紫式部 源氏物語 榊 5 與謝野晶子訳

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2 ほに 7286 7.6 95.1% 396.5 3043 154 45 2025/03/08
3 berry 7194 7.3 97.6% 407.0 3000 72 45 2025/03/07
4 ヌオー 5881 A+ 6.2 93.8% 480.0 3020 197 45 2025/01/10

問題文

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(いんのごびょうきはじゅうがつにはいってからごじゅうたいになった。このきみを)

院の御病気は十月にはいってから御重体になった。この君を

(おおしみしていないものはない。みかどもごしんぱいのあまりにぎょうこうあそばされた。)

お惜しみしていないものはない。帝も御心配のあまりに行幸あそばされた。

(ごすいじゃくあそばされたいんはとうぐうのことをかえすがえすみかどへおたのみになった。)

御衰弱あそばされた院は東宮のことを返す返す帝へお頼みになった。

(ついでげんじにおよんだ。 「わたくしがいきていたときとおなじように、)

次いで源氏に及んだ。 「私が生きていた時と同じように、

(だいじもしょうじもかれをごそうだんあいてになさい。としはわかくてもこっかのせいじをとるのに)

大事も小事も彼を御相談相手になさい。年は若くても国家の政治をとるのに

(じゅうぶんしかくがそなわっているとわたくしはみとめる。いっこくをしはいするこっそうを)

十分資格が備わっていると私は認める。一国を支配する骨相を

(もっているひとです。だからわたくしはかれがそのてんでぎゃくにごかいをうけることが)

持っている人です。だから私は彼がその点で逆に誤解を受けることが

(あってはならないともおもって、しんのうにしないでじんしんのれつにいれておいた。)

あってはならないとも思って、親王にしないで人臣の列に入れておいた。

(しょうらいだいじんとしてこくむをまかせようとしたのです。なくなったあとでも)

将来大臣として国務を任せようとしたのです。亡くなったあとでも

(わたくしのこのことばをそんちょうしてください」 さきのみかど、いまのくんしゅのおんちちとして)

私のこの言葉を尊重してください」 前の帝、今の君主の御父として

(ごきぼうをのべられたごゆいごんもおおかったが、おんなであるひっしゃはきがひけて)

御希望を述べられた御遺言も多かったが、女である筆者は気がひけて

(かきうつすことができない。みかどもこれがさいごのごかいけんにいんのおいいになることを)

書き写すことができない。帝もこれが最後の御会見に院のお言いになることを

(かなしいふうできいておいでになったが、ごゆいごんをたがえぬということをくりかえして)

悲しいふうで聞いておいでになったが、御遺言を違えぬということを繰り返して

(おちかいになった。ふうさいもごりっぱで、いぜんよりもいっそう)

お誓いになった。風采もごりっぱで、以前よりもいっそう

(おうつくしくおみえになるみかどにいんはごまんぞくをおかんじになり、たのもしさも)

お美しくお見えになる帝に院は御満足をお感じになり、頼もしさも

(おおぼえになるのであった。こうきなおんみでいらせられるのであるから、)

お覚えになるのであった。高貴な御身でいらせられるのであるから、

(かんじょうのままにちちみかどのもとにとどまっておいでになることはできない。)

感情のままに父帝のもとにとどまっておいでになることはできない。

(そのひのうちにかんこうされたのであるから、おふたかたのおこころは、)

その日のうちに還幸されたのであるから、お二方のお心は、

(おあいになったあとにながくかなしみがのこった。とうぐうもどうじに)

お逢いになったあとに長く悲しみが残った。東宮も同時に

(ぎょうけいになるはずであったがたいそうになることをおぼしめしてべつのひに)

行啓になるはずであったがたいそうになることを思召して別の日に

など

(いんのおみまいをあそばされた。ごねんれいいじょうにおとならしくなっておいでになる)

院のお見舞いをあそばされた。御年齢以上に大人らしくなっておいでになる

(あいらしいごようすで、しばらくぶりでおあいになるよろこびがまさって、いまのばあいも)

