「こころ」1-46 夏目漱石

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(上)先生と私
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 どんぐり 5620 A 6.0 93.6% 275.6 1661 112 31 2024/10/26
2 mame 5157 B+ 5.4 94.8% 303.8 1656 89 31 2024/11/10

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問題文

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(えんだいのよこからこうぶへかけてうえつけてあるすぎなえのそばに、)

縁台の横から後部へ掛けて植え付けてある杉苗の傍に、

(くまざさがみつぼほどちをかくすようにしげってはえていた。)

熊笹が三坪ほど地を隠すように茂って生えていた。

(いぬはそのかおとせをくまざさのうえにあらわして、さかんにほえたてた。)

犬はその顔と背を熊笹の上に現して、盛んに吠え立てた。

(そこへとおぐらいのこどもがかけてきていぬをしかりつけた。)

そこへ十ぐらいの子供が駆けて来て犬を叱り付けた。

(こどもはきしょうのついたくろいぼうしをかぶったまませんせいのまえへまわってれいをした。)

子供は徽章の着いた黒い帽子を被ったまま先生の前へ廻って礼をした。

(「おじさん、はいってくるとき、うちにだれもいなかったかい」)

「叔父さん、はいって来る時、家に誰もいなかったかい」

(ときいた。)

と聞いた。

(「だれもいなかったよ」)

「誰もいなかったよ」

(「ねえさんやおっかさんがかってのほうにいたのに」)

「姉さんやおっかさんが勝手の方にいたのに」

(「そうか、いたのかい」)

「そうか、いたのかい」

(「ああ。おじさん、こんちはって、ことわってはいってくるとよかったのに」)

「ああ。叔父さん、今日はって、断ってはいって来ると好かったのに」

(せんせいはくしょうした。ふところからがまくちをだして、ごせんのはくどうをこどものてににぎらせた。)

先生は苦笑した。懐中から蟇口を出して、五銭の白銅を子供の手に握らせた。

(「おっかさんにそういっとくれ。すこしここでやすませてくださいって」)

「おっかさんにそういっとくれ。少しここで休ませて下さいって」

(こどもはりこうそうなめにわらいをみなぎらして、うなずいてみせた。)

子供は怜悧そうな眼に笑いを漲らして、首肯いて見せた。

(「いませっこうちょうになってるところなんだよ」)

「今斥候調になってるところなんだよ」

(こどもはこうことわって、つつじのあいだをしたのほうへかけおりていった。)

子供はこう断わって、躑躅の間を下の方へ駈け下りて行った。

(いぬもしっぽをたかくまいてこどものあとをおいかけた。)

犬も尻尾を高く巻いて子供の後を追い掛けた。

(しばらくするとおなじくらいのとしかっこのこどもがに、さんにん、)

しばらくすると同じくらいの年格好の子供が二、三人、

(これもせっこうちょうのおりていったほうへかけていった。)

これも斥候調の下りて行った方へ駈けていった。

(せんせいのだんわは、このいぬとこどものために、けつまつまでしんこうすることが)

先生の談話は、この犬と子供のために、結末まで進行する事が

など

(できなくなったので、わたくしはついにそのようりょうをえないでしまった。)

できなくなったので、私はついにその要領を得ないでしまった。

(せんせいのきにするざいさんうんぬんのけねんはそのときのわたくしにはまったくなかった。)

先生の気にする財産云々の掛念はその時の私には全くなかった。

(わたくしのせいしつとして、またわたくしのきょうぐうからいって、そのときのわたくしには、)

私の性質として、また私の境遇からいって、その時の私には、

(そんなりがいのねんにあたまをなやますよちがなかったのである。)

そんな利害の念に頭を悩ます余地がなかったのである。

(かんがえるとこれはわたくしがまだせけんにでないためでもあり、)

考えるとこれは私がまだ世間に出ないためでもあり、

(またじっさいそのばにのぞまないためでもあったろうが、)

また実際その場に臨まないためでもあったろうが、

(とにかくわかいわたくしにはなぜかかねのもんだいがとおくのほうにみえた。)

とにかく若い私にはなぜか金の問題が遠くの方に見えた。

(せんせいのはなしのうちでただひとつそこまでききたかったのは、)

先生の話のうちでただ一つ底まで聞きたかったのは、

(にんげんがいざというまぎわに、だれでもあくにんになるということばのいみであった。)

人間がいざという間際に、誰でも悪人になるという言葉の意味であった。

(たんなることばとしては、これだけでもわたくしにわからないことはなかった。)

単なる言葉としては、これだけでも私に解らない事はなかった。

(しかしわたくしはこのくについてもっとしりたかった。)

しかし私はこの句についてもっと知りたかった。

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