怪物 「結」上-5-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(わたしはつくえのうえにほうりなげたかばんからどうきゅうせいのじゅうしょろくをとりだす。)

私は机の上に放り投げた鞄から同級生の住所録を取り出す。

(きょうのひるま、からふるなちずをかんせいさせるのにかつやくしたしりょうだ。)

今日の昼間、カラフルな地図を完成させるのに活躍した資料だ。

(ぱらぱらとぺーじをまくり、まさききょうこのれんらくさきをさがしあてる。)

パラパラと頁を捲り、間崎京子の連絡先を探し当てる。

(そこにかいてあるでんわばんごうをめもしてからへやをでて、)

そこに書いてある電話番号をメモしてから部屋を出て、

(かいだんをおりてからいっかいのろうかにおいてあるでんわにむかう。)

階段を降りてから1階の廊下に置いてある電話に向かう。

(よかった。だれもいない。いまのほうからはてれびのおとがもれてきている。)

良かった。誰もいない。居間の方からはテレビの音が漏れてきている。

(めもにかかれたばんごうをおして、こーるおんをかぞえる。)

メモに書かれた番号を押して、コール音を数える。

(ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・・・・)

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……

(「はい」ななつめか、やっつめであいてがでた。)

「はい」ななつめか、やっつめで相手が出た。

(ききおぼえのあるこえだ。ほっとする。よかった。)

聞き覚えのある声だ。ホッとする。良かった。

(かぞくがでたらどうしようかとおもっていた。)

家族が出たらどうしようかと思っていた。

(それどころか、しようにんのようなひとがでんわぐちにでることさえ)

それどころか、使用人のような人が電話口に出ることさえ

(そうていしてきんちょうしていたのだ。かのじょのみょうにきどったしゃべりかたなどから、)

想定して緊張していたのだ。彼女の妙に気どった喋り方などから、

(ぜんきんだいてきなおやしきのようないえをそうぞうしていた。)

前近代的なお屋敷のような家を想像していた。

(そんないえにはきっとかのじょのことを「おじょうさま」などとよぶ)

そんな家にはきっと彼女のことを「お嬢様」などと呼ぶ

(しようにんがいるにちがいないのだ。だがひとまずそのそうぞうはわきにおくことにする。)

使用人がいるに違いないのだ。だがひとまずその想像は脇に置くことにする。

(「あの、わたし、やまなかだけど。おなじがくねんの」)

「あの、私、ヤマナカだけど。同じ学年の」

(すこしどもりながら、あまりしたしくもないのに)

少しどもりながら、あまり親しくもないのに

(いきなりでんわしてしまったことをわびる。)

いきなり電話してしまったことを詫びる。

(でんわぐちのむこうのまさききょうこはへいぜんとしたこえで、きにしなくてよい、)

電話口の向こうの間崎京子は平然とした声で、気にしなくて良い、

など

(でんわしてくれてうれしいというむねのことばをきれいなはつおんでつげる。)

電話してくれて嬉しいという旨の言葉を綺麗な発音で告げる。

(どうきりだそうかまよっていると、かのじょはこういった。)

どう切り出そうか迷っていると、彼女はこう言った。

(「えきどなをさがしたいのね」どきっとする。)

「エキドナを探したいのね」ドキッとする。

(わたしのいめーじのなかでまさききょうこはなんどもそのたんごをくちにしていたが、)

私のイメージの中で間崎京子は何度もその単語を口にしていたが、

(げんじつにみみにするのははじめてだった。)

現実に耳にするのは初めてだった。

(ぎりしゃしんわのかいぶつたちのなまえをあげてきょうつうてんをさがせといった)

ギリシャ神話の怪物たちの名前を挙げて共通点を探せと言った

(かのじょのなぞかけが、ほんとうにこのまちにおこりつつあるかいげんしょうをりかいしたうえで)

彼女の謎掛けが、本当にこの街に起こりつつある怪現象を理解した上で

(それをたんてきにひょうげんしたものだったのだと、わたしはあらためてかくしんする。)

それを端的に表現したものだったのだと、私は改めて確信する。

(いったいこのおんなは、なにをどこまでつかんでいるのか。)

