紫式部 源氏物語 末摘花 1 與謝野晶子訳

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1 subaru 7751 8.0 96.1% 356.7 2881 116 42 2024/10/31
2 HAKU 7331 7.5 96.9% 382.3 2893 90 42 2024/10/29
3 □「いいね」する 7068 7.3 96.3% 392.3 2882 109 42 2024/10/29
4 りつ 4051 C 4.2 95.2% 691.3 2947 146 42 2024/10/30

問題文

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(かわごろもうえにきたればわぎもこはきくこ とのみなみにしまぬらし  (あきこ))

皮ごろも上に着たれば我妹子は聞くこ とのみな身に沁まぬらし  (晶子)

(げんじのきみのゆうがおをうしなったかなしみは、つきがたちとしがかわってもわすれることが)

源氏の君の夕顔を失った悲しみは、月がたち年が変わっても忘れることが

(できなかった。さだいじんけにいるふじんも、ろくじょうのきじょもつよいおもいあがりとげんじの)

できなかった。左大臣家にいる夫人も、六条の貴女も強い思い上がりと源氏の

(ほかのあいじんをかんだいにゆるすことのできないきむずかしさがあって、あつかいにくいことに)

他の愛人を寛大に許すことのできない気むずかしさがあって、扱いにくいことに

(よっても、げんじはあのきらくなじゆうなきもちをあたえてくれたこいびとばかりが)

よっても、源氏はあの気楽な自由な気持ちを与えてくれた恋人ばかりが

(ついぼされるのである。どうかしてたいそうなみぶんのないおんなで、かれんで、そして)

追慕されるのである。どうかしてたいそうな身分のない女で、可憐で、そして

(せけんてきにあまりはずかしくもないようなこいびとをみつけたいとこりもせずに)

世間的にあまり恥ずかしくもないような恋人を見つけたいと懲りもせずに

(おもっている。すこしよいらしくいわれるおんなにはすぐにげんじのこうきしんはむく。)

思っている。少しよいらしく言われる女にはすぐに源氏の好奇心は向く。

(さてせっきんしていこうとおもうのにはまずみじかいてがみなどをおくるが、もうそれだけで)

さて接近して行こうと思うのにはまず短い手紙などを送るが、もうそれだけで

(おんなのほうからはこういをあらわしてくる。れいたんなたいどをとりうるものはあまり)

女のほうからは好意を表してくる。冷淡な態度を取りうる者はあまり

(なさそうなのにげんじはかえってしつぼうをおぼえた。あるばあいじょうけんどおりなのが)

なさそうなのに源氏はかえって失望を覚えた。ある場合条件どおりなのが

(あっても、それはあたまにけっかんのあるのとか、りちいっぽうのおんなであって、げんじにたいして)

あっても、それは頭に欠陥のあるのとか、理知一方の女であって、源氏に対して

(いちどはおもいあがったたいどにでても、あまりにわがみしらずのようであるとか)

一度は思い上った態度に出ても、あまりにわが身知らずのようであるとか

(おもいかえしてはつまらぬおとことけっこんをしてしまったりするのもあったりして、)

思い返してはつまらぬ男と結婚をしてしまったりするのもあったりして、

(はなしをかけたままになっているむきもおおかった。うつせみがなにかのおりおりに)

話をかけたままになっている向きも多かった。空蝉が何かのおりおりに

(おもいだされてけいふくするににたきもちもおこるのであった。のきばのおぎへはいまもときどき)

思い出されて敬服するに似た気持ちもおこるのであった。軒端の荻へは今も時々

(てがみがおくられることとおもわれる。ほかげにみたかおのきれいであったことを)

手紙が送られることと思われる。灯影に見た顔のきれいであったことを

(おもいだしてはじょうじんとしておいてよいきがげんじにするのである。げんじのきみは)

思い出しては情人としておいてよい気が源氏にするのである。源氏の君は

(いちどでもかんけいをつくったおんなをわすれてすててしまうようなことはなかった。)

一度でも関係を作った女を忘れて捨ててしまうようなことはなかった。

(さえもんのめのとといって、げんじからはだいにのめのとのつぎにいたわられていたおんなの、)

左衛門の乳母といって、源氏からは大弐の乳母の次にいたわられていた女の、

など

(ひとりむすめはたゆうのみょうぶといってごしょづとめをしていた。おうしのひょうぶたゆうであるひとが)

一人娘は大輔の命婦といって御所勤めをしていた。王氏の兵部大輔である人が

(ちちであった。たじょうなわかいおんなであったが、げんじもきゅうちゅうのとのいどころではにょうぼうの)

父であった。多情な若い女であったが、源氏も宮中の宿直所では女房の

(ようにしてつかっていた。さえもんのめのとはいまはちくぜんのかみとけっこんしていて、きゅうしゅうへ)

ようにして使っていた。左衛門の乳母は今は筑前守と結婚していて、九州へ

(いってしまったので、ちちであるひょうぶたゆうのいえをじっかとしてにょかんを)

行ってしまったので、父である兵部大輔の家を実家として女官を

(つとめているのである。ひたちのたいしゅであったしんのう(ひょうぶたゆうはそのそくである)が)

勤めているのである。常陸の太守であった親王(兵部大輔はその息である)が

(としをおとりになってからおもちになったひめぎみがこじになってのこっていることを)

年をおとりになってからお持ちになった姫君が孤児になって残っていることを

(なにかのついでにみょうぶがげんじへはなした。きのどくなきがしてげんじはくわしく)

何かのついでに命婦が源氏へ話した。気の毒な気がして源氏は詳しく

(そのひとのことをたずねた。 「どんなせいしつでいらっしゃるとかごきりょうのこととか、)

その人のことを尋ねた。 「どんな性質でいらっしゃるとか御容貌のこととか、

(わたくしはよくしらないのでございます。うちきなおとなしいかたですから、ときどきは)

私はよく知らないのでございます。内気なおとなしい方ですから、時々は

(きちょうごしくらいのことでおはなしをいたします。きんがいちばんおともだちらしゅう)

几帳越しくらいのことでお話をいたします。琴がいちばんお友だちらしゅう

(ございます」 「それはいいことだよ。こととしとさけをみっつのともというのだよ。)

ございます」 「それはいいことだよ。琴と詩と酒を三つの友というのだよ。

(さけだけはおじょうさんのともだちにはいけないがね」 こんなじょうだんを)

酒だけはお嬢さんの友だちにはいけないがね」 こんな冗談を

(げんじはいったあとで、 「わたくしにそのにょおうさんのことのねをきかせないか。)

源氏は言ったあとで、 「私にその女王さんの琴の音を聞かせないか。

(ひたちのみやさんは、そうしたおんがくなどのよくできたかたらしいから、)

常陸の宮さんは、そうした音楽などのよくできた方らしいから、

(へいぼんなげいではなかろうとおもわれる」 といった。)

平凡な芸ではなかろうと思われる」 と言った。

(「そんなふうにおぼしめしておききになりますかちがございますか、どうか」)

「そんなふうに思召してお聞きになります価値がございますか、どうか」

(「おもわせぶりをしないでもいいじゃないか。このごろはおぼろづきがあるからね、)

「思わせぶりをしないでもいいじゃないか。このごろは朧月があるからね、

(そっといってみよう。きみもうちへさがっていてくれ」 げんじがねっしんにいうので、)

そっと行ってみよう。君も家へ退っていてくれ」 源氏が熱心に言うので、

(たゆうのみょうぶはめいわくになりそうなのをおそれながら、ごしょもごようのひまなときで)

大輔の命婦は迷惑になりそうなのを恐れながら、御所も御用のひまな時で

(あったから、はるのひながにたいしゅつをした。ちちのたゆうはきゅうていには)

あったから、春の日永に退出をした。父の大輔は宮邸には

(すんでいないのである。そのままははのいえへでいりすることをきらって、)

住んでいないのである。その継母の家へ出入りすることをきらって、

(みょうぶはそふのみやけへかえるのである。)

命婦は祖父の宮家へ帰るのである。

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