先生 後編 -5-

背景
投稿者投稿者蛍☆いいね0お気に入り登録
プレイ回数14難易度(4.4) 2926打 長文 長文モードのみ
師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
cicciさんのアカウント
https://typing.twi1.me/profile/userId/130158
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 8062 8.1 98.9% 352.5 2873 31 58 2025/05/09

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(そしてひめいをあげてにげだす。ここまではけいかくどおりだったのに、)

そして悲鳴を上げて逃げ出す。ここまでは計画通りだったのに、

(まさかどうくつからとびだしてがけからてんらくしてしまうほど)

まさか洞窟から飛び出して崖から転落してしまうほど

(たろちゃんがおびえてしまうとはおもわなかった。)

タロちゃんが怯えてしまうとは思わなかった。

(こわくなったしげちゃんはじぶんのいたずらだったことをだれにもいわずに、)

怖くなったシゲちゃんは自分のイタズラだったことを誰にも言わずに、

(つぎのひこっそりしかけをかたづけにいった。)

次の日こっそり仕掛けを片付けに行った。

(ぼくがわらっているかおをみたのはそのあとだったのだ。)

僕が笑っている顔を見たのはその後だったのだ。

(そういえばきのう、しげちゃんはぼくよりさきにいえをでていた。)

そういえば昨日、シゲちゃんは僕より先に家を出ていた。

(かいちゅうでんとうもみあたらないはずだ。)

懐中電灯も見当たらないはずだ。

(なんてこった。しげちゃんがぜんぶ。ぜんぶやっていたのか。)

なんてこった。シゲちゃんが全部。全部やっていたのか。

(ぼくはぼうぜんとしてせつめいにききいっていた。)

僕は呆然として説明に聞き入っていた。

(「わらっているかおのとりょうがふるかったじてんで、)

「笑っている顔の塗料が古かった時点で、

(おこっていたほうがはりこなのはまちがいないわ。)

怒っていた方が張り子なのは間違いないわ。

(そしてそのはりこをみて、「どうってことない。こないだといっしょ」)

そしてその張り子を見て、「どうってことない。こないだと一緒」

(なんていったしげちゃんがそのしかけをしっているのもまちがいない。)

なんて言ったシゲちゃんがその仕掛けを知っているのも間違いない。

(もしはるにみたというかおもそのじてんですでにはりこだったとしたら、)

もし春に見たという顔もその時点ですでに張り子だったとしたら、

(おなじかおをみたことになるたろちゃんのかびんなはんのうにせつめいがつかないしね。)

同じ顔を見たことになるタロちゃんの過敏な反応に説明がつかないしね。

(あとはすいりをひろげればかんたんだわ」)

あとは推理を広げれば簡単だわ」

(せんせいはこくばんにてんをみっつ、かん、かん、かん、とかいた。)

先生は黒板に点を三つ、カン、カン、カン、と書いた。

(「ゆ・え・に、はんにんはしげちゃん。このてんみっつのまーくは)

「ゆ・え・に、犯人はシゲちゃん。この点三つのマーク∴は

(もうすこしあとでならうきごうなのよ」)

もう少し後で習う記号なのよ」

など

(ちょーくをそっとおいたせんせいがしずかにそういった。)

チョークをそっと置いた先生が静かにそう言った。

(そのきごうも、ちょーくをおくゆびも、まゆげのうえにそろえられたかみも、)

その記号も、チョークを置く指も、眉毛の上に揃えられた髪も、

(そのときのぼくにはなにもかもかっこよかった。)

その時の僕にはなにもかもカッコよかった。

(みとれるぼくに、ふしぎそうなかおをしてせんせいはくびをかしげた。)

見とれる僕に、不思議そうな顔をして先生は首を傾げた。

(たいようはゆっくりとたかくのぼっていき、きょうしつにのびるひざしは)

太陽はゆっくりと高く昇って行き、教室に伸びる日差しは

(つくえやきのゆかからすこしずつひいていった。)

机や木の床から少しずつ引いて行った。

(そのあと、ぼくはさんすうのつづきをやった。おなじもんだいなのに、)

その後、僕は算数の続きをやった。同じ問題なのに、

(おしえてくれるひとがちがうだけでこんなにもたのしいなんてなんだかおかしい。)

