『父』芥川龍之介

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タグ小説
大正五年三月
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問題文

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(じぶんがちゅうがくのよねんせいだったときのはなしである。)

自分が中学の四年生だった時の話である。

(そのとしのあき、にっこうからあしおへかけて、さんはくのしゅうがくりょこうがあった。)

その年の秋、日光から足尾へかけて、三泊の修学旅行があった。

(「ごぜんろくじさんじゅっぷんうえのていしゃばまえしゅうごう、どうごじゅっぷんはっしゃ・・・・・・」)

「午前六時三十分上野停車場前集合、同五十分発車・・・・・・」

(こういうかじょうが、がっこうからわたすとうしゃばんのすりものにかいてある。)

こういう箇条が、学校から渡す謄写版の刷物に書いてある。

(とうじつになるとじぶんは、ろくにあさめしもくわずにいえをとびだした。)

当日になると自分は、碌に朝飯も食わずに家をとび出した。

(でんしゃでゆけばていしゃばまでにじゅっぷんとはかからない。)

電車でゆけば停車場までニ十分とはかからない。

(ーそうおもいながらも、なんとなくこころがせく。)

ーそう思いながらも、何となく心がせく。

(ていりゅうじょうのあかいはしらのまえにたって、でんしゃをまっているうちも、きがきでない。)

停留場の赤い柱の前に立って、電車を待っているうちも、気が気でない。

(あいにく、そらはくもっている。)

生憎、空は曇っている。

(かたがたのこうじょうでならすきてきのねが、ねずみいろのすいじょうきをふるわせたら、)

方々の工場で鳴らす汽笛の音が、鼠色の水蒸気をふるわせたら、

(それがみなきりあめになって、ふってきはしないかとおもわれる。)

それが皆霧雨になって、降って来はしないかと思われる。

(そのたいくつなそらのしたで、こうかてつどうをきしゃがとおる。)

その退屈な空の下で、高架鉄道を汽車が通る。

(ひふくしようへかようにばしゃがとおる。)

被服廠へ通う荷馬車が通る。

(みせのとがひとつずつあく。)

店の戸が一つずつ開く。

(じぶんのいるていりゅうじょうにも、もうに、さんにん、ひとがたった。)

自分のいる停留場にも、もう二、三人、人が立った。

(それがみな、ねのたりなそうなかおを、いんきらしくかたづけている。)

それが皆、眠の足りなそうな顔を、陰気らしく片付けている。

(さむい。)

寒い。

(ーそこへわりびきのでんしゃがきた。)

ーそこへ割引の電車が来た。