田舎 中編-3-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5291 B++ 5.5 95.7% 908.9 5032 223 85 2024/10/09
2 daifuku 3840 D++ 4.1 94.0% 1194.1 4898 312 85 2024/10/23

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問題文

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(なにもあしにふれるはずのないすいしんで、「なにか」にさわってしまったら・・・・・・)

なにも足に触れるはずのない水深で、「なにか」に触ってしまったら……

(そうおもうと、いてもたってもいられず、みずからでたくなる。)

そう思うと、いてもたってもいられず、水から出たくなる。

(ましていま、かわのまんなかにだれのものともつかないつちけいろをした)

まして今、川の真ん中に誰のものともつかない土気色をした

(「て」がつきでているのがみえているじょうきょうでは、とてもむりだ。)

「手」が突き出ているのが見えている状況では、とても無理だ。

(「て」にきがついたときにはかなりどきっとしたが、)

「手」に気がついた時にはかなりドキッとしたが、

(そのみゃくらくのなさにじぶんでもどうはんのうしていいのかわからないかんじで、)

その脈絡のなさに自分でもどう反応していいのかわからない感じで、

(とりあえずしんこきゅうをした。ししょうたちのおよいでいるばしょからさらにかりゅう。)

とりあえず深呼吸をした。師匠たちの泳いでいる場所からさらに下流。

(いわはだのしゃめんからおおいかぶさるようなやぶがつきでていて、)

岩肌の斜面から覆いかぶさるような藪が突き出ていて、

(そのかげがおちているあたり。どうみてもにんげんのてにみえるそれが、)

その影が落ちているあたり。どう見ても人間の手に見えるそれが、

(にのうでからうえをすいめんにだして、なにかをつかもうとするように)

二の腕から上を水面に出して、なにかを掴もうとするように

(てのひらをひろげている。ししょうたちはきづいていない。)

手のひらを広げている。師匠たちは気づいていない。

(おれはめがねをそろそろとずらしてみる。)

俺は眼鏡をそろそろとずらしてみる。

(ぼやけていくしかいのなかで、その「て」だけがりんかくをたもっていた。)

ぼやけていく視界の中で、その「手」だけが輪郭を保っていた。

(ああ、やっぱりと、おもう。そこにしつりょうをもってそんざいするぶったいであるなら、)

ああ、やっぱりと、思う。そこに質量を持って存在する物体であるなら、

(らがんでみるとほかのけしきとおなじようにぼやけるはずなのだ。)

裸眼で見ると他の景色と同じようにぼやけるはずなのだ。

(このよのものではないものをみわけるほうほうとしてししょうにならったのだったが、)

この世のものではないモノを見分ける方法として師匠に習ったのだったが、

(おれはゆめからさめるためのぎじゅつとしてにたようなことをしていたので、)

俺は夢から覚めるための技術として似たようなことをしていたので、

(わりとていこうなくうけいれられた。)

わりと抵抗なく受け入れられた。

(あくむをみてしまうとほっぺたをつねってめをさます、なんていうやりかたが)

悪夢を見てしまうとほっぺたをつねって目を覚ます、なんていうやり方が

(きかなくなってきたちゅうがくせいのころ、おれは「ゆめなんてしょせん、)

効かなくなってきた中学生のころ、俺は「夢なんてしょせん、

など

(おれののうみそがつくりだしたせかいだ」というさめたしこうのもとに、)

俺の脳味噌が作り出した世界だ」という醒めた思考のもとに、

(そののうみそがしょりしきれないことをしてやればゆめはそこでおわるとかんがえた。)

その脳味噌が処理しきれないことをしてやれば夢はそこで終わると考えた。

(ゆめからさめたいとおもったら、ほんをさがすのだ。もしくはしんぶんでもいい。)

夢から覚めたいと思ったら、本を探すのだ。もしくは新聞でもいい。

(とにかく、おれがしるはずのないものをみること。)

とにかく、俺が知るはずのないものを見ること。

(そして、そこにかいてあるじょうほうりょうがぺーじをこうせいするのに)

そして、そこに書いてある情報量がページを構成するのに

(たりないことをかくにんし、「ざまあみろのうみそ」とわらう。)

足りないことを確認し、「ざまあみろ脳味噌」と嗤う。

(ほんしつからしてつごうよくできているゆめなのだから、「ほんをよもう」とすると、)

本質からして都合よくできている夢なのだから、「本を読もう」とすると、

(それなりにほんっぽいつくりになっているかもしれない。)

