紫式部 源氏物語 榊 15 與謝野晶子訳
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | subaru | 7252 | 光 | 7.6 | 95.1% | 612.9 | 4686 | 241 | 68 | 2024/12/12 |
2 | おもち | 7238 | 王 | 7.5 | 96.0% | 623.5 | 4706 | 193 | 68 | 2024/12/17 |
3 | HAKU | 7134 | 王 | 7.3 | 97.2% | 642.1 | 4712 | 131 | 68 | 2024/12/08 |
4 | だだんどん | 6170 | A++ | 6.7 | 92.3% | 696.2 | 4687 | 391 | 68 | 2024/12/15 |
5 | りつ | 3977 | D++ | 4.1 | 95.1% | 1139.0 | 4775 | 245 | 68 | 2024/12/10 |
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問題文
(ちゅうぐうはいんのごいっしゅうきをおいとなみになったのにつづいてまたあとにほけきょうのはっこうを)
中宮は院の御一周忌をお営みになったのに続いてまたあとに法華経の八講を
(もよおされるはずでいろいろとじゅんびをしておいでになった。じゅういちがつのはじめのごめいにちに)
催されるはずでいろいろと準備をしておいでになった。十一月の初めの御命日に
(ゆきがひどくふった。げんじからちゅうぐうへうたがおくられた。 )
雪がひどく降った。源氏から中宮へ歌が送られた。
(わかれにしきょうはこれどもみしひとにゆきあうほどをいつとたのまん )
別れにし今日は来れども見し人に行き逢ふほどをいつと頼まん
(ちゅうぐうのためにもおかなしいひで、すぐにおへんじがあった。 )
中宮のためにもお悲しい日で、すぐにお返事があった。
(ながらふるほどはうけれどゆきめぐりきょうはそのよにあうここちして )
ながらふるほどは憂けれど行きめぐり今日はその世に逢ふ心地して
(たくみにかこうともしてないじががしゅにとんだけだかいものにみえるのも)
巧みに書こうともしてない字が雅趣に富んだ気高いものに見えるのも
(げんじのおもいなしであろう。とくしょくのあるはでなじというのではないが)
源氏の思いなしであろう。特色のある派手な字というのではないが
(けっしてへいぼんではないのである。きょうだけはこいもわすれてしゅうじつおんちちのいんのために)
決して平凡ではないのである。今日だけは恋も忘れて終日御父の院のために
(ゆきのなかでほとけづとめをしてげんじはくらしたのである。)
雪の中で仏勤めをして源氏は暮らしたのである。
(じゅうにがつのじゅういくにちにちゅうぐうのごはっこうがあった。ひじょうにすうごんなぶつじであった。)
十二月の十幾日に中宮の御八講があった。非常に崇厳な仏事であった。
(いつかのあいだどのひにもぶつぜんへあらたにささげられるきょうは、ほうぎょくのじくにうすもののきぬの)
五日の間どの日にも仏前へ新たにささげられる経は、宝玉の軸に羅の絹の
(ひょうしのものばかりで、そとづつみのそうしょくなどもきわめてせいこうなものであった。)
表紙の物ばかりで、外包みの装飾などもきわめて精巧なものであった。
(にちじょうのしなにもうつくしいこのみをおわすれにならないかたであるから、ましてみほとけのために)
日常の品にも美しい好みをお忘れにならない方であるから、まして御仏のために
(あそばされたことがひとめをおどろかすほどのものであったことは)
あそばされたことが人目を驚かすほどの物であったことは
(もっともなことである。ぶつぞうのそうしょく、はなづくえのおおいなどのかびさにはごくらくせかいも)
もっともなことである。仏像の装飾、花机の被いなどの華美さには極楽世界も
(たやすくそうぞうすることができた。はじめのひはちゅうぐうのちちみかどのごぼだいのため、)
たやすく想像することができた。初めの日は中宮の父帝の御菩提のため、
(つぎのひはぼこうのため、みっかめはいんのごぼだいのためであって、これはほけきょうの)
次の日は母后のため、三日目は院の御菩提のためであって、これは法華経の
