人造人間事件7(終) 海野十三
青空文庫より引用
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問題文
(それからじゅうごふんほどたった。はかせていのもんぜんは、にわかにさわがしくなった。)
それから十五分ほど経った。博士邸の門前は、にわかに騒がしくなった。
(けいかんががらすまどからしたをのぞいてみると、かりがねけんじやおおえやまそうさかちょうなどの)
警官が硝子窓から下を覗いてみると、雁金検事や大江山捜査課長などの
(おれきれきがぞろぞろじどうしゃからおりてくるところがみえた。「おやおや、また)
お歴々がゾロゾロ自動車から降りてくるところが見えた。「おやおや、また
(れんめいかいぎか」いっこうはかいだんをどやどやとあがってきた。「どうした、ほむらくんは。)
連盟会議か」一行は階段をドヤドヤと上って来た。「どうした、帆村君は。
(まだほうそうきょくからかえってこないかね」「ええ、ほうそうきょくですって。・・・・・・べつに)
まだ放送局から帰って来ないかネ」「ええ、放送局ですって。……別に
(ほうそうきょくへいくともなんともききませんでしたが」「おおそうか。まあいい。)
放送局へ行くともなんとも聞きませんでしたが」「おおそうか。まあいい。
(そうかそうか」いっこうは、なんだかうれしそうなかおをして、じこくのたつのを)
そうかそうか」一行は、なんだか嬉しそうな顔をして、時刻のたつのを
(まっているというようすだった。ほむらがふたたびすがたをあらわしたのは、それからなお)
待っているという様子だった。帆村が再び姿を現わしたのは、それからなお
(さんじっぷんほどしてあとのことだった。かれはみぎてにわらばんしをとじた)
三十分ほどして後のことだった。彼は右手に藁半紙を綴じた
(ぱんふれっとのようなものをだいじそうにもっていた。「やあみなさん、)
パンフレットのようなものを大事そうに持っていた。「やあ皆さん、
(おまたせしました。やっといちぶだけみつけてきましたよ。ぶんげいぶちょうの)
お待たせしました。やっと一部だけ見つけてきましたよ。文芸部長の
(しょるいかごのなかにあったやつをもらってきたんです」といって、そのぱんふれっとを)
書類籠の中にあったやつを貰ってきたんです」といって、そのパンフレットを
(めのうえにさしあげた。いちどうはあっけにとられているかたちだった。)
目の上にさしあげた。一同は呆気にとられている形だった。
(「ーーさあいいですか。ひょうじょうをよみますよ。じゅういちがつじゅういちにちakだいいちほうそう、)
「ーーさあいいですか。表状を読みますよ。十一月十一日AK第一放送、
(ごごはちじよりどうさんじっぷんまで、らじおどらま「くうしゅうそうそうきょく」げんさくならびにえんしゅつ、)
午後八時より同三十分まで、ラジオドラマ『空襲葬送曲』原作並に演出、
(まづめじょうたろうーーとね。これはぜんこくちゅうけいです」といってかれは、ぱんふれっとの)
馬詰丈太郎ーーとネ。これは全国中継です」といって彼は、パンフレットの
(ぺーじをいちまいめくった。「いよいよこれからじっけんにかかりますが、みなさんこっちに)
頁を一枚めくった。「いよいよこれから実験にかかりますが、皆さんこっちに
(よっていてください。それからはかせのしたいのあったしんだいのうえには、どなたか)
寄っていて下さい。それから博士の死体のあった寝台の上には、誰方か
(おーばーとぼうしをおいてください」かりがねけんじのおーばーと、おおえやまかちょうの)
オーバーと帽子を置いて下さい」雁金検事のオーバーと、大江山課長の
(せいぼうとが、しろぬのをおおったからしんだいのうえにならべておかれた。それはたけだはかせの)
制帽とが、白布を蔽った空寝台の上に並べて置かれた。それは竹田博士の
(したいとおなじいちにおかれたことはいうまでもない。いっこうはこれからなにごとが)
死体と同じ位置に置かれたことはいうまでもない。一行はこれから何事が
(おこるかと、つばをのんで、ほむらのいっきょいちどうにめをとめた。「さてーーこれから、)
起るかと、唾をのんで、帆村の一挙一動に目をとめた。「さてーーこれから、
(らじおどらまのだいほんをよんでゆきます。なにごとがおこっても、どうか)
ラジオドラマの台本を読んでゆきます。なにごとが起っても、どうか
(おおどろきにならぬように」そういってかれは、へやのまんなかにつったって、)
お愕きにならぬように」そういって彼は、部屋の真中に突立って、
(おおごえでよみあげていった。みているとかれはそれをはこのなかのじんぞうにんげんに)
