夜長姫と耳男12

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坂口安吾の小説です。青空文庫から引用
底本:「坂口安吾全集 12」筑摩書房
   1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 HAKU 7520 7.7 97.6% 369.0 2842 67 76 2024/08/27
2 berry 7518 7.6 98.8% 371.5 2826 33 76 2024/08/27
3 □「いいね」する 6744 S+ 7.0 96.1% 405.8 2851 114 76 2024/08/29
4 りく 6044 A++ 6.0 99.2% 475.6 2898 23 76 2024/08/26
5 布ちゃん 5727 A 6.0 95.3% 471.8 2842 140 76 2024/08/27

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問題文

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(おれはとをたたくおとにめをさました。)

オレは戸を叩く音に目をさました。

(よるがあけている。ひはかなりたかいようだ。)

夜が明けている。陽はかなり高いようだ。

(そうか。きょうがひめのじゅうろくのしょうがつか、とおれはふとおもいついた。)

そうか。今日がヒメの十六の正月か、とオレはふと思いついた。

(とをたたくおとはしつようにつづいた。)

戸を叩く音は執拗につづいた。

(おれはしょくもつをはこんできたじょちゅうだとおもったから、)

オレは食物を運んできた女中だと思ったから、

(「うるさいな。いつものように、だまってそとへおいていけ。)

「うるさいな。いつものように、だまって外へ置いて行け。

(おれにはしんねんもがんじつもありやしねえ。)

オレには新年も元日もありやしねえ。

(ここだけはしゃばがちがうということを)

ここだけは娑婆がちがうということを

(おれがくちをすっぱくしていってきかせてあるのが、)

オレが口をすッぱくして言って聞かせてあるのが、

(さんねんたってもまだわからないのか」)

三年たってもまだ分らないのか」

(「めがさめたら、とをおあけ」)

「目がさめたら、戸をおあけ」

(「きいたふうなことをいうな。)

「きいた風なことを言うな。

(おれがとをあけるのはめがさめたときじゃあねえや」)

オレが戸を開けるのは目がさめた時じゃアねえや」

(「では、いつ、あける?」)

「では、いつ、あける?」

(「そとにひとがいないときだ」)

「外に人が居ない時だ」

(「それは、ほんとね?」)

「それは、ほんとね?」

(おれはそれをきいたとき、)

オレはそれをきいたとき、

(わすれることのできないとくちょうのあるひめのよくようをききつけて、)

忘れることのできない特徴のあるヒメの抑揚をききつけて、

(こえのぬしはひめそのひとだとちょっかくした。)

声の主はヒメその人だと直覚した。

(にわかにおれのぜんしんがきょうふのためにこおったようにおもった。)

にわかにオレの全身が恐怖のために凍ったように思った。

など

(どうしてよいのかわからなくて、)

どうしてよいのか分らなくて、

(おれはうろうろとむなしくじかんをついやした。)

オレはウロウロとむなしく時間を費した。

(「わたしがいるうちにでておいで。)

「私が居るうちに出ておいで。

(でてこなければ、でてくるようにしてあげますよ」)

出てこなければ、出てくるようにしてあげますよ」

(しずかなこえがこういった。)

静かな声がこう云った。

(ひめがじじょにめいじて)

ヒメが侍女に命じて

(とのそとになにかつませていたのをおれはさとっていたが、)

戸の外に何か積ませていたのをオレはさとっていたが、

(ひうちいしをうつおとに、それはかれしばだとちょっかんした。)

火打石をうつ音に、それは枯れ柴だと直感した。

(おれははじかれたようにとぐちへはしり、)

オレははじかれたように戸口へ走り、

(かんぬきをはずしてとをあけた。)

カンヌキを外して戸をあけた。

(とがあいたのでそこからかぜがふきこむように、)

戸があいたのでそこから風が吹きこむように、

(ひめはにこにことこやのなかへはいってきた。)

ヒメはニコニコと小屋の中へはいってきた。

(おれのまえをとおりこして、さきにたってなかへはいった。)

オレの前を通りこして、先に立って中へはいった。

(さんねんのうちにひめのからだは)

三年のうちにヒメのカラダは

(みちがえるようにおとなになっていた。)

見ちがえるようにオトナになっていた。

(かおもおとなになっていたが、)

顔もオトナになっていたが、

(むじゃきなあかるいえがおだけは、)