(だいごかんのこうぎのあるひであったから、こうかんたちもげんざいのきゅうていはのひとびとに)
第五巻の講義のある日であったから、高官たちも現在の宮廷派の人々に
(しんしゃくをしていずかずおおくれっせきした。きょうのこうぎにはことにとうといそうがえらばれていて)
斟酌をしていず数多く列席した。今日の講義にはことに尊い僧が選ばれていて
(「ほけきょうはいかにしてえしたきぎこりなつみみずくみつかえてぞえし」といううたの)
「法華経はいかにして得し薪こり菜摘み水汲み仕へてぞ得し」という歌の
(となえられるころからはとくにかんどうさせられることがおおかった。ぶつぜんにしんのうかたも)
唱えられるころからは特に感動させられることが多かった。仏前に親王方も
(さまざまのささげものをもっておいでになったが、げんじのすがたがもっともゆうびにみえた。)
さまざまの捧げ物を持っておいでになったが、源氏の姿が最も優美に見えた。
(ひっしゃはいつもおなじことばをくりかえしているようであるが、みるたびにうつくしさが)
筆者はいつも同じ言葉を繰り返しているようであるが、見るたびに美しさが
(あたらしくかんぜられるひとなのであるからしかたがないのである。さいしゅうのひは)
新しく感ぜられる人なのであるからしかたがないのである。最終の日は
(ちゅうぐうごじしんがみほとけにけつごうをちかわされるためのくようになっていて、ごじしんの)
中宮御自身が御仏に結合を誓わされるための供養になっていて、御自身の
(ごしゅっけのことがこのぎしきのばでぶつぜんへほうこくされて、だれもだれも)
御出家のことがこの儀式の場で仏前へ報告されて、だれもだれも
(いがいのかんにうたれた。ひょうぶきょうのみやのおこころも、げんじのたいしょうのこころもあわてた。)
意外の感に打たれた。兵部卿の宮のお心も、源氏の大将の心もあわてた。
(おどろきのどをどのことばがいいあらわしえようともおもえない。みやはしきのなかばで)
驚きの度をどの言葉が言い現わしえようとも思えない。宮は式の半ばで
(せきをおたちになってれんちゅうへおはいりになった。ちゅうぐうはかたいごけっしんをあにみやへ)
席をお立ちになって簾中へおはいりになった。中宮は堅い御決心を兄宮へ
(おつげになって、えいざんのざすをおまねきになって、じゅかいのことをおおせられた。)
お告げになって、叡山の座主をお招きになって、授戒のことを仰せられた。
(おじぎみにあたるよかわのそうずがちょうちゅうにまいっておぐしをおきりするときに)
伯父君にあたる横川の僧都が帳中に参ってお髪をお切りする時に
(ひとびとのていきゅうのこえがみやをうずめた。へいぼんなろうじんでさえいよいよしゅっけするのをみては)
人々の啼泣の声が宮をうずめた。平凡な老人でさえいよいよ出家するのを見ては
(かなしいものである。ましてなんのよこくもあそばさずにたちまちだつりのじっこうを)
悲しいものである。まして何の予告もあそばさずにたちまち脱履の実行を
(なされたのであるから、ひょうぶきょうのみやもひじょうにおかなしみになった。)
なされたのであるから、兵部卿の宮も非常にお悲しみになった。
(さんれつしていたひとびともどうじょうのきんぜられないちゅうぐうのおたちばと、このさびしいけつまつのばを)
参列していた人々も同情の禁ぜられない中宮のお立場と、この寂しい結末の場を
(はいしてなくものがおおかった。いんのおうじがたは、ちちみかどがどれほどごあいちょうなされた)
拝して泣く者が多かった。院の皇子方は、父帝がどれほど御愛寵なされた
(おきさきであったかを、げんじょうのおきのどくさにくらべてかんがえてはみな)
お后であったかを、現状のお気の毒さに比べて考えては皆
(あんぜんとしておいでになった。かたがたはいもんのごあいさつをなされたのであるが、)
暗然としておいでになった。方々は慰問の御挨拶をなされたのであるが、
(げんじはさいごにのこって、おどろきとかなしみにことばもこころもうしなったきがしたが、)
源氏は最後に残って、驚きと悲しみに言葉も心も失った気がしたが、
(ひとめがかんがえられ、やっときをひきたてるようにしておいまへいった。)
人目が考えられ、やっと気を引き立てるようにしてお居間へ行った。
(おちつかれずにひとびとがうろうろしたことや、すすりなきのこえもひとまずやんで、)
落ち着かれずに人々がうろうろしたことや、すすり泣きの声もひとまずやんで、