大声で読みあげていった。見ていると彼はそれを函の中の人造人間に
(よみきかせているようであった。しかしこうてつにんげんはぴくんともうごかない。)
読み聞かせている様であった。然し鋼鉄人間はピクンとも動かない。
(ほむらはじぇすちゅあまじりで、いちごいっくをはっきりよみあげていった。)
帆村はジェスチュア交りで、一語一句をハッキリ読みあげていった。
(かれはむかし、きゃくほんろうどくかいにくわわっていたことがあったとかで、なかなか)
彼は昔、脚本朗読会に加わっていたことがあったとかで、なかなか
(うまいものだった。いちざはしーんとして、とうきょうがてきこくのばくげききたいにしゅうげきされる)
うまいものだった。一座はシーンとして、東京が敵国の爆撃機隊に襲撃される
(くだりをききほれていた、するとだいいちばだいにばはおわって、つぎにだいさんばをむかえた。)
くだりを聞き惚れていた、すると第一場第二場は終って、次に第三場を迎えた。
(それはたいへいようじょうにおけるりょうこくかんたいのけっせんのばめんであった。「たいへいようじょう、)
それは太平洋上に於ける両国艦隊の決戦の場面であった。「太平洋上、
(けっせんはせまるーー」とほむらはたからかにさけんだ。「せいふうがひときわつよく)
決戦ハ迫ルーー」と帆村は高らかに叫んだ。「西風ガ一トキワ強ク
(なってきたーー」とじのぶんしょうをよむ。これはゆうべ、ちばさちこがたいへん)
ナッテキターー」と地の文章を読む。これは昨夜、千葉早智子がたいへん
(きどってよんだところだ。「・・・・・・かいめんはしだいになみだってきた」あっというこえが、)
気取って読んだところだ。「……海面ハ次第ニ浪立ッテキタ」呀ッという声が、
(いちざのなかからはっした。「おおたいへんだ。じんぞうにんげんがうごきだしたぞ」)
一座の中から発した。「おお大変だ。人造人間が動きだしたぞ」
(「こっちへどいた」がちゃんがちゃんときんぞくおんをはっして、じんぞうにんげんは)
「こっちへどいた」ガチャンガチャンと金属音を発して、人造人間は
(はこのなかからいっぽそとにでた。まるでたましいがはいったもののようであった。ほむらは)
函の中から一歩外に出た。まるで魂が入ったもののようであった。帆村は
(あおいかおをしてよみつづける。「ほうせいはますますはげしさをくわえていったーー」)
青い顔をして読みつづける。「砲声ハマスマス激シサヲ加エテイッターー」
(「ほうせい」というと、じんぞうにんげんはゆらゆらとさんぽぜんしんしてとうとうへやのちゅうおうへ)
「砲声」というと、人造人間はユラユラと三歩前進してとうとう室の中央へ
(でてきた。いちざはなりをしずめ、かたすみにたがいのからだをぴったりよりそわせた。)
出てきた。一座は鳴りをしずめ、片隅に互いの身体をピッタリより添わせた。
(「ぼくじゅうをふいたように、ほうえんがはろうのうえをはってうごきだした」なんにもうごかぬ。)
「墨汁ヲ吹イタヨウニ、砲煙ガ波浪ノ上ヲ匍ッテ動キダシタ」何にも動かぬ。
(「じゅうゆはぷすぷすもえひろがってゆく」「じゅうゆ」ーーというところで、じんぞうにんげんは)
「重油ハプスプス燃エヒロガッテユク」「重油」ーーという所で、人造人間は
(くるりとひだりへむいた。「ほうだんもさくれつする。ばくだんもどくがすも・・・・・・」「ばくだん」ーーと)
クルリと左へ向いた。「砲弾モ炸裂スル。爆弾モ毒瓦斯モ……」「爆弾」ーーと
(いうと、じんぞうにんげんはつつーとはしって、はかせのしんだいのすぐまえでぴたりと)
いうと、人造人間はツツーと駛って、博士の寝台のすぐ前でピタリと
(とまった。これをみているいちどうのかおには、ありありときょうふのいろがうかんだ。)
停った。これを見ている一同の顔には、アリアリと恐怖の色が浮んだ。
(「・・・・・・おそろしいばくおんをあげて、やすみなくあいてのうえにおちた。まとをはずれて)
「……恐ロシイ爆音ヲアゲテ、休ミナク相手ノ上ニ落チタ。的ヲ外レテ
(おちたほうだんがくうちゅうたかくすいちゅうをほんとうさせる。えんまくはひっきりなしに・・・・・・」)
落チタ砲弾ガ空中高ク水柱ヲ奔騰サセル。煙幕ハヒッキリナシニ……」
(うわーっ。いちどうのひめい。「えんまく」というところで、じんぞうにんげんはこうてつの)
うわーッ。一同の悲鳴。「煙幕」というところで、人造人間は鋼鉄の
(ふといみぎうでをふりあげて、えいやえいやとしんだいのうえをうつのであった。)
太い右腕をふりあげて、エイヤエイヤと寝台の上を打つのであった。
(おおえやまかちょうのせいぼうは、たちまちくしゃくしゃになってそこがぬけてしまった!)