愛らしい御様子で、しばらくぶりでお逢いになる喜びが勝って、今の場合も

(ふかくおわかりにならず、むじゃきにうれしそうにしていんのまえへおいでになったのも)

深くおわかりにならず、無邪気にうれしそうにして院の前へおいでになったのも

(あわれであった。そのよこでちゅうぐうがないておいでになるのであるから、いんのおこころは)

哀れであった。その横で中宮が泣いておいでになるのであるから、院のお心は

(さまざまにおかなしいのである。しゅじゅとごきょうくんをおのこしになるのであるが、)

さまざまにお悲しいのである。種々と御教訓をお残しになるのであるが、

(ようれいのとうぐうにこれがわかるかどうかとうたがっておいでになるみこころから)

幼齢の東宮にこれがわかるかどうかと疑っておいでになる御心から

(そこにさびしさとかなしさがかもされていった。げんじにもちょうかのせいじにたずさわるうえに)

そこに寂しさと悲しさがかもされていった。源氏にも朝家の政治に携わる上に

(こころえていねばならぬことをおおしえになり、とうぐうをおたすけせよということを)

心得ていねばならぬことをお教えになり、東宮をお援けせよということを

(くりかえしくりかえしおおせられた。よがふけてからとうぐうはおかえりになった。)

繰り返し繰り返し仰せられた。夜がふけてから東宮はお帰りになった。

(かんけいにぐぶするこうけいのおおさはぎょうこうにもおとらぬものだった。ごひぞうごのとうぐうの)

還啓に供奉する公卿の多さは行幸にも劣らぬものだった。御秘蔵子の東宮の

(おかえりになったのちのいんのみこころはもっともおかなしかった。こうたいごうも)

お帰りになったのちの院の御心は最もお悲しかった。皇太后も

(おいでになるはずであったが、ちゅうぐうがずっといんにそっておいでになるてんが)

おいでになるはずであったが、中宮がずっと院に添っておいでになる点が

(ごふまんで、ちゅうちょあそばされたうちにいんはほうぎょになった。ごじんじのふかいきみに)

御不満で、躊躇あそばされたうちに院は崩御になった。御仁慈の深い君に

(おわかれしてどんなにたすうのひとがかなしんだかしれない。いんのみくらいに)

お別れしてどんなに多数の人が悲しんだかしれない。院の御位に

(おかわりあそばしただけで、せいじはすべておぼしめしどおりに)

お変わりあそばしただけで、政治はすべて思召しどおりに

(おこなわれていたのであるから、いまのみかどはまだおわかくてがいせきのだいじんが)

行なわれていたのであるから、今の帝はまだお若くて外戚の大臣が

(じんかくしゃでもなかったから、そのひとにせいけんをにぎられるひになれば、どんなよのなかが)

人格者でもなかったから、その人に政権を握られる日になれば、どんな世の中が

(げんしゅつするであろうとかんりたちはひかんしているのである。いんがもっともおあいしになった)

現出するであろうと官吏たちは悲観しているのである。院が最もお愛しになった

(ちゅうぐうやげんじのきみはましてかなしみのなかにおぼれておいでになった。)

中宮や源氏の君はまして悲しみの中におぼれておいでになった。

(ほうぎょごのおぶつじなどもおおくのごいしたちのなかでげんじはめだってせいいのある)

崩御後の御仏事なども多くの御遺子たちの中で源氏は目だって誠意のある

(とむらいかたをした。それがどうりであるがげんじのこうしんにどうじょうするひとがおおかった。)

弔い方をした。それが道理であるが源氏の孝心に同情する人が多かった。

(もふくすがたのげんじがまたかぎりもなくきよくみえた。きょねんことしとつづいて)

喪服姿の源氏がまた限りもなく清く見えた。去年今年と続いて

(ふこうにあっていることについてもげんじのこころはえんせいてきにかたむいて、)

不幸にあっていることについても源氏の心は厭世的に傾いて、

(このきかいにそうになろうかともおもうのであったが、)

この機会に僧になろうかとも思うのであったが、

(いろいろなほだしをもっているげんじにそれはじつげんのできることではなかった。)

いろいろな絆を持っている源氏にそれは実現のできる事ではなかった。

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