葬式

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(だいがくにかいせいのしょしゅう。)

大学2回生の初秋。

(さーくるのせんぱいとふたりでこんびににしょくりょうをかいにいった、そのかえりみち。)

サークルの先輩と二人でコンビニに食料を買いに行った、その帰り道。

(じゅうたくがいのおおどおりからわきにはいるせまいみちがあり、そのてまえにさしかかったときに、)

住宅街の大通りから脇に入る狭い道があり、その手前に差し掛かった時に、

(かるいみみなりにおそわれた。そのちょくご、めのまえのどうろのうえに)

軽い耳鳴りに襲われた。その直後、目の前の道路の上に

(ぼんやりとしたかげがみえたきがした。たちどまりながらめがねをふいたが、)

ぼんやりとした影が見えた気がした。立ち止まりながら眼鏡を拭いたが、

(やはりにんげんくらいのおおきさのかげがくらくらとゆれている。)

やはり人間くらいの大きさの影がくらくらと揺れている。

(なんだかげんじつかんがうすい。)

なんだか現実感が薄い。

(よっつかいつつくらいのかげがゆれながらせまいみちのほうへまがっていった。)

4つか5つくらいの影が揺れながら狭い道の方へ曲がっていった。

(そのむこうにはどこにでもあるひるまのじゅうたくがいのこうけいがひろがっている。)

その向こうにはどこにでもある昼間の住宅街の光景が広がっている。

(せんぱいがそのつじにむかい、かげがまがっていったみちのほうをみる。)

先輩がその辻に向かい、影が曲がっていった道の方を見る。

(「あれか」おれもそれをまねてのぞきこむようにたちどまる。)

「あれか」俺もそれを真似て覗き込むように立ち止まる。

(じゅうたくがたちならぶみちのむこうにくじらまくのしろとくろのもようがみえた。)

住宅が立ち並ぶ道の向こうに鯨幕の白と黒の模様が見えた。

(そしていくつものかげがうつろうようなたよりなさで、とじょうにある。)

そしていくつもの影が移ろうような頼りなさで、途上にある。

(なんだかきもちがわるい。ねこのれきしたいをみたときのような。)

なんだか気持ちが悪い。猫の礫死体を見たときのような。

(「そういえばさいじょうがありましたね」「うん・・・・・・」からへんじがかえってきた。)

「そういえば斎場がありましたね」「うん……」カラ返事が返ってきた。

(このよのものではないものをごくにちじょうてきにみているひとにとって、)

この世のものではないものをごく日常的に見ている人にとって、

(このこうけいはあまりきょうみをひかれないものなのだろうか。)

この光景はあまり興味を惹かれないものなのだろうか。

(「あれがみえるようになったのか」きょねんのいまごろはきがつかなかったのにな・・・・・・)

「あれが見えるようになったのか」去年の今頃は気がつかなかったのにな……

(そんな、かるいぶべつのちょうしにじぶんのことをいわれているのだとわかった。)

そんな、軽い侮蔑の調子に自分のことを言われているのだとわかった。

(なかばおそれ、なかばばかにしてししょうとよぶそのひとは、おれにみえていないものを)

半ば畏れ、半ば馬鹿にして師匠と呼ぶその人は、俺に見えていないものを

など

(あえておしえないすたんすだった。いやなせいかくだ。)

あえて教えないスタンスだった。嫌な性格だ。

(「なんなんですか」)

「なんなんですか」

(「あれは、まあ、ゆうれいのるいだけど。ひかりにむらがるむしといったらしっくりくるかな」)

「あれは、まあ、幽霊の類だけど。光に群がる虫と言ったらしっくりくるかな」

(むしとはあんまりだ。そうおもったしゅんかんとおくのかげがひとつ、ひょうりのないまま)

虫とはあんまりだ。そう思った瞬間遠くの影がひとつ、表裏のないまま

(こちらをむいたようなきがした。)

こちらを向いたような気がした。

(「そうしきはしとみっせつにつながっている、といういめーじがにほんじんの)

「葬式は死と密接につながっている、というイメージが日本人の

(めんたりてぃにそんざいするかぎり、まいとしまいとしせいさんされつづけるししゃにとっても)

メンタリティに存在する限り、毎年毎年生産され続ける死者にとっても

(やっぱりとくべつにきになるばなんだろう」でもまあむしだよ。)

やっぱり特別に気になる場なんだろう」でもまあ虫だよ。

(ししょうはくじらまくのみえるほうへあるきはじめた。おれもつづいてせまいみちへはいる。)

