河童 4 芥川龍之介

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芥川龍之介の名作

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問題文

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(よん ぼくはだんだんかっぱのつかうにちじょうのことばをおぼえてきました。したがってかっぱのや)

四 僕はだんだん河童の使う日常の言葉を覚えてきました。従って河童のや

(しゅうかんものみこめるようになってきました。そのなかでもいちばんふしぎだったのはかっぱ)

習慣ものみこめるようになってきました。その中でも一番不思議だったのは河童

(はわれわれにんげんのまじめにおもうことをおかしがる、どうじにわれわれにんげんのおかしがること)

は我々人間の真面目に思うことをおかしがる、同時に我々人間のおかしがること

(をまじめにおもうーーこういうとんちんかんなしゅうかんです。たとえばわれわれにんげんはせいぎ)

を真面目に思うーーこういうとんちんかんな習慣です。たとえば我々人間は正義

(とかじんどうとかいうことをまじめにおもう、しかしかっぱはそんなことをきくと、はらを)

とか人道とかいうことを真面目に思う、しかし河童はそんなことを聞くと、腹を

(かかえてわらいだすのです。つまりかれらのこっけいというかんねんはわれわれのこっけいというかんねん)

かかえて笑い出すのです。つまり彼らの滑稽という観念は我々の滑稽という観念

(とぜんぜんひょうじゅんをことにしているのでしょう。ぼくはあるときいしゃのちゃっくと)

と全然標準を異にしているのでしょう。ぼくはある時医者のチャックと

(さんじせいげんのはなしをしていました。するとちゃっくはおおくちをあいて、はなめがねのおちる)

産児制限の話をしていました。するとチャックは大口をあいて、鼻目金の落ちる

(ほどわらいだしました。ぼくはもちろんはらがたちましたから、なにがおかしいかと)

ほど笑い出しました。僕はもちろん腹が立ちましたから、何がおかしいかと

(きつもんしました。なんでもちゃっくのへんとうはだいたいこうだったようにおぼえて)

詰問しました。なんでもチャックの返答はだいたいこうだったように覚えて

(います。もっともたしょうこまかいところはまちがっているかもしれません。なにしろ)

います。もっとも多少細かいところは間違っているかもしれません。なにしろ

(まだそのころはぼくもかっぱのつかうことばをすっかりりかいしていなかったのですから。)

まだそのころは僕も河童の使う言葉をすっかり理解していなかったのですから。

(「しかしりょうしんのつごうばかりかんがえているのはおかしいですからね。どうも)

「しかし両親のつごうばかり考えているのはおかしいですからね。どうも

(てまえがってですからね。」)

手前勝手ですからね。」

(そのかわりにわれわれにんげんからみれば、じっさいまたかっぱのおさんぐらい、おかしいもの)

その代わりに我々人間から見れば、実際また河童のお産ぐらい、おかしいもの

(はありません。げんにぼくはしばらくたってから、ばっぐのさいくんのおさんをするところ)

はありません。現に僕はしばらくたってから、バッグの細君のお産をするところ

(をばっぐのこやへけんぶつにゆきました。かっぱもおさんをするときにはわれわれにんげんとおなじ)

をバッグの小屋へ見物にゆきました。河童もお産をする時には我々人間と同じ

(ことです。やはりいしゃやさんばなどのたすけをかりておさんをするのです。)

ことです。やはり医者や産婆などの助けを借りてお産をするのです。

(けれどもおさんをするとなると、ちちおやはでんわでもかけるようにははおやのせいしょくきに)

けれどもお産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親の生殖器に

(くちをつけ、「おまえはこのせかいへうまれてくるかどうか、よくかんがえたうえでへんじを)

口をつけ、「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事を

など

(しろ。」とおおきなこえでたずねるのです。ばっぐもやはりひざをつきながら、なんども)

しろ。」と大きな声で尋ねるのです。バッグもやはり膝をつきながら、何度も

(くりかえしてこういいました。それからてえぶるのうえにあったしょうどくようのすいやくで)

繰り返してこう言いました。それからテエブルの上にあった消毒用の水薬で

(うがいをしました。するとさいくんのはらのなかのこはたしょうきがねでもしているとみえ、)

うがいをしました。すると細君の腹の中の子は多少気兼ねでもしているとみえ、

(こうこごえにへんじをしました。「ぼくはうまれたくありません。だいいちぼくのおとうさん)

こう小声に返事をしました。「僕は生まれたくありません。第一僕のお父さん

(のいでんはせいしんびょうだけでもたいへんです。そのうえぼくはかっぱてきそんざいをわるいとしんじて)

の遺伝は精神病だけでもたいへんです。その上僕は河童的存在を悪いと信じて

(いますから。」ばっぐはこのへんじをきいたとき、てれたようにあたまをかいていました)

いますから。」バッグはこの返事を聞いた時、てれたように頭をかいていました

(が、そこにいあわせたさんばはたちまちさいくんのせいしょくきへふといがらすのかんをつきこみ)

が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太い硝子の管を突き込み

(なにかえきたいをちゅうしゃしました。するとさいくんはほっとしたようにふといいきをもらし)