それなりに本っぽいつくりになっているかも知れない。

(しかし、なかみはむりなのだ。)

しかし、中身は無理なのだ。

(せかいをひていしたくてぶんしょうをよんでいるおれと、せかいをなりたたせるために)

世界を否定したくて文章を読んでいる俺と、世界を成り立たせるために

(いっしゅんでこうちくされるぶんしょう、そのふたつをどうじにおこなうにはのうのしょりそくどが)

一瞬で構築される文章、その二つを同時に行うには脳の処理速度が

(ぜったいにおいつかない。そして、ばけのかわがはがれたようにゆめがこわれていく。)

絶対に追いつかない。そして、化けの皮が剥がれたように夢が壊れていく。

(そうしてめをさますのはおれのかいかんでもあった。)

そうして目を覚ますのは俺の快感でもあった。

(それとおなじことが、このめがねをずらすしゅほうにもいえる。)

それと同じことが、この眼鏡をずらす手法にも言える。

(かりにとほうもなくりあるななまくびのげんかくをみたとして、ああ、これはげんじつだろうか)

仮に途方もなくリアルな生首の幻覚を見たとして、ああ、これは現実だろうか

(とかんがえたとき、めがねをずらしてみる。すると、げんじつにはそんざいしないなまくびだけは、)

と考えたとき、眼鏡をずらしてみる。すると、現実には存在しない生首だけは、

(ぼやけていくせかいからとりのこされたように、くっきりとうかびあがってくる。)

ぼやけていく世界から取り残されたように、くっきりと浮かび上がってくる。

(もしのうのなんらかのさようで、「めがねをずらしたらなまくびもぼやける」)

もし脳のなんらかの作用で、「眼鏡をずらしたら生首もぼやける」

(というせんざいてきなにんしきのもとになまくびもぼやけてみえたとしても、)

という潜在的な認識のもとに生首もぼやけて見えたとしても、

(それは「そのきょりであればこのくらいぼやける」というせいかくなすがたをしめさない。)

それは「その距離であればこのくらいぼやける」という正確な姿を示さない。

(かならずほかのけしきとは「ぼやけぐあい」がくいちがってみえる。)

必ず他の景色とは「ぼやけ具合」が食い違って見える。

(それがいっしゅんでさまざまなしょりをしなくてはならないのうみそのげんかいなのだとおもう。)

それが一瞬で様々な処理をしなくてはならない脳味噌の限界なのだと思う。

(だが、げんかくはまた、ゆめともちがう。ああ、こいつはまぼろしだときづいたところで、)

だが、幻覚はまた、夢とも違う。ああ、コイツは幻だと気づいたところで、

(きえてくれるものときえないものとがあるのだ。)

消えてくれるものと消えないものとがあるのだ。

(「うおっ」というこえがあがり、cocoさんとぶつかりそうになったししょうが)

「うおっ」という声があがり、CoCoさんとぶつかりそうになった師匠が

(たちおよぎにきりかえる。「かわでばたふらいするな」)

立ち泳ぎに切り替える。「川でバタフライするな」

(そんなことをいいながらcocoさんのほうへみずでっぽうをとばす。)

そんなことを言いながらCoCoさんのほうへ水鉄砲を飛ばす。

(そのすぐはいごには、すいめんからつきでたて。)

そのすぐ背後には、水面から突き出た手。

(おもわずししょうにけいこくしようとした。しかし、なにかきけんなものであるなら、)

思わず師匠に警告しようとした。しかし、なにか危険なものであるなら、

(おれがきづいてししょうがきづかないなんてことがあるのだろうか。)

俺が気づいて師匠が気づかないなんてことがあるのだろうか。

(ならばこれはただのまぼろしなのだ。おれのこじんてきなげんかくを、たにんがおびえるひつようはない。)

ならばこれはただの幻なのだ。俺の個人的な幻覚を、他人が怯える必要はない。

(けれど、なぜいまそんなものがみえるのか・・・・・・)

けれど、なぜ今そんなものが見えるのか……

(うすらさむいものがせなかをはいあがってくる。)

薄ら寒いものが背中を這い上がってくる。

(ししょうはなにもきづかないようすでふたたびひらおよぎにもどり、)

師匠はなにも気づかない様子で再び平泳ぎに戻り、

(「て」からはなれてじょうりゅうのほうへやってくる。おれは「て」からめをはなせない。)

「手」から離れて上流の方へやってくる。俺は「手」から目を離せない。

(ひじもまげず、まるでいっぽんのあしのようにながれにさからってひとつじょにとどまっている。)

