あばばばば 2/3
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | てんぷり | 5147 | B+ | 5.3 | 95.8% | 560.7 | 3016 | 130 | 51 | 2024/09/28 |
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問題文
(あるざんしょのきびしいごご、やすきちはがっこうのかえりがけにこのみせへここあをかいに)
或残暑の厳しい午後、保吉は学校の帰りがけにこの店へココアを買ひに
(はいった。おんなはきょうもかんじょうだいのうしろにこうだんくらぶかなにかをよんでいる。やすきちは)
はひつた。女はけふも勘定台の後ろに講談倶楽部か何かを読んでゐる。保吉は
(にきびのおおいこぞうにvanhoutenはないかとたずねた。)
面皰の多い小僧にVan Houtenはないかと尋ねた。
(「ただいまあるのはこればかりですが。」)
「唯今あるのはこればかりですが。」
(こぞうのわたしたのはfryである。やすきちはみせをみわたした。するとくだもののかんづめの)
小僧の渡したのはFryである。保吉は店を見渡した。すると果物の罐詰めの
(あいだにせいようのあまさんのしょうひょうをつけたdrosteもひとかんまじっている。)
間に西洋の尼さんの商標をつけたDrosteも一罐まじつてゐる。
(「あすこにdrosteもあるじゃないか?」)
「あすこにDrosteもあるぢやないか?」
(こぞうはちょいとそちらをみたきり、やはりばくぜんとしたかおをしている。)
小僧はちよいとそちらを見たきり、やはり漠然とした顔をしてゐる。
(「ええ、あれもここあです。」)
「ええ、あれもココアです。」
(「じゃこればかりじゃないじゃないか?」)
「ぢやこればかりぢやないぢやないか?」
(「ええ、でもまあこれだけなんです。ーーおかみさん、ここあはこれだけ)
「ええ、でもまあこれだけなんです。ーーお上さん、ココアはこれだけ
(ですね?」)
ですね?」
(やすきちはおんなをふりかえった。こころもちめをほそめたおんなはうつくしいみどりいろのかおをしている。)
保吉は女をふり返つた。心もち目を細めた女は美しい緑色の顔をしてゐる。
(もっともこれはふしぎではない。ぜんぜんらんまのいろがらすをすかしたごごのひのひかりのさよう)
尤もこれは不思議ではない。全然欄間の色硝子を透かした午後の日の光の作用
(である。おんなはざっしをひじのしたにしたまま、れいのとおりためらいがちなへんじをした。)
である。女は雑誌を肘の下にしたまま、例の通りためらひ勝ちな返事をした。
(「はあ、それだけだったとおもうけれども。」)
「はあ、それだけだつたと思ふけれども。」
(「じつは、このfryのここあのなかにはときどきむしがわいているんだが、ーー」)
「実は、このFryのココアの中には時々虫が湧いてゐるんだが、ーー」
(やすきちはまじめにはなしかけた。しかしじっさいむしのわいたここあにであったおぼえのある)
保吉は真面目に話しかけた。しかし実際虫の湧いたココアに出合つた覚えのある
(わけではない。ただなんでもこういいさえすれば、vanhoutenのうむは)
訣ではない。唯何でもかう云ひさへすれば、Van Houtenの有無は
(たしかめさせるうえにこうのうのあることをしんじたからである。)
確かめさせる上に効能のあることを信じたからである。
(「それもずいぶんおおきいやつがあるもんだからね。ちょうどこのこゆびくらいある、・・・・・・」)
「それもずゐぶん大きいやつがあるもんだからね。丁度この小指位ある、……」
(おんなはいささかおどろいたようにかんじょうだいのうえへはんしんをのばした。)
女は聊か驚いたやうに勘定台の上へ半身をのばした。
(「そっちにもまだありやしないかい?ああ、そのうしろのとだなのなかにも。」)
「そつちにもまだありやしないかい? ああ、その後ろの戸棚の中にも。」
(「あかいのばかりです。ここにあるのも。」)
「赤いのばかりです。此処にあるのも。」
(「じゃこっちには?」)
「ぢやこつちには?」
(おんなはあづまげたをつっかけると、しんぱいそうにみせへさがしにきた。ぼんやりしたこぞうも)
