるははんだゆうをなぐりたかった。)
登は半太夫を殴りたかった。
(もりはんだゆうがきょじょうにしんすいしていることは、)
森半太夫が去定に心酔していることは、
(のぼるにもはやくからけんとうがついていた。)
登にも早くから見当がついていた。
(かれはさがみざいのごうのうのじなんだと、つがわからきいたことがある。)
彼は相模在の豪農の二男だと、津川から聞いたことがある。
(おそらく、いなかものにとってはばくふけいえいのせりょうじょや、)
おそらく、田舎者にとっては幕府経営の施療所や、
(そのいちょうであるにいできょじょうなどが、かがやかしく、)
その医長である新出去定などが、輝かしく、
(すうけいすべきものにみえるのであろう。)
崇敬すべきものにみえるのであろう。
(ばかなはなしだ、のぼるはおもって、はんだゆうとはほとんどくちもきかずにいた。)
ばかなはなしだ、登は思って、半太夫とは殆んど口もきかずにいた。
(それがおもいがけないときに、いきなりしんらつなひにくをあびせられたので、)
それが思いがけないときに、いきなり辛辣な皮肉をあびせられたので、
(なぐりつけるのをがまんするのがのぼるにはせいいっぱいであった。)
殴りつけるのをがまんするのが登には精いっぱいであった。
(かれはそのときのことはおすぎにもはなさなかった。)
彼はそのときのことはお杉にも話さなかった。
(はんだゆうにはいなかものらしいりちぎさがあって、)
半太夫には田舎者らしい律儀さがあって、
(しょないのものやかんじゃたちにもすかれているようだし、)
所内の者や患者たちにも好かれているようだし、
(おすぎもときどきほめるようなことをいった。)
お杉もときどき褒めるようなことを云った。
(ーーまかないじょとよばれるすいじばに、おゆきというむすめがいて、)
ーー賄所(まかないじょ)と呼ばれる炊事場に、お雪という娘がいて、
(あれがはんだゆうのこいびとだと、つがわにおしえられたことがあったが、)
あれが半太夫の恋人だと、津川に教えられたことがあったが、
(おすぎのはなしによると、おゆきのほうがかたおもいで、)
お杉の話によると、お雪のほうが片想いで、
(はんだゆうはおゆきをさけているということであった。)
半太夫はお雪を避けているということであった。
(「あんなにむちゅうになれるものかしら」とあるよる、)
「あんなに夢中になれるものかしら」と或る夜、
(いつものこしかけでおすぎがいった、「みていてもかわいそうなくらいですわ、)
いつもの腰掛でお杉が云った、「見ていても可哀そうなくらいですわ、
(もりさんのおかたいのはりっぱだけれど、)
森さんのお堅いのは立派だけれど、
(おゆきさんのことをかんがえるとにくらしくなってしまいます」)
お雪さんのことを考えると憎らしくなってしまいます」
(「はんだゆうのはなしなんかよせ」とのぼるはさえぎった、)
「半太夫の話なんかよせ」と登は遮った、
(「それよりもおゆみさんのことをきこう、)
「それよりもおゆみさんのことを聞こう、
(おまえずっとついていたんじゃないのか」)
おまえずっと付いていたんじゃないのか」
(おすぎのこえにけいかいのちょうしがあらわれた、)
お杉の声に警戒の調子があらわれた、
(「どうしてそんなことをおききになるんですか」)
「どうしてそんなことをお訊きになるんですか」
(「いしゃだからさ」とかれはいった、)
「医者だからさ」と彼は云った、
(「わたしはもりなんぞとちがってらんぽうをほんしきにやってきたんだ、)
「私は森なんぞと違って蘭方を本式にやって来たんだ、
(ひげだってしらないしんだんやちりょうほうをしっているんだぜ」)
髯だって知らない診断や治療法を知っているんだぜ」
(「ではどうしてそれを、じっさいにおつかいにならないんですか」)
「ではどうしてそれを、実際にお使いにならないんですか」
(せやくいんのみならいいなどにはならない、こんなところのいいんになるつもりで)
施薬院の見習医などにはならない、こんなところの医員になるつもりで
(しゅうぎょうしたわけじゃないんだ」「あなたはまたよっていらっしゃるのね」)
修業したわけじゃないんだ」「あなたはまた酔っていらっしゃるのね」
(「はなしをそらすな」とかれはいった、)
「話をそらすな」と彼は云った、
(「みならいいなんかまっぴらだし、だれでもまにあうびょうきなんかにきょうみはない、)
「見習医なんかまっぴらだし、誰でもまにあう病気なんかに興味はない、
(けれどもめずらしいびょうにんがいれば、いしゃとしてやっぱりてがけて)
けれども珍らしい病人がいれば、医者としてやっぱり手がけて
(みたくなる、ここではおゆみさんがそのいちれいだ」)
みたくなる、ここではおゆみさんがその一例だ」
(「あたししんじませんわ」「しんじないって、ーーなにをしんじないんだ」)
「あたし信じませんわ」「信じないって、ーーなにを信じないんだ」
(「みなさんのきもちです」とおすぎがいった、)
「みなさんの気持です」とお杉が云った、
(「おじょうさんのはなしになると、きまっていやらしいみだらなめつきを)
「お嬢さんの話になると、きまっていやらしいみだらな眼つきを
(なさるのよ、つがわさんなんかいちばんひどかったけれど、)
なさるのよ、津川さんなんかいちばんひどかったけれど、
(きょじょうせんせいのほかにはひとりだってまじめなかたはいやあしませんわ」)
去定先生のほかには一人だってまじめな方はいやあしませんわ」