有島武郎 火事とポチ④/⑥

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(はんぶんこげたり、びしょびしょにぬれたりした)

半分こげたり、びしょびしょにぬれたりした

(やけのこりのにもつといっしょに、ぼくたちろくにんはちいさなはなれで)

焼け残りの荷物といっしょに、ぼくたち六人は小さな離れで

(くらすことになった。ごはんはさんどさんどかんしゃのひとたちが)

くらすことになった。御飯は三度三度官舎の人たちが

(つくってきてくれた。あついにぎりめしはうまかった。)

作って来てくれた。熱いにぎり飯はうまかった。

(ごまのふってあるのや、なかからうめぼしのでてくるのや、)

ごまのふってあるのや、中から梅干しの出てくるのや、

(のりでそとをつつんであるのや・・・こんなおいしいごはんを)

海苔でそとを包んであるのや・・・こんなおいしいご飯を

(たべたことはないとおもうほどだった。)

食べたことはないと思うほどだった。

(ひはどろぼうがつけたのらしいということがわかった。)

火はどろぼうがつけたのらしいということがわかった。

(いどのつるべなわがきってあって)

井戸のつるべなわが切ってあって

(みずをくむことができなくなっていたのと、たんとうがいっぽんひにやけて)

水をくむことができなくなっていたのと、短刀が一本火に焼けて

(やけあとからでてきたので、どろぼうでもするようなひとの)

焼けあとから出てきたので、どろぼうでもするような人の

(やったことだとけいさつのひとがきてみこみをつけた。)

やったことだと警察の人が来て見こみをつけた。

(それをきいておかあさんはようやくあんしんができたといった。)

それを聞いておかあさんはようやく安心ができたといった。

(おとうさんはに、さんにちのあいだ、まいにちけいさつによびだされて、)

おとうさんは二、三日の間、毎日警察に呼び出されて、

(しじゅうはらをたてていた。おばあさまは、じぶんのへやから)

しじゅう腹をたてていた。おばあさまは、自分の部屋から

(かじがでたのをみつけだしたときは、あんまりぎょうてんしてくちが)

火事が出たのを見つけだした時は、あんまり仰天して口が

(きけなくなったのだそうだけれども、かじがすむとやっと)

きけなくなったのだそうだけれども、火事がすむとやっと

(ものがいえるようになった。そのかわり、すこしびょうきになって、)

物がいえるようになった。そのかわり、すこし病気になって、

(せまいへやのかたすみにとこをとってねたきりになっていた。)

せまい部屋のかたすみに床を取ってねたきりになっていた。

(ぼくたちは、かじのあったつぎのひからは、)

ぼくたちは、火事のあった次の日からは、

など

(いつものとおりのきもちになった。そればかりではない、)

いつものとおりの気持になった。そればかりではない、

(かえってふだんよりおもしろいくらいだった。まいにちさんにんで)

かえってふだんよりおもしろいくらいだった。毎日三人で

(やけあとにでかけていって、じんそくのひとなんかに、じゃまだ、)

焼けあとに出かけていって、人足の人なんかに、じゃまだ、

(あぶないといわれながら、いろいろのものをひろいだして、)

あぶないといわれながら、いろいろのものを拾い出して、

(めいめいでみせあったり、とりかえっこしたりした。)

めいめいで見せあったり、取りかえっこしたりした。

(かじがすんでからみっかめに、あさめをさますとおばあさまが)

火事がすんでから三日めに、朝目をさますとおばあさまが

(あわてるようにぽちはどうしたろうとおかあさんにたずねた。)

あわてるようにポチはどうしたろうとおかあさんにたずねた。

(おばあさまはぽちがひどいめにあったゆめをみたのだそうだ。)

おばあさまはポチがひどい目にあった夢を見たのだそうだ。

(あのいぬがほえてくれたばかりで、かじがおこったのをしったので、)

あの犬がほえてくれたばかりで、火事が起こったのを知ったので、

(もしぽちがしらしてくれなければやけしんでいたかも)

もしポチが知らしてくれなければ焼け死んでいたかも

(しれないとおばあさまはいった。)

しれないとおばあさまはいった。

(そういえばほんとうにぽちはいなくなってしまった。)

そういえばほんとうにポチはいなくなってしまった。

(あさおきたときにも、やけあとにあそびにいってるときにも、)

朝起きた時にも、焼けあとに遊びに行ってる時にも、

(なんだかひとつたらないものがあるようだったが、)

なんだか一つ足らないものがあるようだったが、

(それはぽちがいなかったんだ。ぼくがおこしにいくまえに、)