女は吾妻下駄を突かけると、心配さうに店へ捜しに来た。ぼんやりした小僧も
(やむをえずかんづめのあいだなどをのぞいてみている。やすきちはたばこへひをつけたあと、)
やむを得ず罐詰めの間などを覗いて見てゐる。保吉は煙草へ火をつけた後、
(かれらへはくしゃをくわえるようにかんがえかんがえしゃべりつづけた。)
彼等へ拍車を加へるやうに考へ考へしやべりつづけた。
(「むしのわいたやつをのませると、こどもなどははらをいためるしね。(かれはあるひしょちの)
「虫の湧いたやつを飲ませると、子供などは腹を痛めるしね。(彼は或避暑地の
(かしまにたったひとりくらしている。)いや、こどもばかりじゃない。かないもいちど)
貸し間にたつた一人暮らしてゐる。)いや、子供ばかりぢやない。家内も一度
(ひどいめにあったことがある。(もちろんつまなどをもったことはない。)なにしろ)
ひどい目に遇つたことがある。(勿論妻などを持つたことはない。)何しろ
(ようじんにこしたことはないんだから。・・・・・・」)
用心に越したことはないんだから。……」
(やすきちはふとくちをとざした。おんなはまえかけにてをふきながら、とうわくそうにかれを)
保吉はふと口をとざした。女は前掛けに手を拭きながら、当惑さうに彼を
(ながめている。)
眺めてゐる。
(「どうもみえないようでございますが。」)
「どうも見えないやうでございますが。」
(おんなのめはおどおどしている。くちもともむりにびしょうしている。ことにこっけいにみえた)
女の目はおどおどしてゐる。口もとも無理に微笑してゐる。殊に滑稽に見えた
(のははなもまたつぶつぶあせをかいている。やすきちはおんなとめをあわせたせつなにとつぜんあくまの)
のは鼻も亦つぶつぶ汗をかいてゐる。保吉は女と目を合せた刹那に突然悪魔の
(のりうつるのをかんじた。このおんなはいわばおじぎそうである。いっていのしげきをあたえさえ)
乗り移るのを感じた。この女は云はば含羞草である。一定の刺戟を与へさへ
(すれば、かならずかれのおもうとおりのはんのうをていするのにちがいない。しかししげきはかんたん)
すれば、必ず彼の思ふ通りの反応を呈するのに違ひない。しかし刺戟は簡単
(である。じっとかおをみつめてもいい。あるいはまたゆびさきにさわってもいい。おんなはきっと)
である。ぢつと顔を見つめても好い。或は又指先にさはつても好い。女はきつと
(そのしげきにやすきちのあんじをうけとるであろう。うけとったあんじをどうするかはもちろん)
その刺戟に保吉の暗示を受けとるであらう。受けとつた暗示をどうするかは勿論
(みちのもんだいである。しかしさいわいにはんぱつしなければ、ーーいや、ねこはかっても)
未知の問題である。しかし幸ひに反撥しなければ、ーーいや、猫は飼つても
(いい。が、ねこににたおんなのためにたましいをあくまにうりわたすのはどうもすこしかんがえもの)
好い。が、猫に似た女の為に魂を悪魔に売り渡すのはどうも少し考へもの
(である。やすきちはすいかけたたばこといっしょに、のりうつったあくまをほうりだした。)
である。保吉は吸ひかけた煙草と一しよに、乗り移つた悪魔を抛はふり出した。
(ふいをくらったあくまはとんぼかえるひょうしにこぞうのはなのあなへとびこんだのであろう。)
不意を食つた悪魔はとんぼ返る拍子に小僧の鼻の穴へ飛びこんだのであらう。
(こぞうはくびをちぢめるがはやいか、つづけさまにおおきいくさめをした。)
小僧は首を縮めるが早いか、つづけさまに大きい嚏をした。
(「じゃしかたがない。drosteをひとつくれたまえ。」)
「ぢや仕かたがない。Drosteを一つくれ給へ。」
(やすきちはくしょうをうかべたまま、ぽけっとのばらせんをさぐりだした。)
保吉は苦笑を浮かべたまま、ポケツトのばら銭を探り出した。
(そのごもかれはこのおんなとたびたびおなじようなこうしょうをかさねた。が、あくまにのり)
その後も彼はこの女と度たび同じやうな交渉を重ねた。が、悪魔に乗り
(うつられたきおくはしあわせとほかにはもっていない。いや、いちどなどはふとした)
移られた記憶は仕合せと外には持つてゐない。いや、一度などはふとした
(はずみにてんしのきたのをかんじたことさえある。)
はずみに天使の来たのを感じたことさへある。