花婿失踪事件3
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問題文
(「あなたは」ほーむずはいった。)
「あなたは」ホームズは言った。
(「それほどのきんしで、たいぷをたくさん)
「それほどの近視で、タイプをたくさん
(うつのはたいへんではないですか?」)
打つのは大変ではないですか?」
(「さいしょはそうでした」かのじょはこたえた。)
「最初はそうでした」彼女は答えた。
(「でも、いまはみなくてもきーのいちは)
「でも、今は見なくてもキーの位置は
(わかっていますし・・・」そのときとつぜん、)
分かっていますし・・・」その時突然、
(かのじょはほーむずのことばのしんいにきづき、)
彼女はホームズの言葉の真意に気付き、
(みてわかるほどはっとしてみあげた。おおきな)
見て分かるほどハッとして見上げた。大きな
(したしみやすいかおに、きょうふときょうたんのひょうじょうがうかんでいた。)
親しみやすい顔に、恐怖と驚嘆の表情が浮かんでいた。
(「ほーむずさんは、わたしをごぞんじなのですか?」)
「ホームズさんは、私をご存じなのですか?」
(かのじょはさけんだ。)
彼女は叫んだ。
(「そうでなければ、どうしてそんなことが)
「そうでなければ、どうしてそんなことが
(わかったのですか?」「おきになさらずに」)
分かったのですか?」「お気になさらずに」
(ほーむずはわらいながらいった。)
ホームズは笑いながら言った。
(「いろいろなことにきづくのがわたしのしごとです。たにんが)
「色々な事に気付くのが私の仕事です。他人が
(みのがしていることをみぬくくんれんをしていても)
見逃していることを見抜く訓練をしていても
(ふしぎではない。そうでなければ、あなたも)
不思議ではない。そうでなければ、あなたも
(わたしのところにごそうだんにくるひつようはないでしょう?」)
わたしのところにご相談に来る必要はないでしょう?」
(「わたしがうかがったのは、えさりっじふじんからあなたの)
「私が伺ったのは、エサリッジ夫人からあなたの
(ことをきいたからです。あなたはかのじょのおっとを)
ことを聞いたからです。あなたは彼女の夫を
(いともかんたんにみつけだしました。けいさつや)
いとも簡単に見つけ出しました。警察や
(ほかのみんながしんだとあきらめていたのに。)
他のみんなが死んだと諦めていたのに。
(ほーむずさん、わたしにもおなじようにしていただき)
ホームズさん、私にも同じようにしていただき
(たいのです。わたしはそうおかねもちとはいえませんが、)
たいのです。私はそうお金持ちとは言えませんが、
(それでもたいぷらいたのしょうしょうのしゅうにゅうはべつにして)
それでもタイプライタの少々の収入は別にして
(じゆうになるおかねがねんに100ぽんどあります。)
自由になるお金が年に100ポンドあります。
(ほずまーえんじぇるさんになにがおきたかを)
ホズマー・エンジェルさんに何が起きたかを
(しるためには、それをすべてさしあげてもかまいません」)
知るためには、それを全て差し上げても構いません」
(「なぜわたしにあいにくるのにそんなにあわててでてきたのですか?」)
「なぜ私に会いに来るのにそんなに慌てて出てきたのですか?」
(ほーむずはつめさきをあわせててんじょうをみながらきいた。)
ホームズは爪先を合わせて天井を見ながら訊いた。
(めありーさざーらんどのちょっとぼんやりしたかおに、)
メアリー・サザーランドのちょっとぼんやりした顔に、
(ふたたびぎくりとしたひょうじょうがうかんだ。)
再びギクリとした表情が浮かんだ。
(「はい、わたしはあわてていえをとびだしてきました。」)
「はい、私は慌てて家を飛び出して来ました。」
(かのじょはいった。)
彼女は言った。
(「うぃんでぃばんくさんが、--わたしのちちですがーー)
「ウィンディバンクさんが、--私の父ですがーー
(すべてにおいてのうてんきなたいどなのをみてはらが)
全てにおいて能天気な態度なのを見て腹が
(たったんです。ちちはけいさつにもいこうともしませんし、)
立ったんです。父は警察にも行こうともしませんし、
(あなたにそうだんにいこうともしません。)
あなたに相談に行こうともしません。
(ちちはなにもしようとせず、しまいには、)
父は何もしようとせず、しまいには、
(わるいことはひとつもおきていないとくりかえしました。)
悪いことは一つも起きていないと繰り返しました。
(それであたまにきて、そのへんのものをみにつけただけで、)
それで頭にきて、その辺のものを身につけただけで、
(すぐにこちらまでまいりました」)
すぐにこちらまで参りました」
(「おとうさんとおっしゃるほうは」)
「お父さんとおっしゃる方は」
(ほーむずはいった。)
ホームズは言った。
(「じっさいにはけいふですね、みょうじがちがいますから」)
「実際には継父ですね、名字が違いますから」
