山川方夫 箱の中のあなた3【終】

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問題文
(よくじつ、ゆうかんのちほうばんに、りょこうきゃくがあやまって)
翌日、夕刊の地方版に、旅行客があやまって
(さんじゅうめーとるのがけからすべりおちてしんだというきじがのった。)
三十メートルの崖からすべり落ちて死んだという記事がのった。
(きじはかんたんなさん、よんぎょうのもので、りょこうしゃのかおじゃしんもなかった。)
記事は簡単な三、四行のもので、旅行者の顔写真もなかった。
(そこはここすうねん、しみんたちのあいだで、)
そこはここ数年、市民たちのあいだで、
(まのだんがいとよばれているばしょで、だが、)
「魔の断崖」と呼ばれている場所で、だが、
(そんなきけんなかしょをもつこうえんでのかんこうきゃくのじこについては、)
そんな危険な箇所をもつ公園での観光客の事故については、
(もっぱらかれらのふところをざいげんとし、)
もっぱらかれらのふところを財源とし、
(かれらのあしがとおのくのをおそれるしとうきょくのあつりょくもあってか、)
かれらの足が遠のくのをおそれる市当局の圧力もあってか、
(しんぶんもけいさつも、こんどもそれいじょうはふかくふれず)
新聞も警察も、今度もそれ以上は深くふれず
(ことをすまそうとしていた。)
事をすまそうとしていた。
(そのじけんは、おとこのすいしたいのけんしがすみ、みもとのしょうかいもおわり、)
その事件は、男の水死体の検屍がすみ、身もとの照会も終り、
(うわさばなしもすみ、いっしゅうかんもたつころには、)
噂話もすみ、一週間もたつころには、
(そろそろひとびとからわすれられようとしていた。)
そろそろ人びとから忘れられようとしていた。
(かのじょはそのひ、いつものつとめさきのゆうびんきょくからのかえりみちに、)
彼女はその日、いつもの勤め先の郵便局からの帰り途に、
(しゃしんやにより、げんぞうされたひとふくろのしゃしんをもらってきた。)
写真屋に寄り、現像された一袋の写真をもらってきた。
(かのじょにひつようなのはそのなかのただいちまい、はげしいゆうやけにそまった、)
彼女に必要なのはその中のただ一枚、はげしい夕焼けに染った、
(にこやかなぽーずのあのおとこのすがただけでしかなかった。)
にこやかなポーズのあの男の姿だけでしかなかった。
(かのじょはそのしゃしんを、あぱーとのちいさなひめきょうだいのうえに、)
彼女はその写真を、アパートの小さな姫鏡台の上に、
(よういしたわくにいれてかざった。)
用意した枠に入れて飾った。
(これでいいのめをほそめ、)
「……これでいいの」目を細め、
(おもいきりあのひのあかいひかりをあびたかれをながめながら、)
思いきりあの日の赤い光を浴びた彼を眺めながら、
(ねつっぽいじゅうじつにかのじょはむねがふるえていた。)
熱っぽい充実に彼女は胸が慄えていた。
(ね?ころしちゃって、ごめんなさい?でもがまんしてね。)
「ね?殺しちゃって、ごめんなさい?でも我慢してね。
(わたしは、いきているひとがこわいの。)
私は、生きている人がこわいの。
(だって、いつどこへいっちゃうかわからないし、)
だって、いつどこへ行っちゃうかわからないし、
(いきているひとはほんとうにはわたしのものにはなってくれないんですもの。)
生きている人は本当には私のものにはなってくれないんですもの。
(このあなたならおとなしくて、けっしてわたしをうらぎりもしないわ。)
このあなたならおとなしくて、けっして私を裏切りもしないわ。
(わたしたちは、だましあうこともいらないのよ。)
私たちは、だましあうこともいらないのよ。
(きっと、あなたもおさみしくはないとおもうわ。)
きっと、あなたもお淋しくはないと思うわ。
(いつまでもいっしょにくらしましょうね。なかよく)
いつまでもいっしょに暮しましょうね。仲良く……」
(いくらかひがながくなったせいか、ひとへやだけのあぱーとは、)
いくらか日が永くなったせいか、一部屋だけのアパートは、
(まどからよこざまにさすきんいろのひかりがまぶしかった。)
窓から横ざまに射す金色の光が眩しかった。
(かーてんをひきかけ、なにげなくかれんだーにかおをむけて、)
カーテンを引きかけ、何気なくカレンダーに顔を向けて、
(かのじょは、あ、きょうはおとといのあのひとのごめいにちだったわ)
彼女は、「あ、今日は一昨年のあの人のご命日だったわ」
(とひくくいった。かぎをかけたほんだなの、いちばんうえのとをひらいた。)
と低くいった。鍵をかけた本棚の、いちばん上の戸をひらいた。
(そこには、おなじようなくろいりぼんをつけたしゃしんたてにはいって、)
そこには、同じような黒いリボンをつけた写真立てに入って、
(わかいおとこたちのしゃしんがならんでいた。)
若い男たちの写真がならんでいた。
(ええと、あのひとはなんばんめだったかしら)
「ええと、あの人は何番目だったかしら」
(かのじょは、こうふくそのもののかおになって、)
彼女は、幸福そのものの顔になって、
(いまはなんのおくするところもなく、そのひとつひとつのおとこのかおを、)
いまはなんの臆するところもなく、そのひとつひとつの男の顔を、
(つぎつぎとしさいにみつめつづけた。)
つぎつぎと仔細にみつめつづけた。
(おとこたちは、そろってあのおかのうえのごうしゃなゆうばえにまみれ、)
男たちは、そろってあの丘の上の豪奢な夕映えにまみれ、
(ほのおのようなかたちのきをせにして、)
炎のような形の樹を背にして、
(かのじょのてではこのなかにおさめられたしゅんかんの、)
彼女の手で箱のなかに収められた瞬間の、
(それぞれのとくいなぽーずのままでわらっていた。)
それぞれの得意なポーズのままで笑っていた。