跳ぶ-1-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5367 | B++ | 5.5 | 96.5% | 916.6 | 5102 | 182 | 88 | 2024/10/18 |
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問題文
(おれはこどものころからわりとれいかんがつよいほうで、)
俺は子供のころからわりと霊感が強い方で、
(いろいろとへんなものをみることがおおかった。)
いろいろと変な物を見ることが多かった。
(だいがくにはいり、おれいじょうにれいかんのつよいひとにであって、)
大学に入り、俺以上に霊感の強い人に出会って、
(あれこれくっついてまわっているうちに、いぜんにもましてふしぎなたいけんを)
あれこれくっついて回っているうちに、以前にも増して不思議な体験を
(するようになった。れいかんというものは、よりつよいそれにちかづくことで)
するようになった。霊感というものは、より強いそれに近づくことで
(きょうしんげんしょうをおこすのだろうか。いつかおれがししょうとよぶそのひとが、)
共振現象を起こすのだろうか。いつか俺が師匠と呼ぶその人が、
(じぶんのあたまにひとさしゆびをあて、「みちができるんだよ」といったことをおもいだす。)
自分の頭に人差し指をあて、「道が出来るんだよ」と言ったことを思い出す。
(だいがくにかいせいのなつ。そのころおれはししょうにしょうかいされて、)
大学2回生の夏。そのころ俺は師匠に紹介されて、
(あるびょういんでじむのばいとをしていた。そこで、ひとのしをみとったかんごしが、)
ある病院で事務のバイトをしていた。そこで、人の死を見取った看護師が、
(ししゃのいちぶをからだにのこしたままであるいているのをなんどもみた。)
死者の一部を体に残したままで歩いているのを何度も見た。
(れいあんしつのまえをとおったとき、このよのものではないこえによびとめられたりもした。)
霊安室の前を通ったとき、この世のものではない声に呼び止められたりもした。
(そのはなしをおれからきいたししょうは、まんぞくげに「それはたいへんだなぁ」といい、)
その話を俺から聞いた師匠は、満足げに「それは大変だなぁ」と言い、
(しばらくなにかかんがえごとをするようにうつむいていたかとおもうと、)
しばらくなにか考えごとをするように俯いていたかと思うと、
(「げーむをしないか」とかおをあげた。)
「ゲームをしないか」と顔を上げた。
(よからぬことをかんがえているのはあからさまだったが、しょうちした。)
よからぬことを考えているのは明白だったが、承知した。
(どんなことをかんがえているのかしらないが、ぜったいにろくなめにあわないことは)
どんなことを考えているのか知らないが、絶対にろくな目にあわないことは
(わかっている。けれどそのころ、そんなことがおれのすべてだった。)
わかっている。けれどそのころ、そんなことが俺のすべてだった。
(しんや。どようびにもかかわらずおれはししょうとともにだいがくこうないにいりこんでいた。)
深夜。土曜日にも関わらず俺は師匠とともに大学構内に入り込んでいた。
(へいじつにすらめったにあしをふみいれないふまじめながくせいだったおれは、)
平日にすらめったに足を踏み入れない不真面目な学生だった俺は、
(くろぐろとそびえるよるのこうしゃのなかをぬうようにあるいてるということに、)
黒々とそびえる夜の校舎の中を縫うように歩いてるということに、
(へんなこうようをおぼえていた。)
変な高揚を覚えていた。
(べつによなかでもこうないはたちいりきんしではないし、こうしゃによっては)
別に夜中でも構内は立ち入り禁止ではないし、校舎によっては
(けんきゅうしつらしきいっしつのまどにまだあかりがとぼっているところもある。)
研究室らしき一室の窓にまだ明かりが点っているところもある。
(けれどこんなところでひととすれちがったら、きまずいだろう。)
けれどこんなところで人とすれ違ったら、気まずいだろう。
(そうおもい、こえもたてずにあしおともしのばせてすすむ。)
そう思い、声も立てずに足音も忍ばせて進む。
(やがてししょうはひとつのたてもののしたであしをとめた。)
やがて師匠は一つの建物の下で足を止めた。
(なじみのないたがくぶのぶろっくであり、いったいなんのこうしゃなのか)
なじみのない他学部のブロックであり、一体なんの校舎なのか
