花婿失踪事件
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問題文
(「わとそん」しゃーろっくほーむずとわたしがべーかーがいのへやで)
「ワトソン」シャーロックホームズと私がベーカー街の部屋で
(だんろのりょうがわにすわっていると、かれがはなしかけてきた。)
暖炉の両側に座っていると、彼が話しかけてきた。
(「にちじょうせいかつのきみょうさは、にんげんのそうぞうりょくでうみだせるどんなものとも)
「日常生活の奇妙さは、人間の想像力で生み出せるどんな物とも
(ひかくにならないな。)
比較にならないな。
(ごくありふれたにちじょうせいかつでおこっているじけんを)
ごくありふれた日常生活で起こっている事件を
(あたまのなかでおもいえがくことなどふかのうだ。)
頭の中で思い描くことなど不可能だ。
(もしぼくたちが、そのまどからてをつないでとびだせたとしよう。)
もし僕たちが、その窓から手を繋いで飛び出せたとしよう。
(ろんどんのじょうくうにふわりとただよい、しずかにやねを)
ロンドンの上空にふわりと漂い、静かに屋根を
(とりはらい、そこでおこっているきみょうなできごとを)
取り払い、そこで起こっている奇妙な出来事を
(のぞきこむのだ。)
覗き込むのだ。
(きみょうなぐうぜん、いんぼう、すれちがい、おどろくべきできごとのいんが、)
奇妙な偶然、陰謀、すれ違い、驚くべき出来事の因果、
(それがせだいをこえてとほうもなくいじょうなけっかへとみちびく。)
それが世代を超えて途方もなく異常な結果へと導く。
(これをめにすれば、ありふれてけつまつのみえるふぃくしょんなど、)
これを目にすれば、ありふれて結末の見えるフィクションなど、
(どれもこれもきのぬけたかちのないものだな」)
どれもこれも気の抜けた価値のないものだな」
(「いや、それはなっとくできないな」わたしはこたえた。)
「いや、それは納得できないな」私は答えた。
(「しんぶんにのっているじけんはたいていつまらないし、ていぞくだ。)
「新聞に載っている事件はたいていつまらないし、低俗だ。
(けいさつのちょうしょはりありずむのきょくちだが、)
警察の調書はリアリズムの極致だが、
(だからといってみりょくてきでもげいじゅつてきでもない。)
だからと言って魅力的でも芸術的でもない。
(これはみとめざるをえないだろう」)
これは認めざるを得ないだろう」
(「げんじつというそざいをいかそうとすれば、たしかな)
「現実という素材を生かそうとすれば、確かな
(しゅしゃせんたくがひつようだ」ほーむずはいった。)
取捨選択が必要だ」ホームズは言った。
(「それがけいさつのちょうしょにはかけている。おそらく、)
「それが警察の調書には欠けている。おそらく、
(もっともりきてんをおいているのはちあんはんじのきまりもんくで、)
もっとも力点を置いているのは治安判事の決まり文句で、
(じけんのしょうさいではない。とうじしゃでなければ、)
事件の詳細ではない。当事者でなければ、
(しょうさいをせつめいしてもらわなければ、じけんをりかいできないのは、)
詳細を説明してもらわなければ、事件を理解できないのは、
(とうぜんじゃないか。とにかく)
当然じゃないか。とにかく
(へいぼんよりもふしぜんなものはない」)
平凡よりも不自然なものはない」
(わたしはわらってくびをふった。「きみがそうかんがえるのも)
私は笑って首を振った。「君がそう考えるのも
(わからないではない」わたしはいった。)
分からないではない」わたしは言った。
(「きみょうできかいなじけんにこまりはてたにんげんが)
「奇妙で奇怪な事件に困り果てた人間が
(さんだいりくからおしよせてきて、それにこじんてきに)
三大陸から押し寄せてきて、それに個人的に
(じょげんしたりてだすけするいうきみみたいなたちばなら)
助言したり手助けするいう君みたいな立場なら
(とうぜんだ。しかしここで」わたしはゆかにあった)
当然だ。しかしここで」わたしは床にあった
(ちょうかんをひろいあげた。)
朝刊を拾い上げた。
(「じっちしけんをしてみようじゃないか。ぼくのめに)
「実地試験をしてみようじゃないか。僕の目に
(さいしょにとまったみだしはこうだ。)
最初に止まった見出しはこうだ。
(「つまをぎゃくたいするおっと」こらむのはんぶんくらいをしめているが、)
『妻を虐待する夫』コラムの半分くらいを占めているが、
(しかしよまなくても、これがすべてぼくには)
しかし読まなくても、これがすべて僕には
(おなじみのことばかりだとわかるよ。)
おなじみのことばかりだと分かるよ。
(もちろんべつのおんながいて、さけ、こづく、なぐる、あざができる、)
もちろん別の女がいて、酒、小突く、殴る、あざが出来る、
(どうじょうするきょうだいやおんなあるじ、こうだな。)
同情する兄弟や女主人、こうだな。
(どんなそざつなさっかでもこれいじょう)
どんな粗雑な作家でもこれ以上
(そざつにかけるものじゃない」)
粗雑に書けるものじゃない」
(「はっきりいって、そのれいをあげたのは、)
「はっきり言って、その例を挙げたのは、
(きみのしゅちょうにはふうんだったな」)
君の主張には不運だったな」
(ほーむずはしんぶんをとりあげて、そこに)
ホームズは新聞を取り上げて、そこに
(しせんをおとしながらいった。)
視線を落としながら言った。
(「これはだんかすのりこんのじけんだが、たまたま)
「これはダンカスの離婚の事件だが、たまたま
(ぼくはこれにかんするちょっとしたもんだいをかいけつするのに)
僕はこれに関するちょっとした問題を解決するのに
(かかわったんだ。)
関わったんだ。
(このおっとはぜったいきんしゅしゅぎしゃで、ほかにおんなはつくっていない。)
この夫は絶対禁酒主義者で、他に女は作っていない。
(うったえのもとになったこういというのは、どういうわけか、)
訴えの元になった行為というのは、どういうわけか、
(かれがしょくじのさいごにいればをとりだしてつまになげつける)
彼が食事の最後に入れ歯を取り出して妻に投げつける
(というしゅうかんをみにつけてしまったということだ。)
という習慣を身につけてしまったという事だ。
(これは、へいきんてきなものがたりさっかのそうぞうりょくでは)
これは、平均的な物語作家の想像力では
(うみだせそうもないできごとだ。)
生み出せそうもない出来事だ。
(きみもみとめるだろう。わとそん、かぎたばこでいっぷくして、)
君も認めるだろう。ワトソン、嗅ぎタバコで一服して、
(きみがあげたれいでぼくがかったことをみとめたらどうだ」)
君があげた例で僕が勝った事を認めたらどうだ」