河童 2 芥川龍之介

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芥川龍之介の名作

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問題文

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(に そのうちにやっときがついてみると、ぼくはあおむけにたおれたまま、おおぜいのかっぱ)

二 そのうちにやっと気がついてみると、僕は仰向けに倒れたまま、大勢の河童

(にとりかこまれていました。のみならずふといくちばしのうえにはなめがねをかけたかっぱがいっぴき)

にとり囲まれていました。のみならず太い嘴の上に鼻目金をかけた河童が一匹

(ぼくのそばへひざまずきながら、ぼくのむねへちょうしんきをあてていました。)

僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てていました。

(そのかっぱはぼくがめをあいたのをみると、ぼくに「しずかに」というてまねをし、)

その河童は僕が目をあいたのを見ると、僕に「静かに」という手真似をし、

(それからだれかうしろにいるかっぱへquaxquaxとこえをかけました。)

それからだれか後ろにいる河童へQuax quaxと声をかけました。

(するとどこからかかっぱがにひき、たんかをもってあるいてきました。ぼくはこのたんかに)

するとどこからか河童が二匹、担架を持って歩いてきました。僕はこの担架に

(のせられたまま、おおぜいのかっぱのむらがったなかをしずかになんちょうかすすんでゆきました。)

のせられたまま、大勢の河童の群がった中を静かに何町か進んでゆきました。

(ぼくのりょうがわにならんでいるまちはすこしもぎんざどおりとちがいありません。やはりぶなの)

僕の両側に並んでいる町は少しも銀座通りと違いありません。やはり山毛欅の

(なみきのかげにいろいろのみせがひよけをならべ、そのまたなみきにはさまれたみちをじてんしゃ)

並木のかげにいろいろの店が日除を並べ、そのまた並木にはさまれた道を自転車

(がなんだいもはしっているのです。やがてぼくをのせたたんかはほそいよこちょうをまがったとおもうと)

が何台も走っているのです。やがて僕を載せた担架は細い横町を曲ったと思うと

(あるうちのなかへかつぎこまれました。それはのちにしったところによれば、)

ある家の中へかつぎこまれました。それは後に知ったところによれば、

(あのはなめがねをかけたかっぱのうち、ーーちゃっくといういしゃのうちだったのです。)

あの鼻目金をかけた河童の家、ーーチャックという医者の家だったのです。

(ちゃっくはぼくをこぎれいなべっどのうえへねかせました。それからなにかとうめいなみずぐすり)

チャックは僕を小ぎれいなベッドの上へ寝かせました。それから何か透明な水薬

(をいっぱいのませました。ぼくはべっどのうえによこたわったなり、ちゃっくのするまま)

を一杯飲ませました。僕はベッドの上に横たわったなり、チャックのするまま

(になっていました。じっさいまたぼくのからだはろくにみうごきもできないほど、ふしぶしが)

になっていました。実際また僕の体はろくに身動きもできないほど、節々が

(いたんでいたのですから。ちゃっくはいちにちににさんどはかならずぼくをしんさつにきました。)

痛んでいたのですから。チャックは一日に二三度は必ず僕を診察にきました。

(またみっかにいちどぐらいはぼくのさいしょにみかけたかっぱ、ーーばっぐというりょうしも)

また三日に一度ぐらいは僕の最初に見かけた河童、ーーバッグという漁夫も

(たずねてきました。かっぱはわれわれにんげんがかっぱのことをしっているよりもはるかににんげん)

尋ねてきました。河童は我々人間が河童のことを知っているよりもはるかに人間

(のことをしっています。それはわれわれにんげんがかっぱをほかくすることよりもずっとかっぱ)

のことを知っています。それは我々人間が河童を捕獲することよりもずっと河童

(がにんげんをほかくすることがおおいためでしょう。ほかくというのはあたらないまでも)

が人間を捕獲することが多いためでしょう。捕獲というのは当たらないまでも

など

(われわれにんげんはぼくのまえにもたびたびかっぱのくにへきているのです。のみならずいっしょうかっぱ)

我々人間は僕の前にもたびたび河童の国へ来ているのです。のみならず一生河童

(のくににすんでいたものもおおかったのです。なぜといってごらんなさい。ぼくらは)

の国に住んでいたものも多かったのです。なぜと言ってごらんなさい。僕らは

(ただかっぱではない、にんげんであるというとっけんのためにはたらかずにくっていられる)

ただ河童ではない、人間であるという特権のために働かずに食っていられる

(のです。げんにばっぐのはなしによれば、あるわかいどうろこうふなどはやはりぐうぜんこのくにへ)

のです。現にバッグの話によれば、ある若い道路工夫などはやはり偶然この国へ

(きたのち、めすのかっぱをつまにめとり、しぬまですんでいたということです。)

来た後、雌の河童を妻にめとり、死ぬまで住んでいたということです。

(もっともそのまためすのかっぱはこのくにだいいちのびじんだったうえ、おっとのどうろこうふを)

もっともそのまた雌の河童はこの国第一の美人だった上、夫の道路工夫を

(ごまかすのにもみょうをきわめていたということです。)

ごまかすのにも妙をきわめていたということです。

(ぼくはいっしゅうかんばかりたったのち、このくにのほうりつのさだめるところにより、)

僕は一週間ばかりたった後、この国の法律の定めるところにより、

(「とくべつほごじゅうみん」としてちゃっくのとなりにすむことになりました。ぼくのうちはちいさい)

「特別保護住民」としてチャックの隣に住むことになりました。僕の家は小さい

(わりにいかにもしょうしゃとできあがっていました。もちろんこのくにのぶんめいはわれわれにんげん)

割にいかにも瀟酒とできあがっていました。もちろんこの国の文明は我々人間

(のくにのぶんめいーーすくなくともにほんのぶんめいなどとあまりたいさはありません。おうらいに)

の国の文明ーー少なくとも日本の文明などとあまり大差はありません。往来に

(めんしたきゃくまのすみにはちいさいぴあのがいちだいあり、それからまたかべにはがくぶちへいれた)

面した客間の隅には小さいピアノが一台あり、それからまた壁には額縁へ入れた

(えってぃんぐなどもかかっていました。ただかんじんのうちをはじめ、てえぶるやいすの)

エッティングなども懸っていました。ただ肝腎の家をはじめ、テエブルや椅子の

(すんぽうもかっぱのしんちょうにあわせてありますから、こどものへやにいれられたように)

寸法も河童の身長に合わせてありますから、子どもの部屋に入れられたように

(それだけはふべんにおもいました。ぼくはいつもひぐれがたになると、このへやに)

それだけは不便に思いました。僕はいつも日暮れがたになると、この部屋に

(ちゃっくやばっぐをむかえ、かっぱのことばをならいました。いや、かれらばかりでは)

チャックやバッグを迎え、河童の言葉を習いました。いや、彼らばかりでは

(ありません。とくべつほごじゅうみんだったぼくにだれもみなこうきしんをもっていましたから、)

ありません。特別保護住民だった僕にだれも皆好奇心を持っていましたから、

(まいにちけつあつをしらべてもらいに、わざわざちゃっくをよびよせるげえるという)

毎日血圧を調べてもらいに、わざわざチャックを呼び寄せるゲエルという

(がらすがいしゃのしゃちょうなどもやはりこのへやへかおをだしたものです。しかしさいしょの)

硝子会社の社長などもやはりこの部屋へ顔を出したものです。しかし最初の

(はんつきほどのあいだにいちばんぼくとしたしくしたのはやはりあのばっぐというりょうしだった)

半月ほどの間に一番僕と親しくしたのはやはりあのバッグという漁夫だった

(のです。あるなまあたたかいひのくれです。ぼくはこのへやのてえぶるをなかにりょうしの)

のです。ある生暖かい日の暮れです。僕はこの部屋のテエブルを中に漁夫の

(ばっぐとむかいあっていました。するとばっぐはどうおもったか、きゅうにだまって)

バッグと向かい合っていました。するとバッグはどう思ったか、急に黙って

(しまったうえ、おおきいめをいっそうおおきくしてじっとぼくをみつめました。ぼくは)

しまった上、大きい目をいっそう大きくしてじっと僕を見つめました。僕は

(もちろんみょうにおもいましたから、「quax,bag,quo,quel)

もちろん妙に思いましたから、「quax,bag,quo,quel

(quan?」といいました。これはにほんごにほんやくすれば、「おい、ばっぐ)

quan?」と言いました。これは日本語に翻訳すれば、「おい、バッグ

(どうしたんだ」ということです。が、ばっぐはへんじをしません。のみならず)

どうしたんだ」ということです。が、バッグは返事をしません。のみならず

(いきなりたちあがると、べろりとしたをだしたなり、ちょうどかえるのはねるように)

いきなり立ち上がると、べろりと舌を出したなり、ちょうど蛙の跳ねるように

(とびかかるけしきさえしめしました。ぼくはいよいよぶきみになり、そっといすから)

飛びかかる気色さえ示しました。僕はいよいよ無気味になり、そっと椅子から

(たちあがると、いっそくとびにとぐちへとびだそうとしました。ちょうどそこへかおを)

立ち上がると、一足飛びに戸口へ飛び出そうとしました。ちょうどそこへ顔を

(だしたのは、さいわいにもいしゃのちゃっくです。「こら、ばっぐなにをしているのだ」)

出したのは、幸いにも医者のチャックです。「こら、バッグ何をしているのだ」

(ちゃっくははなめがねをかけたまま、こういうばっぐをにらみつけました。すると)

チャックは鼻目金をかけたまま、こういうバッグをにらみつけました。すると

(ばっぐはおそれいったとみえ、なんどもあたまへてをやりながら、こういってちゃっくに)

バッグは恐れいったとみえ、何度も頭へ手をやりながら、こう言ってチャックに

(あやまるのです。「どうもまことにあいすみません。じつはこのだんなのきみわるがる)

あやまるのです。「どうもまことに相すみません。実はこの旦那の気味悪がる

(のがおもしろかったものですから、ついちょうしにのっていたずらをしたのです。どうか)

のがおもしろかったものですから、つい調子に乗って悪戯をしたのです。どうか

(だんなもかんにんしてください。」)

旦那も堪忍してください。」

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