(にょうぼうはなみだをふきながらあなたこなたにかたまっていた。あかるいつきがそらにあって、)
女房は涙をふきながらあなたこなたにかたまっていた。明るい月が空にあって、
(ゆきのひかりとてりあっているにわをながめても、いんのございせいちゅうのことが)
雪の光と照り合っている庭をながめても、院の御在世中のことが
(めにうかんできてたえがたいきのするのをげんじはおさえて、)
目に浮かんできて堪えがたい気のするのを源氏はおさえて、
(「なにがごどうきになりまして、こんなにとつぜんなごしゅっけをあそばしたのですか」)
「何が御動機になりまして、こんなに突然な御出家をあそばしたのですか」
(とあいさつをとりついでもらった。 「これはただいまかんがえついたことでは)
と挨拶を取り次いでもらった。 「これはただ今考えついたことでは
(なかったのですが、さくねんのかなしみがありましたとき、すぐにそういたしましては)
なかったのですが、昨年の悲しみがありました時、すぐにそういたしましては
(ひとさわがせにもなりますし、それでまたわたくしじしんもとりみだしてはとおもいまして」)
人騒がせにもなりますし、それでまた私自身も取り乱してはと思いまして」
(れいのみょうぶがおことばをつたえたのである。げんじはみすのなかのあらゆるようすをそうぞうして)
例の命婦がお言葉を伝えたのである。源氏は御簾の中のあらゆる様子を想像して
(かなしんだ。おおぜいのおんなのきぬずれなどから、みもだえしながらかなしみを)
悲しんだ。おおぜいの女の衣摺れなどから、身もだえしながら悲しみを
(おさえているのがわかるのであった。かぜがはげしくふいて、みすのなかのくんこうの)
おさえているのがわかるのであった。風がはげしく吹いて、御簾の中の薫香の
(くろぼうこうのけむりもぶつぜんのめいこうのにおいもほのかにもれてくるのである。)
黒方香の煙も仏前の名香のにおいもほのかに洩れてくるのである。
(げんじのいふくのかもそれにまじってごくらくがおもわれるよるであった。)
源氏の衣服の香もそれに混じって極楽が思われる夜であった。
(とうぐうのおつかいもきた。おわかれのまえにとうぐうのおいいになったことばなどがみやのおこころに)
東宮のお使いも来た。お別れの前に東宮のお言いになった言葉などが宮のお心に
(またあたらしくよみがえってくることによって、れいせいであろうとあそばすおきもちも)
また新しくよみがえってくることによって、冷静であろうとあそばすお気持ちも
(みだれて、おへんじのごあいさつをかんぜんにおあたえにならないので、)
乱れて、お返事の御挨拶を完全にお与えにならないので、
(げんじがおことばをおぎなった。だれもだれもじょうしきをうしなっているといってもよいほど)
源氏がお言葉を補った。だれもだれも常識を失っているといってもよいほど
(かなしみにこころをみだしているおりからであるから、ふよういに)
悲しみに心を乱しているおりからであるから、不用意に
(ひみつのうかがわれるおそれのあることばなどははっせられないとげんじはおもった。 )
秘密のうかがわれる恐れのある言葉などは発せられないと源氏は思った。
(「つきのすむくもいをかけてしたうともこのよのやみになおやまどわん )
「月のすむ雲井をかけてしたふともこのよの闇になほや惑はん
(わたくしにはそうおもえますが、ごしゅっけのおできになったおこころもちには)
私にはそう思えますが、御出家のおできになったお心持ちには
(けいふくいたされます」 とだけいって、おいまににょうぼうたちもおおいようすであったから)
敬服いたされます」 とだけ言って、お居間に女房たちも多い様子であったから
(げんじはすてられたおとこのひつうなこころもちを)
源氏は捨てられた男の悲痛な心持ちを
(かんたんなことばにしてつげることもできなかった。 )
簡単な言葉にして告げることもできなかった。
(「おおかたのうきにつけてはいとえどもいつかこのよをそむきはつべき )
「大方の憂きにつけては厭へどもいつかこの世を背きはつべき
(りっぱなしんこうをもつようにはいつなれますやら」 みやのごあいさつは)
りっぱな信仰を持つようにはいつなれますやら」 宮の御挨拶は
(とうぐうへのおへんじをかねたおこころらしかった。かなしみにたえないでげんじはたいしゅつした。)
東宮へのお返事を兼ねたお心らしかった。悲しみに堪えないで源氏は退出した。