山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 7

背景
投稿者投稿者uzuraいいね3お気に入り登録
プレイ回数931順位1361位  難易度(4.5) 3952打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
赤ひげ診療譚の第二話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6491 S 6.6 97.5% 594.8 3959 98 75 2024/11/17
2 pechi 6165 A++ 6.8 90.3% 587.0 4050 431 75 2024/11/17
3 にこーる 5004 B+ 5.1 97.5% 810.7 4163 106 75 2024/10/13

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(そのこどもたちは、ろくすけのむすめのこだそうで、)

その子供たちは、六助の娘の子だそうで、

(じゅういちになるともというちょうじょが、こうねつをだしてねかされていた。)

十一になるともという長女が、高熱をだして寝かされていた。

(そのしたがすけぞうというはっさいのちょうなん、つぎがろくさいのおとみ、)

その下が助三という八歳の長男、次が六歳のおとみ、

(さんさいのまたじというじゅんであるが、)

三歳の又次という順であるが、

(みんなつぎはぎだらけのひどいしょうなりをしているし、)

みんな継ぎはぎだらけのひどい妝(しょう)なりをしているし、

(やせほそってかおいろがわるく、すえっこのまたじのほかはみなびょうにんのようにみえた。)

痩せほそって顔色が悪く、末っ子の又次のほかはみな病人のようにみえた。

(おとみはまたじをだき、すけぞうはそのふたりをじぶんのからだでかばうように、)

おとみは又次を抱き、助三はその二人を自分の躯で庇うように、

(ぴったりとよりあって、ふあんとてきいのいりまじった、)

ぴったりと寄りあって、不安と敵意のいりまじった、

(おどおどしためでまわりをぬすみみていた。)

おどおどした眼でまわりをぬすみ見ていた。

(ーーそのへやはきたむきのよじょうはんで、ずっとろくすけがとまっていたのだというが、)

ーーその部屋は北向きの四帖半で、ずっと六助が泊っていたのだというが、

(からかみもしょうじもふるく、きりはりだらけで、からかみのほうはおおきくさけており、)

唐紙も障子も古く、切り貼りだらけで、唐紙のほうは大きく裂けており、

(かぜのはいるたびにばくばくとなみをうった。)

風のはいるたびにばくばくと波を打った。

(たたみはすっかりすりきれて、ところどころしんのわらがはみだしているし、)

畳はすっかり擦りきれて、ところどころ芯の藁がはみだしているし、

(かべもはげおちていた。)

壁も剥げ落ちていた。

(いくらきちんやどだとしてもふつうならもうすこしはましであろうが、)

いくら木賃宿だとしても普通ならもう少しはましであろうが、

(それはでんづういんうらという、あまりとまりきゃくもなさそうなばしょがらによるのだろう、)

それは伝通院裏という、あまり泊り客もなさそうな場所がらによるのだろう、

(いかにもさむざむとうらぶれたけしきにみえた。)

いかにもさむざむとうらぶれたけしきにみえた。

(のぼるはとものしんさつをしながら、きんべえのはなしをきいた。)

登はともの診察をしながら、金兵衛の話を聞いた。

(ともはかぜをこじらせたらしい、ねつがたかく、ときどきせきがでるほかには、)

ともは風邪をこじらせたらしい、熱が高く、ときどき咳が出るほかには、

(これというほどのびょうちょうはみられなかった。)

これというほどの病兆はみられなかった。

など

(ただ、いかにもえいようがわるく、ーーこれはおとうとやいもうともどうようであるが、)

ただ、いかにも栄養が悪く、ーーこれは弟や妹も同様であるが、

(このままでゆくとろうがいになるきけんがたぶんにあるとおもえた。)

このままでゆくと労咳(ろうがい)になる危険が多分にあると思えた。

(のぼるはとものひたいをひやすことと、へやをあたためてかぜをいれないようにすること、)

登はともの額を冷やすことと、部屋を温めて風を入れないようにすること、

(あせがでるからしんいをかえること、などのちゅういをあたえた。)

汗が出るから寝衣を替えること、などの注意を与えた。

(「ごみはくぼちにたまるとはよくいったものですな」ときんべえはためいきをついた、)

「ごみは窪地に溜るとはよく云ったものですな」と金兵衛は溜息をついた、

(「もうなんねんもこっち、しょうばいがひだりまえで、せがれはひやといにでるし、)

「もう何年もこっち、しょうばいが左前で、伜(せがれ)は日雇いに出るし、

(にょうぼうやむすめはないしょくをしなければおっつかないしまつです、)

女房や娘は内職をしなければおっつかない始末です、

(それなのにたえずこんなやっかいなことをしょいこむんですから、)

それなのに絶えずこんな厄介なことを背負(しょ)いこむんですから、

(よそにはもっとはんじょうして、かねをためこんでいるうちがいくらもあるというのに、)

よそにはもっと繁昌して、金を溜めこんでいるうちが幾らもあるというのに、

(わたしどものようなこんなかわいそうなもののとこへだけ、)

私どものようなこんな可哀そうな者のとこへだけ、

(よりによってやっかいがもちこまれるというわけがわかりません、)

選(よ)りに選って厄介が持ちこまれるというわけがわかりません、

(ーーへえ、なにかおっしゃいましたか」)

ーーへえ、なにか仰いましたか」

(「はなしのあとをきこう」とのぼるはいった。)

「話のあとを聞こう」と登は云った。

(きんべえははなしにもどって、つづけた。)

金兵衛は話に戻って、続けた。

(それはまさにこみいったはなしであった。)

それはまさにこみいった話であった。

(ろくすけにはさいしもみよりもない、としんじていたのであるが、そのあさはやく、)