無邪気な明るい笑顔だけは、

(さんねんまえとおなじようにすみきったどうじょのものであった。)

三年前と同じように澄みきった童女のものであった。

(じじょたちはこやのなかをみてたじろいだ。)

侍女たちは小屋の中をみてたじろいだ。

(ひめだけはたじろいだきしょくがなかった。)

ヒメだけはたじろいだ気色がなかった。

(ひめはめずらしそうにしつないをみまわし、またてんじょうをみまわした。)

ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。

(へびはむすうのほねとなってぶらさがっていたが、)

蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、

(したにもむすうのほねがおちてくずれていた。)

下にも無数の骨が落ちてくずれていた。

(「みんなへびね」)

「みんな蛇ね」

(ひめのえがおにいきいきとかんどうがかがやいた。)

ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。

(ひめはずじょうにてをさしのばして)

ヒメは頭上に手をさしのばして

(たれさがっているへびのはっこつのひとつをてにとろうとした。)

垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。

(そのはっこつはひめのかたにおちくずれた。)

その白骨はヒメの肩に落ちくずれた。

(それをかるくてではらったが、おちたものにはめもくれなかった。)

それを軽く手で払ったが、落ちた物には目もくれなかった。

(ひとつひとつがめずらしくて、)

一ツ一ツが珍しくて、

(ひとつのものにながくこだわっていられないようすにみえた。)

一ツの物に長くこだわっていられない様子に見えた。

(「こんなことをおもいついたのは、だれなの?)

「こんなことを思いついたのは、誰なの?

(ひだのたくみのしごとばがみんなこうなの?)

ヒダのタクミの仕事場がみんなこうなの?

(それとも、おまえのしごとばだけのこと?」)

それとも、お前の仕事場だけのこと?」

(「たぶん、おれのこやだけのことでしょう」)

「たぶん、オレの小屋だけのことでしょう」

(ひめはうなずきもしなかったが、)

ヒメはうなずきもしなかったが、

(やがてまんぞくのためにえがおはさえかがやいた。)

やがて満足のために笑顔は冴えかがやいた。

(さんねんむかし、おれがみおさめにしたひめのかおは、)

三年昔、オレが見納めにしたヒメの顔は、

(にわかにしんけんにひきしまってたいくつしきったかおであったが、)

にわかに真剣にひきしまって退屈しきった顔であったが、

(おれのこやではえがおのたえることがなかった。)

オレの小屋では笑顔の絶えることがなかった。

(「ひをつけなくてよかったね。)

「火をつけなくてよかったね。

(もやしてしまうと、これをみることができなかったわ」)

燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」

(ひめはすべてをみおわるとまんぞくしてつぶやいたが、)

ヒメは全てを見終ると満足して呟いたが、

(「でも、もう、もやしてしまうがよい」)

「でも、もう、燃してしまうがよい」

(じじょにかれしばをつませてひをかけさせた。こやがけむりにつつまれ、)

侍女に枯れ柴をつませて火をかけさせた。小屋が煙につつまれ、

(いっときにどっともえあがるのをみとどけると、)

一時にどッと燃えあがるのを見とどけると、

(ひめはおれにいった。)

ヒメはオレに云った。

(「めずらしいみろくのぞうをありがとう。)

「珍しいミロクの像をありがとう。

(ほかのふたつにくらべて、ひゃくそうばいも、せんそうばいも、きにいりました。)

他の二ツにくらべて、百層倍も、千層倍も、気に入りました。

(ごほーびをあげたいから、きものをきかえておいで」)

ゴホービをあげたいから、着物をきかえておいで」

(あかるいむじゃきなえがおであった。)

明るい無邪気な笑顔であった。

(おれのめにそれをのこしてひめはさった。)

オレの目にそれをのこしてヒメは去った。

(おれはじじょにみちびかれてにゅうよくし、ひめがあたえたきものにきかえた。)

オレは侍女にみちびかれて入浴し、ヒメが与えた着物にきかえた。

(そして、おくのまへみちびかれた。)

そして、奥の間へみちびかれた。

(おれはきょうふのために、にゅうよくちゅうからうわのそらであった。)

オレは恐怖のために、入浴中からウワの空であった。

(いよいよひめにころされるのだとおれはおもった。)

いよいよヒメに殺されるのだとオレは思った。

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