『按摩』小酒井不木1

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プレイ回数513難易度(4.5) 3759打 長文
嘘か本当か分からない、薬物中毒の怖い話
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

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問題文

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(こほん、こほんとおいたまっさーじしは、かれのかたをもみながら、)

コホン、コホンと老いたマッサージ師は、彼の肩をもみながら、

(かれのすうたばこのけむりにむせてかおをしかめた。すこしあおむけぎみに、)

彼の吸う煙草の煙にむせて顔をしかめた。少し仰向け気味に、

(くびとみぎかたとのかくどをろくじゅうどぐらいにしているところをみると、)

首と右肩との角度を六十度ぐらいにしているところを見ると、

(うまれつきのぜんもうであるらしい。こうがいのふゆのよるは、しずかである。)

生れつきの全盲であるらしい。郊外の冬の夜は、静かである。

(「だんなはずいぶんたばこずきですねえ。さんじゅっぷんたたぬうちにじゅっぽんあまりも)

「旦那はずいぶん煙草好きですねえ。三十分たたぬうちに十本あまりも

(めしあがったようですねえ」と、かれはずるそうなわらいをうかべていった。)

召し上ったようですねえ」と、彼はずるそうな笑いを浮べて言った。

(「うむ。おれはにこちんちゅうどくにかかったんで、)

「うむ。俺はニコチン中毒にかかったんで、

(からだじゅうのにくがこわばってどうにもならぬから、まっさーじしがとおるたびに)

体中の肉がこわばってどうにもならぬから、マッサージ師が通る度に

(よびこまずにはおれんのだ。なんとかしてこのにこちんちゅうどくは、)

呼びこまずにはおれんのだ。なんとかしてこのニコチン中毒は、

(なおらぬものかなあ」と、かれはちゅうねんのにこちんちゅうどくかんじゃとくゆうのあおじろいかおをして、)

治らぬものかなあ」と、彼は中年のニコチン中毒患者特有の青白い顔をして、

(でもまきたばこをくちからはなさずにいった。)

でも巻き煙草を口から離さずに言った。

(「そりゃだんな、めをつぶすにかぎりますよ」「ええ、なんて」と、)

「そりゃ旦那、目をつぶすに限りますよ」「ええ、なんて」と、

(かれはわがみみをうたがうかのように、しばらくまきたばこをくちからはなして)

彼は我が耳を疑うかのように、しばらく巻き煙草を口から離して

(まっさーじしのへんとうをまった。「りょうほうのめをつぶしてぜんもうになるんですよ。)

マッサージ師の返答を待った。「両方の目をつぶして全盲になるんですよ。

(めをつぶせば、あのおそろしいもるひねちゅうどくさえなおるのですもの、)

目をつぶせば、あの恐ろしいモルヒネ中毒さえ治るのですもの、

(にこちんちゅうどくぐらいはわけもなくなおるとおもうのです」)

ニコチン中毒ぐらいは訳もなく治ると思うのです」

(かれはせすじに、ひやりとするようなかんじをおこした。)

彼は背筋に、ヒヤリとするような感じを起した。

(「おまえはそのけいけんがあるとでもいうのか」と、たずねたかれのこえは、)

「お前はその経験があるとでもいうのか」と、尋ねた彼の声は、

(こころもちふるえていた。「そうですよ。じつはわたしのめも、)

心持ち震えていた。「そうですよ。実は私の目も、

(むかしはいちにんまえにみえていたんですが、ふとしたことからもるひねちゅうどくにかかり、)

昔は一人前に見えていたんですが、ふとしたことからモルヒネ中毒にかかり、

など

(あげくのはてに、めをつぶすことになりましたが、めがみえなくなると、)

挙句の果てに、目をつぶすことになりましたが、目が見えなくなると、

(ふしぎにももるひねちゅうどくはけろりとなおりましたよ」)

不思議にもモルヒネ中毒はケロリと治りましたよ」

(「ふむ、みょうなはなしだなあ。どうしてもるひねなんかのむきになったんだい」と、)

「ふむ、妙な話だなあ。どうしてモルヒネなんか飲む気になったんだい」と、

(かれはいささかこうきしんにかられて、どんよりしていためをかがやかした。)

彼はいささか好奇心に駆られて、どんよりしていた目を輝かした。

(「さあ、それをきかれるとこまるんですけれど」「いや、はなしてくれよ」と、)

「さあ、それを聞かれると困るんですけれど」「いや、話してくれよ」と、

(かれはすいさしのたばこをひばちのはいのなかへつきさした。)

彼は吸いさしの煙草を火鉢の灰の中へ突き刺した。

(まっさーじしは、にやりとわらった。「だいぶのりきになりましたねえ。)

マッサージ師は、ニヤリと笑った。「だいぶ乗り気になりましたねえ。

(ええ、もう、はくじょうしてもかまわぬときですから、おもいきっておはなししましょう。)

ええ、もう、白状してもかまわぬ時ですから、思い切ってお話ししましょう。

(じつはねえだんな、わたしはわかいときにひとごろしをしたんです」かれは、ぎくりとした。)

実はねえ旦那、私は若い時に人殺しをしたんです」彼は、ギクリとした。

(「はははだんな、すこしかたのにくがかたくなりましたねえ。)