師匠は鯨幕の見える方へ歩き始めた。俺も続いて狭い道へ入る。

(すこしあるきにくい。きがする。)

少し歩きにくい。気がする。

(うっすらとしたかげがふんでいったばしょが、ねとつくような。)

うっすらとした影が踏んでいった場所が、ねとつくような。

(もふくをきたひとたちがおおぜいでいりしているたてものについた。とおまきにたちどまる。)

喪服を着た人たちが大勢出入りしている建物についた。遠巻きに立ち止まる。

(こくべつしきがはじまるのだろうか。いりぐちでてまねきするひとにせかされて、)

告別式が始まるのだろうか。入り口で手招きする人に急かされて、

(おばさんがすうにんこばしりにおれたちのまえをとおりすぎた。)

おばさんが数人小走りに俺たちの前を通り過ぎた。

(くろいふくのひとびとにまじるように、りんかくのさだまらないかげたちもそうしきじょうへはいっていく。)

黒い服の人々に混じるように、輪郭の定まらない影たちも葬式場へ入っていく。

(いぶつ。そんなことばがうかび、ひどくきぶんがわるくなった。)

異物。そんな言葉が浮かび、ひどく気分が悪くなった。

(ししょうはつまらなそうなひょうじょうでそのこうけいをながめている。)

師匠はつまらなそうな表情でその光景を眺めている。

(ふと、こどものころにたいけんしたふしぎなできごとをおもいだした。)

ふと、子供の頃に体験した不思議な出来事を思い出した。

(「おそうしきにいくのよ」と、ははおやにつれられてひとがたくさんいるばしょにいったきおく。)

「お葬式にいくのよ」と、母親に連れられて人が沢山いる場所に行った記憶。

(ずいぶんはやくついたようで、じゃりがしきつめられたしきちのなかで、)

随分早く着いたようで、砂利が敷き詰められた敷地の中で、

(はじめてみるようなおじさんやおばさんたちとあいさつをかわすははおやに)

始めて見るようなおじさんやおばさんたちと挨拶を交わす母親に

(ついてまわっていたが、それもだんだんたいくつになり、「おしっこ」といって)

ついて回っていたが、それもだんだん退屈になり、「おしっこ」と言って

(そのばをぬけだした。ひとりであるいていると、たちならぶおおきなはなのかげに)

その場を抜け出した。一人で歩いていると、立ち並ぶ大きな花の陰に

(てまねきしているおんなのこがいる。あそぼうよ。というのである。そしてふたりして)

手招きしている女の子がいる。遊ぼうよ。と言うのである。そして二人して

(あちこちをたんけんしてまわった。おとなのきづかないたのしいばしょをさがして。)

あちこちを探検して回った。大人の気づかない楽しい場所を探して。

(やがてははおやにみつかり、「おしょうこうあげるのよ」とつれもどされる。)

やがて母親に見つかり、「お焼香あげるのよ」と連れ戻される。

(あのこはどこにいっただろうとふりかえるけれど、すがたはみえなかった。)

あの子はどこに行っただろうと振り返るけれど、姿は見えなかった。

(きくずみたいなものをちろちろもえるはいのなかにおとしてかおをあげると、)

木屑みたいなものをチロチロ燃える灰の中に落として顔を上げると、

(においのつよいはなにかこまれたしゃしんたてのなかに、さっきまであそんでいたおんなのこがいる。)

匂いの強い花に囲まれた写真立ての中に、さっきまで遊んでいた女の子がいる。

(しぬということがよくわからなかったころ。)

死ぬということがよくわからなかったころ。

(それでも、よくわからないままに、なぜかすこしかなしかった。)

それでも、よくわからないままに、なぜか少し悲しかった。

(そんなおもいでにひたっていると、さいじょうがざわめきはじめる。)

そんな思い出に浸っていると、斎場がざわめき始める。

(こくべつしきがおわったようだ。まだいちじかんもたっていない。むかしはぼうさんのおきょうが)

告別式が終わったようだ。まだ1時間も経っていない。昔は坊さんのお経が

(えんえんとつづいて、やたらとながかったいんしょうばかりあるが。これもじだいせいなのか。)

延々と続いて、やたらと長かった印象ばかりあるが。これも時代性なのか。

(おれとししょうがみているまえで、しゅっかんのためのれいきゅうしゃがまわされてくる。)

