駆込み訴え1

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投稿者投稿者しぶいいね0お気に入り登録
プレイ回数1113難易度(4.2) 2826打 長文
太宰治の短編小説、駆け込み訴えです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 饅頭餅美 4659 C++ 4.9 93.7% 565.9 2824 187 60 2024/11/05
2 ma&ko 2316 F++ 2.5 90.8% 1100.1 2832 284 60 2024/11/06

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問題文

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(もうしあげます。もうしあげます。だんなさま。)

申し上げます。申し上げます。旦那さま。

(あのひとは、ひどい。ひどい。はい。いやなやつです。わるいひとです。)

あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。

(ああ。がまんならない。いかしておけねえ。)

ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

(はい、はい。おちついてもうしあげます。)

はい、はい。落ちついて申し上げます。

(あのひとを、いかしておいてはなりません。よのなかのかたきです。)

あの人を、生かして置いてはなりません。世の中の仇です。

(はい、なにもかも、すっかり、ぜんぶ、もうしあげます。)

はい、何もかも、すっかり、全部、申し上げます。

(わたしは、あのひとのいどころをしっています。すぐにごあんないもうします。)

私は、あの人の居所を知っています。すぐに御案内申します。

(ずたずたにきりさいなんで、ころしてください。)

ずたずたに切りさいなんで、殺して下さい。

(あのひとは、わたしのしです。しゅです。)

あの人は、私の師です。主です。

(けれどもわたしとおなじとしです。さんじゅうよんであります。)

けれども私と同じ年です。三十四であります。

(わたしは、あのひとよりたったふたつきおそくうまれただけなのです。)

私は、あの人よりたった二月おそく生れただけなのです。

(ひととひととのあいだに、そんなにひどいさべつはないはずだ。)

人と人との間に、そんなにひどい差別は無い筈だ。

(それなのにわたしはきょうまであのひとに、どれほどいじわるくこきつかわれてきたことか。)

それなのに私はきょう迄あの人に、どれほど意地悪くこき使われて来たことか。

(どんなにちょうろうされてきたことか。)

どんなに嘲弄(ちょうろう)されて来たことか。

(ああ、もう、いやだ。)

ああ、もう、いやだ。

(こらえられるところまでは、こらえてきたのだ。)

堪えられるところ迄は、堪えて来たのだ。

(おこるときにおこらなければ、にんげんのかいがありません。)

怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。

(わたしはいままであのひとを、どんなにこっそりかばってあげたか。)

私は今まであの人を、どんなにこっそり庇ってあげたか。

(だれも、ごぞんじないのです。あのひとごじしんだって、それにきがついていないのだ。)

誰も、ご存じ無いのです。あの人ご自身だって、それに気がついていないのだ。

(いや、あのひとはしっているのだ。ちゃんとしっています。)

いや、あの人は知っているのだ。ちゃんと知っています。

など

(しっているからこそ、なおさらあのひとはわたしをいじわるくけいべつするのだ。)

知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑するのだ。

(あのひとはごうまんだ。)

あの人は傲慢だ。

(わたしからおおきにせわをうけているので、それがごじしんにくやしいのだ。)

私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜(くや)しいのだ。

(あのひとは、あほうなくらいにうぬぼれやだ。)

あの人は、阿呆なくらいに自惚屋だ。

(わたしなどからせわをうけている、ということを、)

私などから世話を受けている、ということを、

(なにかごじしんの、ひどいひけめででもあるかのようにおもいこんでいなさるのです。)

何かご自身の、ひどい引目ででもあるかのように思い込んでいなさるのです。

(ばかなはなしだ。よのなかはそんなものじゃないんだ。)

ばかな話だ。世の中はそんなものじゃ無いんだ。

(このよにくらしていくからには、)

この世に暮して行くからには、

(どうしてもだれかに、ぺこぺこあたまをさげなければいけないのだし、)

