シャーロック・ホームズ 空家の冒険2
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問題文
(ろなるどあでいあはがんらい、かるたはすきでよくやっていたが,しかしといっても)
ロナルド・アデイアは元来、骨牌は好きでよくやっていたが,しかしと云っても
(そのかけごとのために、みのはめつをまねくというほどのことともおもわれなかった。)
その賭け事のために、身の破滅を招くと云うほどのこととも思われなかった。
(かれはぼーるどうぃん、きゃばんでぃっしゅ、)
彼はボールドウィン、キャバンディッシュ、
(かるたくらぶのかいいんであったが,かれはざんさつされるとうじつは,)
骨牌倶楽部の会員であったが,彼は惨殺される当日は,
(ちゅうしょくごばかてるくらぶで、ほいすとのしょうぶをやっていたと)
昼食後バカテル倶楽部で、ホイストの勝負をやっていたと
(いうことがわかっている。そしてとうじつのあいてとしては,)
云うことがわかっている。そして当日の相手としては,
(まーれーしじょんはーでぃーし、もらんたいさで、かけごとはいっかんしてほいすとで)
マーレー氏ジョン・ハーディー氏、モラン大佐で、賭け事は一貫してホイストで
(しょうぶはじつによくはくちゅうしたということもめいりょうになっている。)
勝負は実によく伯仲したと云うことも明瞭になっている。
(それでもけっきょくはあでいあはごぽんどくらいはまけになったろうか、)
それでも結局はアデイアは五磅くらいは敗けになったろうか、
(しかしかれはがんらいそうとうのざいさんをもっていたので,こんなまけくらいは)
しかし彼は元来相当の財産を持っていたので,こんな敗けくらいは
(かれにとってはなんでもないことであった。だいたいかれはほとんどまいにちのように、)
彼にとってはなんでもないことであった。大体彼はほとんど毎日のように、
(どこかのくらぶでかるたでまけているのであったが,しかしなかなかじょうずなので)
どこかの倶楽部で骨牌で負けているのであったが,しかしなかなか上手なので
(つねにかちこしとなるのであった。それからまたすうしゅうかんまえに、)
常に勝ち越しとなるのであった。それからまた数週間前に、
(かれはもらんたいさとくみになって、こどふれーみるなーしと、)
彼はモラン大佐と組になって、コドフレー・ミルナー氏と、
(ばるもーらるきょうから、わんしってんぐによんひゃくにじゅうぽんどもかったこともあったのであった。)
バルモーラル卿から、一開帳に四百二十磅も勝ったこともあったのであった。
(これだけがしんりにあらわれた、かれのしぬまえのじょうきょうである。)
これだけが真理に現れた、彼の死ぬ前の情況である。
(きょうこうのおこなわれたとうやは、かれはきっかりじゅうじにくらぶからきたくした。)
兇行の行われた当夜は、彼はきっかり十時に倶楽部から帰宅した。
(ははといもうとは、しんせきのものといちゆうのつきあいのために、がいしゅつしていなかった。)
母と妹は、親戚の者と一夕の交際のために、外出して居なかった。
(じょちゅうのちんじゅつによれば、じょちゅうはかれが,かれのにちじょうのきょしつになっている、)
女中の陳述に因れば、女中は彼が,彼の日常の居室になっている、
(ひょうにかいのむろにはいるけはいをきいたのであった。)
表二階の室に入る気配を聞いたのであった。
(そしてしかもそのひょうにかいのむろは,じょちゅうはまえもってひをいれ)
そしてしかもその表二階の室は,女中は前もって火を入れ
(けぶったのでまどをあけておいたのであったと。)
煙ったので窓を開けておいたのであったと。
(それからじゅういちじにじゅっぷんまで、)
それから十一時二十分まで、
(すなはちめいのーすふじんとむすめがかえってくるまでは、)
すなはちメイノース夫人と娘が帰ってくるまでは、
(まったくなんのおともしなかったのであった。)
全くなんの音もしなかったのであった。
(あでいあのははは,「おやすみ」をいおうとおもって,むすこのむろにはいろうとすると、)
アデイアの母は,「お寝み」を云おうと思って,息子の室に入ろうとすると、
(どうしたことかどあにはかぎがかかっており、)
どうしたことか扉には鍵がかかっており、
(それからおどろいてはげしくのっくしたり,さけんだりしても,)
それから驚いて激しくノックしたり,叫んだりしても,
(さらにへんじさえもないのであった。それからじょりょくをかりて,)
さらに返事さえもないのであった。それから助力を借りて,
(とびらをむりにおしひらいてみると、かぜん!このふこうなせいねんは,)
扉を無理に押し開いてみると、果然!この不幸な青年は,
(てーぶるのちかくにたおれているのであった。かれのあたまはれんぱつしきけんじゅうの、)
テーブルの近くに斃れているのであった。彼の頭は連発式拳銃の、
(かくだいしただんがんで、みるもむざんにうちくだかれているが,)
拡大した弾丸で、みるも無惨に打ち砕かれているが,
(しかしきょうきというべきものは、むろのなかにいちぶつもいりゅうされてはいなかった。)