(わからなかったが、ししょうはかってをしったようすでたてもののうらにまわった。)
わからなかったが、師匠は勝手を知った様子で建物の裏に回った。
(いっそうのくらがりのなかでごそごそとなにかをしていたかとおもうと、)
一層の暗がりの中でゴソゴソとなにかをしていたかと思うと、
(からからというかわいたおととともにひとつのまどがあいた。)
カラカラという乾いた音とともに一つの窓が開いた。
(ししょうはまるでこんとのすぱいのようにわざとらしく、こいという)
師匠はまるでコントのスパイのようにわざとらしく、来いという
(あいずをする。なんだかおかしかった。うちのがくぶとうにもこんなぬけみちがある。)
合図をする。なんだか可笑しかった。うちの学部棟にもこんな抜け道がある。
(だいだいのせんぱいからうけつぐ、よるせんようのしんにゅうろ。)
代々の先輩から受け継ぐ、夜専用の進入路。
(どこもおなじだなあ、とおもいながらししょうにつづいてまどからからだをすべりこませる。)
どこも同じだなあ、と思いながら師匠に続いて窓から体を滑り込ませる。
(なにもいってないのに「しー」とささやくと、ししょうはくらやみのなかをてさぐりですすんだ。)
何も言ってないのに「シー」と囁くと、師匠は暗闇の中を手探りで進んだ。
(ろうかもなにもすべてまっくらで、とおくにみえるひじょうぐちのみどりいろがやけに)
廊下もなにもすべて真っ暗で、遠くに見える非常口の緑色がやけに
(こころぼそいきもちにさせる。かいだんをなんどかのぼり、ちいさなどあのまえにたった。)
心細い気持ちにさせる。階段を何度か上り、小さなドアの前に立った。
(あけると、いっしゅんよかぜがかおをふきぬけた。おくじょうにでた。いちめんのほしぞらだった。)
開けると、一瞬夜風が顔を吹き抜けた。屋上に出た。いちめんの星空だった。
(ふたりのほかは、だれもいない。ただかぜだけがふいていた。)
二人の他は、だれもいない。ただ風だけが吹いていた。
(「こういうのって、がくせいってかんじがしませんか」)
「こういうのって、学生ってカンジがしませんか」
(そんなおれのことばにぴんとこないようすで、ししょうはからへんじをしながら)
そんな俺の言葉にピンとこない様子で、師匠は空返事をしながら
(おくじょうのふぇんすからしたをのぞきこむ。おれはみょうにはしゃいで、そこらをはしりまわった。)
屋上のフェンスから下を覗き込む。俺は妙にはしゃいで、そこらを走り回った。
(これであとなんにんかいて、ばすけっとぼーるでもあればかんぺきだなぁとおもった。)
これであと何人かいて、バスケットボールでもあれば完璧だなぁと思った。
(「ちょっとそこでじゃんぷしてみ」)
「ちょっとそこでジャンプしてみ」
(いつのまにかかべぎわにもたれかかるようにすわりこんでいたししょうが)
いつのまにか壁際にもたれかかるように座り込んでいた師匠が
(そういった。いわれたとおり、すいちょくとびのようりょうでじゃんぷする。)
そう言った。言われたとおり、垂直跳びの要領でジャンプする。
(げーむとやらがはじまったらしい。)
ゲームとやらがはじまったらしい。
(おれはへんなてんしょんで、つづけざまにとびはねる。)
俺は変なテンションで、続けざまに飛び跳ねる。
(おいおい、もういい。もういい。)
おいおい、もういい。もういい。
(くしょうしたししょうにいちどとめられ、つぎに「こんどはめをつぶってとんでみ」と)
苦笑した師匠に一度止められ、次に「今度は目をつぶって跳んでみ」と
(しじをうけた。めをつぶる。とぶ。)
指示を受けた。目をつぶる。跳ぶ。
(ちゃくちのしゅんかんにばらんすをくずしそうになり、そのまましゃがみこむ。)
着地の瞬間にバランスを崩しそうになり、そのまましゃがみこむ。
(「そうそう、そんなふうにじめんにつくしゅんかんにからだをちぢめて、できるだけ)
「そうそう、そんな風に地面につく瞬間に体を縮めて、出来るだけ
(たいくうじかんをながくしてみて」なんどもそのやりかたでとばされた。)
滞空時間を長くしてみて」何度もそのやり方で跳ばされた。
(そのつぎのしじにはおどろいた。こうしゃのふちにたてというのである。)
その次の指示には驚いた。校舎の縁に立てというのである。
(らっかぼうしのふぇんすのないぶぶんがあり、そのまえにたたされた。)
落下防止のフェンスのない部分があり、その前に立たされた。
(もちろんしたはならくのそこだ。「じゃあ、めをつぶったままそこでとんで」)
もちろん下は奈落の底だ。「じゃあ、目をつぶったままそこで跳んで」