どうしても誰かに、ぺこぺこ頭を下げなければいけないのだし、

(そうしてほいっぽ、くろうしてひとをおさえてゆくよりほかにしようがないのだ。)

そうして歩一歩、苦労して人を抑えてゆくより他に仕様がないのだ。

(あのひとにいったい、なにができましょう。なんにもできやしないのです。)

あの人に一体、何が出来ましょう。なんにも出来やしないのです。

(わたしからみればあおにさいだ。)

私から見れば青二才だ。

(わたしがもしおらなかったらあのひとは、)

私がもし居らなかったらあの人は、

(もう、とうのむかし、あのむのうでとんまのでしたちと、)

もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、

(どこかののはらでのたれじにしていたにちがいない。)

どこかの野原でのたれ死にしていたに違いない。

(「きつねにはあなあり、とりにはねぐら、されどもひとのこにはまくらするところなし」)

「狐には穴あり、鳥には塒(ねぐら)、されども人の子には枕するところ無し」

(それ、それ、それだ。ちゃんとはくじょうしていやがるのだ。)

それ、それ、それだ。ちゃんと白状していやがるのだ。

(ぺてろになにができますか。)

ペテロに何が出来ますか。

(やこぶ、よはね、あんでれ、とます、こけのあつまり、)

ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴(こけ)の集り、

(ぞろぞろあのひとについてあるいて、)

ぞろぞろあの人について歩いて、

(せすじがさむくなるような、あまったるいおせじをもうし、)

脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、

(てんごくだなんてばかげたことをむちゅうでしんじてねっきょうし、そのてんごくがちかづいたなら、)

天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、

(あいつらみんなうだいじん、さだいじんにでもなるつもりなのか、ばかなやつらだ。)

あいつらみんな右大臣、左大臣にでもなるつもりなのか、馬鹿な奴らだ。

(そのひのぱんにもこまっていて、)

その日のパンにも困っていて、

(わたしがやりくりしてあげないことには、みんなうえじにしてしまうだけじゃないのか。)

私がやりくりしてあげないことには、みんな飢え死してしまうだけじゃないのか

(わたしはあのひとにせっきょうさせ、)

私はあの人に説教させ、

(ぐんしゅうからこっそりさいせんをまきあげ、また、むらのものもちからくもつをとりたて、)

群集からこっそり賽銭を巻き上げ、また、村の物持ちから供物を取り立て、

(しゅくしゃのせわからにちじょういしょくのこうきゅうまで、)

宿舎の世話から日常衣食の購求まで、

(はんをいとわず、してあげていたのに、)

煩をいとわず、してあげていたのに、

(あのひとはもとよりでしのばかどもまで、わたしにひとことのおれいもいわない。)

あの人はもとより弟子の馬鹿どもまで、私に一言のお礼も言わない。

(おれいをいわぬどころか、)

お礼を言わぬどころか、

(あのひとは、わたしのこんなかくれたひびのくろうをもしらぬふりして、)

あの人は、私のこんな隠れた日々の苦労をも知らぬ振りして、

(いつでもたいへんなぜいたくをいい、)

いつでも大変な贅沢を言い、

(いつつのぱんとさかながふたつあるきりのときでさえ、)

五つのパンと魚が二つ在るきりの時でさえ、

(もくぜんのだいぐんしゅうみなにしょくもつをあたえよ、)

目前の大群集みなに食物を与えよ、

(などとむりなんだいをいいつけなさって、)

などと無理難題を言いつけなさって、

(わたしはかげでじつにくるしいやりくりをして、)

私は陰で実に苦しいやり繰りをして、

(どうやら、そのめいじられたくいものを、まあ、かいととのえることができるのです。)

どうやら、その命じられた食いものを、まあ、買い調えることが出来るのです。

(いわば、わたしはあのひとのきせきのてつだいを、あぶないてじなのじょしゅを、)

謂わば、私はあの人の奇蹟の手伝いを、危い手品の助手を、

(これまでいくどとなくつとめてきたのだ。)

これまで幾度となく勤めて来たのだ。

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