「こころ」1-29 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7258 7.4 97.2% 245.5 1833 51 41 2024/09/18
2 デコポン 6879 S++ 7.0 97.4% 259.9 1837 49 41 2024/09/08
3 どんぐり 5677 A 6.3 90.7% 294.5 1861 189 41 2024/10/14
4 饅頭餅美 5114 B+ 5.3 95.2% 350.2 1884 93 41 2024/09/13
5 mame 5106 B+ 5.3 95.6% 346.0 1852 85 41 2024/11/04

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問題文

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(「おくさん、わたくしがこのまえなぜせんせいがせけんてきにもっと)

「奥さん、私がこの前なぜ先生が世間的にもっと

(かつどうなさらないのだろうといって、あなたにきいたときに、)

活動なさらないのだろうといって、あなたに聞いた時に、

(あなたはおっしゃったことがありますね。もとはああじゃなかったんだって」)

あなたはおっしゃった事がありますね。元はああじゃなかったんだって」

(「ええいいました。じっさいあんなじゃなかったんですもの」)

「ええいいました。実際あんなじゃなかったんですもの」

(「どんなだったんですか」)

「どんなだったんですか」

(「あなたのきぼうなさるような、またわたしのきぼうするような)

「あなたの希望なさるような、また私の希望するような

(たのもしいひとだったんです」)

頼もしい人だったんです」

(「それがどうしてきゅうにへんかなすったんですか」)

「それがどうして急に変化なすったんですか」

(「きゅうにじゃありません、だんだんああなってきたのよ」)

「急にじゃありません、段々ああなって来たのよ」

(「おくさんはそのあいだしじゅうせんせいといっしょにいらしったんでしょう」)

「奥さんはその間始終先生といっしょにいらしったんでしょう」

(「むろんいましたわ。ふうふですもの」)

「無論いましたわ。夫婦ですもの」

(「じゃせんせいがそうかわっていかれるげんいんがちゃんとわかるべきはずですがね」)

「じゃ先生がそう変って行かれる源因がちゃんと解るべきはずですがね」

(「それだからこまるのよ。あなたからそういわれるとじつにつらいんですが、)

「それだから困るのよ。あなたからそういわれると実に辛いんですが、

(わたしにはどうかんがえても、かんがえようがないんですもの。)

私にはどう考えても、考えようがないんですもの。

(わたしはいままでなんべんあのひとに、どうぞうちあげてくださいって)

私は今まで何遍あの人に、どうぞ打ち上げて下さいって

(たのんでみたかわかりゃしません」)

頼んで見たか分かりゃしません」

(「せんせいはなんとおっしゃるんですか」)

「先生は何とおっしゃるんですか」

(「なんにもいうことはない、なんにもしんぱいすることはない、)

「何にもいう事はない、何にも心配する事はない、

(おれはこういうせいしつになったんだからというだけで、)

おれはこういう性質になったんだからというだけで、

(とりあってくれないんです」)

取り合ってくれないんです」

など

(わたくしはだまっていた。おくさんもことばをとぎらした。)

私は黙っていた。奥さんも言葉を途切らした。

(げじょべやにいるげじょはことりともおとをさせなかった。)

下女部屋にいる下女はことりとも音をさせなかった。

(わたくしはまるでどろぼうのことをわすれてしまった。)

私はまるで泥棒の事を忘れてしまった。

(「あなたはわたしにせきにんがあるんだとおもってやしませんか」)

「あなたは私に責任があるんだと思ってやしませんか」

(ととつぜんおくさんがきいた。)

と突然奥さんが聞いた。

(「いいえ」とわたくしがこたえた。)

「いいえ」と私が答えた。

(「どうぞかくさずにいってください。そうおもわれるのはみをきられるより)

「どうぞ隠さずにいって下さい。そう思われるのは身を切られるより

(つらいんだから」)

辛いんだから」

(とおくさんがまたいった。)

と奥さんがまたいった。

(「これでもわたしはせんせいのためにできるだけのことはしているつもりなんです」)

「これでも私は先生のためにできるだけの事はしているつもりなんです」

(「そりゃせんせいもそうみとめていられるんだから、だいじょうぶです。」)

「そりゃ先生もそう認めていられるんだから、大丈夫です。」

(ごあんしんなさい、わたくしがほしょうします」)

ご安心なさい、私が保証します」

(おくさんはひばちのはいをかきならした。それからみずさしのみずをてつびんにさした。)

奥さんは火鉢の灰を掻き馴らした。それから水注の水を鉄瓶に注した。

(てつびんはたちまちなりをしずめた。)

鉄瓶は忽ち鳴りを沈めた。

(「わたしはとうとうしんぼうしきれなくなって、せんせいにききました。)

「私はとうとう辛防し切れなくなって、先生に聞きました。

(わたしにわるいところがあるならえんりょなくいってください、あらためられるけってんなら)

私に悪い所があるなら遠慮なくいって下さい、改められる欠点なら

(あらためるからって、するとせんせいは、おまえにけってんなんかありゃしない、)

改めるからって、すると先生は、お前に欠点なんかありゃしない、

(けってんはおれのほうにあるだけだというんです。そういわれると、)

欠点はおれの方にあるだけだというんです。そういわれると、

(わたしはかなしくなってしようがないんです、なみだがでてなおのこと)

私は悲しくなって仕様がないんです、涙が出てなおの事

(じぶんのわるいところがききたくなるんです」)

自分の悪い所が聞きたくなるんです」

(おくさんはめのうちになみだをいっぱいためた。)

奥さんは眼の中に涙をいっぱい溜めた。

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