『怪人二十面相』江戸川乱歩16

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少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文

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(こばやししょうねんの「たんていななつどうぐ」は、そんなおおきなぶき)

小林少年の「探偵七つ道具」は、そんな大きな武器

(ではなく、ひとまとめにしてりょうてににぎれるほどの)

ではなく、ひとまとめにして両手に握れるほどの

(ちいさなものばかりでしたが、それらは)

小さな物ばかりでしたが、それらは

(けっしてべんけいのななつどうぐにもおとりはしなかった)

決して弁慶の七つ道具にも劣りはしなかった

(のです。まずまんねんひつがたのかいちゅうでんとう。やかんのそうさ)

のです。 まず万年筆型の懐中電灯。夜間の捜査

(には、あかりがなによりもたいせつです。くわえて、)

には、灯りが何よりも大切です。加えて、

(このかいちゅうでんとうは、しんごうのやくめをはたすことも)

この懐中電灯は、信号の役目を果たすことも

(できます。それから、こがたのばんのうないふ。)

出来ます。それから、小型の万能ナイフ。

(これにはのこぎり、はさみ、きりなど、さまざまな)

これにはノコギリ、ハサミ、キリなど、様々な

(はものるいがおりたたみになって、ついています。)

刃物類が折り畳みになって、付いています。

(それから、じょうぶなきぬひもでつくった、なわばしご、)

それから、丈夫な絹ヒモで作った、縄バシゴ、

(これはたたむと、てのひらさいずになって)

これは畳むと、手のひらサイズになって

(しまうのです。そのほか、まんねんひつがたのぼうえんきょう、)

しまうのです。そのほか、万年筆型の望遠鏡、

(とけい、じしゃく、こがたのてちょうとえんぴつ、さっきぞくを)

時計、磁石、小型の手帳と鉛筆、さっき賊を

(おびやかしたこがたぴすとるなどでした。いや、)

おびやかした小型ピストルなどでした。 いや、

(それいがいにもうひとつ、ぴっぽちゃんのことを)

それ以外にもう一つ、ピッポちゃんのことを

(わすれてはなりません。かいちゅうでんとうにてらしだされた)

忘れてはなりません。懐中電灯に照らしだされた

(のをみると、それはいちわのはとでした。)

のを見ると、それは一羽のハトでした。

(かわいいはとがみをちぢめて、かばんのべつのくかくに、)

可愛いハトが身を縮めて、カバンの別の区画に、

(おとなしくじっとしていました。「ぴっぽちゃん、)

大人しくジッとしていました。「ピッポちゃん、

など

(きゅうくつだけれど、もうすこしがまんするんだよ。)

きゅうくつだけれど、もう少し我慢するんだよ。

(こわいおじさんにみつかるとたいへんだからね」)

怖いおじさんに見つかると大変だからね」

(こばやししょうねんは、そんなことをいってあたまをなでて)

小林少年は、そんなことを言って頭をなでて

(やると、はとのぴっぽちゃんは、そのことばが)

やると、ハトのピッポちゃんは、その言葉が

(わかりでもしたように、くーくーとないてへんじを)

分かりでもしたように、クークーと鳴いて返事を

(しました。ぴっぽちゃんは、しょうねんたんていのますこっと)

しました。ピッポちゃんは、少年探偵のマスコット

(でした。かれは、このますこっとといっしょであれば、)

でした。彼は、このマスコットと一緒であれば、

(どんなさいなんにあってもだいじょうぶだという、しんこうのような)

どんな災難にあっても大丈夫だという、信仰のような

(ものをもっていたのです。それだけではありません。)

ものを持っていたのです。それだけではありません。

(このはとはますこっとのほかに、まだじゅうだいな)

このハトはマスコットの他に、まだ重大な

(やくめをもっていました。たんていのしごとには、つうしんきかんが)

役目を持っていました。探偵の仕事には、通信機関が

(なによりもたいせつです。けいさつには、らじおを)

何よりも大切です。警察には、ラジオを

(そなえたじどうしゃがあるけれど、ざんねんながら)