六助には妻子も身寄りもない、と信じていたのであるが、その朝早く、

(ひとりのろうじんがそのよにんきょうだいをつれてきて、「ろくすけのまごである」といった。)

一人の老人がその四人きょうだいを伴れて来て、「六助の孫である」と云った。

(きんべえはすぐにはしんじられなかったが、ともかくろうじんのはなすのをきいた。)

金兵衛はすぐには信じられなかったが、ともかく老人の話すのを聞いた。

(ーーろうじんはきょうばしおだわらちょうごろべえだなというかしやのさはいをしてい、)

ーー老人は京橋小田原町五郎兵衛店(だな)という貸家の差配をしてい、

(なはまつぞう、としはろくじゅうにさいだといった。)

名は松蔵、年は六十二歳だと云った。

(ろうじんはそのとおりを、きちんといったのだ。)

老人はそのとおりを、きちんと云ったのだ。

(かのえねのとしのうまれで、ちょうどろくじゅうにになります、なはまつぞう、)

かのえね(庚子)の年の生れで、ちょうど六十二になります、名は松蔵、

(かかあはさんねんまえにしにました。)

かかあは三年まえに死にました。

(きちんとしたことのすきなしょうぶんなのだろう、)

きちんとしたことの好きな性分なのだろう、

(かれのさはいしているながやに、とみさぶろうというおとこのいっかがこしてきたのは、)

彼の差配している長屋に、富三郎という男の一家が越して来たのは、

(まるごねんとみつきじゅうごにちまえのことであった、というふうにはなした。)

まる五年と三月(みつき)十五日まえのことであった、というふうに話した。

(とみさぶろうはさしものしょくだといった。)

富三郎は指物職(さしものしょく)だといった。

(つまはおくにといって、こどもがさんにんあり、おとみはまだちちばなれまえであった。)

妻はおくにといって、子供が三人あり、おとみはまだ乳ばなれまえであった。

(さしものしょくだとはいったが、とみさぶろうはなまけもので、ぶらぶらしているほうがおおく、)

指物職だとはいったが、富三郎は怠け者で、ぶらぶらしているほうが多く、

(せいかつはいつもきゅうはくしていて、たちまちきんじょじゅうかりだらけになった。)

生活はいつも窮迫していて、たちまち近所じゅう借りだらけになった。

(ーーおくにははがゆいくらいおとなしいしょうぶんで、)

ーーおくにははがゆいくらい温和(おとな)しい性分で、

(ぐちひとつこぼすでもなく、ひきこもってときかまわずにちんしごとをし、)

ぐちひとつこぼすでもなく、ひきこもって刻(とき)かまわずに賃仕事をし、

(こどもたちのめんどうもよくみるというふうだった。)

子供たちの面倒もよくみるというふうだった。

(もちろん、ていしゅにはんこうするようなことはけっしてなかったが、)

もちろん、亭主に反抗するようなことは決してなかったが、

(それにもかかわらず、とみさぶろうはたえずおくににあたりちらし、)

それにもかかわらず、富三郎は絶えずおくにに当りちらし、

(よっているときなどはなぐるけるというらんぼうをした。)

酔っているときなどは殴る蹴るという乱暴をした。

(ーーそしてひがたつうちに、そのらんぼうはたんなるやつあたりではなく、)

ーーそして日が経つうちに、その乱暴は単なる八つ当りではなく、

(なにかしさいがあるらしいことが、すいさつされるようになった。)

なにか仔細(しさい)があるらしいことが、推察されるようになった。

(というのは、とみさぶろうがよってわめきたてるときに、)

というのは、富三郎が酔って喚きたてるときに、

(「おやじのところへいってこい」とくりかえしいうのである。)

「おやじのところへいって来い」と繰り返し云うのである。

(ーーおやじはしこたまためこんでるんだ、てめえはひとりむすめじゃねえか。)

ーーおやじはしこたま溜めこんでるんだ、てめえは一人娘じゃねえか。

(ーーてめえのおやじはちもなみだもねえちくしょうだ、)

ーーてめえのおやじは血も涙もねえ畜生だ、

(ひとりむすめやまごがくうにもこまっているのに、)

一人娘や孫が食うにも困っているのに、

(しらんかおでじぶんだけすきなことをしていやあがる、あいつはにんげんじゃあねえ。)

知らん顔で自分だけ好きなことをしていやあがる、あいつは人間じゃあねえ。

(おくにはへんじをしない。)

おくには返辞をしない。

(なぐられてもけられてもだまっていて、なくこえさえもらさず、)

殴られても蹴られても黙っていて、泣く声さえもらさず、

(ていしゅのいかりのおさまるまでじっとしんぼうしている、というぐあいであった。)

亭主の怒りのおさまるまでじっと辛抱している、というぐあいであった。

(その「おやじ」というのがなにものであるか、どういうじじょうがあるのか、)

その「おやじ」というのがなに者であるか、どういう事情があるのか、

(ながやのひとたちはもちろん、さはいのまつぞうにもわからなかった。)

長屋の人たちはもちろん、差配の松蔵にもわからなかった。

(まつぞうはいちどおくにをよんできいてみた。)

松蔵はいちどおくにを呼んで訊いてみた。

(それはいっさくねんのじゅうがつここのかのことだった、とまつぞうはいったそうであるが、)

それは一昨年の十月九日のことだった、と松蔵は云ったそうであるが、

(おくにはくちをにごして、はっきりしたことはかたらなかった。)

おくには口を濁して、はっきりしたことは語らなかった。

(ーーちちはいるが、わけがあってぎぜつどうようになっている、)

ーー父はいるが、わけがあって義絶同様になっている、

(どうしてもこっちからあいにゆくことはできない。)

どうしてもこっちから会いにゆくことはできない。

(そういうだけであった。)

そう云うだけであった。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

uzuraのタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード