人間椅子 3

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投稿者投稿者ぴっぽいいね3お気に入り登録1
プレイ回数3249難易度(4.5) 2932打 長文
江戸川乱歩
外交官を夫に持つ閨秀作家(女性作家のこと)の佳子は、毎朝夫の登庁を見送った後、書斎に籠もり、ファンレターに目を通してから創作にとりかかることが日課だった。ある日、「私」から1通の手紙が届く。それは「私」のおかした罪悪の告白だった。
椅子専門の家具職人である「私」は、容貌が醜いため周囲の人間から蔑まされ、貧しいためにその悔しさを紛らわす術も持たなかった。しかし、私は職人としての腕はそれなりに評価されており、度々凝った椅子の注文が舞い込んだ。
ある日、外国人専門のホテルに納品される椅子を製作していた私は出来心から、椅子の中に人間が一人入り込める空洞を作り、水と食料と共にその中に入り込んだ。自分が椅子の中に入り込んだ時に、その椅子はホテルに納品されてしまう。それ以来、私は昼は椅子の中にこもり、夜になると椅子から這い出て、盗みを働くようになった。盗みで一財産出来たころ、私は外国人の少女が自分の上に座る感触を革ごしに感じることに喜びを感じた。それ以来、私は女性の感触を革ごしに感じることに夢中になった。やがて、私は言葉がわからない外国人ではなく日本人の女性の感触を感じたいと願うようになった。
私がそんな願いを持つようになったころ、ホテルの持ち主が変わり、私が潜んでいた椅子は古道具屋に売られてしまう。古道具屋で私の椅子を買い求めていたのは日本人の官吏だった。私は念願の日本人の女性の感触を得られると胸を躍らせるが…。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 A.N 6454 S 6.6 96.5% 433.2 2900 104 56 2024/12/13
2 ペンだこ 5988 A+ 6.1 97.3% 476.1 2930 79 56 2024/12/01
3 ヌオー 5365 B++ 5.7 93.2% 503.6 2914 212 56 2024/11/27

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問題文

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(そうしていますうちに、わたしのあたまに、ふとすばらしいかんがえがうかんでまいりました。)

そうしています内に、私の頭に、ふとすばらしい考えが浮んで参りました。

(あくまのささやきというのは、たぶんああしたことをさすのではありますまいか。)

悪魔の囁きというのは、多分ああした事を指すのではありますまいか。

(それは、ゆめのようにこうとうむけいで、ひじょうにぶきみなことがらでした。)

それは、夢の様に荒唐無稽で、非常に不気味な事柄でした。

(でも、そのぶきみさが、いいしれぬみりょくとなって、)

でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、

(わたしをそそのかすのでございます。)

私をそそのかすのでございます。

(さいしょは、ただただ、わたしのたんせいをこめたうつくしいいすを、)

最初は、ただただ、私の丹誠を籠めた美しい椅子を、

(てばなしたくない、できることなら、そのいすといっしょに、)

手離したくない、出来ることなら、その椅子と一緒に、

(どこまでもついていきたい、そんなたんじゅんなねがいでした。)

どこまでもついて行きたい、そんな単純な願いでした。

(それが、うつらうつらともうそうのつばさをひろげておりますうちに、)

それが、うつらうつらと妄想の翼を拡げて居ります内に、

(いつのまにやら、そのひごろわたしのあたまにはっこうしておりました、)

いつの間にやら、その日頃私の頭に醗酵して居りました、

(あるおそろしいかんがえと、むすびついてしまったのでございます。)

ある恐ろしい考えと、結びついて了ったのでございます。

(そして、わたしはまあ、なんというきちがいでございましょう。)

そして、私はまあ、何という気違いでございましょう。

(そのきかいきわまるもうそうを、じっさいにおこなってみようとおもいたったのでありました。)

その奇怪極まる妄想を、実際に行って見ようと思い立ったのでありました。

(わたしはおおいそぎで、よっつのうちでいちばんよくできたとおもうひじかけいすを、)

私は大急ぎで、四つの内で一番よく出来たと思う肘掛椅子を、

(ばらばらにこわしてしまいました。そして、あらためて、)

バラバラに毀してしまいました。そして、改めて、

(それを、わたしのみょうなけいかくをじっこうするに、つごうのよいようにつくりなおしました。)

それを、私の妙な計画を実行するに、都合のよい様に造り直しました。

(それは、ごくおおがたのあーむちぇーあですから、)

それは、極く大型のアームチェーアですから、

(かけるぶぶんは、ゆかにすれすれまでかわではりつめてありますし、)

掛ける部分は、床にすれすれまで皮で張りつめてありますし、

(それがい、もたれもひじかけも、ひじょうにぶあつにできていて、そのないぶには、)

其外、凭れも肘掛けも、非常に部厚に出来ていて、その内部には、

(にんげんひとりがかくれていても、けっしてそとからわからないほどの、)