それはポチがいなかったんだ。ぼくが起こしに行く前に、

(ぽちははなれにきてあまどをがりがりひっかきながら、)

ポチは離れに来て雨戸をがりがり引っかきながら、

(かなしそうにほえたので、おとうさんもおかあさんも)

悲しそうにほえたので、おとうさんもおかあさんも

(めをさましていたのだとおかあさんもいった。)

目をさましていたのだとおかあさんもいった。

(そんなちゅうぎなぽちがいなくなったのを、ぼくたちは)

そんな忠義なポチがいなくなったのを、ぼくたちは

(みんなわすれてしまっていたのだ。ぽちのことをおもいだしたら、)

みんなわすれてしまっていたのだ。ポチのことを思い出したら、

(ぼくはきゅうにさびしくなった。ぽちは、いもうととおとうととをのければ、)

ぼくは急にさびしくなった。ポチは、妹と弟とをのければ、

(ぼくのいちばんすきなともだちなんだ。きょりゅうちにすんでいる)

ぼくのいちばんすきな友だちなんだ。居留地に住んでいる

(おとうさんのともだちのせいようじんがくれたいぬで、みみのながい、)

おとうさんの友だちの西洋人がくれた犬で、耳の長い、

(おのふさふさしたおおきないぬ。ながいしたをだしてぺろぺろと)

尾のふさふさした大きな犬。長い舌を出してぺろぺろと

(ぼくやいもうとのくびのところをなめて、くすぐったがらせるいぬ、)

ぼくや妹の頸の所をなめて、くすぐったがらせる犬、

(けんかならどのいぬにだってまけないいぬ、めったにほえないいぬ、)

けんかならどの犬にだって負けない犬、めったにほえない犬、

(ほえるとひとでもうまでもこわがらせるいぬ、ぼくたちをみると)

ほえると人でも馬でもこわがらせる犬、ぼくたちを見ると

(きっとわらいながらかけつけてきてとびつくいぬ、)

きっと笑いながら駆けつけて来て飛びつく犬、

(げいとうはなんにもできないくせに、なんだかかわいいいぬ、)

芸当はなんにもできないくせに、なんだかかわいい犬、

(げいとうをさせようとすると、はずかしそうによこをむいてしまって、)

芸当をさせようとすると、はずかしそうに横を向いてしまって、

(おおきなめをほそくするいぬ。どうしてぼくはあのだいじな)

大きな目を細くする犬。どうしてぼくはあのだいじな

(ともだちがいなくなったのを、きょうまでおもいださずにいたろうとおもった。)

友だちがいなくなったのを、今日まで思い出さずにいたろうと思った。

(ぼくはさびしいばかりじゃない、くやしくなった。)

ぼくはさびしいばかりじゃない、くやしくなった。

(いもうととおとうとにそういって、すぐぽちをさがしはじめた。)

妹と弟にそういって、すぐポチをさがしはじめた。

(さんにんでてわけをしてにわにでて、おおきなこえで)

三人で手分けをして庭に出て、大きな声で

(「ぽち・・・ぽち・・・ぽちこいぽちこい」とよんであるいた。)

「ポチ・・・ポチ・・・ポチ来いポチ来い」とよんで歩いた。

(かんしゃまちをいっけんいっけんきいてあるいた。)

官舎町を一軒一軒聞いて歩いた。

(ぽちがきてはいませんか。いません。)

ポチが来てはいませんか。いません。

(どこかでみませんでしたか。みません。)

どこかで見ませんでしたか。見ません。

(どこでもそういうへんじだった。)

どこでもそういう返事だった。

(ぼくたちははらもすかなくなってしまった。ごはんだといって、)

ぼくたちは腹もすかなくなってしまった。御飯だといって、

(じょちゅうがよびにきたけれどもかえらなかった。もぎのべっそうのほうから、)

女中がよびに来たけれども帰らなかった。茂木の別荘の方から、

(こじきのひとがすんでいるやまのもりのほうへもいった。そしてときどき)

乞食の人が住んでいる山の森の方へも行った。そして時々

(おおきなこえをだしてぽちのなをよんでみた。そしてたちどまって)

大きな声を出してポチの名をよんでみた。そして立ちどまって

(きいていた。おおいそぎでかけてくるぽちのあしおとが)

聞いていた。大急ぎで駆けて来るポチの足音が

(きこえやしないかとおもって。けれどもぽちのすがたも、)

聞こえやしないかと思って。けれどもポチのすがたも、

(あしおとも、なきごえもきこえてはこなかった。)

足音も、鳴き声も聞えては来なかった。

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