(ふちにたつと、すいちょくとびでもこわい。すこしばらんすをくずせばおちかねない。)
縁に立つと、垂直跳びでも怖い。少しバランスを崩せば落ちかねない。
(そんなおれのためらいをみすかしたように、「うしろにとんでいいから」と)
そんな俺の躊躇いを見透かしたように、「後ろに跳んでいいから」と
(ししょうがこえをかけた。それなら、まあできないこともない。)
師匠が声を掛けた。それなら、まあ出来ないこともない。
(よるにきりとられたようなこうしゃのふちのまえにたち、めをつぶる。)
夜に切り取られたような校舎の縁の前に立ち、目をつぶる。
(つぶったしゅんかんにひざがぐらりとした。すうじゅっせんちさきに、だんがいがある。)
つぶった瞬間に膝がぐらりとした。数十センチ先に、断崖がある。
(かんがえないようにしても、そうぞうしてしまう。)
考えないようにしても、想像してしまう。
(それでも、まだこのふしぎなげーむをたのしむよゆうがあった。)
それでも、まだこの不思議なゲームを楽しむ余裕があった。
(はんどうをつけ、かけごえをあげてこうほうにとぶ。ちゃくちし、そのままころびそうになる。)
反動をつけ、掛け声をあげて後方に跳ぶ。 着地し、そのまま転びそうになる。
(「もういちど」というこえに、したがう。ごかいもくりかえすとなれてきた。)
「もう一度」という声に、従う。5回も繰り返すと慣れてきた。
(よほどのとっぷうでもふかないかぎり、らっかすることはないし、)
よほどの突風でも吹かない限り、落下することはないし、
(きょうのかぜはふいてもびふうだ。)
今日の風は吹いても微風だ。
(そうおもっていると、ししょうが「つぎはむずかしいぞ」といった。)
そう思っていると、師匠が「次は難しいぞ」と言った。
(そのばで、めをつぶったままからだをかいてんさせほうがくをわからなくしろ、)
その場で、目をつぶったまま体を回転させ方角をわからなくしろ、
(というのである。ころすきか。)
と言うのである。殺す気か。
(おれがそうつっこむまえに、「とぶまえにこえをかけるから」といってきた。)
俺がそう突っ込む前に、「跳ぶ前に声をかけるから」と言ってきた。
(「それにふちにたってまわるのがこわかったら、しゃがんだまままわってもいい」)
「それに縁に立って回るのが怖かったら、しゃがんだまま回ってもいい」
(どきどきしてきた。いったいなにをさせるきなんだ。)
ドキドキしてきた。いったいなにをさせる気なんだ。
(それでもいうとおりにした。まだぶれーきをふむにははやい。そんなきがする。)
それでも言うとおりにした。まだブレーキを踏むには早い。そんな気がする。
(ふちのまえにしゃがみこみ、めをつぶったまそのばでぐるぐるとまわる。)
縁の前にしゃがみ込み、目をつぶったまその場でぐるぐると回る。
(こわいので、りょうてをじめんにふれるようにしながら。)
怖いので、両手を地面に触れるようにしながら。
(じゅうなにかいてんかすると、すっかりほうがくがわからなくなった。)
十何回転かすると、すっかり方角がわからなくなった。
(いったいだんがいがどのほうこうにあるのか。)
いったい断崖がどの方向にあるのか。
(そうかんがえたとき、しめつけられるようにこころぼそくなった。)
そう考えたとき、締め付けられるように心細くなった。
(すわったままだというのにあしもとがいまにもくずれさりそうなたよりなさ。)
座ったままだというのに足元が今にも崩れ去りそうな頼りなさ。
(めをあけたい。そのしょうどうとたたかった。)
目を開けたい。その衝動と戦った。
(やがてうちかち、きょうきょうながらたちあがる。いつのまにかかぜがやんでいる。)
やがて打ち勝ち、恐々ながら立ち上がる。いつの間にか風が止んでいる。
(ひるまならばめをとじていてもかんじるたいようもいまここにはない。)
昼間ならば目を閉じていても感じる太陽も今ここにはない。
(ほんとうにほうこうがわからない。ほうこうはわからないけれどすうほさきにはたしかに、)
本当に方向がわからない。方向はわからないけれど数歩先には確かに、
(ひとのいのちをあのよまでひっぱりこむだんがいがある。)
人の命をあの世まで引っ張り込む断崖がある。
(たっているだけで、どうしようもないきょうふしんがおそってきた。)
立っているだけで、どうしようもない恐怖心が襲ってきた。
(すわろうか。そのゆうわくにまけそうになったとき、ししょうのこえがした。)
座ろうか。その誘惑に負けそうになったとき、師匠の声がした。