大江山課長の制帽は、たちまちクシャクシャになって底がぬけてしまった!
(ほむらはなおもおちついてさきをよんだ。「れっぷう」「げきろう」「おうてん」という)
帆村はなおも落ついて先を読んだ。「烈風」「激浪」「横転」という
(みっつのことばがでると、じんぞうにんげんはべつべつのあたらしいこうどうをおこし、ついに)
三つの言葉が出ると、人造人間は別々の新しい行動を起し、遂に
(「げきちん」ということばをきくと、すっかりもとどおりにはこのなかにおさまってしまった。)
「撃沈」という言葉を聞くと、すっかり元どおりに函の中に収ってしまった。
(はーっ。いちどうはきせずしておおきなためいきをそろえてついた。)
ハーッ。一同は期せずして大きな溜息を揃えてついた。
(「・・・・・・ほむらくん、ありがとう。きみのじっけんはだいせいこうだよ」と、かりがねけんじがゆめから)
「……帆村君、ありがとう。君の実験は大成功だよ」と、雁金検事が夢から
(さめたようにいった。「いや、おそろしいやつは、まづめじょうたろうです。かれははかせの)
さめたように云った。「いや、恐ろしいやつは、馬詰丈太郎です。彼は博士の
(じゅくすいじかんをはかって、こうしてじんぞうにんげんにさつがいさせたのです。じんぞうにんげんそうじゅうの)
熟睡時間をはかって、こうして人造人間に殺害させたのです。人造人間操縦の
(あんごうことばをたくみにおりこんだらじおどらまをじさくし、らじおでもって)
暗号言葉を巧みに織りこんだラジオドラマを自作し、ラジオでもって
(じんぞうにんげんにごうれいをかける。なんというすばらしいおもいつきでしょう。)
人造人間に号令をかける。なんという素晴らしい思いつきでしょう。
(しかしこれもきょうでんわでかりがねさんがぼくにあんじをあたえてくだすったので、)
しかしこれもきょう電話で雁金さんが僕に暗示を与えて下すったので、
(はっけんできたものですよ。きかんはやっぱりくろうとちゅうのくろうとですね。いやとても)
発見できたものですよ。貴官はやっぱり玄人中の玄人ですね。いやとても
(ぼくなんかのおよぶところではありません」とほむらはしんじつこころからのけいいを)
僕なんかの及ぶところではありません」と帆村は真実心からの敬意を
(ひょうしたのであった。まづめじょうたろうがおじをころしたわけは、うららふじんにたいする)
表したのであった。馬詰丈太郎が伯父を殺したわけは、ウララ夫人に対する
(じゃれんをとげるばかりでなく、はかせのざいさんもじゆうにするつもりだったという。)
邪恋を遂げるばかりでなく、博士の財産も自由にするつもりだったという。
(かれはじじつ、かぶにしっぱいして、ぼうほうめんにいちまんえんをこえるしゃっきんになやんでいたことが)
彼は事実、株に失敗して、某方面に一万円を越える借金に悩んでいた事が
(とりしらべのけっかわかったことである。うららふじんはいちねんのち、とうきょうをさった。)
取調べの結果分った事である。ウララ夫人は一年のち、東京を去った。
(どこへいったのか、はっきりしるひともなかったけれども、ちょうどそのころ)
どこへ行ったのか、ハッキリ知る人もなかったけれども、丁度そのころ
(さんたまりあびょういんのわかきまくれおはかせもそこをじして、きこくのとに)
サンタマリア病院の若きマクレオ博士もそこを辞して、帰国の途に
(ついたということである。もんだいのじんぞうにんげんは、じけんごぼうしょにかんきんせられたまま、)
ついたということである。問題の人造人間は、事件後某所に監禁せられたまま、
(それっきりひのめをみないといううわさであるが、このかんきんというのは)
それっきり陽の目を見ないという噂であるが、この監禁というのは
(どこにあるのか、だれもはなしてくれるものがない。)
何処にあるのか、誰も話してくれる者がない。