俺と師匠が見ている前で、出棺のための霊柩車が回されてくる。

(いつみてもじょうだんとしかおもえないふぉるむだ。)

いつ見ても冗談としか思えないフォルムだ。

(やがてみおくりのおおくのひとびとのまえでしらきのかんおけがくるまにつみこまれる。)

やがて見送りの多くの人々の前で白木の棺桶が車に積み込まれる。

(そのなかではんかちでなみだをふくおばさんがめにはいったが、)

その中でハンカチで涙を拭くおばさんが目に入ったが、

(よこがおをじっとみているとえんぎだとわかる。)

横顔をじっと見ていると演技だとわかる。

(ためいきがでそうになったが、そのとき、はんかちをもったそのてにうっすらと)

溜息が出そうになったが、その時、ハンカチを持ったその手にうっすらと

(りんかくのまとまらないかげがかきついているようにみえた。)

輪郭のまとまらない影が掻き付いているように見えた。

(よくみると、もふくすがたのひとびとのてにあたりにおおくのかげがまとわりついている。)

よく見ると、喪服姿の人々の手にあたりに多くの影がまとわりついている。

(はきけがして、くちをおさえる。)

吐き気がして、口を押さえる。

(かげはのろのろとうごきながら、てのなかでもゆび、それもおやゆびをさわったり)

影はのろのろと動きながら、手の中でも指、それも親指をさわったり

(にぎりこんだり、つまんだりしている。されているひとはきづかない。)

握りこんだり、つまんだりしている。されている人は気づかない。

(これからはっしゃしようするれいきゅうしゃをおもいおもいのかなしみかたでみまもっているだけだ。)

これから発車しようする霊柩車を思い思いの悲しみ方で見守っているだけだ。

(ししょうのかおをみると、「くだらない」とひとこといってかたをすくめた。)

師匠の顔を見ると、「くだらない」と一言いって肩を竦めた。

(れいきゅうしゃをみたら、おやゆびをかくせ。そんなめいしんがたしかにある。)

霊柩車を見たら、親指を隠せ。そんな迷信が確かにある。

(おれもちいさいころ、いつのまにかすりこまれていた。めいしんだとばかりおもっていた。)

俺も小さい頃、いつの間にかすり込まれていた。迷信だとばかり思っていた。

(めのまえのこうけいに、ぼうだちのあしがふるえる。)

目の前の光景に、棒立ちの足が震える。

(ししょうがおれをみて「めいしんだろうが、なんだろうが」といった。)

師匠が俺を見て「迷信だろうが、なんだろうが」と言った。

(「にほんじんのこもんせんすになってしまったものは、ししゃにとってもそうなのさ」)

「日本人のコモンセンスになってしまったものは、死者にとってもそうなのさ」

(かろうじてひとのかたちをもしているかげたちが、ひるひなかのどうろにうごめいている。)

辛うじて人の形を模している影たちが、昼ひなかの道路に蠢いている。

(そしていならぶひとびとのおやゆびを、ひたすらいじっている。)

そして居並ぶ人々の親指を、ひたすらいじっている。

(まるでどうしていいかわからないようすで。なんだかとてもかなしくなった。)

まるでどうしていいか分からない様子で。なんだかとても悲しくなった。

(「おやまだともきよっていうえどじだいのずいひつかが「まつやひっき」のなかで)

「小山田与清っていう江戸時代の随筆家が『松屋筆記』の中で

(こんなことをいっている。おやゆびのつめかんからこんぱくがでいりするために)

こんなことを言っている。親指の爪間から魂魄が出入りするために

(いふのときにはにぎりかくすってね。むかしからあるめいしんなのに、)

畏怖の時には握り隠すってね。昔からある迷信なのに、

(なぜかくすのかってぶぶんがわすれさられてしまっている。おしえてやれば、)

なぜ隠すのかって部分が忘れ去られてしまっている。教えてやれば、

(きっとよろこぶよ」よろこんで、おやゆびのつめのあいだからいりこもうとするよ。)

きっと喜ぶよ」喜んで、親指の爪の間から入りこもうとするよ。

(きもちわるい。うごめくかげ。かんだかいくらくしょんのおと。しらじらしいなみだ。)

気持ち悪い。蠢く影。甲高いクラクションの音。白々しい涙。

(くろとしろのまく。たえがたいはきけと、おれはたたかいつづけた。)

黒と白の幕。耐え難い吐き気と、俺は戦い続けた。

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