備えた自動車があるけれど、残念ながら

(しりつたんていには、そういうものがないのです。)

私立探偵には、そういう物がないのです。

(もし、ようふくのしたへかくせるような、こがたらじおはっしんきが)

もし、洋服の下へ隠せるような、小型ラジオ発信器が

(あればいちばんいいのですが、そんなものはてにはいらない)

あれば一番いいのですが、そんな物は手に入らない

(ので、こばやししょうねんはでんしょばとという、)

ので、小林少年は伝書バトという、

(おもしろいしゅだんをかんがえついたのでした。いかにも)

面白い手段を考えついたのでした。いかにも

(こどもらしいおもいつきでした。でも、こどもの)

子どもらしい思いつきでした。でも、子どもの

(むじゃきなおもいつきが、ときにはおとなをびっくり)

無邪気な思いつきが、時には大人をビックリ

(させるようなこうかをもたらすことがあるのです。)

させるような効果をもたらすことがあるのです。

(「ぼくのかばんのなかには、ぼくのらじおもあるし、)

「ぼくのカバンの中には、ぼくのラジオもあるし、

(ぼくのひこうきもあるんだ」こばやししょうねんは)

ぼくの飛行機もあるんだ」 小林少年は

(とくいそうに、そんなひとりごとをいっていたことが)

得意そうに、そんな独り言を言っていたことが

(ありました。なるほど、でんしょばとはらじおでもあり、)

ありました。なるほど、伝書バトはラジオでもあり、

(ひこうきでもあるわけです。さて、ななつどうぐの)

飛行機でもある訳です。 さて、七つ道具の

(てんけんがおわると、かれはまんぞくそうにかばんを)

点検が終わると、彼は満足そうにカバンを

(ころものなかにかくし、かいちゅうでんとうでちかしつを)

衣の中に隠し、懐中電灯で地下室を

(しらべはじめました。ちかしつはじゅうじょうほどのひろさで、)

調べ始めました。 地下室は十畳ほどの広さで、

(しほうはこんくりーとでおおわれており、いぜんはものおき)

四方はコンクリートで覆われており、以前は物置き

(にでもつかわれていたらしいへやでした。どこかに)

にでも使われていたらしい部屋でした。どこかに

(かいだんがあるはずだとおもってさがしてみると、)

階段があるはずだと思って探してみると、

(おおきなきのはしごが、へやのいっぽうのてんじょうにつりあげて)

大きな木のハシゴが、部屋の一方の天井に吊り上げて

(あることがわかりました。でいりぐちをふさいだだけ)

あることが分かりました。出入り口をふさいだだけ

(ではたりないで、かいだんまでとりあげてしまうとは、)

では足りないで、階段まで取りあげてしまうとは、

(じつにようじんぶかいやりかたといわねばなりません。)

実に用心深いやり方といわねばなりません。

(このちょうしでは、ちかしつからにげだすことなど)

この調子では、地下室から逃げ出すことなど

(おもいもおよばないのです。へやのすみに、いっきゃくの)

思いも及ばないのです。 部屋の隅に、一脚の

(こわれかかったながいすがおかれ、そのうえにいちまいの)

壊れかかった長イスが置かれ、その上に一枚の

(ふるいもうふがまるめてあるほかには、どうぐらしい)

古い毛布が丸めてあるほかには、道具らしい

(ものはなにひとつありません。まるでろうごくの)

物は何一つありません。まるで牢獄の

(ようなかんじです。こばやししょうねんは、そのながいすをみて、)

ような感じです。 小林少年は、その長イスを見て、

(おもいあたるところがありました。「はしばそうじくんは、)

思い当たるところがありました。「羽柴壮二君は、

(きっとこのちかしつにかんきんされていたんだ。そして、)

きっとこの地下室に監禁されていたんだ。そして、

(このながいすのうえでねむったにちがいない」)

この長イスの上で眠ったに違いない」

(そうおもうと、なにかなつかしいかんじがして、)

