ああ玉杯に花うけて 1

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プレイ回数1147難易度(4.5) 4645打 長文
長文です。
佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」です。
青空文庫より引用
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りっつ 4996 B 5.1 97.2% 897.1 4610 128 90 2024/03/20
2 Par100 3816 D++ 3.9 96.5% 1165.5 4612 164 90 2024/04/07

関連タイピング

問題文

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(とうふやのちびこうはいまたんぼのあぜをつたってつぎのまちへいそぎつつある。)

豆腐屋のチビ公はいまたんぼのあぜを伝ってつぎの町へ急ぎつつある。

(さわやかなはるのあさひがもりをはなれてこがねのひかりのあめをみどりのむぎばたけに、)

さわやかな春の朝日が森をはなれて黄金の光の雨を緑の麦畑に、

(げんげさくくれないのたにふらす、)

げんげさくくれないの田に降らす、

(あぜのくさはよつゆからめざめてかろやかにあたまをあげる、すみれはうすむらさきのとをひらき、)

あぜの草は夜露からめざめて軽やかに頭を上げる、すみれは薄紫の扉を開き、

(たんぽぽはおれんじいろのかんむりをささげる。)

たんぽぽはオレンジ色の冠をささげる。

(せきのみずはちょろちょろおとたててたへおちると、)

堰の水はちょろちょろ音立てて田へ落ちると、

(かえるはこれからなきだすじゅんびにとりかかっている。)

かえるはこれからなきだす準備にとりかかっている。

(ちびこうはかたのてんびんぼうにぶらさげたりょうほうのおけをくるりとまわした。)

チビ公は肩のてんびん棒にぶらさげた両方のおけをくるりとまわした。

(そうしてしばらくけしきにみとれた。)

そうしてしばらく景色に見とれた。

(つつみのうえにかっとあさひをうけてうきだしているむらのやねやね、)

堤の上にかっと朝日をうけてうきだしている村の屋根屋根、

(ひのみやぐら、やくばのまど、しろいどぞう、)

火の見やぐら、役場の窓、白い土蔵、

(それらはいまねむりからかつどうにむかってかんきのこえをあげているかのよう、)

それらはいまねむりから活動に向かって歓喜の声をあげているかのよう、

(ところどころにたつすいえんはのどかにかぜにゆれてはやしをめぐり、)

ところどころに立つ炊煙はのどかに風にゆれて林をめぐり、

(おみやのうしろへなびき、)

お宮の背後へなびき、

(それからうっとりとかすむそらのえめらるどいろにまぎれゆく。)

それからうっとりとかすむ空のエメラルド色にまぎれゆく。

(そこのはたけにはえんどうのはな、そらまめのはながさきみだれてるなかに)

そこの畠にはえんどうの花、そらまめの花がさきみだれてる中に

(こつとしてねぎのぼうずがつったっている。)

こつとしてねぎの坊主がつっ立っている。

(いつもここまでくるとちびこうのせなかがあたたかくなる。)

いつもここまでくるとチビ公の背中が暖かくなる。

(はるとはいえどもあかつきはさむい、)

春とはいえども暁は寒い、

(おくはをかみしめかみしめちびこうはとうふをおけにうつして)

奥歯をかみしめかみしめチビ公は豆腐をおけに移して

など

(いえをでなければならないのである。)

家をでなければならないのである。

(まちのひとびとがあさめしがすんだあとではいっちょうのとうふもうれない、)

町の人々が朝飯がすんだあとでは一丁の豆腐も売れない、

(どうしてもろくじにはひとまわりせねばならぬのだ。)

どうしても六時にはひとまわりせねばならぬのだ。

(だが、このねぎばたけのところへくるとかれはいつもあしがすすまなくなる、)

だが、このねぎ畑のところへくるとかれはいつも足が進まなくなる、

(ねぎばたけのつぎはひろいむぎばたけで、そのつぎにはいけがきがあってふたつのどぞうがあって、)

ねぎ畑のつぎは広い麦畑で、そのつぎには生垣があって二つの土蔵があって、

(がちょうのさけびごえがきこえる、それはこのまちのいしゃのいえである。)

がちょうの叫び声がきこえる、それはこの町の医者の家である。

(いしゃがいつのとしからこのいえにすんだのかは)

医者がいつの年からこの家に住んだのかは

(ことしじゅうごさいになるちびこうのしらないところだ、)

今年十五歳になるチビ公の知らないところだ、

(おじのはなしではちびこうのちちがきょざいをとうじてこのうちをたてたのだが、)

伯父の話ではチビ公の父が巨財を投じてこの家を建てたのだが、

(ちちはせいとうにむちゅうになってすべてのざいさんをなくなしてしまった、)

父は政党にむちゅうになってすべての財産をなくなしてしまった、

(ちちがしんでからかれはははとともにひとりのおじのやっかいになった、)

父が死んでからかれは母とともに一人の伯父の厄介になった、

(それはかれのにさいのときである。)

それはかれの二歳のときである。

(「しっかりしろよ、おまえのおとうさまはえらいひとなんだぞ」)

「しっかりしろよ、おまえのお父さまはえらい人なんだぞ」

(おじはちびこうをつれてこのねぎばたけでむかしのはなしをした。)

伯父はチビ公をつれてこのねぎ畑で昔の話をした。

(それからというものはちびこうはいつもねぎばたけにたって)

それからというものはチビ公はいつもねぎ畑に立って

(そのことをかんがえるのであった。)

そのことを考えるのであった。

(「このいえをとりかえしておかあさんをいれてやりたい」)

「この家をとりかえしてお母さんを入れてやりたい」

(きょうもかれはこうおもった、がかれはゆかねばならない、)

今日もかれはこう思った、がかれはゆかねばならない、

(にをかたにおうてひとあしふたあしよろめいてやっとふみとどまる、)

荷を肩に負うて一足二足よろめいてやっとふみとどまる、

(かれはじゅうごではあるがいたってちいさい、)

かれは十五ではあるがいたってちいさい、

(むらではかれをせんぞうとよぶひとはない、ちびこうのあだなでとおっている、)

村ではかれを千三と呼ぶ人はない、チビ公のあだ名でとおっている、

(かれはちびこうといわれるのがひじょうにいやであった、がひとよりもちびなのだから)

かれはチビ公といわれるのが非常にいやであった、が人よりもちびなのだから

(しかたがない、らいねんになったらおおきくなるだろうと、)

しかたがない、来年になったら大きくなるだろうと、

(そればかりをたのしみにしていた、がらいねんになってもおおきくならない、)

そればかりを楽しみにしていた、が来年になっても大きくならない、

(それでもうひとつらいねんをまっているのであった。)

それでもう一つ来年を待っているのであった。

(かれがこのあぜみちにたっているとき、)

かれがこのあぜ道に立っているとき、

(おりおりいうにいわれぬぶじょくをうけることがある。)

おりおりいうにいわれぬ侮辱を受けることがある。

(それはやくばのじょやくのこでさかいいわおというのがかれをみるとぶんなぐるのである。)

それは役場の助役の子で阪井巌というのがかれを見るとぶんなぐるのである。

(もちろんいわおはだれをみてもなぐる、)

もちろん巌はだれを見てもなぐる、

(かれはけんかがつよくてむこうみずで、いつでもからだになまきずがたえない、)

かれは喧嘩が強くてむこう見ずで、いつでも身体に生きずが絶えない、

(かれはしょうがっこうでちびこうとどうきゅうであった、しょうがっこうじだいにはちびこうはいつも)

かれは小学校でチビ公と同級であった、小学校時代にはチビ公はいつも

(しゅせきであったがいわおはいちどらくだいしてきたにかかわらずまっせきであった。)

首席であったが巌は一度落第してきたにかかわらず末席であった。

(かれはいつもへびをふところにいれてともだちをおどかしたり、じょせいとをはしらしたり)

かれはいつもへびをふところに入れて友達をおどかしたり、女生徒を走らしたり

(そうしておわりにはそれをさいてくうのであった。)

そうしておわりにはそれをさいて食うのであった。

(「やい、おめえはできるとおもっていばってるんだろう、)

「やい、おめえはできると思っていばってるんだろう、

(やい、このへびをくってみろ」 かれはすべてのものにこういってつっかかった)

やい、このへびを食ってみろ」  かれはすべての者にこういってつっかかった

(かれはいまちゅうがっこうへかよっている、)

かれはいま中学校へ通っている、

(とうふおけをかついだちびこうはかれをみるととおくへさけていた、)

豆腐おけをかついだチビ公は彼を見ると遠くへさけていた、

(だがどうかするとかれはとちゅうでばったりあうことがある。)

だがどうかするとかれは途中でばったりあうことがある。

(「てめえはいつみてもちいせえな、すこしおおきくしてやろうか」)

「てめえはいつ見てもちいせえな、少し大きくしてやろうか」

(かれはちびこうのりょうみみをつかんで、ぐっとうえへひきあげ、)

かれはチビ公の両耳をつかんで、ぐっと上へ引きあげ、

(あしがちじょうからごすんもはなれたところで、どしんとしたへおろす。)

足が地上から五寸もはなれたところで、どしんと下へおろす。

(これにはちびこうもまったくへいこうした。)

これにはチビ公もまったく閉口した。

(かれがいままちのいりぐちへさしかかるとむこうからいわおがやってきた、)

かれが今町の入り口へさしかかると向こうから巌がやってきた、

(かれはあたまにはちまきをしてじゅうどうのけいこぎをきていた。)

かれは頭に鉢巻きをして柔道のけいこ着を着ていた。

(ちびこうははっとおもってこうじにはいろうとするといわおがよびとめた。)

チビ公ははっと思って小路にはいろうとすると巌がよびとめた。

(「やいちび、にげるのかきさま」 「にげやしません」)

「やいチビ、逃げるのかきさま」 「逃げやしません」

(「とうふをくれ」 「はい」)

「豆腐をくれ」 「はい」

(ちびこうはふあんそうにかおをみあげた。 「いかほど?」)

チビ公は不安そうに顔を見あげた。 「いかほど?」

(「くえるだけくうんだよ、おれはあさめしまえにじゅうどうのけいこをしてきたから)

「食えるだけ食うんだよ、おれは朝飯前に柔道のけいこをしてきたから

(はらがへってたまらない、やきどうふがあるか」 「はい」)

腹がへってたまらない、焼き豆腐があるか」 「はい」

(ちびこうがふたをあけるといわおはすぐてをつっこんだ、)

チビ公が蓋をあけると巌はすぐ手をつっこんだ、

(それからやきどうふをつかみあげてかわばかりぺろぺろとたべてなかみをだいちにすてた)

それから焼き豆腐をつかみあげて皮ばかりぺろぺろと食べて中身を大地にすてた

(「かわはうまいな」 「そうですか」とちびこうはしかたなしにいった。)

「皮はうまいな」 「そうですか」とチビ公はしかたなしにいった。

(「もうひとつ」 かれはみっつのやきどうふのかわをたべおわって、)

「もう一つ」  かれは三つの焼き豆腐の皮を食べおわって、

(ぬれたてをちびこうのあたまでふいた。 「ぜにはこのつぎだよ」)

ぬれた手をチビ公の頭でふいた。 「銭はこのつぎだよ」

(「はい」 「ようがないからゆけよ、)

「はい」 「用がないからゆけよ、

(おれはここでやおやのとよこうをまっているんだ、あいつおれのいぬに)

おれはここで八百屋の豊公を待っているんだ、あいつおれの犬に

(いしをほうりやがったからここでいもをぶんどってやるんだ」)

石をほうりやがったからここでいもをぶんどってやるんだ」

(ちびこうはやっとこぐちをのがれてまちへはいった、そうしてかなしくらっぱをふいた。)

チビ公はやっと虎口をのがれて町へはいった、そうして悲しくらっぱをふいた。

(らっぱをふくくちもとになみだがはてしなくこぼれた。)

らっぱをふく口元に涙がはてしなくこぼれた。

(どうしてあんなやつにこうまでぶじょくされなきゃならないんだろう、)

どうしてあんなやつにこうまで侮辱されなきゃならないんだろう、

(あいつはがっこうでなんにもできないのだ、おやじがやくばのじょやくだから)

あいつは学校でなんにもできないのだ、おやじが役場の助役だから

(いばってるんだ、かねがあるからちゅうがっこうへゆける、おやがあるからちゅうがっこうへゆける。)

いばってるんだ、金があるから中学校へゆける、親があるから中学校へゆける。

(それなのにおれはかねもないおやもない。なぐられてもだまっていなきゃならない、)

それなのにおれは金もない親もない。なぐられてもだまっていなきゃならない、

(しょうがいとうふをかついでらっぱをふかなきゃならない。)

生涯豆腐をかついでらっぱをふかなきゃならない。

(かれのむねはふんぬにもえた、かれはだまってあるきつづけた。)

かれの胸は憤怒に燃えた、かれはだまって歩きつづけた。

(「おいとうふや、うるのかうらないのか、らっぱをおとしたのか」)

「おい豆腐屋、売るのか売らないのか、らっぱを落としたのか」

(しょくにんふうのおとこがふたり、こういってわらってすぎた。)

職人風の男が二人、こういってわらってすぎた。

(ちびこうはらっぱをふいた、そのおとはいかにもかなしそうにひびいた。)

チビ公はらっぱをふいた、その音はいかにも悲しそうにひびいた。

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