『赤ずきん』グリム1
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問題文
(むかしむかし、あるところにちっちゃな、かわいいおんなのこがおりました。)
むかしむかし、ある所にちっちゃな、可愛い女の子がおりました。
(そのこは、ちょっとみただけで、どんなひとでもかわいくおもうようなこでしたが、)
その子は、ちょっと見ただけで、どんな人でも可愛く思うような子でしたが、
(だれよりもいちばんかわいがっていたのは、このこのおばあさんでした。)
誰よりも一番可愛がっていたのは、この子のおばあさんでした。
(おばあさんは、このこのかおをみると、なんでもやりたくなってしまって、)
おばあさんは、この子の顔を見ると、なんでもやりたくなってしまって、
(いったいなにをやったらいいのか、わからなくなってしまうほどでした。)
一体なにをやったらいいのか、分からなくなってしまうほどでした。
(あるとき、おばあさんはこのこに、あかいぬのでかわいいずきんをつくってやりました。)
ある時、おばあさんはこの子に、赤い布で可愛いずきんを作ってやりました。
(すると、それがまたこのこにとってもよくにあっておりましたので、)
すると、それがまたこの子にとってもよく似合っておりましたので、
(それからは、もうほかのものはちっともかぶらなくなってしまいました。)
それからは、もうほかのものはちっともかぶらなくなってしまいました。
(それで、このこは、みなに「あかずきんちゃん」とよばれるようになりました。)
それで、この子は、みなに「赤ずきんちゃん」と呼ばれるようになりました。
(あるひ、おかあさんがあかずきんちゃんをよんで、いいました。)
ある日、お母さんが赤ずきんちゃんを呼んで、言いました。
(「あかずきんちゃん、ちょっとおいで。)
「赤ずきんちゃん、ちょっとおいで。
(ここにおかしがひとつと、ぶどうしゅがひとびんあるでしょう。)
ここにお菓子が一つと、ブドウ酒が一瓶あるでしょう。
(これをね、おばあさんのところへもっていってちょうだい。)
これをね、おばあさんの所へ持って行ってちょうだい。
(おばあさんはびょうきで、よわっていらっしゃるけれど、こういうものをあげると、)
おばあさんは病気で、弱っていらっしゃるけれど、こういうものをあげると、
(きっとげんきになるのよ。じゃ、あつくならないうちに、いってらっしゃい。)
きっと元気になるのよ。じゃ、暑くならないうちに、いってらっしゃい。
(それからね、そとへでたら、おぎょうぎよくあるいていくのよ。)
それからね、外へ出たら、お行儀よく歩いて行くのよ。
(よこみちへかけだしていったりするんじゃありませんよ。)
横道へ駆け出して行ったりするんじゃありませんよ。
(そんなことをすれば、ころんでびんをこわしてしまって、)
そんなことをすれば、転んで瓶を壊してしまって、
(おばあさんにあげるものが、なんにもなくなってしまうからね。)
おばあさんにあげるものが、なんにもなくなってしまうからね。
(それから、おばあさんのおへやにはいったら、)
それから、おばあさんのお部屋に入ったら、
(いちばんさきに、おはようございますって、あいさつするのをわすれちゃだめよ。)
一番先に、おはようございますって、あいさつするのを忘れちゃだめよ。
(そうして、はいるといっしょに、そこらじゅうをみまわしたりするんじゃありませんよ」)
そうして、入ると一緒に、そこら中を見回したりするんじゃありませんよ」
(「だいじょうぶよ」と、あかずきんちゃんはおかあさんにいって、)
「大丈夫よ」と、赤ずきんちゃんはお母さんに言って、
(やくそくのしるしにゆびきりをしました。)
約束のしるしに指きりをしました。
(ところで、おばあさんのうちは、あるいて、むらからはんじかんもかかる)
ところで、おばあさんのうちは、歩いて、村から半時間もかかる
(もりのなかにありました。あかずきんちゃんがもりのなかへはいりますと、)
森の中にありました。赤ずきんちゃんが森の中へ入りますと、
(おおかみがひょっこりでてきました。でも、あかずきんちゃんは、)
オオカミがヒョッコリ出てきました。でも、赤ずきんちゃんは、
(おおかみがわるいけだものだということを、ちっともしりませんでした。)
オオカミが悪いケダモノだということを、ちっとも知りませんでした。
(ですから、べつにこわいともおもいませんでした。)
ですから、別に怖いとも思いませんでした。
(「こんにちは、あかずきんちゃん」と、おおかみがいいました。)
「こんにちは、赤ずきんちゃん」と、オオカミが言いました。
(「こんにちは、おおかみさん」「こんなにはやくから、どこへいくの」)
「こんにちは、オオカミさん」「こんなに早くから、どこへ行くの」
(「おばあさんのとこよ」「まえかけのしたにもっているのは、なあに」)
「おばあさんのとこよ」「まえかけの下に持っているのは、なあに」
(「おかしとぶどうしゅよ。きのう、おうちでやいたのよ。)
「お菓子とブドウ酒よ。きのう、おうちで焼いたのよ。
(おばあさんがびょうきで、よわっているでしょう。)
おばあさんが病気で、弱っているでしょう。
(これをあげると、からだにちからがつくのよ」)
これをあげると、体に力がつくのよ」
(「おばあさんのおうちはどこなの、あかずきんちゃん」)
「おばあさんのおうちはどこなの、赤ずきんちゃん」