なにか液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息をもらし

(ました。どうじにまたいままでおおきかったはらはすいそがすをぬいたふうせんのように)

ました。同時にまた今まで大きかった腹は水素瓦斯を抜いた風船のように

(へたへたとちぢんでしまいました。)

へたへたと縮んでしまいました。

(こういうへんじをするくらいですから、かっぱのこどもはうまれるがはやいか、)

こういう返事をするくらいですから、河童の子どもは生まれるが早いか、

(もちろんあるいたりしゃべったりするのです。なんでもちゃっくのはなしではしゅっさんご)

もちろん歩いたりしゃべったりするのです。なんでもチャックの話では出産後

(にじゅうろくにちめにかみのうむについてこうえんをしたこどももあったとかいうことですが。)

二十六日目に神の有無について講演をした子どももあったとかいうことですが。

(おさんのはなしをしたついでですから、ぼくがこのくにへきたみっかめにぐうぜんあるまちのかどで)

お産の話をしたついでですから、僕がこの国へ来た三日目に偶然ある街の角で

(みかけた、おおきいぽすたあのしたにはらっぱをふいているかっぱだのけんをもっている)

見かけた、大きいポスタアの下には喇叭を吹いている河童だの剣を持っている

(かっぱだのがじゅうにさんびきえがいてありました。それからまたうえにはかっぱのつかう、)

河童だのが十二三匹描いてありました。それからまた上には河童の使う、

(ちょうどとけいのぜんまいににたらせんもじがいちめんにならべてありました。このらせん)

ちょうど時計のゼンマイに似た螺旋文字が一面に並べてありました。この螺旋

(もじをほんやくすると、だいたいこういういみになるのです。これもあるいはこまかい)

文字を翻訳すると、だいたいこういう意味になるのです。これもあるいは細かい

(ところはまちがっているかもしれません。)

ところは間違っているかもしれません。

(が、とにかくぼくとしてはぼくといっしょにあるいていた、らっぷというかっぱのがくせい)

が、とにかく僕としては僕といっしょに歩いていた、ラップという河童の学生

(がおおごえによみあげてくれることばをいちいちのおとにとっておいたのです。)

が大声に読み上げてくれる言葉をいちいちノオトにとっておいたのです。

(ぼくはもちろんそのときにもそんなことのおこなわれないことをらっぷにはなしてきかせ)

僕はもちろんその時にもそんなことの行われないことをラップに話して聞かせ

(ました。するとらっぷばかりではない、ぽすたあのきんじょにいたかっぱはことごとく)

ました。するとラップばかりではない、ポスタアの近所にいた河童はことごとく

(げらげらわらいだしました。)

げらげら笑い出しました。

(「おこなわれない?だってあなたのはなしではあなたがたもやはりわれわれのようにおこなって)

「行われない?だってあなたの話ではあなたがたもやはり我々のように行って

(いるとおもわれますがね。あなたはれいそくがじょちゅうにほれたり、れいじょうがうんてんしゅにほれた)

いると思われますがね。あなたは令息が女中に惚れたり、令嬢が運転手に惚れた

(りするのはなんのためだとおもっているのです?あなたはみなむいしきてきにあくいでんを)

りするのはなんのためだと思っているのです?あなたは皆無意識的に悪遺伝を

(ぼくめつしているのですよ。だいいちこのあいだあなたのはなしたあなたがたにんげんのぎゆうたい)

撲滅しているのですよ。第一この間あなたの話したあなたがた人間の義勇隊

(よりも、ーーいっぽんのてつどうをうばうためにたがいにころしあうぎゆうたいですね、)

よりも、ーー一本の鉄道を奪うために互いに殺し合う義勇隊ですね、

(ーーああいうぎゆうたいにくらべれば、ずっとぼくたちのぎゆうたいはこうしょうではないかと)

ーーああいう義勇隊に比べれば、ずっと僕たちの義勇隊は高尚ではないかと

(おもいますがね。」らっぷはまじめにこういいながら、しかもふといはらだけは)

思いますがね。」ラップは真面目にこう言いながら、しかも太い腹だけは

(おかしそうにたえずなみだたせていました。が、ぼくはわらうどころか、あわててある)

おかしそうに絶えず浪立たせていました。が、僕は笑うどころか、あわててある

(かっぱをつかまえようとしました。それはぼくのゆだんをみすまし、そのかっぱがぼくの)

河童をつかまえようとしました。それは僕の油断を見すまし、その河童が僕の

(まんねんひつをぬすんだことにきがついたからです。しかしひふのなめらかなかっぱはようい)

万年筆を盗んだことに気がついたからです。しかし皮膚の滑らかな河童は容易

(にわれわれにはつかまりません。そのかっぱもぬらりとすべりぬけるがはやいかいっさん)

に我々にはつかまりません。その河童もぬらりとすべり抜けるが早いかいっさん

(ににげだしてしまいました。ちょうどかのようにやせたからだをたおれるかとおもう)

に逃げ出してしまいました。ちょうど蚊のようにやせた体を倒れるかと思う

(くらいのめらせながら。)

くらいのめらせながら。

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