山本周五郎 赤ひげ診療譚 三度目の正直 6

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数578難易度(4.1) 2231打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作連作短編です。
赤ひげ診療譚の第四話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 hutaba 4040 C 4.2 95.5% 523.2 2217 103 51 2024/04/21

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問題文

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(はんつきほどたったあるひ、いのはとうきちにむかって、)

半月ほど経った或る日、猪之は藤吉に向かって、

(あのえんだんをことわってくれ、といいだした。)

あの縁談を断わってくれ、と云いだした。

(とうきちはいきなりどやしつけられたようなかんじで、いののかおをみつめたまま、)

藤吉はいきなりどやしつけられたような感じで、猪之の顔をみつめたまま、

(しばらくはものがいえなかった。)

暫くはものが云えなかった。

(ーーあにきにはすまねえが、あのこはだめだ、てんでなっちゃねえんだ。)

ーーあにきには済まねえが、あの娘はだめだ、てんでなっちゃねえんだ。

(ちょっとまて、ととうきちはさえぎった。いったいどうしたんだ、)

ちょっと待て、と藤吉は遮った。いったいどうしたんだ、

(なにがだめだ、あのこのどこがなっちゃねえんだ。)

なにがだめだ、あの娘のどこがなっちゃねえんだ。

(ーーおれはゆうべのみにいった。)

ーーおれはゆうべ飲みにいった。

(ーーねんにはおよばねえ、おれもいっしょにいったんだ。)

ーー念には及ばねえ、おれもいっしょにいったんだ。

(ーーあにきはひとあしさきにかえった、といのはいった。おれもすぐにかえったが、)

ーーあにきは一と足さきに帰った、と猪之は云った。おれもすぐに帰ったが、

(おこうのやつがおっかけてきてよびとめた、どうしたときくと、)

お孝のやつが追っかけて来て呼びとめた、どうしたと訊くと、

(そばへよってきててをにぎりゃがった、)

側(そば)へよって来て手を握りゃがった、

(それでおれは、また、どうしたんだときいた、)

それでおれは、また、どうしたんだと訊いた、

(おこうのやつはへんにきどったためいきなんかつきゃあがって、)

お孝のやつはへんに気取った溜息なんかつきゃあがって、

(それからにぎっているてにぎゅっとちからをいれて、)

それから握っている手にぎゅっと力をいれて、

(いっしょうすてないでーーっていいやあがった。)

一生捨てないでーーって云やあがった。

(いのはみぎのてのひらをきものへこすりつけた。)

猪之は右の掌を着物へこすりつけた。

(なにかねばったものでもついているように、にどもさんどもこすりつけ、)

なにか粘った物でも付いているように、二度も三度もこすりつけ、

(そしてかおをしかめた。)

そして顔をしかめた。

(ーーそれがなっちゃねえのか。)

ーーそれがなっちゃねえのか。

など

(ーーおれははきそうになった。)

ーーおれは吐きそうになった。

(あにきはしらねえだろうが、あぶらあせであたたかい、)

あにきは知らねえだろうが、あぶら汗で温かい、

(ぼってりしたてでぎゅっとにぎられ、いっしょうすてないでなんて、)

ぼってりした手でぎゅっと握られ、一生捨てないでなんて、

(それがまたあまったるいへんなこえなんだから、)

それがまた甘ったるいへんな声なんだから、

(おれはことわりなしにせぼねをぬかれちまったような、)

おれは断わりなしに背骨を抜かれちまったような、

(いやーなこころもちになってにげだしてきたんだ。)

いやーなこころもちになって逃げだして来たんだ。

(ーーこれからふうふになるものが、)

ーーこれから夫婦になる者が、

(いっしょうすてないでくらいのことをいうのはあたりめえじゃねえか。)

一生捨てないでくらいのことを云うのはあたりめえじゃねえか。

(ーーあにきはいわれたことがあるか。)

ーーあにきは云われたことがあるか。

(ーーせけんいっぱんのことをいってるんだ。)

ーー世間一般のことを云ってるんだ。

(ーーいわれてみな、いっぺん、)

ーー云われてみな、一遍、

(そうすりゃあこのあなぼこへおっことされるようなきもちがわかるから。)

そうすりゃあこの穴ぼこへおっことされるような気持がわかるから。

(ーーいろいろなことをいいやあがる。)

ーーいろいろなことを云やあがる。

(はきそうなきもちだの、ことわりなしにせぼねをぬかれたようなこころもちだの、)

吐きそうな気持だの、断わりなしに背骨を抜かれたようなこころもちだの、

(こんどはあなぼこへおっことされるようなきもちだのって。)

こんどは穴ぼこへおっことされるような気持だのって。

(やい、せぼねなんてものはことわってからぬくものか。)

やい、背骨なんてものは断わってから抜くものか。

(だからよ、といのはいった。ぬかれねえさきにことわろうっていうんだ。)

だからよ、と猪之は云った。抜かれねえさきに断わろうっていうんだ。

(「かってにしやあがれ、ってわたしはいってやりました」ととうきちはいった、)

「勝手にしやあがれ、って私は云ってやりました」と藤吉は云った、

(「おれははなしをまとめるためにほねをおった、)

「おれは話をまとめるために骨を折った、

(ことわるんならじぶんでやれ、おれはまっぴらだ」)

断わるんなら自分でやれ、おれはまっぴらだ」

(いのはことわったらしい。)

猪之は断わったらしい。

(せんぽうからなにもいってこなかったから、ことわったものとおもわれるが、)

先方からなにも云って来なかったから、断わったものと思われるが、

(それでそのいざかやへはいきにくくなり、)

それでその居酒屋へはいきにくくなり、

(ろくちょうもはなれたすみよしちょうにかしをかえなければならなかった。)

六丁もはなれた住吉町に河岸(かし)を替えなければならなかった。

(「そいつがきっかけになったんでしょうか、)

「そいつがきっかけになったんでしょうか、

(それからはのべつおんなにちょっかいをだすようになりました」)

それからはのべつ女にちょっかいを出すようになりました」

(とうきちはてでえしゃくをして、のぼるのぜんにあるかんどっくりをとった、)

藤吉は手で会釈をして、登の膳にある燗徳利を取った、

(「しかもあいつらしく、むこうからもちかけるおんなにはめもくれない、)

「しかもあいつらしく、向うからもちかける女には眼もくれない、

(まえにもいったとおり、むかしからおんなのこにはもてるやつでしたが、)

まえにも云ったとおり、昔から女の子にはもてるやつでしたが、

(どういうわけかそういうおんなにはけっしててをださない、)

どういうわけかそういう女には決して手を出さない、

(つんとすまして、そっぽをむいてるようなおんなに、こっちからねつをあげるんです」)

つんとすまして、そっぽを向いてるような女に、こっちから熱をあげるんです」

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