(「もっともっともりのおくで、まだじゅうごふんぐらいかかるわ。)
「もっともっと森の奥で、まだ十五分ぐらいかかるわ。
(おおきなかしのきがさんぼんたっているそのしたに、おばあさんのおうちがあるのよ。)
大きなカシの木が三本立っているその下に、おばあさんのおうちがあるのよ。
(まわりには、くるみのいけがきがあるわ。あなた、しっているでしょう」と、)
周りには、クルミの生け垣があるわ。あなた、知っているでしょう」と、
(あかずきんちゃんはいいました。おおかみは、こころのなかでかんがえました。)
赤ずきんちゃんは言いました。オオカミは、心の中で考えました。
(「わかくてやわらかそうなこむすめめ、こいつはあぶらがのってて、うまそうだ。)
「若くて柔らかそうな小娘め、こいつはあぶらが乗ってて、うまそうだ。
(ばあさんよりうまかろう。よし、なんとかくふうして、)
ばあさんよりうまかろう。よし、なんとか工夫して、
(りょうほうともごちそうになろう」そこで、おおかみは、しばらくのあいだ)
両方ともごちそうになろう」そこで、オオカミは、しばらくのあいだ
(あかずきんちゃんとならんであるいていきましたが、やがて、)
赤ずきんちゃんと並んで歩いて行きましたが、やがて、
(「あかずきんちゃん。まあ、そこらじゅうにさいているきれいなはなをみてごらんよ。)
「赤ずきんちゃん。まあ、そこら中に咲いているきれいな花を見てごらんよ。
(きみは、なんだって、まわりをながめてみないんだい。)
きみは、なんだって、周りをながめてみないんだい。
(ほら、ことりがあんなにかわいいこえでうたをうたっているんだぜ。)
ほら、小鳥があんなに可愛い声で歌を歌っているんだぜ。
(だけど、それもきみのみみにはまるではいらないみたいじゃないか。)
だけど、それもきみの耳にはまるで入らないみたいじゃないか。
(きみは、がっこうへでもいくように、まっすぐまえばかりむいてあるいているね。)
きみは、学校へでも行くように、まっすぐ前ばかり向いて歩いているね。
(もりのなかは、こんなにたのしいってのになあ」と、いいました。)
森の中は、こんなに楽しいってのになあ」と、言いました。
(いわれて、あかずきんちゃんはめをあげてみました。)
言われて、赤ずきんちゃんは目を上げてみました。
(すると、おひさまのひかりがきときのあいだからもれてきて、)
すると、お日様の光が木と木のあいだから漏れてきて、
(あっちでもこっちでもだんすをしています。)
あっちでもこっちでもダンスをしています。
(それから、あたりいちめんきれいなおはながいっぱいです。)
それから、辺り一面きれいなお花がいっぱいです。
(それをみて、あかずきんちゃんは、)
それを見て、赤ずきんちゃんは、
(「おばあさんに、つんだばかりのはなではなたばをつくって、もってってあげたら、)
「おばあさんに、摘んだばかりの花で花束を作って、持ってってあげたら、
(きっとおよろこびになるわ。まだこんなにはやいんだから、だいじょうぶ。)
きっとお喜びになるわ。まだこんなに早いんだから、大丈夫。
(じかんまでにはいかれるわ」と、おもいました。)
時間までには行かれるわ」と、思いました。
(そして、よこみちにそれて、いろんなはなをさがしながら、)
そして、横道にそれて、色んな花を探しながら、
(もりのおくへはいっていきました。そうして、はなをひとつおるたびに、)
森の奥へ入っていきました。そうして、花を一つ折るたびに、
(もっとさきへいったら、もっときれいなはながあるようなきがするのでした。)
もっと先へ行ったら、もっときれいな花があるような気がするのでした。
(こうして、はなからはなをさがしてあるいているうちに、)
こうして、花から花を探して歩いているうちに、
(だんだんもりのおくへとはいりこみました。ところが、おおかみのほうは、)
段々森の奥へと入りこみました。ところが、オオカミのほうは、
(そのあいだに、まっすぐおばあさんのいえへかけていって、)
そのあいだに、まっすぐおばあさんの家へ駆けて行って、
(とんとんととをたたきました。「どなたですか」)
トントンと戸を叩きました。「どなたですか」
(「あかずきんよ。おかしとぶどうしゅをもってきたの。あけてちょうだい」)
「赤ずきんよ。お菓子とブドウ酒を持って来たの。あけてちょうだい」
(「とってをおしておくれ」と、おばあさんがおおきなこえでいいました。)
「取っ手を押しておくれ」と、おばあさんが大きな声で言いました。
(「おばあちゃんはね、からだがよわっていて、おきられないんだよ」)
「おばあちゃんはね、体が弱っていて、起きられないんだよ」
(おおかみがとってをおしますと、とがいきおいよくあきました。)
オオカミが取っ手を押しますと、戸が勢いよくあきました。
(おおかみはなんにもいわずに、いきなりおばあさんのねどこのところへいって、)
オオカミはなんにも言わずに、いきなりおばあさんの寝床の所へ行って、
(おばあさんをひとくちにのみこんでしまいました。)
おばあさんを一口に飲みこんでしまいました。
(それから、おばあさんのきものをきて、おばあさんのずきんをかぶって、)
それから、おばあさんの着物を着て、おばあさんのずきんをかぶって、
(おばあさんのねどこによこになって、ねどこのまわりにあるかーてんをひきました。)
おばあさんの寝床に横になって、寝床の周りにあるカーテンを引きました。