陰翳礼讃 4

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プレイ回数443難易度(4.5) 2214打 長文
谷崎潤一郎
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(そういうことをかんがえるのはしょうせつかのくうそうであって、もはやこんにちに)

そう云うことを考えるのは小説家の空想であって、もはや今日に

(なってしまったいじょう、もういちどぎゃくもどりをしてやりなおすわけにいかないことは)

なってしまった以上、もう一度逆戻りをしてやり直す訳に行かないことは

(わかりきっている。だからわたしのいうことは、いまさらふかのうごとをねがい、)

分りきっている。だから私の云うことは、今更不可能事を願い、

(ぐちをこぼすのにすぎないのであるが、ぐちはぐちとして、とにかくわれらが)

愚痴をこぼすのに過ぎないのであるが、愚痴は愚痴として、とにかく我等が

(せいようじんにくらべてどのくらいそんをしているかということは、かんがえてみても)

西洋人に比べてどのくらい損をしているかと云うことは、考えてみても

(さしつかえあるまい。つまり、ひとくちにいうと、せいようのほうはじゅんとうなほうこうをたどって)

差支えあるまい。つまり、一と口に云うと、西洋の方は順当な方向を辿って

(こんにちにとうたつしたのであり、われらのほうは、ゆうしゅうなぶんめいにほうちゃくしてそれを)

今日に到達したのであり、我等の方は、優秀な文明に逢着してそれを

(とりいれざるをえなかったかわりに、かこすうせんねんらいはってんしきたったしんろとは)

取り入れざるを得なかった代りに、過去数千年来発展し来った進路とは

(ちがったほうこうへあゆみだすようになった、そこからいろいろなこしょうやふべんが)

違った方向へ歩み出すようになった、そこからいろ/\な故障や不便が

(おこっているとおもわれる。もっともわれわれをほっておいたら、ごひゃくねんまえもこんにちも)

起っていると思われる。尤もわれ/\を放っておいたら、五百年前も今日も

(ぶっしつてきにはたいしたしんてんをしていなかったかもしれない。げんにしなや)

物質的には大した進展をしていなかったかも知れない。現に支那や

(いんどのいなかへいけば、おしゃかさまやこうしさまのじだいとあまりかわらないせいかつを)

印度の田舎へ行けば、お釈迦様や孔子様の時代とあまり変らない生活を

(しているでもあろう。だがそれにしてもじぶんたちのしょうにあったほうこうだけは)

しているでもあろう。だがそれにしても自分たちの性に合った方向だけは

(とっていたであろう。そしてかんまんにではあるが、いくらかずつのしんぽをつづけて)

取っていたであろう。そして緩慢にではあるが、いくらかずつの進歩をつゞけて

(いつかはこんにちのでんしゃやひこうきやらじおにかえるもの、それはたにんのかりものでない、)

いつかは今日の電車や飛行機やラジオに代るもの、それは他人の借り物でない、

(ほんとうにじぶんたちにつごうのいいぶんめいのりきをはっけんするひがこなかったとは)

ほんとうに自分たちに都合のいゝ文明の利器を発見する日が来なかったとは

(かぎるまい。はやいはなしが、えいがをみても、あめりかのものと、ふらんすやどいつの)

限るまい。早い話が、映画を見ても、アメリカのものと、佛蘭西や独逸の

(ものとは、いんえいや、しきちょうのぐあいがちがっている。えんぎとかきゃくしょくとかはべつにして、)

ものとは、陰翳や、色調の工合が違っている。演技とか脚色とかは別にして、

(しゃしんめんだけで、どこかにこくみんせいのさいがでている。どういつのきかいややくひんや)

写真面だけで、何処かに国民性の差異が出ている。同一の機械や薬品や

(ふいるむをつかってもなおかつそうなのであるから、)

フイルムを使ってもなおかつそうなのであるから、

など

(われわれにこゆうのしゃしんじゅつがあったら、どんなにわれわれのひふやようぼうや)

われ/\に固有の写真術があったら、どんなにわれ/\の皮膚や容貌や

(きこうふうどにてきしたものであったかとおもう。ちくおんきやらじおにしても、)

気候風土に適したものであったかと思う。蓄音器やラジオにしても、

(もしわれわれがはつめいしたなら、もっとわれわれのこえやおんがくのとくちょうをいかすような)

もしわれ/\が発明したなら、もっとわれ/\の声や音楽の特長を生かすような

(ものができたであろう。がんらいわれわれのおんがくは、ひかえめなものであり、)

ものが出来たであろう。元来われ/\の音楽は、控え目なものであり、

(きぶんほんいのものであるから、れこーどにしたり、かくせいきでおおきくしたり)

気分本位のものであるから、レコードにしたり、拡声器で大きくしたり

(したのでは、たいはんのみりょくがうしなわれる。わじゅつにしてもわれわれのほうのはこえがちいさく)

したのでは、大半の魅力が失われる。話術にしてもわれ/\の方のは声が小さく

(ことばかずがすくなく、そうしてなによりも「ま」がたいせつなのであるが、きかいにかけたら)

言葉数が少く、そうして何よりも「間」が大切なのであるが、機械にかけたら

(「ま」はかんぜんにしんでしまう。そこでわれわれは、きかいにげいごうするように、)

「間」は完全に死んでしまう。そこでわれ/\は、機械に迎合するように、

(かえってわれわれのげいじゅつじたいをゆがめていく。せいようじんのほうは、もともと)

却ってわれ/\の藝術自体を歪めて行く。西洋人の方は、もと/\

(じぶんたちのあいだではったつさせたきかいであるから、かれらのげいじゅつにつごうがいいように)

自分たちの間で発達させた機械であるから、彼等の藝術に都合がいゝように

(できているのはあたりまえである。そういうてんで、われわれはじつに)

出来ているのは当り前である。そう云う点で、われ/\は実に

(いろいろのそんをしているとかんがえられる。)

いろ/\の損をしていると考えられる。

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