人間一人が隠れていても、決して外から分らない程の、

など

(きょうつうした、おおきなくうどうがあるのです。むろん、そこには、)

共通した、大きな空洞があるのです。無論、そこには、

(がんじょうなきのわくと、たくさんなすぷりんぐがとりつけてありますけれど、)

巌丈な木の枠と、沢山なスプリングが取りつけてありますけれど、

(わたしはそれらに、てきとうなさいくをほどこして、にんげんがかけるぶぶんにひざをいれ、)

私はそれらに、適当な細工を施して、人間が掛ける部分に膝を入れ、

(もたれのなかへくびとどうとをいれ、ちょうどいすのかたちにすわれば、)

凭れの中へ首と胴とを入れ、丁度椅子の形に坐れば、

(そのなかにしのんでいられるほどの、よゆうをつくったのでございます。)

その中にしのんでいられる程の、余裕を作ったのでございます。

(そうしたさいくは、おてのものですから、)

そうした細工は、お手のものですから、

(じゅうぶんてぎわよく、べんりにしあげました。)

十分手際よく、便利に仕上げました。

(たとえば、こきゅうをしたりがいぶのものおとをきくためにかわのいちぶに、)

例えば、呼吸をしたり外部の物音を聞く為に皮の一部に、

(そとからはすこしもわからぬようなすきまをこさえたり、もたれのないぶの、)

外からは少しも分らぬ様な隙間を拵えたり、凭れの内部の、

(ちょうどあたまのわきのところへ、ちいさなたなをつけて、)

丁度頭のわきの所へ、小さな棚をつけて、

(なにかをちょぞうできるようにしたり、ここへすいとうと、)

何かを貯蔵出来る様にしたり、ここへ水筒と、

(ぐんたいようのかたぱんとをつめこみました。)

軍隊用の堅パンとを詰め込みました。

(あるようとのためにおおきなごむのふくろをそなえつけたり、)

ある用途の為めに大きなゴムの袋を備えつけたり、

(そのほかさまざまのこうあんをめぐらして、しょくりょうさえあれば、)

その外様々の考案を廻らして、食料さえあれば、

(そのなかに、ふつかみっかはいりつづけていても、)

その中に、二日三日這入りつづけていても、

(けっしてふべんをかんじないようにしつらえました。)

決して不便を感じない様にしつらえました。

(いわば、そのいすが、にんげんひとりのへやになったわけでございます。)

謂わば、その椅子が、人間一人の部屋になった訳でございます。

(わたしはしゃついちまいになると、そこにしかけたでいりぐちのふたをあけて、)

私はシャツ一枚になると、底に仕掛けた出入口の蓋を開けて、

(いすのなかへ、すっぽりと、もぐりこみました。)

椅子の中へ、すっぽりと、もぐりこみました。

(それは、じつにへんてこなきもちでございました。)

それは、実に変てこな気持でございました。

(まっくらな、いきぐるしい、まるではかばのなかへはいったような、)

まっ暗な、息苦しい、まるで墓場の中へ這入った様な、

(ふしぎなかんじがいたします。)

不思議な感じが致します。

(かんがえてみれば、はかばにそういありません。)

考えて見れば、墓場に相違ありません。

(わたしは、いすのなかへはいるとどうじに、)

私は、椅子の中へ這入ると同時に、

(ちょうど、かくれみのでもきたように、このにんげんせかいから、)

丁度、隠れ簑でも着た様に、この人間世界から、

(しょうめつしてしまうわけですから。)

消滅して了う訳ですから。

(まもなく、しょうかいからつかいのものが、よつあしのひじかけいすをうけとるために、)

間もなく、商会から使のものが、四脚の肘掛椅子を受取る為に、

(おおきなにぐるまをもって、やってまいりました。)

大きな荷車を持って、やって参りました。

(わたしのうちでしが(わたしはそのおとこと、たったふたりくらしだったのです))

私の内弟子が(私はその男と、たった二人暮しだったのです)

(なにもしらないで、つかいのものとおうたいしております。くるまにつみこむとき、)

何も知らないで、使のものと応待して居ります。車に積み込む時、

(ひとりのにんぷが「こいつはばかにおもいぞ」とどなりましたので、)

一人の人夫が「こいつは馬鹿に重いぞ」と怒鳴りましたので、

(いすのなかのわたしは、おもわずはっとしましたが、)

椅子の中の私は、思わずハッとしましたが、

(いったい、ひじかけいすそのものが、ひじょうにおもいのですから、)

一体、肘掛椅子そのものが、非常に重いのですから、

(べつだんあやしまれることもなく、やがて、がたがたという、)

別段あやしまれることもなく、やがて、ガタガタという、

(にぐるまのしんどうが、わたしのしんたいにまで、)

荷車の振動が、私の身体にまで、

(いっしゅいようのかんしょくをつたえてまいりました。)

一種異様の感触を伝えて参りました。

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