しかし兇器と云うべきものは、室の中に一物も遺留されてはいなかった。
(そしててーぶるのうえには、じゅうぽんどのしへいにまいと,)
そしてテーブルの上には、十磅の紙幣二枚と,
(きんぎんかあわせてじゅうななぽんどじゅうしりんぐのかねが、それぞれちがったがくにせいとんされて,)
金銀貨併せて十七磅十志の金が、それぞれ違った額に整頓されて,
(ちいさなやまにつまれてある。それからしへんのうえには,)
小さな堆に積まれてある。それから紙片の上には,
(すうじとくらぶのなとゆうじんのなをふうしょしたものがあったが,)
数字と倶楽部の名と友人の名を封書したものがあったが,
(これからすいそくしてみると,かれはしのちょくぜんまでは、かるたのそんえきをけいさんしていたに)
これから推測してみると,彼は死の直前までは、骨牌の損益を計算していたに
(そういないとおもわれるのであった。)
相違ないと思われるのであった。
(これだけをちょっとみただけでは,ただますますじたいがふかかいに)
これだけをちょっと見ただけでは,ただますます事態が不可解に
(なるばかりであった。まずだいいちに、なんのためにこのせいねんが,)
なるばかりであった。まず第一に、なんのためにこの青年が,
(うちがわからとびらにかぎをかけたのかということが、)
内側から扉に鍵をかけたのかと云うことが、
(はなはだかいしゃくにくるしむぎもんである。)
はなはだ解釈に苦しむ疑問である。
(もっともはんにんがきょうこうご、かぎをくだしてまどからにげさるということは、)
もっとも犯人が兇行後、鍵を下して窓から遁げ去ると云うことは、
(かんがえられることではあるが,しかしまどのたかさなすくなくともにふぃーとはあったし、)
考えられることではあるが,しかし窓の高さな少なくとも二呎はあったし、
(かつそのしたには,さふらんのかしょうがあってらんまんとさきうまっているのであったが、)
かつその下には,蕃紅花の花床があって爛漫と咲き埋まっているのであったが、
(そのかしょうにも、またじめんにも、またかおくからどうろまでのあいだのせまいしばふにも,)
その花床にも、また地面にも、また家屋から道路までの間の狭い芝生にも,
(ふみしだかれたようなけいせきはまったくみとめられなかったのであった。)
踏みしだかれたような形跡は全く認められなかったのであった。
(したがってどあにかぎをかけたのは、せいねんじしんにあいちがいないということになるが、)
したがって扉に鍵をかけたのは、青年自身に相違いないと云うことになるが、
(しからばそのしいんはどこにあるのであろう?)
しからばその死因はどこにあるのであろう?
(ぜんぜんあしあとをのこさずに,まどにはいあがるということは、)
全然足跡を残さずに,窓に這い上ると云うことは、
(にんげんにとってはまったくふかのうなことである。)
人間にとっては全く不可能なことである。
(またあるいはまどのそとからしゃげきしたものとしてみれば、たかがけんじゅうくらいで)
またあるいは窓の外から射撃したものとしてみれば、たかが拳銃くらいで
(こんなちめいきずをおわせるということはあまりにきょういすべきことといってよかろう)
こんな致命傷を負わせるということはあまりに驚異すべきことと云ってよかろう
(なおさらにこのれーぬこうえんというのは、たいへんひとどおりのあるところであるうえに,)
なおさらにこのレーヌ公園と云うのは、大変人通りのある処である上に,
(さらにそのいえからひゃくやーどもないくらいのところに、くるまのたてばもあるのであった。)
更にその家から百碼もないくらいの処に、車の立場もあるのであった。
(しかししゃげきのおんきょうをきいたというものはひとりもなかったのに,)
しかし射撃の音響をきいたと云うものは一人もなかったのに,
(たしかにしたいがよこたわっており、かつれんぱつしきけんじゅうのだんがんがこぼれているのである。)
確かに死体が横たわっており、かつ連発式拳銃の弾丸がこぼれているのである。
(そのだんがんというのは,せんたんのやわらかなだんがんのように、きのこのようにはれあがった、)
その弾丸と云うのは,先端の柔らかな弾丸のように、茸のように腫れ上がった、
(あきらかにそくしをおもわしめるちめいしょうをあたえたものに)
明らかに即死を思わしめる致命傷を与えたものに
(あいちがいないとおもわれるものであった。これだけが、)
相違いないと思われるものであった。これだけが、
(れーぬこうえんのまのじけんのぜんぶであったが,なにしろあでいあせいねんにしては,)
レーヌ公園の魔の事件の全部であったが,なにしろアデイア青年にしては,
(ざんさつをうけるようなてきなどがあるようにもおもわれないものであり,)
惨殺を受けるような敵などがあるようにも思われないものであり,
(またしつないのきんやきちょうひんといったようなものにも,)
また室内の金や貴重品と云ったようなものにも,
(ぜんぜんてをふれられたけいせきもないので,じけんはまったくなぞからなぞへと,)
全然手を触れられた形跡もないので,事件は全く謎から謎へと,
(かいもくけんとうがつかなくなるのであった)
皆目見当がつかなくなるのであった