そう思うと、何か懐かしい感じがして、

(かれはながいすにちかづき、くっしょんをおしてみたり、)

彼は長イスに近づき、クッションを押してみたり、

(もうふをひろげてみたりするのでした。「じゃ、ぼくも)

毛布を広げてみたりするのでした。「じゃ、ぼくも

(このべっどでひとねむりするかな」だいたんふてきの)

このベッドでひとねむりするかな」 大胆不敵の

(しょうねんたんていは、そんなひとりごとをいって、ながいすのうえに、)

少年探偵は、そんな独り言を言って、長イスの上に、

(ごろりとよこになりました。すべてはよるがあけてから)

ゴロリと横になりました。すべては夜が明けてから

(です。それまでに、じゅうぶんとえいきをやしなって)

です。それまでに、充分と鋭気を養って

(おかねばなりません。なるほど、りくつはそのとおり)

おかねばなりません。なるほど、理屈はその通り

(ですが、このおそろしいきょうぐうで、のんきに)

ですが、この恐ろしい境遇で、のんきに

(ひとねむりするなんて、ふつうのしょうねんには、)

ひとねむりするなんて、普通の少年には、

(とてもまねのできないことでした。)

とても真似の出来ないことでした。

(「ぴっぽちゃん、さあ、ねむろうよ。そして、)

「ピッポちゃん、さあ、ねむろうよ。そして、

(おもしろいゆめでもみようよ」こばやししょうねんは、)

面白い夢でもみようよ」 小林少年は、

(ぴっぽちゃんがはいっているかばんをだいじそうに)

ピッポちゃんが入っているカバンを大事そうに

(だいて、めをふさぎました。)

抱いて、目をふさぎました。

(まもなくすると、ながいすのしんだいのうえから、)

まもなくすると、長イスの寝台の上から、

(すやすやと、やすらかなしょうねんのねいきが)

スヤスヤと、安らかな少年の寝息が

(きこえてくるのでした。)

聞こえてくるのでした。

(「でんしょばと」)

「伝書バト」

(こばやししょうねんはふとめをさますと、へやのようすが、)

小林少年はふと目を覚ますと、部屋の様子が、

(いつものたんていじむしょのしんしつとちがっているので)

いつもの探偵事務所の寝室と違っているので

(びっくりしましたが、たちまちゆうべのできごとを)

ビックリしましたが、たちまちゆうべの出来事を

(おもいだしました。「ああ、ちかしつにかんきんされて)

思い出しました。「ああ、地下室に監禁されて

(いたんだっけ。でも、ちかしつにしちゃあ、)

いたんだっけ。でも、地下室にしちゃあ、

(へんにあかるいなあ」さっぷうけいなこんくりーとのかべやゆかが、)

変に明るいなあ」 殺風景なコンクリートの壁や床が、

(ほんのりと、うすあかるくみえています。ちかしつにひが)

ほんのりと、薄明るく見えています。地下室に陽が

(さすはずはないのだがと、なおもみまわしていると、)

差すはずはないのだがと、なおも見回していると、

(ゆうべはすこしもきづきませんでしたが、いっぽうのてんじょうに)

ゆうべは少しも気づきませんでしたが、一方の天井に

(ちかい、あかりとりのちいさなまどが、ひらいていました。)

近い、明かり取りの小さな窓が、ひらいていました。

(そのまどはさんじゅっせんちしほうほどの、)

その窓は三十センチ四方ほどの、

(ごくちいさいもので、ふといてつごうしがはめて)

ごく小さい物で、太い鉄格子がはめて

(あります。ちかしつのゆかからは、さんめーとるちかくも)

あります。地下室の床からは、三メートル近くも

(あるたかいところですが、そとからみれば、じめんと)

ある高い所ですが、外から見れば、地面と

(すれすれのばしょにあるのでしょう。「はて、)

スレスレの場所にあるのでしょう。「はて、

(あのまどから、うまくにげだせないかなあ」)

あの窓から、上手く逃げ出せないかなあ」

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