怪人二十面相78

関連タイピング
問題文
(「にせものです。めぼしいびじゅつひんは、どれもこれも、すっかりもぞうひんです。」)
「にせものです。めぼしい美術品は、どれもこれも、すっかり模造品です。」
(それから、かれらはころがるように、かいかのちんれつじょうへおりていきましたが、)
それから、彼らはころがるように、階下の陳列場へおりていきましたが、
(しばらくして、もとのにかいへもどってきたときには、かんいんのにんずうは、)
しばらくして、もとの二階へもどってきたときには、館員の人数は、
(じゅうにんいじょうにふえていました。そして、だれにかれも、もうまっかになって)
十人以上にふえていました。そして、だれにかれも、もうまっかになって
(ふんがいしているのです。)
憤慨しているのです。
(「したもおなじことです。のこっているのはつまらないものばかりです。)
「下も同じことです。のこっているのはつまらないものばかりです。
(きちょうひんというきちょうひんは、すっかりにせものです・・・・・・。しかし、かんちょう、)
貴重品という貴重品は、すっかりにせものです……。しかし、館長、
(いまもみんなとはなしたのですが、じつにふしぎというほかはありません。)
今もみんなと話したのですが、じつにふしぎというほかはありません。
(きのうまでは、たしかに、もぞうひんなんてひとつもなかったのです。)
きのうまでは、たしかに、模造品なんて一つもなかったのです。
(それぞれうけもちのものが、そのてんはじしんをもってだんげんしています。)
それぞれ受持のものが、その点は自信をもって断言しています。
(それが、たったのいちにちのうちに、だいしょうひゃくなんてんというびじゅつひんが、まるで)
それが、たったの一日のうちに、大小百何点という美術品が、まるで
(まほうのように、にせものにかわってしまったのです。」)
魔法のように、にせものにかわってしまったのです。」
(かんいんは、くやしさにじだんだをふむようにしてさけびました。)
館員は、くやしさに地だんだをふむようにしてさけびました。
(「あけちくん、われわれはまたしてもやつのために、まんまとやられたらしいね。」)
「明智君、われわれはまたしてもやつのために、まんまとやられたらしいね。」
(そうかんが、ちんつうなおももちでめいたんていをかえりみました。)
総監が、沈痛なおももちで名探偵をかえりみました。
(「そうです。はくぶつかんは、にじゅうめんそうのためにとうだつされたのです。それは、)
「そうです。博物館は、二十面相のために盗奪されたのです。それは、
(さいしょにもうしあげたとおりです。」)
さいしょにもうしあげたとおりです。」
(おおぜいのなかで、あけちだけは、すこしもとりみだしたところもなく、)
大ぜいの中で、明智だけは、少しもとりみだしたところもなく、
(くちもとにびしょうさえうかべているのでした。)
口もとに微笑さえうかべているのでした。
(そして、あまりのだげきに、たっているちからもないかとみえるろうかんちょうを、)
そして、あまりの打撃に、立っている力もないかと見える老館長を、
(はげますように、しっかりそのてをにぎっていました。)
はげますように、しっかりその手をにぎっていました。
(たねあかし)
種明し
(「ですが、わたしどもには、どうもわけがわからないのです。あれだけの)
「ですが、わたしどもには、どうもわけがわからないのです。あれだけの
(びじゅつひんを、たったいちにちのあいだに、にせものとすりかえるなんて、にんげん)
美術品を、たった一日のあいだに、にせものとすりかえるなんて、人間
(わざでできることではありません。まあ、にせもののほうは、まえまえから、)
わざでできることではありません。まあ、にせもののほうは、まえまえから、
(びじゅつがくせいかなんかにばけてかんらんにきて、えずをかいていけば、もぞうできない)
美術学生かなんかに化けて観覧に来て、絵図を書いていけば、模造できない
(ことはありませんけれど、それをどうしていれかえたかがもんだいです。)
ことはありませんけれど、それをどうして入れかえたかが問題です。
(まったくわけがわかりません。」)
まったくわけがわかりません。」
(かんいんは、まるでむずかしいすうがくのもんだいにでもぶつかったように)
館員は、まるでむずかしい数学の問題にでもぶつかったように
(しきりにこくびをかたむけています。)
しきりに小首をかたむけています。
(「きのうのゆうがたまでは、たしかに、みんなほんものだったのだね。」)
「きのうの夕方までは、たしかに、みんなほんものだったのだね。」
(そうかんがたずねますと、かんいんたちは、かくしんにみちたようすで、)
総監がたずねますと、館員たちは、確信にみちたようすで、
(「それはもう、けっしてまちがいございません。」と、くちをそろえて)
「それはもう、けっしてまちがいございません。」と、口をそろえて
(こたえるのです。)
答えるのです。
(「すると、おそらくゆうべのよなかあたりに、どうかしてにじゅうめんそういちみの)
「すると、おそらくゆうべの夜中あたりに、どうかして二十面相一味の
(ものが、ここへしのびこんだのかもしれませんね。」)
ものが、ここへしのびこんだのかもしれませんね。」
(「いや、そんなことは、できるはずがございません。おもてもんもうらもんもへいの)
「いや、そんなことは、できるはずがございません。表門も裏門も塀の
(まわりも、おおぜいのおまわりさんが、てつやでみはっていてくだすった)
まわりも、大ぜいのおまわりさんが、徹夜で見はっていてくだすった
(のです。かんないにも、ゆうべはかんちょうさんとさんにんのしゅくちょくいんが、ずっと)
のです。館内にも、ゆうべは館長さんと三人の宿直員が、ずっと
(つめきっていたのです。そのげんじゅうなみはりのなかをくぐって、)
つめきっていたのです。そのげんじゅうな見はりの中をくぐって、
(あのおびただしいびじゅつひんを、どうしてもちこんだり、はこびだしたり)
あのおびただしい美術品を、どうして持ちこんだり、運びだしたり
(できるものですか。まったくにんげんわざではできないことです。」)
できるものですか。まったく人間わざではできないことです。」
(かんいんは、あくまでいいました。)
館員は、あくまでいいました。
(「わからん、じつにふしぎだ・・・・・・。しかし、にじゅうめんそうのやつ、こうげんした)
「わからん、じつにふしぎだ……。しかし、二十面相のやつ、広言した
(ほどおとこらしくもなかったですね。あらかじめ、にせものとおきかえて)
ほど男らしくもなかったですね。あらかじめ、にせものとおきかえて
(おいて、さあ、このとおりぬすみましたというのじゃ、とおかのごごよじ)
おいて、さあ、このとおりぬすみましたというのじゃ、十日の午後四時
(なんてよこくは、まったくむいみですからね。」)
なんて予告は、まったく無意味ですからね。」
(けいじぶちょうは、くやしまぎれに、そんなことでもいってみないではいられ)
刑事部長は、くやしまぎれに、そんなことでも言ってみないではいられ
(ませんでした。)
ませんでした。
(「ところが、けっしてむいみではなかったのです。」)
「ところが、けっして無意味ではなかったのです。」