夜泣き鉄骨8(終) 海野十三
青空文庫より引用
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問題文
(「おもしろいはなしだなぁ、わけえの」わしは、しずかにいった。「だがひとつ)
「面白い話だなァ、若けえの」わしは、静かに云った。「だが一つ
(ふにおちねえことがあるからたずねるが、たんけんたいがこうじょうのくらやみのなかにいたとき、)
腑に落ちねえことがあるから尋ねるが、探険隊が工場の暗闇の中にいたとき、
(くれーんがごうごうとうごいた。すぐあかりをつけたが、したのすうぃっちははずれていた。)
クレーンが轟々と動いた。直ぐ灯をつけたが、下のスウィッチは外れていた。
(いくらそのあくにんがきようでも、でんきなしで、あのくれーんはうごかせないだろうぜ」)
いくら其の悪人が器用でも、電気なしで、あのクレーンは動かせないだろうぜ」
(「そんなとりっくにきがつかないおれではないよ。そのだんなどのは、くれーんを)
「そんなトリックに気がつかない俺ではないよ。その旦那どのは、クレーンを
(うごかすすうぃっちと、おなじかたの、それおつがたすうぃっちよ、あれをこうじょうの)
動かすスウィッチと、同じ型の、ソレ乙型スウィッチよ、あれを工場の
(くりはらさんからかりて、くらやみでおとをたてずすうぃっちのかいへいをすることを)
栗原さんから借りて、暗闇で音をたてずスウィッチの開閉をすることを
(れんしゅうしたんだ」「でたらめをいうな」「でたらめではない。では、しょうこを)
練習したんだ」「出鱈目を云うな」「出鱈目ではない。では、証拠を
(だそうかね。そのだんなどのは、こうじょうのいりぐちと、すうぃっちまでのきょりと、)
出そうかね。その旦那どのは、工場の入口と、スウィッチまでの距離と、
(そのとりつけのたかさとをせいかくにはかってきて、このしゃかんいまのまえのろうかに、)
その取付けの高さとを正確に測って来て、この舎監居間の前の廊下に、
(それとおなじえんきんに、かりてきたすうぃっちをひっかけ、まよなかになると、)
それと同じ遠近に、借りて来たスウィッチをひっかけ、真夜中になると、
(くらやみのなかで、れんしゅうをしたのだ。うそとおもうなら、しゃかんいまのとぐちからろっけんさき、)
暗闇の中で、練習をしたのだ。嘘と思うなら、舎監居間の戸口から六間先き、
(ろうかからろくしゃくのたかさのところに、にほんのくぎあとがあるが、そのすんぽうと、こうじょうの)
廊下から六尺の高さのところに、二本の釘跡があるが、その寸法と、工場の
(すうぃっちのいちとをくらべてみねえ。ぴったりとおなじことだ。それから)
スウィッチの位置とを較べて見ねえ。ぴったりと同じことだ。それから
(にほんのくぎのきょりは、そのだんなどのがかりていたすうぃっちのふたつのあなのかんかくと)
二本の釘の距離は、その旦那どのが借りていたスウィッチの二つの孔の間隔と
(おなじことだが、じつはそのすうぃっちはせいさくのさいにまちがえて、あなのかんかくを)
同じことだが、実はそのスウィッチは製作の際に間違えて、孔の間隔を
(ひろくしすぎたので、このろうかのくぎのきょりも、ふつうのすうぃっちにはみられない)
広くしすぎたので、この廊下の釘の距離も、普通のスウィッチには見られない
(とくべつのかんかくになっているはずだ。ここらも、しゅくめいてきなしょうこといえばいえるだろう。)
特別の間隔になっている筈だ。ここらも、宿命的な証拠といえば言えるだろう。
(うん、ぎゃーっ」わしのてには、おしゃべりたんていののうてんをたたきやぶったはんまーが、)
ウン、ぎゃーッ」わしの手には、お喋り探偵の脳天を叩き破ったハンマーが、
(ちにまみれて、にぎられていた。それは、かれしがおしゃべりにむちゅうになっているあいだに、)
血にまみれて、握られていた。それは、彼氏がお喋りに夢中になっている間に、
(てーぶるのかげから、こっそりとりだしたものだった。だが、このおとこを)
卓子(テーブル)の蔭から、コッソリ取出したものだった。だが、此の男を
(ころしてしまったおかげで、いんにんじゅうねん、さつじんへきからとおざかっていたこのわしの)
殺してしまったお蔭で、隠忍十年、殺人癖から遠去かっていた此のわしの
(からだには、ひさしくねむっていたあくけつが、いっときにうえにめざめて、)
身体には、久しく眠っていた悪血が、一時に飢えに目覚めて、
(わきあがってきたようだ。わしのなか?)
湧きあがってきたようだ。わしの名か?
(「かためのいわ」といやぁ、ちっとはひとにしられたわがままものだなあ。)
「片眼の岩」と云やァ、ちっとは人に知られた吾儘者だなア。