花婿失踪事件2
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問題文
(ほーむずはふたのちゅうおうにおおきな)
ホームズは蓋の中央に大きな
(あめじすとがついたこいきんいろの)
アメジストがついた濃い金色の
(たばこいれをさしだした。)
タバコ入れを差し出した。
(そのごうかさはほーむずのきどらない)
その豪華さはホームズの気取らない
(すたいるやしっそなせいかつとは、たいしょうてき)
スタイルや質素な生活とは、対照的
(だったので、そのことはいわずにはいられなかった。)
だったので、その事は言わずにはいられなかった。
(「ああ」ほーむずはいった。)
「ああ」ホームズは言った。
(「きみとはなんしゅうかんかあっていないのをわすれていた。)
「君とは何週間か会っていないのを忘れていた。
(それはぼへみあおうからあいりーんあどらー)
それはボヘミア王からアイリーン・アドラー
(しゃしんじけんのてつだいをしたみかえりとしてもらった、)
写真事件の手伝いをした見返りとしてもらった、
(ちょっとしたきねんひんだ」)
ちょっとした記念品だ」
(「そのゆびわも?」)
「その指輪も?」
(わたしはほーむずのゆびでかがやいているものすごい)
私はホームズノ指で輝いている物凄い
(だいやをちらっとみながらきいた。)
ダイヤをちらっと見ながら訊いた。
(「これはおらんだおうけからもらったものだ。)
「これはオランダ王家からもらったものだ。
(ぼくがかかわったこのじけんはひじょうにきわどいので、)
僕が関わったこの事件は非常に際どいので、
(しんせつにもぼくのちいさなじけんのきろくをひとつ、ふたつ、かいて)
親切にも僕の小さな事件の記録を一つ、二つ、書いて
(くれたきみにもはなせないのだ」)
くれた君にも話せないのだ」
(「いまかかわっているものはあるのか?」)
「今関わっているものはあるのか?」
(わたしはきょうみがでてきいた。)
私は興味が出て訊いた。
(「10か12くらいか。しかしおもしろいものはまったくない。)
「10か12くらいか。しかし面白いものは全くない。
(いいか、おもしろくはないんだが、これらは)
いいか、面白くはないんだが、これらは
(じゅうようなじけんなんだ。じっさい、ぼくははっけんしたんだ。)
重要な事件なんだ。実際、僕は発見したんだ。
(かんさつ、すばやいげんいんぶんせき、そうさにみりょくを)
観察、素早い原因分析、捜査に魅力を
(あたえるおもむき、こうしたばをていきょうして)
与える趣き、こうした場を提供して
(くれるのは、たいていささいなじけんだ。)
くれるのは、たいていささいな事件だ。
(おおきなはんざいはたんじゅんなけいこうにある。)
大きな犯罪は単純な傾向にある。
(はんざいがおおきくなるほど、どうきがわかりやすくなる)
犯罪が大きくなるほど、動機がわかりやすくなる
(のがいっぱんてきだからね。)
のが一般的だからね。
(まるせいゆからしょうかいがあったややいりくんだものを)
マルセイユから紹介があったやや入り組んだものを
(のぞけば、おもしろそうなじけんをもったじけんは)
除けば、面白そうな事件を持った事件は
(いっけんもないな。しかし、もしかしたら)
一件もないな。しかし、もしかしたら
(そうまたなくても、もうすこしましなじけんが)
そう待たなくても、もう少しましな事件が
(くるかもしれないな。)
来るかもしれないな。
(よほどのかんちがいでなければ、あれはぼくのいらいにんだ」)
よほどの勘違いでなければ、あれは僕の依頼人だ」
(ほーむずはいすからたちあがり、)
ホームズは椅子から立ち上がり、
(ひらかれたぶらいんどのあいだにたって、)
開かれたブラインドの間に立って、
(ぼんやりとにじんだいろになっている、)
ぼんやりとにじんだ色になっている、