いったいこの女は、なにをどこまで掴んでいるのか。

(ははおやをころすゆめをみていないというそのかのじょがなぜあんなにはやいじてんで、)

母親を殺す夢を見ていないというその彼女が何故あんなに早い時点で、

(まちをさわがせているかいげんしょうがたったひとりのにんげんによって)

街を騒がせている怪現象がたった一人の人間によって

(おこされているのだとすいりできたのか。)

起こされているのだと推理出来たのか。

(わたしのようにあちこちをかけずりまわっているようすもないのに、)

私のようにあちこちを駆けずり回っている様子もないのに、

(かいげんしょうのしょうたいをおそろしくきょうだいなぽるたーがいすとげんしょうだとみぬいたうえで、)

怪現象の正体を恐ろしく強大なポルターガイスト現象だと見抜いた上で、

(「ふぁふろつきーず」ということばにふりまわされるな、などという)

『ファフロツキーズ』という言葉に振り回されるな、などという

(ちゅうこくをわたしにしている。どうしてこんなにまでじたいをはあくできているのだろう。)

忠告を私にしている。どうしてこんなにまで事態を把握できているのだろう。

(「・・・・・・そうだ。これからなにがおこるのか、おまえならしっているだろう。)

「……そうだ。これからなにが起こるのか、おまえなら知っているだろう。

(それをとめたい。ちからをかしてくれ」)

それを止めたい。力を貸してくれ」

(「なにがおこるの?」まさききょうこはすましたこえでそうといかけてくる。)

「なにが起こるの?」間崎京子は澄ました声でそう問い掛けてくる。

(わたしはぎしきてきなものとわりきって、きょういちにちでわたしがしたこと、)

私は儀式的なものと割り切って、今日一日で私がしたこと、

(そしてしったことをはなしてきかせた。)

そして知ったことを話して聞かせた。

(「そんなことがあったの」)

「そんなことがあったの」

(おもしろそうにそういったあと、かのじょのこきゅうおんがきゅうにみだれる。)

面白そうにそう言った後、彼女の呼吸音が急に乱れる。

(じゅわきからくちをはなしたけはいがして、そのすぐあとにこん、こん、と)

受話器から口を離した気配がして、そのすぐ後にコン、コン、と

(せきこむかすかなおとがきこえた。)

咳き込む微かな音が聞こえた。

(「どうした」わたしのよびかけに、すこしして「だいじょうぶ。ちょっとね」)

「どうした」私の呼び掛けに、少しして「大丈夫。ちょっとね」

(というへんじがかえってくる。いまさらながらかのじょが)

という返事が返って来る。今更ながら彼女が

(びょうけつやそうたいのおおいせいとだったことをおもいだす。かのじょはわたしよりもせがたかいけれど、)

病欠や早退の多い生徒だったことを思い出す。彼女は私よりも背が高いけれど、

(せんがほそく、すきとおるようなそのしろいはだもふくめ、いっけんしてびょうじゃくそうないめーじを)

線が細く、透き通るようなその白い肌も含め、一見して病弱そうなイメージを

(いだかせるようなようしをしている。そういえばきょうもはやびけをしていたな。)

抱かせるような容姿をしている。そう言えば今日も早引けをしていたな。

(そうおもったとき、ついさきほどの「かけずりまわっているようすもないのに、)

そう思ったとき、つい先ほどの「駆けずり回っている様子もないのに、

(どうしてこんなにじたいのしんそうをつかんでいるのか」というぎもんが)

どうしてこんなに事態の真相を掴んでいるのか」という疑問が

(もういちどうきあがってくる。もし。もし、だ。もしかのじょのびょうけつやたいちょうが)

もう一度浮き上がってくる。もし。もし、だ。もし彼女の病欠や体調が

(わるいからというりゆうのそうたいがすべてうそだとしたならば。)

悪いからという理由の早退がすべて嘘だとしたならば。

(かのじょには、じゅうぶんなじかんがある。)

彼女には、十分な時間がある。

(すいようびにひるまえからえすけーぷしたいがいは、まじめにじゅぎょうにでていたわたし)