「ハハハ旦那、少し肩の肉が固くなりましたねえ。

(なに、そんなにびっくりなさることではありませんよ。)

なに、そんなにびっくりなさることではありませんよ。

(いまじゃわたしもおとなしいにんげんです。まあわたしのいうことをおききください」)

今じゃ私も大人しい人間です。まあ私の言うことをお聞き下さい」

(まっさーじしは、それからかれがこいのらいばるをころすにいたるまでの)

マッサージ師は、それから彼が恋のライバルを殺すに至るまでの

(いきさつを、やくいちじかんちかくもはなした。さすがのかれも、)

いきさつを、約一時間近くも話した。さすがの彼も、

(もうたばこどころではなく、だんだんはなしがすすむにつれ、こうきしんがきょうふにかわって、)

もう煙草どころではなく、段々話が進むにつれ、好奇心が恐怖に変わって、

(いわばわしにつかまったすずめが、わしからざんげばなしをきいている)

いわばワシに捕まったスズメが、ワシからざんげ話を聞いている

(といったようなじょうきょうであった。「それでとうとうわたしはあるばん、)

といったような状況であった。「それでとうとう私はある晩、

(やつをもりのなかへおびきだしましたよ。いよいよそのときになって、)

奴を森の中へおびき出しましたよ。いよいよその時になって、

(わたしはやつをひとあしさきにあるかせ、うしろからみぎのくびすじを、たんとうでぐさとつきました。)

私は奴を一足先に歩かせ、うしろから右の首筋を、短刀でグサと突きました。

(ひとなみはずれてせのたかいやつでしたから、ついたひょうしにけいどうみゃくから、)

人並外れて背の高い奴でしたから、突いた拍子に頸動脈から、

(わたしのみぎめにぱっとあたたかいものがかかったかとおもうと、)

私の右目にパッと暖かいものがかかったかと思うと、

(やけるようにめがいたみだしたんです。こいのらいばるのちというやつには、)

焼けるように目が痛み出したんです。恋のライバルの血という奴には、

(じつにおそろしいちからがあるものですねえ。わたしは、やつのしがいも、たんとうもすてて、)

実に恐ろしい力があるものですねえ。私は、奴の死骸も、短刀も捨てて、

(みぎめをおさえたまま、いちもくさんにまちのほうへはしってきたんですが、)

右目を押えたまま、一目散に町の方へ走ってきたんですが、

(どうにもこうにもいたくてしかたがないので、)

どうにもこうにも痛くて仕方がないので、

(あるちいさなびょういんへとびこんだのです。いんちょうはめいしゃではなかったですが、)

ある小さな病院へとびこんだのです。院長は眼医者ではなかったですが、

(わたしがさんびゃくえんほどはいっているさいふをなげだして、)

私が三百円ほど入っている財布を投げ出して、

((ほかにもごひゃくえんほど、たかとびするつもりではらまきのなかにもっていましたが))

(他にも五百円ほど、高飛びするつもりで腹巻きの中に持っていましたが)

(どうかとうぶんのあいだにゅういんさせてくれといったら、おかねにめがくらんだのか、)

どうか当分のあいだ入院させてくれと言ったら、お金に目がくらんだのか、

(すじょうもきかずにびょうしつをあてがって、それからめをしんさつしてくれましたが、)

素性も聞かずに病室をあてがって、それから目を診察してくれましたが、

(めずらしいめのしゅっけつだといって、しばらくあらってくれたから、)

珍しい目の出血だと言って、しばらく洗ってくれたから、

(さいわいにもしゅっけつはとまりましたよ。ひひ、とまるのがあたりまえです。)

幸いにも出血は止まりましたよ。ヒヒ、止まるのが当たり前です。

(ところが、ちはとまってもいたみがどうしてもとまりません。)

ところが、血は止まっても痛みがどうしてもとまりません。

(でいんちょうは、とりあえずもるひねをいっかいちゅうしゃしてくれましたが、)

で院長は、とりあえずモルヒネを一回注射してくれましたが、

(もるひねのちからはすごいものでさんじゅっぷんたたぬうちに、)

モルヒネの力はすごいもので三十分たたぬうちに、

(いたみはけろりとなおりました。さて、よくじつのばん、やつをやっつけた)

痛みはケロリと治りました。さて、翌日の晩、奴をやっつけた

(おなじじこくになると、みぎめがまたもやずきんずきんといたみだしました。)

同じ時刻になると、右目がまたもやズキンズキンと痛みだしました。

(で、またもるひねをちゅうしゃしてもらいましたら、いたみはけろりとなおりました。)

で、またモルヒネを注射してもらいましたら、痛みはケロリと治りました。

(するとまた、そのよくじつのおなじじこくに、みぎめがまえのばんよりもいっそうはげしく、)

するとまた、その翌日の同じ時刻に、右目が前の晩よりも一層激しく、

(ずきんずきんといたみだしました。そこでまたもるひねのちゅうしゃを)

ズキンズキンと痛みだしました。そこでまたモルヒネの注射を

(してもらいましたが、こんどはいっかいではきかず、にかいではじめていたみをわすれました。)

して貰いましたが、今度は一回では効かず、二回で始めて痛みを忘れました。

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