(「そうです、けいふにあたります。ちちとよんでいますが、)
「そうです、継父にあたります。父と呼んでいますが、
(そうよぶのはおかしくきこえるかもしれません。)
そう呼ぶのはおかしく聞こえるかもしれません。
(わたしより5さいと2かげつうえなだけですから」)
私より5歳と2か月上なだけですから」
(「おかあさんはごぞんめいですか?」)
「お母さんはご存命ですか?」
(「はい、はははげんきにしております。)
「はい、母は元気にしております。
(ほーむずさん、ちちがしんですぐにははが)
ホームズさん、父が死んですぐに母が
(15さいちかくもとししたのひととさいこんしたとき、)
15歳近くも年下の人と再婚した時、
(わたしはあまりうれしくありませんでした。)
私はあまり嬉しくありませんでした。
(ちちはとてなむこーとろーどの)
父はトテナム・コート・ロードの
(はいかんこうをしていました。)
配管工をしていました。
(ちちはかなりのしゅうえきがあるかいしゃをのこしました。)
父はかなりの収益がある会社を遺しました。
(それをはははおやかたのはーでぃしとつづけていました。)
それを母は親方のハーディ氏と続けていました。
(しかしうぃんでぃばんくさんがははに)
しかしウィンディバンクさんが母に
(そのかいしゃをうらせました。かれはわいんしょうしゃの)
その会社を売らせました。彼はワイン商社の
(がいこういんで、ひじょうにごうまんなのです。)
外交員で、非常に傲慢なのです。
(ふたりはえいぎょうけんとしょゆうけんで4700ぽんどをうけとりました。)
二人は営業権と所有権で4700ポンドを受け取りました。
(ちちがいきていれば、そんなはしたがねではうらなかったでしょう」)
父が生きていれば、そんなはした金では売らなかったでしょう」
(わたしはしゃーろっくほーむずがこのとりとめのない)
私はシャーロックホームズがこの取り留めの無い
(くだらないはなしをきいて、いらいらしているとおもった。)
下らない話を聞いて、イライラしていると思った。
(しかし、よそうにはんして、ほーむずはひじょうにしゅうちゅうして)
しかし、予想に反して、ホームズは非常に集中して
(はなしにみみをかたむけていた。)
話に耳を傾けていた。
(「あなたごじしんのちょっとしたしゅうにゅうというのは」)
「あなたご自身のちょっとした収入というのは」
(かれはきいた。)
彼は訊いた。
(「そのかいしゃからもらえるものですか?」)
「その会社からもらえるものですか?」
(「いえ、ちがいます。それとはまったくべつで、)
「いえ、違います。それとはまったく別で、
(おーくらんどのおじのねっどがのこしてくれたものです。)
オークランドの叔父のネッドが遺してくれたものです。
(にゅーじーらんどのさいけんで、りまわりは4.5ぱーせんとです。)
ニュージーランドの債権で、利回りは4.5パーセントです。
(ぜんたいで2500ぽんどありますが、わたしはりしにしか)
全体で2500ポンドありますが、私は利子にしか
(てをつけられません」「きわめてきょうみぶかいですな」)
手をつけられません」「極めて興味深いですな」
(ほーむずはいった。)
ホームズは言った。
(「いちねんかんに100ぽんどとはそうとうながくがひきだせるし、)
「一年間に100ポンドとは相当な額が引き出せるし、
(そのうえごじぶんのしゅうにゅうもあるのなら、きっとあなたは)
その上ご自分の収入もあるのなら、きっとあなたは
(ちょっとりょこうしたり、おもうぞんぶんいろいろなぜいたくができるでしょう。)
ちょっと旅行したり、思う存分色々な贅沢ができるでしょう。
(60ぽんどもあれば、どくしんのじょせいならけっこうなくらしが)
60ポンドもあれば、独身の女性なら結構な暮らしが
(できるはずです」)
出来るはずです」
(「それよりずっとすくなくてもじゅうぶんです、ほーむずさん。)
「それよりずっと少なくても十分です、ホームズさん。
(しかしわたしはおやといっしょにくらしていて、おやにやっかいをかけたい)
しかし私は親と一緒に暮らしていて、親に厄介をかけたい
(とはおもわないので、いっしょにくらしているあいだはそのおかねを)
とは思わないので、一緒に暮らしている間はそのお金を
(りょうしんがつかっています。もちろん、どうきょしているあいだだけですが。)
両親が使っています。もちろん、同居している間だけですが。
(うぃんでぃばんくさんはしはんきごとにわたしのりしをひきだし、)
ウィンディバンクさんは四半期毎に私の利子を引き出し、
(ははにわたしています。わたしはたいぷらいたのしゅうにゅうで)
母に渡しています。私はタイプライタの収入で
(じゅうぶんやっていけます。いちまいうつと2ぺんすになり、)
十分やっていけます。一枚打つと2ペンスになり、
(いちにち15まいから20まいはうつこともおおいですから」)
一日15枚から20枚は打つことも多いですから」