(ろんどんのとおりをみおろしていた。)
ロンドンの通りを見下ろしていた。
(ほーむずのかたこしにながめると、とおりの)
ホームズの肩越しに眺めると、通りの
(はんたいがわにふとったじょせいがたっているのがみえた。)
反対側に太った女性が立っているのが見えた。
(りっぱなけがわのえりまきをくびにまき、おおきなまいた)
立派な毛皮の襟巻を首に巻き、大きな巻いた
(あかいはねがついたつばひろぼうをこけてっしゅな)
赤い羽根が付いたつば広帽をコケテッシュな
(でぼんしーるこうしゃくふじんふうにあずけて、)
デボンシール公爵夫人風に預けて、
(がたみみをおおうようにかぶっていた。)
型耳を覆うように被っていた。
(このりっぱないでたちで、かのじょはわれわれのまどを)
この立派ないでたちで、彼女は我々の窓を
(おずおずとためらいがちにみあげていた。)
おずおずとためらいがちに見上げていた。
(かのじょのからだはぜんごにゆれ、ゆびでてぶくろのぼたんを)
彼女の体は前後に揺れ、指で手袋のボタンを
(いじっていた。とつぜん、すいえいをするひとがきしから)
いじっていた。突然、水泳をする人が岸から
(はなれるように、かのじょはみちをよこぎり、かけだした。)
離れるように、彼女は道を横切り、駆け出した。
(べるがするどくなるのがきこえた。)
ベルが鋭く鳴るのが聞こえた。
(「あのしょうじょうはみたことがあるな」)
「あの症状は見たことがあるな」
(ほーむずがたばこをだんろになげすてながらいった。)
ホームズがタバコを暖炉に投げ捨てながら言った。
(「ろじょうでゆれうごくのは、つねにれんあいじけんだ。)
「路上で揺れ動くのは、常に恋愛事件だ。
(かのじょはじょげんをもとめたいが、ないようがびみょうすぎて)
彼女は助言を求めたいが、内容が微妙すぎて
(わかってもらえるかじしんがない。)
分かってもらえるか自信がない。
(さらにここからでもみわけることができる。)
さらにここからでも見分けることができる。
(もしおんながおとこにひどいめにあわされたのなら、)
もし女が男にひどい目に遭わされたのなら、
(おんなはゆれうごいたりしないし、よくやるのは)
女は揺れ動いたりしないし、よくやるのは
(べるのひもをひきちぎることだ。)
ベルの紐を引きちぎることだ。
(そこでこうかんがえていいだろう。)
そこでこう考えていいだろう。
(れんあいじけんだが、かのじょはいかったり、とほうにくれたり、)
恋愛事件だが、彼女は怒ったり、途方に暮れたり、
(なげいたりしていないと。)
嘆いたりしていないと。
(しかし、かのじょがみずからわれわれのぎもんをときにやってきたな」)
しかし、彼女が自ら我々の疑問を解きにやって来たな」
(ほーむずがはなしているさいちゅう、どあがのっくされ、)
ホームズが話している最中、ドアがノックされ、
(ぼーいがはいってきて、)
ボーイが入ってきて、
(みすめありーさざーらんどのなをつげた。)
ミス・メアリー・サザーランドの名を告げた。
(かのじょはたぐぼーとひかれるまんぱんのしょうせんのように、)
彼女はタグボート引かれる満帆の商船のように、
(ぐろふくをきたちいさなぼーいのうしろにぬっと)
黒服を着た小さなボーイの後ろにぬっと
(たっていた。しゃーろっくほーむずは、)
立っていた。シャーロックホームズは、
(かれにしてはめずらしくおだやかにれいぎただしくかんげいのいをしめした。)
彼にしては珍しく穏やかに礼儀正しく歓迎の意を示した。
(そしてどあをしめさせてかのじょをひじかけいすにてまねきした。)
そしてドアを閉めさせて彼女を肘掛け椅子に手招きした。
(ほーむずは、めんみつだがさりげない、どくとくのたいどで、)
ホームズは、綿密だがさりげない、独特の態度で、
(かのじょをざっとみまわした。)
彼女をざっと見まわした。