『白い門のある家』小川未明2【完】
古来よりあの世との境とされており、
神隠しに会いやすいのだとか
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております
↓のURLからの続きですので、未プレイの方はプレイしてから
こちらのタイピングをしてください
https://typing.twi1.me/game/312841
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問題文
(「あそこにいるひとは、よくここへやってくるひとたちなんですよ」と、)
「あそこにいる人は、よくここへやってくる人たちなんですよ」と、
(あいてのおとこはいいました。かれは、そのひとたちをみると、)
相手の男は言いました。彼は、その人たちを見ると、
(どのかおも、かつていちどは、どこかでみたことがあるようにおもわれたので、)
どの顔も、かつて一度は、どこかで見たことがあるように思われたので、
(びっくりしました。しかし、どこであったのか、またいつあったのかも、)
びっくりしました。しかし、どこで会ったのか、またいつ会ったのかも、
(おもいだせなかったのです。「ふしぎなばんもあるものだ。)
思い出せなかったのです。「不思議な晩もあるものだ。
(こう、あうひとびとのかおが、みんなみおぼえのあるようなきがするのは、)
こう、会う人々の顔が、みんな見覚えのあるような気がするのは、
(いったいどういうことだろう」と、かれはじぶんのめをうたがいました。)
一体どういうことだろう」と、彼は自分の目を疑いました。
(そのうちに、あいてのおとこは、あちらにいるひとたちとかおをみあわして、)
そのうちに、相手の男は、あちらにいる人たちと顔を見合わして、
(あいさつをしました。そして、「ちょっと」といって、)
あいさつをしました。そして、「ちょっと」と言って、
(せきからたって、あちらへいきました。)
席から立って、あちらへ行きました。
(かれは、おくのほうからきこえるまんどりんのおとに、みみをかたむけていました。)
彼は、奥の方から聞こえるマンドリンの音に、耳を傾けていました。
(なんといういいねいろだろうとおもったのです。)
なんといういい音色だろうと思ったのです。
(これをきいていると、とおいむかしのことをおもいだし、かなしくなりました。)
これを聞いていると、遠い昔のことを思い出し、悲しくなりました。
(そして、だれがそれをひいているのかとおもいました。)
そして、だれがそれを弾いているのかと思いました。
(そのうちに、ぴたりとまんどりんのおとがやみました。)
そのうちに、ピタリとマンドリンの音がやみました。
(そのときめのまえに、うつくしくてわかいふじんがあらわれて、)
そのとき目の前に、美しくて若い婦人が現れて、
(そのひとは、かれのほうへ、にこやかにわらいながらきました。)
その人は、彼の方へ、にこやかに笑いながら来ました。
(「あなたは、もうわたしをおわすれになったでしょう」と、ふじんはいって、)
「あなたは、もう私をお忘れになったでしょう」と、婦人は言って、
(かれのまえにきて、こしをかけました。)
彼の前に来て、腰をかけました。
(「あなたは、いつもわたしがまんどりんをひいているまどのしたをとおって、)
「あなたは、いつも私がマンドリンを弾いている窓の下を通って、
(がっこうへいきました。そしてあるひ、あめがふって、)
学校へ行きました。そしてある日、雨が降って、
(あなたは、たいそうこまっておりました。わたしはあなたに、かさをかしました。)
あなたは、たいそう困っておりました。私はあなたに、傘を貸しました。
(あなたはよくじつ、わたしにきれいなほんをもって、きてくださいました。)
あなたは翌日、私にきれいな本を持って、来てくださいました。
(そのほんには、たくさんのうつくしいえがはいっていました。)
その本には、たくさんの美しい絵が入っていました。
(むかしのでんせつや、し、どうよう、おはなしなど、いろいろなものがかかれていたけれど、)
昔の伝説や、詩、童謡、お話など、色々なものが書かれていたけれど、
(がいこくのことばで、わたしにはわかりませんでした。)
外国の言葉で、私には分かりませんでした。
(なので、ただ、そのきれいなえばかりをみていました。)
なので、ただ、そのきれいな絵ばかりを見ていました。
(あなたにきいたら、このほんはふるいしょもつで、じしょにもないもじがあるので、)
あなたに聞いたら、この本は古い書物で、辞書にもない文字があるので、
(ほんやくするのはこんなんだといいましたね」と、かのじょはいいました。)
翻訳するのは困難だと言いましたね」と、彼女は言いました。
(かれは、このはなしをきくうちに、じゅうねんばかりまえのことをおもいだしました。)
彼は、この話を聞くうちに、十年ばかり前のことを思い出しました。
(そして、どうしてわすれていたそのころのひとを、)
そして、どうして忘れていたその頃の人を、
(ふたたびこんや、みることができたのだろうと、ふしぎにおもったのでした。)