教えてくれる人が違うだけでこんなにも楽しいなんてなんだかおかしい。

(せっせともんだいをとくぼくのそばで、せんせいはつるをおっていた。)

せっせと問題を解く僕のそばで、先生は鶴を折っていた。

(そしていくつかかずがまとまるとたちあがり、まどぎわにかけたせんばづるに)

そしていくつか数がまとまると立ち上がり、窓際にかけた千羽鶴に

(またなかまをふやすのだ。それをずっとくりかえしている。)

また仲間を増やすのだ。それをずっと繰り返している。

(ぼくはいつかはなつやすみがっこうのこどもたちのかぜがなおってここが)

僕はいつかは夏休み学校の子どもたちの風邪が治ってここが

(ふたりだけのくうかんでなくなることも、そしてあさがひるになり)

二人だけの空間でなくなることも、そして朝が昼になり

(それからごごになるように、なつもいつかはおわり、)

それから午後になるように、夏もいつかは終わり、

(ぼくがここをさるひがくることもしんじたくなかった。)

僕がここを去る日がくることも信じたくなかった。

(だから、きょうがせんせいにであってなんにちめなのかかぞえたことはなかったし、)

だから、今日が先生に出会って何日目なのか数えたことはなかったし、

(そのまいにちはふわふわとしたゆめのなかにいるようだった。)

その毎日はふわふわとした夢の中にいるようだった。

(いったいいつからほかのこどもたちがかぜをひいているのか、)

一体いつからほかの子どもたちが風邪を引いているのか、

(かんがえたことはなかった。せんせいのときどきみせるぼんやりした)

考えたことはなかった。先生の時どき見せるぼんやりした

(そしてどこかかなしいひょうじょうも、そのおくにかくれたもののことも)

そしてどこか哀しい表情も、その奥に隠れたもののことも

(りかいしようとはしなかった。)

理解しようとはしなかった。

(ただひたすらぼくはもんだいをといた。れきしをしった。なつのなかにいた。)

ただひたすら僕は問題を解いた。歴史を知った。夏の中にいた。

(「よくできました。じゃあきょうはここまで」)

「よく出来ました。じゃあ今日はここまで」

(せんせいがぼくのとうあんをみてそういった。もうおひるすぎだ。)

先生が僕の答案を見てそう言った。もうお昼過ぎだ。

(なつやすみがっこうのじかんもおしまい。ぼくはかえりじたくをしながら、)

夏休み学校の時間もおしまい。僕は帰り支度をしながら、

(なんとなくくちにした。)

なんとなく口にした。

(「せんせい。おこったふり、すっごくうまかった」)

「先生。怒ったふり、すっごく上手かった」

(ほんとうだった。ちかづいてきたとき、ぜったいたたかれるとおもったのだから。)

本当だった。近づいてきた時、絶対叩かれると思ったのだから。

(それをきいてせんせいは、あはっとわらった。とてもうれしそうに。)

それを聞いて先生は、あはっと笑った。とても嬉しそうに。

(「ありがとう。おどろかせてごめんね。でもはくしんのえんぎじゃないと)

「ありがとう。驚かせてゴメンね。でも迫真の演技じゃないと

(いみなかったから。さびついてるとおもってたんだけどな。)

意味なかったから。錆付いてると思ってたんだけどな。

(わたしこれでもやくしゃをめざし・・・・・」)

私これでも役者を目指し・・・・・」

(きゅっ、とくちがとじられた。かおがいっしゅんこわばり、)

きゅっ、と口が閉じられた。顔が一瞬強張り、

(そしてこくんとのどがうごいたあと、せんせいはめをふせたままこえもなくわらった。)

そしてこくんと喉が動いた後、先生は目を伏せたまま声もなく笑った。

(かぜがふきわたるどこまでもたかいそらのしたで、ほんのひとときぼくのまえに)

風が吹き渡るどこまでも高い空の下で、ほんのひと時僕の前に

(のぞいたせんせいのゆめはゆっくりととじられていった。)

覗いた先生の夢はゆっくりと閉じられていった。

(それはどうしようもなくせんさいで、きれいだったけれど、)

それはどうしようもなく繊細で、綺麗だったけれど、

(きっといつまでもみつづけてはいけないものだったのだろう。)

きっといつまでも見続けてはいけないものだったのだろう。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

蛍☆のタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード