私はかうして死んだ！三 ２　平林初之輔

(「それからにどめにいったのはそのよくじつのゆうがたでしたが」とかれはしょくぎょうがらすこし)

「それから二度目に行ったのはその翌日の夕方でしたが」と彼は職業がら少し

(いいにくそうにことばをつづけた。 「なにしろりゅうかんがひどくはやっていて、)

言いにくそうに言葉をつづけた。 「何しろ流感がひどくはやっていて、

(てばなせないかんじゃがあったものですから、ついおくれましてね。けれども、どうせ)

手放せない患者があったものですから、ついおくれましてね。けれども、どうせ

(はやくおうかがいしたところで、どうにもしようはなかったのです。４じすこしまえに)

はやくお伺いしたところで、どうにもしようはなかったのです。四時少し前に

(つかいのかたがこられて、すぐいってみましたが、そのときはもうこときれた)

使いの方が来られて、すぐ行ってみましたが、その時はもうこときれた

(あとでした。じつにめずらしいかんじゃでしたよ。なんでもわたしがぜんじつしんさつしたときまで、)

あとでした。実にめずらしい患者でしたよ。何でも私が前日診察した時まで、

(いちどもいしゃにかけたことはないようすでしたからね。まるっきり、あおざめたはくせいの)

一度も医者にかけたことはない様子でしたからね。まるっきり、蒼ざめた剥製の

(にんげんというかんじで、いきのかよっていたのがふしぎなくらいでした」)

人間という感じで、息の通っていたのが不思議なくらいでした」

(せごしいしのはなしはこれでおわった。 「そのおとこはたしかにふないさぶろうと)

瀬越医師の話はこれで了った。 「その男はたしかに船井三郎と

(もうしましたか？」とわたしはあっけにとられてきいた。 「ほんにんはこんすいじょうたいで、くちを)

申しましたか？」と私はあっけにとられてきいた。 「本人は昏睡状態で、口を

(きくことはできなかったのですが、たまむらというそのいえのしゅじんがかんじゃのおともだちとか)

きくことはできなかったのですが、玉村というその家の主人が患者のお友達とか

(で、かんじゃのじゅうしょせいめいからげんせきまですっかりしっていてわたしにそういいました」)

で、患者の住所姓名から原籍まですっかり知っていて私にそう言いました」

(わたしにはたまむらというおとこはぜんぜんこころあたりがなかったので、 「そのしゅじんという)

私には玉村という男はぜんぜん心あたりがなかったので、 「その主人という

(のはどんなおとこでした？」 とたずねてみた。)

のはどんな男でした？」 　とたずねてみた。

(「まだねんれいは４０まえのようでしたが、あごからほおまでいちめんにみごとなひげをのばして)

「まだ年齢は四十前のようでしたが、あごから頬まで一面に見事な髭をのばして

(いるひとでした」 わたしはこれだけきくと、いんちょうにていねいにおれいをのべて、)

いる人でした」 　私はこれだけ聞くと、院長に丁寧にお礼を述べて、

(せごしいいんをさった。)

瀬越医院を去った。