ふたたび今夜、見ることができたのだろうと、不思議に思ったのでした。
(「すっかりわすれていました。たしかに、そんなことがありました。)
「すっかり忘れていました。たしかに、そんなことがありました。
(いま、あのころのことをおもいだしました」と、かれはいって、)
今、あの頃のことを思い出しました」と、彼は言って、
(すぎさったひをなつかしくおもったのであります。)
過ぎ去った日を懐かしく思ったのであります。
(「わたしはときどき、ここへきます。こんやは、もうおそくなりましたから、かえります。)
「私は時々、ここへ来ます。今夜は、もう遅くなりましたから、帰ります。
(ちょうどくるまもきたようですから、これでしつれいいたします。)
ちょうど車も来たようですから、これで失礼いたします。
(またいつか、おめにかかるでしょう」と、そのふじんはいって、でていきました。)
またいつか、お目にかかるでしょう」と、その婦人は言って、出ていきました。
(とけいがじゅうにじはんになると、みんながかえりだしました。)
時計が十二時半になると、みんなが帰りだしました。
(かれはあいてのおとこといっしょに、そのきっさてんからでました。)
彼は相手の男と一緒に、その喫茶店から出ました。
(「とてもきもちのいいきっさてんでしょう。)
「とても気持ちのいい喫茶店でしょう。
(きにいりましたか」と、あいてのおとこはたずねました。)
気に入りましたか」と、相手の男は尋ねました。
(「なつかしいきもちのする、いいところでした。)
「懐かしい気持ちのする、いい所でした。
(わたしは、こんやはめずらしく、みおぼえのあるひとたちとであって、)
私は、今夜は珍しく、見覚えのある人たちと出会って、
(いろいろなことがおもいだされてなりません」と、かれはこたえました。)
色々なことが思い出されてなりません」と、彼は答えました。
(ふたりは、つきがほのかにかすむはるのよるに、はなしながらあるいて、)
二人は、月がほのかにかすむ春の夜に、話しながら歩いて、
(じゅうじろのところへきました。すると、あいてのおとこは、)
十字路の所へ来ました。すると、相手の男は、
(「わたしのいえは、ここからさんげん、おくにはいったところにあります。)
「私の家は、ここから三軒、奥にはいった所にあります。
(どうか、あそびにきてください」といいました。)
どうか、遊びに来てください」と言いました。
(かれは、いえへかえるときにちょうどそのまえをとおりますので、)
彼は、家へ帰るときにちょうどその前を通りますので、
(おとこのうしろすがたをみおくりますと、そこにしろいもんがたっていました。)
男のうしろ姿を見送りますと、そこに白い門が立っていました。
(おとこは、だんだんしろいもんからうちのほうへ、はいっていきました。)
男は、だんだん白い門から内の方へ、はいっていきました。
(かれはいえにかえって、ねむりにつきました。)
彼は家に帰って、眠りにつきました。
(それから、すうじつたったあるばん、かれはおとこといったきっさてんをおもいだしました。)
それから、数日たったある晩、彼は男と行った喫茶店を思い出しました。
(みどりいろのかーてんがたれているきっさてんに、もういちどいってみたくなりました。)
緑色のカーテンが垂れている喫茶店に、もう一度行ってみたくなりました。
(そこで、かれはひとりででかけたのでした。)
そこで、彼は一人で出かけたのでした。
(たしかに、あのときとおったみちをあるいていったのだが、)
たしかに、あのとき通った道を歩いて行ったのだが、
(どうしたことか、そのきっさてんがみあたりませんでした。)
どうしたことか、その喫茶店が見当たりませんでした。
(かれは、なんどもおなじまちをうろついて、)
彼は、何度も同じ町をうろついて、
(みどりいろのかーてんがかかっているきっさてんをさがしましたが、みつかりません。)
緑色のカーテンがかかっている喫茶店を探しましたが、見つかりません。
(「あのおとこのいえはどうだろうか」と、こんどはしろいもんのある)
「あの男の家はどうだろうか」と、今度は白い門のある
(いえへいこうとしました。しかし、このいえもみあたらなかったのです。)
家へ行こうとしました。しかし、この家も見当たらなかったのです。
(じゅうじろにたって、かれは、さんげんのいえをかぞえてみましたが、)
十字路に立って、彼は、三軒の家を数えてみましたが、
(どこにもしろいもんのあるいえは、なかったのでした。)
どこにも白い門のある家は、なかったのでした。
(かれは、きんじょのひとにきいてみました。)
彼は、近所の人に聞いてみました。
(「ここらへんに、しろいもんのあるいえはありません」と、ひとびとはこたえました。)
「ここらへんに、白い門のある家はありません」と、人々は答えました。
(かれが、このことをいえのひとや、ともだちなどにはなすと、)
彼が、このことを家の人や、友だちなどに話すと、
(みんなわらってしんじようとせず、「ゆめをみたのだろう」というのでした。)
みんな笑って信じようとせず、「夢を見たのだろう」と言うのでした。