水曜日に昼前からエスケープした以外は、真面目に授業に出ていた私

((じゅぎょうをうけるたいどはともかくとして)いじょうに、かのじょにはこのまちで)

(授業を受ける態度はともかくとして)以上に、彼女にはこの街で

(おこりつつあることをしらべるじかんがあったのかもしれないのだ。)

起こりつつあることを調べる時間があったのかも知れないのだ。

(もしそうだとしたならば、いまの、まるでどうじょうをさそうようなせきは)

もしそうだとしたならば、今の、まるで同情を誘うような咳は

(ぎゃくにわたしのなかにさいぎしんをめばえさせただけだ。)

逆に私の中に猜疑心を芽生えさせただけだ。

(だがわからない。すべてはおくそくだ。)

だが分からない。すべては憶測だ。

(けれどすくなくとも、このおんなにきをゆるしてはいけない、)

けれど少なくとも、この女に気を許してはいけない、

(ということだけはもういちどきもにめいじることができた。)

ということだけはもう一度肝に銘じることが出来た。

(「えきどなをさがしたい。しっていることをすべてはなしてくれ」)

「エキドナを探したい。知っていることをすべて話してくれ」

(たんとうちょくにゅうにこんがんした。だがこれもかけひきのいちぶだ。)

単刀直入に懇願した。だがこれも駆け引きの一部だ。

(かのじょのいっけんいみふめいなげんどうはきくものをとまどわせるが、)

彼女の一見意味不明な言動は聞く者を戸惑わせるが、

(そのみ、しんりの、あるそくめんをかたっているということがある。)

その実、真理の、ある側面を語っているということがある。

(みじかいつきあいだが、それはよくわかっているつもりだ。)

短い付き合いだが、それは良く分かっているつもりだ。

(かのじょはむいみなうそをつかない。)

彼女は無意味な嘘をつかない。

(うそをつくとしても、それはしんじつのうらじにそってでることばなのだ。)

嘘をつくとしても、それは真実の裏地に沿って出る言葉なのだ。

(いみはかならずある。それをのがさないようにききとればよいのだ。)

意味は必ずある。それを逃さないように聞き取れば良いのだ。

(「・・・・・・さがしてどうするの」とめたい。)

「……探してどうするの」止めたい。

(でんわのぼうとうでくちにしたそのことばをもういちどくりかえそうとして、)

電話の冒頭で口にしたその言葉をもう一度繰り返そうとして、

(ほんとうにそうだろうかとじぶんにといかけ、そしてむねのうちがわからあらわれた)

本当にそうだろうかと自分に問い掛け、そして胸の内側から現れた

(べつのことばをつむぐ。「みつけたい」「それはさがすこととどうぎではないの」)

別の言葉を紡ぐ。「見つけたい」「それは探すことと同義ではないの」

(「ことばあそびのつもりはない。ただ、ほんとうにそうおもっただけだ」)

「言葉遊びのつもりはない。ただ、本当にそう思っただけだ」

(「おもしろいわね、あなた」それからわずかなちんもく。)

「面白いわね、あなた」それから僅かな沈黙。

(でんわのあるしずかなろうかとはたいしょうてきに、いまのほうからは)

電話のある静かな廊下とは対照的に、居間の方からは

(あいかわらずてれびのおとがながれてきている。)

相変わらずテレビの音が流れて来ている。

(「しょうじきにいって、あなたのはさみのはなしはおどろいたわ。ひとをころすゆめをみても、)

「正直に言って、あなたの鋏の話は驚いたわ。人を殺す夢を見ても、

(それがげんじつのにんげんのこうどうにえいきょうをあたえるなんておもってもみなかった」)

それが現実の人間の行動に影響を与えるなんて思ってもみなかった」

(かんがえろ。これはうそか、まことか。おしだまるわたしをしりめにかのじょはつづける。)

考えろ。これは嘘か、真か。押し黙る私を尻目に彼女は続ける。

(「わたしもゆめのなかでにぎっているはずのはもののかんしょくがおもいだせない。)

「わたしも夢の中で握っているはずの刃物の感触が思い出せない。

(あれがはさみだとするなら、たしかにすべてのつじつまがあうわね」)

あれが鋏だとするなら、確かにすべての辻褄が合うわね」

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