肘も曲げず、まるで一本の葦のように流れに逆らってひとつ所に留まっている。

(そこからなんらかのいしをかんじようとして、じっとみつめる。)

そこからなんらかの意思を感じようとして、じっと見つめる。

(ふいにcocoさんがかわぶちでこえをあげた。「これって、なんだろう」)

ふいにCoCoさんが川縁で声をあげた。「これって、なんだろう」

(そちらをみると、すいめんからわずかにでっぱっているいしにへばりつくように、)

そちらを見ると、水面からわずかに出っ張っている石にへばりつくように、

(しろいものがある。ちかよってきたきょうすけさんがむぞうさにゆびでつまむ。)

白いものがある。近寄って来た京介さんが無造作に指でつまむ。

(それはみずにぬれたかみのようにみえた。)

それは水に濡れた紙のように見えた。

(あっ、とおもうまもなくそのしろいものがちぎれてみずにおち、ながされていった。)

あっ、と思う間もなくその白いものが千切れて水に落ち、流されていった。

(ゆびにのこったものをしげしげとみていたきょうすけさんが、「かみだ」という。)

指に残ったものをしげしげと見ていた京介さんが、「紙だ」と言う。

(「めがある」そうつづけて、のこされたぶぶんにあるわずかな)

「目がある」そう続けて、残された部分にあるわずかな

(きれこみをそらにかざした。たしかにそこにはふたつぽっかりとあながあき、)

切れ込みを空にかざした。たしかにそこには二つぽっかりと穴が開き、

(それまるでいきもののめをかたどっているようにみえた。「よくそんなのさわれるな」)

それまるで生き物の目を象っているように見えた。「よくそんなの触れるな」

(ししょうがざぶざぶとかわからあがりながらいう。)

師匠がざぶざぶと川から上がりながら言う。

(きょうすけさんのしせんがつめたくうつり、なにもかえさずにそのしろいかみをみずになげた。)

京介さんの視線が冷たく移り、何も返さずにその白い紙を水に投げた。

(かみはしずみそうになりながらもながれにのった。ぜんいんのしせんがしぜんとそこにむかう。)

紙は沈みそうになりながらも流れに乗った。全員の視線が自然とそこに向かう。

(かりゅうで、やぶのかげがおちているあたりをとおりすぎるとき、)

下流で、藪の影が落ちているあたりを通り過ぎるとき、

(あの「て」がもうみえないことにきがついた。)

あの「手」がもう見えないことに気がついた。

(まるでとけるようにきえてしまっていた。)

まるで溶けるように消えてしまっていた。

(じさんしていたたおるでからだをふいて、おれたちはかわらをでた。)

持参していたタオルで体を拭いて、俺たちは河原を出た。

(つめたいかわのみずにつかったことで、さっきまでのまとわりつくような)

冷たい川の水に浸かったことで、さっきまでのまとわりつくような

(あついくうきがうそのようにむしょうして、すずしいくらいだった。)

熱い空気が嘘のように霧消して、涼しいくらいだった。

(けれどそれもいっしゅんのことで、あるきはじめるとすぐに)

けれどそれも一瞬のことで、歩き始めるとすぐに

(またじっとりとあせがうきでてくる。)

またじっとりと汗が浮き出てくる。

(くるまにもどるまえによりみちをして、ちかくのしょうてんであいすをかった。)

車に戻る前に寄り道をして、近くの商店でアイスを買った。

(みせのおばちゃんはみしらぬわかものたちをふしんそうにみながらも、)

店のおばちゃんは見知らぬ若者たちを不審そうに見ながらも、

(ぼうあいすをよんほんだしてくれた。そういえばきょうはへいじつなのだった。)

棒アイスを4本出してくれた。そういえば今日は平日なのだった。

(ましてわかもののきょくたんにすくないかそのむらだ。)

まして若者の極端に少ない過疎の村だ。

(ちいさいころ、なんどかここであいすをかっただけのおれのかおをおぼえていないのも)

小さい頃、何度かここでアイスを買っただけの俺の顔を覚えていないのも

(むりはなく、よそものがきたというていどのにんしきしかなかっただろう。)

無理はなく、よそ者が来たという程度の認識しかなかっただろう。

(ひらいてるのかどうかもよくわからないみせがさん、よんけんならんでいるだけの、)

開いてるのかどうかもよくわからない店が3、4軒並んでいるだけの、

(みちばたのささやかないっかくだった。)

道端のささやかな一角だった。

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